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114 断罪の始まりの始まり

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新学期が始まり、妙にアーロンが僕の周りをチョロチョロすること以外は変わりのない日常が戻っている。

ううん、そうでもないな…

キョロキョロしてもアレイスターは居ない。彼は北部でお仕事中だ。

今日はダンスの授業だし明日はマナーの授業だし、アレイスターの不在は少し心細い…。でもそういうの関係なしでちょっと寂しい今日この頃。
なんだかんだで、僕に気を使わないアレイスターは一緒にいて気が楽だし話して楽しかったりする。ここだけの話ね。ナイショだよ?

そんな中で、王都の騎士団はブラトワの残り家族を捕縛するため東部へと出発したようだ。今のうちに進めるまで進んで、降雪が止み次第山を越えるんだろう。
そうしてジェロームが正式に拝領するまで代理の代官が農奴たちを守るらしい。

ジェロームの陞爵だが、ヘクターが言うには彼が裁判のために王都へ来訪するタイミングで陞爵式をおこなう方向で話を進めているんだとか。
陞爵式と言ったって、王様王妃様、そして何人かの偉い人の前で、陞爵証書を交わした後ありがたい王の言葉を賜るだけ。北東の僻地に領を持つ田舎貴族の扱いなんてこんなものだ。でもそこが良い。

「ジェロームの陞爵でしょ?僕とシェイナの誕生日でしょ?早く春にならないかな」ニコニコ

「シャノン様楽しそうですね」
「エンブリー卿も結構なことでございましたわね」

「ところでエンブリー卿はまたモリセット子爵邸に滞在ですか?良ければ当家においでになられては?」

よく気の付くリアム君…って、忘れてた!お屋敷!エンブリー王都邸を探さなくては!
その日は寄り道もせずまっすぐ家に帰り、早くしないと領地に行ってしまうお父様に話をするべく、遅い帰りを僕は待ち続けた。

「おやシャノン。こんな時間にお出迎えかい?どうしたんだね」
「えと…、お父様に話があって。実はエンブリー男爵のお屋敷を探してほしいんですけど…」

「いつ言い出すかと思っていたよ。ヘクター君からアレイスター殿下の手紙を受け取っていてね、既に候補は見繕ってある。週末にでも見に行こうではないか」

「アレイスター様が…」

これは…信用されていなかったと言うことだろうか?いいや!アレイスターは人よりちょっと気が回るだけだ。出来る王子はさすが抜かりがない…

「シャノン、少し話せるかい」
「もちろんです」
「では書斎で話そう。セバス、シャノンにお茶を。私にはブランデーを頼む」

「畏まりました」

書斎でお父様から語られたのは、ジェロームの陞爵理由についてだ。
アレイスターは砂金の件を未だ極秘にしている。北部の統治が独立するまで、あれを知ってるのはアレイスターとバーナード伯爵、宝石商のマーシャルさんと…お父様だけだ。ブラトワだって琥珀のことしか知っちゃいなかったんだから。

「いいね、あれはあくまでお前たちの命を救ったことに対するものだ。エンブリーの砂金に関して陛下はまだ何もご存知でない。口にしてはいけないよ」

「わかりました」

『神託』である僕の救命で一段階、第二王子の救命で二段階、結果子爵を飛ばして伯爵と言うわけか。
それでも良く王様が納得したなー…と思って聞いたら続きがあった。

ブラトワ領の溶岩石は枯渇が近い。採掘量は年々減っている。だけどその溶岩石採掘という産業が無ければ、そもそもあそこはエンブリーと同じで収穫量の乏しい地域。善良に治めればむしろ出ていく経費の方が多いというお先真っ暗な領土だ。

「それでもフレッチャー侯が色気を出したようだがね。彼は先の件があり王も目立つ厚遇を控えている」
「バークの件ですね」
「そうだ。それにお前に聞かされた件もある。私からも陛下に「フレッチャーとその一族へ配分するのは外面が悪い」と進言しておいた」

これは溶岩石の取引管理にフレッチャーの遠縁が関わっていることを指している。だからと言って領民がそこに暮らす以上、領主を失ったブラトワ領を延々放置もできない。

「そこで王は考えるのが面倒になってエンブリー男爵に一任することにしたのだよ。陞爵には迷惑料の意味もある」
「あ…」

つまり丸投げ。僕の得意技だけに王様を突っ込めない。まあ聡明な王妃様がそう仕向けたのだろうが。

ジェロームの陞爵に関して経緯が分かったところでお父様は核心に触れる。ちょうど話題にあがったフレッチャーの遠縁についてだ。

「フレッチャー侯は基本的に他人を利用はしても信用はしない。重要な役割は必ず親族を起用する」
「ですけどそれはどこのお家だって…」

「フレッチャー侯はさらに念入りなのだよ」

お父様が言うには、フレッチャーは社交界にバレないよう一見関係性が分からないよう工作された遠縁が多いのだという。またフレッチャーは血のつながった庶子が何人かいて、やっぱりフレッチャーとの関係を巧妙に隠してどこかの貴族家へ養子に出されていたりするのだとか。

「実にこう…密偵のような動きをする男だ。調べるのにはかなり骨が折れたよ」
「…お父様…、それって…。密偵のような…じゃなくて実際そうなんじゃないですか?もしかしてですけど!」

「シャノン、それは陛下直属のという意味かね」
「そうです!」

ナイスだお父様!
それならあの強固な結びつきもしっくりくる。じゃなきゃなんで王様が王家の縁続きでもない一侯爵のフレッチャーをあそこまで寵愛する?そこには利害があるからだ。それも簡単にフレッチャーを切れないような利害が。
だって以前聞いたじゃないか。フレッチャー家は王様に取り入ってドンドン勢力を増してきた家系だって。
大体一国の王様が何人もの愛人とか…アテンドした誰かが居るに決まってる。そういう汚れ仕事全部を引き受けてきたのがフレッチャーだとしたら…
王様周辺のフレッチャーが関わるところから常にバグが発生するってことだ。そしてそれは…

「お父様、多分陛下とフレッチャー侯、というより歴代の王と歴代のフレッチャー当主って意味だと思います」

「そうかも知れん…」

お父様も王様がどれだけフレッチャーを重用してきたか反芻しているのだろう。うんうんと頷いている。
だが間違いない。僕はバグとウィルスの関係をとうとう見極めた気がする。



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