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113 断罪の前に休憩

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字のキレイなミーガン嬢がここまでで分かっていることをまとめていく。それを横から覗き込むのはリアム君だ。

「考えてみればアーロンも気の毒ですね。親に捨てられフレッチャーには利用され…、違う未来もあったでしょうに」
「あらリアム様。それでも教会で育てられたアーロンさんは他の孤児より恵まれていたのですわよ?フレッチャー侯のことにしたってあれは本人も承知のこと。それを言うなら違う生き方もあったというべきですわ」

女子はシビアだ。
…でも確かに一抹の同情を禁じ得ない部分はある。孤児院の裏で母親から余計なすり込みされなければ、きっとああはならなかっただろうに…

「そう言えばアーロンにこの間聞いたんですけど…」

ピクっとするシェイナ。しまった。この件はナイショだった。イタッ!痛いって!後で説明するから!

「アーロンと話をされたのですか?それでアーロンはなんと?」

まっさきに食いついたのはブラッド。ロイドと違いアーロンとそれなりに良い雰囲気だったブラッドは、今でも放っておけない部分があるのだろう。

「大したことじゃないけど…、え、えと、アーロンの母親らしき女性は幼いアーロンに共有と博愛を話して聞かせたって。自分はお姫さまで、全部自分のもので…、んと、みんなに愛されてるって」

「それが彼の言う博愛と共有なのですか?」

僕に聞かれても…

「コンラッドに聞いたが、カマ神の禁書を彼は手元に持っていたそうだ」
「邪教と母親の絵空事、それがアーロンの信じる歪んだ教えの基となったのか…」

「アーロンは馬鹿だな…、その彼女がお姫さまなら下町には居ないだろうに…」
「そうだな。彼女がお姫さまならアーロンは王子様だ。教会には捨てられない…」

しんみりする元恋の奴隷たち。
だけど僕はその時、すごくどうでもいい、けど後で思い出すとすごく重要なあることをボケーっと考えていた。と、ここに覚書として記しておく。

ロイドが言うには、禁書を無造作に放置してあった教会は王妃様から相当なお叱りを受けたそうだ。そのためあそこは現在コンラッドもフレッチャーも手出し無用で、王妃様の直属騎士が管理体制の調査に入っているそうな。蛇足だが。



さて、陽の沈みだす時間を見計らって階下に降りると、そこには豪華ディナーの用意が既に整っていた。
外出禁止令の出ている僕の為にカイルやルーシーが発案したミニ晩餐会。それを聞いた時から僕は一つの計画を立てていた。その計画とは…

プレゼント交換会だ!

そこで本日のゲストには、何でもいいから何か一つギフトを持ってくるよう言っておいた。そしてそれらは誰が何を持ってきたか分からないよう、到着時に玄関で受け取り、更に同一の箱に入れてサロンの暖炉前に置いておくようセバスには頼んである。
そうしてディナーを楽しんでいる最中に一人づつ中座して好きなギフトを一つ持ってくる、という寸法だ。ドキドキワクワクの闇プレゼント交換会。そもそもプレゼント交換自体が小学以来だ。

シェイナは僕の膝で、アノンはブラッドの隣でモグモグしながら和気あいあいと進む談笑。
そして入り口からかけられる呼び出しの声。

「ではアリソン様からどうぞ」
「おや?私が始めですか?では遠慮なく」

不正がないよう見張りはカイル。そのカイルにはアルファベット順で呼び出しをお願いしてあった。
アリソン君、ブラッド、リアム君、ミーガン嬢、と続き…ロイド、そして最後が僕だ。
一人、また一人と包みを抱えて戻ってくる笑顔の友人たち。

ソワソワ…あっ、ロイドが戻ってきた。

「じゃあシェイナも一緒に行こうか」
「アブ」

そうそう。子供たちには別途お渡し済みだ。クリスマスプレゼント兼お年玉で、シェイナには編みぐるみのたらこキューピーを、アノンには編みぐるみの聖剣を。

最後に残った箱を持ち上げてダイニングに戻ると、何故かミーガン嬢とロイドが言い争っている。

「何揉めてるんですか?子供の前ですよ」

「いえその…ミーガン嬢が…」
「何を仰るの!ロイド様、あなたの方こそ!」

「リアム様?」
「二人とも自分の箱こそがシャノン様の用意したギフトだと言い張りまして…」

どうもこの二人は馬が合わないみたいで隙あらばケンカになる。ミーガン嬢はお手本のような淑女だし、ロイドだって自分から仕掛けるタイプじゃないはずなのに、おかしいな…?

「二人とも僕のギフトへの期待値高すぎません?大したものは入れて無いですよ?じゃあせーので開けてみましょうか?せーの!」

パカリ

「まあ!とっても素敵なハンカチ!これはシャノン様ですわね?」
「いいえ違います」
「あら…」

「私だ…」
「……」

ロイドのギフトはミーガン嬢へ。ふちがレースになった淡いブルーのハンカチーフ。意外と趣味の良いものを…

「では見るがいい私のギフトを。繊細な薔薇を編み込んだ高難度の手編みのひざ掛け!これこそシャノン様だ!」
「あー、ごめんなさい」

「嘘だー!」
「くっ!それはわたくしのものですわ」

相性良いのか悪いのか、疑問の残るところだ。

床に膝をついて頭を抱えるロイドは置いとくとして。

リアム君のギフト、革細工のブックカバーがアリソン君に渡ったのは僕的に美味しいイベント。これでアリソン君は本を読むたびリアム君を思い出すことになる…ムフフ…
アリソン君のギフトである素焼きのカップがブラッドに渡ったのは別にどうでもいい。そのブラッドが用意したギフトは僕に渡ったのだが、ブラッドのギフトであるドリームキャッチャーは僕が以前教えてあげた工作品だ。つまり…全然嬉しくない。ちょっと残念。

「あら。ではシャノン様のギフトは…」
「私だよミーガン」

「まあ羨ましいリアム様。でもよろしくてよ。わたくしたち結婚するのですもの。ということは共有財産ですわね?」
「ふふ、そうだね」

「それで中身は何ですの?」
「絵画ですか?」
「シャノン様がお描きになったんですの?」

「ええ。エンブリーの大自然です」

「これは見事だ」
「兄さんは芸術に長けていらっしゃる」

「ミーガン、領地邸の書斎に飾ってはどうだろう?」
「良いお考えですわ」

こんなに褒められるとちょっと恥ずかしい。三日で描き上げたことはナイショにしておこう…。

「さ、宴も竹罠ですがそろそろ解散しましょうか。そうだロイド様」
「なんでしょうシャノン様…」

プレゼント交換のダメージが癒えないまま、さっきからびしょ濡れのネコみたいなロイド。しつこいなぁ…。あ、そういうキャラだった。

「ロイド様は隊長と面識がありましたよね?お住まいもご存知ですか?」
「…ええまあ」

「じゃあ帰り道にちょっと寄り道してこれを渡してきてくれませんか?シャノンがいつもありがとうって言ってたって」

用意したのは労働過多の隊長への、付け届け?ワイロ?とにかくそんな意味合いのギフトだ。飴は大切だよね?

それにしても…馬車に向かうロイドの足取りが一転して踊り出しそうに見えたのは気のせいだろうか?




----------------

数日後、冬期学習の始まった学院内で。


「ブラッド、シャノン様からのギフトが何だったか知りたいか?」

「え?ああいや。兄さんから聞いているよ。肖像画だろう?確かシェイ」
「そうなんだ!いやー、シャノン様の幼少期の肖像を自ら描いて贈って下さるとは…さすがシャノン様、親衛隊長たる私に何を贈れば喜ぶかよくお分かりだ!」

「…あ、ああうん。喜んでいるなら…それでいいんじゃないか?」



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