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112 断罪の過去?

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一年前アレイスターと下町を忍んで歩いたルテティア国の神礼祭。クリスマスと盆と正月が一緒になったような、一年で一番盛大なお祝いの日。

王宮では今頃庭で厳かに神事を行っているだろう。夜にはパーティーもあるためお父様はニコールさんを伴いお城へ出向いている。このパーティーは成年限定パーティー、僕もブラッドも出席する義務はない。

静かな邸内…。そこでブラッドは例の会議をこの日行うことにしたようだ。

集まったのは双子の子守をする僕とブラッド、アリソン君たち三人と偶然ブラッドを訪ねてきたロイドだ。
議題は…アーロンの母親の素性。

「…ところで、ロイド様は最近普通に混ざってるんですね?」

「に、兄さん。これは僕の配慮です。ロイドは知恵がまわりますし…」

確かにロイドはノベルゲーでもコンラッドに悪知恵を授けていた知恵者だ。仲間に引き入れて損はないだろうけど…僕は新参を甘やかさない!古参からの洗礼を受けよ!

「じゃあ皆さん椅子に掛けて。あ、ロイド様は僕の後ろに直立で」
「はい」ササッ

これでよし。
さて、何事もなく始まった会議だが、まず口火を切ったのはロイドだ。

「私を襲った暴漢ですが…、いえ、正確には歓楽街をうろついていた子供を暴漢が襲っていたのを、この勇猛果敢に守ったのですが」
「へー。…っていうかロイド様も男ですね。歓楽街で何してたんです?」

エッチな欲望でも満たそうとしちゃった~?

「ちっ!違う!私は」
「兄さん。彼は歓楽街近くの表街で人を待っていただけですよ。叫び声が聞こえて助けに入っただけです」

「ウソウソ分かってるって。ごめんなさいロイド様、ほんの冗談です。ね、笑って?」ニコ
「冗談!そ、そうです!全員見たか!私とシャノン様は冗談さえ言い合えるっ」
スン「いいから早く話の続きを」

「あ、ええ。ゴホン、それでその時の暴漢ですが…その後調べたところ、男は商業地区で用心棒的な仕事を生業にしている傭兵上がりで…」

傭兵上がり。その単語には聞き覚えがある。それも結構最近。

「あのバーグ男爵も傭兵上がりだったよね?フレッチャー侯爵領の」

「良い勘ですねシャノン様。何家も経由して巧妙に隠されていましたがこの男もフレッチャー領の出身です」

出たよフレッチャー。シナリオの癌。プログラムに交じったウィルス。

「ちょっと待って。この男?ってことは…」

「そうです兄さん、隊長から預かったこの報告書をご覧ください」
「何て書いてあったの?」

「陛下との面識をお疑いになった兄さんの考えとは少し違うのですが、娼婦、いや…アーロンの母親の周辺を見張っていた人物はフレッチャーの縁者かもしれない。女性と同じ宿で客をとっていた他の娼婦がこんなものを拾っていました」

「何それは…?」

それは深い赤色の小さな石。

「それはシナバー。辰砂と呼ばれる石です」

ロイドが宝石に詳しいとは意外だったが報告書にはこう補足されていた。
これはアーロンの母親の近況を聞き込みに来た男が落としていった石。女性は金になるかと思い拾ったらしい。だが道具屋は高価でも人気でもないその石を買い入れてはくれなかった。そこで男が取りに戻ったら謝礼をせびろうと待っていたが、アーロンの母が命を落とし男はそれ以後姿を見せず、彼女もこの赤い石の存在を忘れていたらしい。

「銀貨数枚で喜んで譲ってくれた。…と書いてありました」

ロイドは続けて言う。この国では昔、王に深い忠誠を尽くしそれに値する働きをした者に王から直接宝石を贈る習わしがあった。中でも王の赤を宿した石は王石と言われルテティアでは大切にされる。ルビー、ガーネット、レッドスピネル…、このシナバーもその一つだ。

「このシナバーはその昔、三代前のフレッチャー候に王より贈られそれ以後フレッチャー侯爵家のシンボルとなっている」

マットな色感のシナバーは安価だというので装飾品としての人気は低い。貴族にとって装飾品とは権威を誇示するためのもの。キラキラしてお高いのが好まれる。
それでも高位貴族であるフレッチャー一族は、このシナバーで飾られたアクセサリーを必ず身体のどこかに一つは身につけるのだという。これは王との結びつきを示す最高の栄誉だからなんだとか。

「その男がシナバーを落としていった。だが…この状況下でシナバー…。フレッチャーと無関係、そう考える方が違和感を感じるね」

「ロイド様の言うとおりかも…」

小さくスゴ…と呟いてしまったのがどうやら聞こえてしまったようだ。微妙に鼻息が荒くなったのがなんかムカつく。

「シャノン様。あちらもこちらもフレッチャー候の影が見え隠れしすぎですわ。恐らく何かあるのでしょう、その女性にはフレッチャー候との因縁が…」

アノンと床でウゴウゴしていたシェイナが、立ち上がって僕の膝をポンポンと叩く。
あっ!あれか…

多分シェイナはブラトワ領の溶岩石のことを言いたいんだろう。

そうそう。あの火事のドサグサでシェイナが初めの一歩を踏み出したと知ったお父様の落胆ときたら…気の毒すぎて慰めの言葉も見つからなかったよね。

「あの…、お父様に今調べてもらってますが、どうも東の溶岩石取引にもフレッチャーは介入しているかもしれません」

「それはどういうことでしょう?」

僕は情報を共有した。僕の知るその情報はシャノンが学んだ知識だけど…手柄だけ横取りしちゃってごめんねシェイナ。

「なるほど…。もしフレッチャー候が溶岩石の取引に介入しているとなると何が考えられる?」
「市場価格の操作でしょうか?」
「中抜きとか…?」

ここで難しい顔したロイドが一言。

「エンブリー男爵が叙爵を受けたのは三代前の王。フレッチャーがシナバーを賜ったのも三代前…。三代前に何があった?ブラトワの溶岩石採掘はいつ始まった?私はそれが気になるね」

裾を引っ張るシェイナがこくりと頷く。以心伝心。

「素晴らしい着眼点ですロイド様。確かに溶岩石は三代前のブラトワ男爵が発見しました」

ざわつく室内。けどシェイナのツンツンはまだまだ続く。

「ごめんなさい。シェイナのオムツを…」
「ああ、どうぞ」

ぐえっ!思いっきりエルボー…仕方ないじゃん、一番わかりやすい口実なんだから。

隣の部屋に入るとシェイナはすっかり慣れた手つきでウィジャ盤の文字を高速で指していく。清書するのが追い付かない…。えーとなになに…

ーエンブリー初代の叙爵とブラトワ男爵領で溶岩石採掘がはじまった時期が同一なんて、偶然だとは思えないー

「そうかも…」

ーそれにエンブリー初代の功績が何だったかはどこにも明記されてなかったー

「そうなの?」

ーこんなの誰かの介入がなければあり得ないー

確かにそうだ。財もない平凡な一平民に、曖昧な理由でホイホイ爵位を与えるなんてしないだろう。
僕は大急ぎで部屋に戻るとシェイナの意見を、さも今思いつきました、みたいな顔でみんなに伝えた。

「シャノン様、ではシャノン様はエンブリーの叙爵に溶岩石…ブラトワ男爵領が関わっていると、そう思われるのですか?」

「リアム様、確信のあるはなしではないですよ?もしかしたら…っていう話です」

だけど…、もしそこにフレッチャー侯の息がかかっているのなら…





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