断罪希望の令息は何故か断罪から遠ざかる

kozzy

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111 断罪の縁者たち

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退室した僕を持っていたのはもうじき王子様じゃなくなる予定の第一王子だ。

「やあシャノン。北東部まで船に乗って行ったと聞いたが…」

「久しぶりですねコンラッド。船旅は快適でしたよ。ところであれからどうしてました?」

「そうだな…、母上と話し、父上が戻られてからは父上と話し…」
「話し合いは上手く行ってます?」
「母には私の心情を理解していただくことが出来たのだが…」

「でしょうね」

まあ普通に考えて王様が次期王太子を二つ返事で流浪の剣士にするはずがない。僕には分かってたけどね。

「ブラッドたちとも話したよ。久しぶりに大笑いしながらね。彼らは力になると言ってくれた。何があっても友人でいてくれると…。あんな風に心から笑ったのはいつぶりだっただろうか」
「そうなんですか?この一年何かあったんですか?意外と繊細ですね」

すごい顔で見られたんだけど…まあいいや。

「で、今からどこに?」
「アーロンのところだ。いや!誤解しないでくれ。そういった事でなく…新学期前だからね、勉強を少し見てやっているだけだ」

そういった事ってどういった事だろう?別にいいけど。

「アーロンも今では以前より勉学に前向きなのだが王宮の講師はアーロンをその…」
「ああ」

王宮に居る講師陣はシャノンを教えたトップクラスだ。アーロンでは猫に判子だろうし、そもそもシャノンの仇であるアーロンに好意的ではないだろう。頼めるわけがない。

「じゃあ代わりに僕がちょっとだけ見てあげます。そうしたら周囲へのアピールにもなるでしょう?」

僕とアーロンに遺恨は無いって。

いや?思うところが無いかといったらウソになるな…。けどアーロンとの因縁はゲームのシャノンとであって、コンラッドなんかアウトオブ眼中だった僕とアーロンの間には貞操の危機…程度のトラブルしかない。それだって全て未遂だし…

シェイナに会わせる気はほとほとないし必要以上に馴れ合う気もさらさらないが、シャノンとアーロンの因縁をこれ以上僕とアーロンに持ち込むのはやめようと思っている。一応世界軸が違う訳だし。因果の輪は断ち切るべきだ。

「いいのか?ではそうしてやってくれ。そうすれば周りの態度も多少軟化しよう」
「…言っときますけど原因の大部分はむしろコンラッドですからね。そこは反省してもらわないと」

「ああ分かっている」

毒気も棘もないコンラッドと談笑しながら歩く王宮の回廊。過去に一度も見たことのない光景にすれ違う全ての人が二度見してくる。余談だがこの祈祷所へと続く回廊はそれ以後『二度見回廊』と呼ばれるようになったとかならないとか…

それにしてもこれは…あれだ。時々見かける離婚したほうが上手くいく夫婦みたいなもので、だからと言って互いに互いの好感度が今更上がるわけでは無い。悪しからず。

そうこうするうちに祈祷所だ。ほぼ軟禁に近い状態で、雑音を排除し謹慎を続けたアーロンはかなり浄化がすすんだらしい。目の前にいるアーロンの混沌としていた瞳はキラキラした宇宙に変わっている。

「うそっ、シャノン様…、来てくださったのですか?」
「うん。せっかく王宮にきたから」

僕を見て笑うアーロン。憑き物の落ちたアーロンときたら、まるでBLゲーのヒロインみたいだ。あ、ヒロインだった。

「まさか来て下さるなんて…」
「そう?来る気でいたよ?育成しなくちゃいけないし」

「育成?それは君がアーロンを育て直すということか、シャノン」
「まあそれなりに」

アーロンの抱える愛への渇望を萌えに変換し消化させる。あの日そう約束した以上その言葉は守られなければならない。そしてその境地に到達したとき彼は真の博愛と解放を知るだろう…。

「シャノン様、それって…」
「はいはい。無駄話はそこまで。さー、教科書開いて!」

それにしても…勉強苦手なのは知ってたけどまさかここまでとは。
時々暗算のコツをレクチャーしながらなんだかんだで一時間くらい居ただろうか。手ぬるいコンラッドに呆れてガミガミ言ってるうちに随分アーロンとは打ち解けた気がする。
それならもう少し突っ込んでもいいだろうか?隊長の仕事を少しは減らさないとシェイナにまた叱られてしまう…

「そう言えばアーロン。小さい時に行った孤児院での奉仕活動の事…覚えてる?」
ピク…「え、ええ…」

「そこであった女性のことも…覚えてるよね?」
「…ええ」

「何を話したかも覚えてる?」
「ええ…」

「聞いてもいい?」
「構いません」

アーロンにとっては母親と過ごした僅かな思い出。そしてぽつりぽつりと語られる女性が口にしていたという言葉の数々。それは妙に楽し気な、でもきっと真意は…この世を憎んだ一人の娼婦の悲しい強がり。

「幼かった僕には言葉の裏に隠された皮肉なんて理解できませんでした」

アーロンが女性に会っていたのはまだ年齢一桁の時だという。そんな歳で皮肉を理解できたら怖いって。

「彼女はいつも言っていました。彼らのものは私のもの。私は彼らに愛されるお姫様なの…って。でも今なら分かります。彼女は僕と同じで何も持っていなかった。そして彼女を本当には愛した人はいなかったのだって…」

今何か…とても重要なことを聞いた気がする…。僕の研ぎ澄まされた第六感がそう告げる。

「シャノン様、そろそろ」
「カイル…もうそんな時間?」

思考を中断したのは帰宅を促すカイルの声。仕方ない。実は僕もまだまだ反省中の身。お父様の監視はまだまだ緩まない。

「アーロン。全てを持ってるように見える人だって本当に欲しいものは持ってないかもしれないよ?コンラッドや昔の僕みたいに。アーロンなら分かるでしょ?」

アーロンの布教はそこを狙ってたんだから。

「それに彼女は唯一持ってた無二の宝物を自ら捨てた。捨てなければ…彼女は無償の愛を手に入れられたのに。アーロンは間に合って良かった」

チラッと視線をコンラッドに移すアーロン。ヤメロ、お一人様の前で目と目で通じ合うのは!

それはさておき僕はここに来たときから考えていたことがある。それは…

「じゃあもう帰るね。はいこれ。アーロンにもお土産。ブラt…」

あそこはもうじきエンブリーになる予定(未定)だから…

「エンブリーの木彫りだよ」

「これは…馬…です…か?」
「うん」

鮭を持った熊ならぬ鼻先にニンジンをぶら下げた馬がツボにはまって最終日に爆買いした木彫りの馬。
ほら、荷物持ちも居たし。

ところがうっかり忘れていたのだが、僕は屋敷のみんなに以前下町で木工品を買い占めた時、似たような木彫りを渡していたんだった。あれは…魚を咥えたドラ猫だったか…

毎度木彫りではワンパターンだろう。
そこで屋敷のみんなには三角の〝溶岩石”と書かれたタペストリーをあげることにして、この木彫りはスキあらば誰かに配ろうと、常に二三個持ち歩いていたのだ。王妃様?もちろん侍女に渡しておいたとも。

「何故僕に…」
「これはね、頑張れって意味が込められてるんだよ。一人でじゃない。今度は僕がちゃんと見守ってるから」

またBLヒロインから脱落しないようにね。うん?

「木彫りの馬…」

ぎょぎょ!何故そこで泣く!

馬を抱き締めて号泣しだすアーロン。過去最高にうろたえた僕はもう一体馬を取り出し…

「こ、コンラッドにもあげる!騎士になるならちょうどいいからお守りにして!じゃあ後はよろしく!」

初志貫徹でカバンを空にすると、思わずその場からダッシュで逃げだした。

以来…妙に懐かれてしまったのは実に…想定外の出来事…





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