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110 断罪に近づく ②

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あー……なるほど。

これは…あれだな。修正パッチを配布する際の、公式からのインフォメーション。
手順通りにしたディスクをセットした後一回完全にシャットダウンして再起動すると自動でインストールされて…そんでゲームの起動時、つまりオープニングという『神託』によってパッチ、つまり『神子』は目覚めるよー、っていうお知らせだな。

現代人のゲーマーである僕にはすごくわかりやすい…
待てよ?って事は…

「陛下、それは既に前王の治世で不具合があった。そういうことですね?だから現王である陛下は何が何でも『神子』を手に入れようとした。そうなんですね?」

「……正確には前々王、お前の母であるカサンドラの大伯父の代だ。先代、つまり私の父は神子を見つけることは叶わなかった。そこで一縷の望みをかけ早々に退位し私に王位を譲られたのだ」

「二代続けて神子を見つけられなかったらこの世の破滅。だから焦ったんですね」
「あなた…、それは本当ですか?」

「そうだ。だからこそ私は勝たねばならぬ」

なんで?ああっ!それでここにあの伝承がかぶさるわけか。

『人と人が相容れぬ大きな争いと混沌の中、国を平定に導くは聖なる力を司るものなり。神子は神託と共に出現し解放を以て人々に力を与える。迷える魂は救済され、万人への愛と共に国は栄華を極めるだろう』

つまり王様は大きな争いをセナブムとの領土争いだと考えてて…、それに負けることを国土崩壊の合図、不具合だと思ってて、不具合を修正、つまり勝利するためには神子が必要だと思ってて…そうだよね。神子の存在で国は栄華を極める…って文章にあるもんね。

なんたる戦闘狂!なんたる脳筋!

はじめて聞く話にさすがの王妃様もうっすらと狼狽している。そりゃまあ…世界の崩壊とか言われたら…ビビルよね。

「いたずらに民を怯えさせるわけにはいかぬ。なればこそこれは代々王のみが知る秘匿事項だったのだ。シャノン、お前は驚かぬのか?」

「僕は何度か見てますので、その通知」

ゲームにバグはつきものだ。要らんけど。

「知っておったのか!…ううむ、さすがは『神託』よ」

「ですけどこの世を壊そうとしてるのはおうさ、…陛下もですよ。不具合とは本人たちの自覚も無く、深く静かに広がっていくんです」

「何!」

「静かなうちは良いんですけどね。最終局面は派手に一気にクラッシュしますからね。気が付いたら真っ暗。もしくは化けの嵐。データを温存したいなら前もって手を打たないと」

「ではどうすればいい?」

僕はもっともらしくこう言った。そもそも神子は役割を持った存在であって誰でもいいわけではない。それらしい人を指さして「君、明日から神子ね」って言ったって何の意味も無いのだと。いや、その辺の猫にって思ったのは僕だけど。とにかく急いだところで意味はない、と。

「ですので大人しく春までお待ちください。それより陛下。自分の代で世界を壊したくないなら、恐らくは汚染を免れているであろう王妃様の意見にもっと耳を傾けて行動を控えてください。じゃないと…どうなっても知りませんよ?」

「シャノンよ。いくらお前が『神託』だとて、私のやることに口出しはさせぬ!」

「口挟むなって言うなら何も言いませんけど…僕は言いましたからね。やめとけって。どうなっても知らないって」
「……」

はい。フラグ一本建設。

「シャノン。ここから先はわたくしに任せて頂戴。ご苦労だったわね」

王様の顔色にヤバ身を感じたのか、それともフラグの足音を聞いたのか、いつものポーカーフェイスで王妃様が僕の退室を促す。でも…まあまあいい感じに色々神子の件は引き延ばせたんじゃないだろうか。
王様が一言もブラトワのことにもエンブリーのことにも触れなかったのが、田舎の男爵風情どうでもいいと思ってるのがまるわかりで笑えたけど。
ついでに息子と僕の仲に一言も触れない事実が、やっぱり関心なさすぎて笑えるけど。ま、それはそれで。

さてあとは…

『神子』の居ないこの世界で誰を『神子』に祀り上げるか。それだけだ。








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