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109 断罪に近づく
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日を改めて数日後、僕は謁見の間で王様の登場を待っていた。背中に伝うのは緊張からの汗。それでも言うべきことを頭の中で暗唱している。
「よく来た『神託』シャノン。まさかお前が『神託』であったとは…。ツェリの反逆を言い当てて見せた時点で気付いても良かったのだがな。うかつであった。だが実に助かったぞ。この機会に西の小国群からの運搬経路を準備出来た。私が狙うのは次こそ悲願である南の小国群だ」
「お、お役に立てたようで何よりです」
ほぼほぼ偶然だけど…
「そのためにも次の戦いこそ『神子』の存在が必要になるやもしれん」
「そ、そうですかね?」
何時から神子はヴァルキリーみたいな存在になっちゃったのかな?王様は大きな考え違いをしている。
「神子の選定に焦れたとはいえ、アーロンの信者が一部暴走したようだな。聞けばフレッチャー候の部下だというではないか。フレッチャー候にも強く叱責しておいた。部下の管理をしっかりせよとな」
「はぁ…」
バーグ男爵の一件に乗じてアーロン派の暴走、アーロンの脱線を知らされた王様はかなり王妃様に絞られたという話だ。それでもフレッチャーには口頭での注意程度で済ませたのだから、この二人はかなり複雑に絡み合ってると言っていいだろう。
せめてフレッチャーの見た目がもう少しダンディなら、イケオジカプとして萌えることも出来たのに(許すとは言ってない)…、フレッチャーの見た目は某有名アニメのムスカを老けさせた感じだ。それも作画が崩れてるときの。少し、いや、かなり僕の好みから外れている。
因みに王様のビジュアルは鼻髭のないミホークだ。悪くない。…どうでもいい情報だけど。
「それで…だな…、聞くがアーロンは神子では無いのか」
「ど、どーですかねぇー…?」
語尾は曖昧に。何事も保険だよ?
「まあよい。ならば…『神託』であるお前に聞く。『神子』の選定はまだか」
「あなたっ!」
「いいではないか王妃よ」
…いきなり直球で来たな。
ルビー取り換えイベントである成人の儀は夏休みに入る前、六月半ばのことだ。
三年時には一年二年のような後期前期の試験はない。あるのは卒業に合わせて提出する卒論のみ。最低ラインが100ページの分厚い卒論を一年かけて完成させ年内に提出する。
何故ならば三年生には成人の儀、プラム、と大きな夜会が立て続けにあるうえ、人によっては卒業と同時に婚姻が控えていてその準備にも時間を割かれるからだ。そこで自由裁量で時間を捻出できる論文提出になっている。というわけでわりと時間の調整が可能なのだが…
僕はこの冬延々と考えていた。
六月に成人の儀、その直後に神子就任式といったイベントがあるから…準備期間を考えるとその前、夏前には神子選定を終えなければならない。
だけど五月には僕の誕生日があってそこにジェロームが来るから…っていうか!二月にはシェイナの誕生日があってそこにもジェロームを呼んであげたいし…、かと言ってますます雪の多くなる二月に船を出すのは北東部的に難しいだろうから…ああっ!
ということで僕はお父様に、シェイナとアノンの誕生祝いのパーティーは少しずらして暖かくなる三月頃にやりましょう、と進言してある。その頃には裁判も始まりジェロームの訪王都は確定だし、そのまま五月まで滞在してもらえばいい。
…つまり神子の選定は僕的に四月が穴場。ここしかない。
「陛下の進軍は春までは無いのですよね?」
「うむ。冬季は思うように物資も兵も集まらぬからな」
「それなら良かった。王妃様にも言いましたが春までは神子を指名できかねます。これはタイミングが重要なのです」
いやもう本当に。シナリオ的に。
「だがそれが誰かは分かっておろう。私には言って見せよ」
ゴホン
咳払いをしたのは王妃様。王を嗜めているんだろう。
「言えません。何故なら…知れば陛下は暴走するからです。アーロンの時のように」
苦虫をつぶした顔。僕が『神託』じゃなければ今すぐしょっ引かれたかもしれない…。でも僕は神託だから…そんなの関係ねぇ!
「いいですか陛下。神子の存在は流動的です。神以外の意思が介入した時点でその選定はご破算になります」
「なんと…!」
てんで違うファイルを指さしてパッチ呼ばわりしたって無意味でしょ。
「ただ言えるとすれば…アーロンが神子の適合者だったのは事実です」
ノベルゲーの正ヒロインだしね。シナリオ上の名前だけだけど。
「それが歪んだのは陛下の命とそれに付随した思惑がぐちゃぐちゃに絡んだからです。お分かりですか?」
「むむ…」
「同じ轍を踏まないためにも僕はアーロンにしろ他の誰かにしろ、その時までその名を口にはしません。ですがこれだけは言っておきます。これ以上神を怒らせたら神はルテティアから神子を取り上げるでしょう」
「それは誠か!」
「ええ」
「そうであったか…」
神というか…僕がね。
よし!これで神子についてのツッコミは当分避けられるだろう。
「ところで陛下はどうしてそこまで神子にこだわるんですか?陛下くらい強ければ神子の力なんか無くたって天下統一だろうが世界征服だろうが出来そうなのに…」
「シャノン、それは王家、いや代々の王にだけ伝わる言い伝えゆえ明かせぬ」
「そうなんですか?それって例のアレですよね?」
「それとは別だ」
「別…?」
…王にだけ伝わる秘密の言い伝えだと?王妃様も王子も知らない特別な言い伝え…。そこに王が神子に執着する理由があるのか?
「その言い伝えとは『神託』の僕にも話せない内容ですか?」
「いいだろう。『神託』たるお前には特別に教えてやろう」
いやー、ある意味『神託』便利だわー。
そうして聞きだしたのがこれだ。
『光の向こう側』に住む『愛』に生きる祖先よ
この世に確認されし不具合は速やかに修正されなければならない
そのために神の用意されし存在こそが『神子』である
『神子』は不具合の確認された王朝を完全に終了した後
新たな王の戴冠よって自動的に芽生え『神託』を合図として発現する
尚『神子』を失った世界は崩壊の一途を歩むだろう
それを望まぬのであれば必ずや『神子』を手に入れよ
努々忘れるなかれ
「よく来た『神託』シャノン。まさかお前が『神託』であったとは…。ツェリの反逆を言い当てて見せた時点で気付いても良かったのだがな。うかつであった。だが実に助かったぞ。この機会に西の小国群からの運搬経路を準備出来た。私が狙うのは次こそ悲願である南の小国群だ」
「お、お役に立てたようで何よりです」
ほぼほぼ偶然だけど…
「そのためにも次の戦いこそ『神子』の存在が必要になるやもしれん」
「そ、そうですかね?」
何時から神子はヴァルキリーみたいな存在になっちゃったのかな?王様は大きな考え違いをしている。
「神子の選定に焦れたとはいえ、アーロンの信者が一部暴走したようだな。聞けばフレッチャー候の部下だというではないか。フレッチャー候にも強く叱責しておいた。部下の管理をしっかりせよとな」
「はぁ…」
バーグ男爵の一件に乗じてアーロン派の暴走、アーロンの脱線を知らされた王様はかなり王妃様に絞られたという話だ。それでもフレッチャーには口頭での注意程度で済ませたのだから、この二人はかなり複雑に絡み合ってると言っていいだろう。
せめてフレッチャーの見た目がもう少しダンディなら、イケオジカプとして萌えることも出来たのに(許すとは言ってない)…、フレッチャーの見た目は某有名アニメのムスカを老けさせた感じだ。それも作画が崩れてるときの。少し、いや、かなり僕の好みから外れている。
因みに王様のビジュアルは鼻髭のないミホークだ。悪くない。…どうでもいい情報だけど。
「それで…だな…、聞くがアーロンは神子では無いのか」
「ど、どーですかねぇー…?」
語尾は曖昧に。何事も保険だよ?
「まあよい。ならば…『神託』であるお前に聞く。『神子』の選定はまだか」
「あなたっ!」
「いいではないか王妃よ」
…いきなり直球で来たな。
ルビー取り換えイベントである成人の儀は夏休みに入る前、六月半ばのことだ。
三年時には一年二年のような後期前期の試験はない。あるのは卒業に合わせて提出する卒論のみ。最低ラインが100ページの分厚い卒論を一年かけて完成させ年内に提出する。
何故ならば三年生には成人の儀、プラム、と大きな夜会が立て続けにあるうえ、人によっては卒業と同時に婚姻が控えていてその準備にも時間を割かれるからだ。そこで自由裁量で時間を捻出できる論文提出になっている。というわけでわりと時間の調整が可能なのだが…
僕はこの冬延々と考えていた。
六月に成人の儀、その直後に神子就任式といったイベントがあるから…準備期間を考えるとその前、夏前には神子選定を終えなければならない。
だけど五月には僕の誕生日があってそこにジェロームが来るから…っていうか!二月にはシェイナの誕生日があってそこにもジェロームを呼んであげたいし…、かと言ってますます雪の多くなる二月に船を出すのは北東部的に難しいだろうから…ああっ!
ということで僕はお父様に、シェイナとアノンの誕生祝いのパーティーは少しずらして暖かくなる三月頃にやりましょう、と進言してある。その頃には裁判も始まりジェロームの訪王都は確定だし、そのまま五月まで滞在してもらえばいい。
…つまり神子の選定は僕的に四月が穴場。ここしかない。
「陛下の進軍は春までは無いのですよね?」
「うむ。冬季は思うように物資も兵も集まらぬからな」
「それなら良かった。王妃様にも言いましたが春までは神子を指名できかねます。これはタイミングが重要なのです」
いやもう本当に。シナリオ的に。
「だがそれが誰かは分かっておろう。私には言って見せよ」
ゴホン
咳払いをしたのは王妃様。王を嗜めているんだろう。
「言えません。何故なら…知れば陛下は暴走するからです。アーロンの時のように」
苦虫をつぶした顔。僕が『神託』じゃなければ今すぐしょっ引かれたかもしれない…。でも僕は神託だから…そんなの関係ねぇ!
「いいですか陛下。神子の存在は流動的です。神以外の意思が介入した時点でその選定はご破算になります」
「なんと…!」
てんで違うファイルを指さしてパッチ呼ばわりしたって無意味でしょ。
「ただ言えるとすれば…アーロンが神子の適合者だったのは事実です」
ノベルゲーの正ヒロインだしね。シナリオ上の名前だけだけど。
「それが歪んだのは陛下の命とそれに付随した思惑がぐちゃぐちゃに絡んだからです。お分かりですか?」
「むむ…」
「同じ轍を踏まないためにも僕はアーロンにしろ他の誰かにしろ、その時までその名を口にはしません。ですがこれだけは言っておきます。これ以上神を怒らせたら神はルテティアから神子を取り上げるでしょう」
「それは誠か!」
「ええ」
「そうであったか…」
神というか…僕がね。
よし!これで神子についてのツッコミは当分避けられるだろう。
「ところで陛下はどうしてそこまで神子にこだわるんですか?陛下くらい強ければ神子の力なんか無くたって天下統一だろうが世界征服だろうが出来そうなのに…」
「シャノン、それは王家、いや代々の王にだけ伝わる言い伝えゆえ明かせぬ」
「そうなんですか?それって例のアレですよね?」
「それとは別だ」
「別…?」
…王にだけ伝わる秘密の言い伝えだと?王妃様も王子も知らない特別な言い伝え…。そこに王が神子に執着する理由があるのか?
「その言い伝えとは『神託』の僕にも話せない内容ですか?」
「いいだろう。『神託』たるお前には特別に教えてやろう」
いやー、ある意味『神託』便利だわー。
そうして聞きだしたのがこれだ。
『光の向こう側』に住む『愛』に生きる祖先よ
この世に確認されし不具合は速やかに修正されなければならない
そのために神の用意されし存在こそが『神子』である
『神子』は不具合の確認された王朝を完全に終了した後
新たな王の戴冠よって自動的に芽生え『神託』を合図として発現する
尚『神子』を失った世界は崩壊の一途を歩むだろう
それを望まぬのであれば必ずや『神子』を手に入れよ
努々忘れるなかれ
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