断罪希望の令息は何故か断罪から遠ざかる

kozzy

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105 断罪の顛末

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あれから二日ほど経って、自領の領主が第二王子に捕縛された事実。それはブラトワ全体、特に領主館と街周辺にはあっという間に出回った。
そこで見えてきたのは、このブラトワの非道な税の仕組みだ。

王妃様はルテティア国における人道的な教えに沿って、各領主には税率諸々込みで30パーから40パーまでを推奨している。その税率は領主の采配に任され、エンブリーは30パーだしこのブラトワは45パーだ。

え?これくらいなら許容範囲じゃないかって?甘いな…。ブラトワは満足に福利厚生などしていないし、小狡く様々な場面に小さな税をいくつもいくつもかけているのだ。
領の都市など目立つ場所だけは整えているが、その代わりブラトワの都は出入りに税がかかるし橋を渡るにも税がかかる。だからジェロームも頻繁に買い出しには来ない。月に一二度、まとめて買いだめする。
それだけじゃない。帯剣するのにも税がかかるし結婚するのも馬を持つのも贅沢品を持つのも、全てに少しずつ税がかかる。
まー、チマチマチマチマ。農奴に至っては生きていく最低限以外は全部持っていかれる有様だ。

ここに王様からの徴兵や徴収が加わって、本気でここの領民はどうやって暮らしてたんだろうと思う。多分出ていくのにも大きく税がかかるから我慢していたんだろう。

因みに王の徴兵は領主が収める額を上乗せすることで免除を願い出ることも出来る。エンブリーなんかはそうやって領民を守ったがその度に借財が増えていったらしい。補足だが。

とまあ、そんなわけでブラトワの失脚は多くの人々を救うだろう。現にブラトワの屋敷では非道な当主と家令が揃って消えたことで祝杯をあげたらしい。

当然ブラトワの家族はすぐに近領を治める親類縁者のもとへと逃げ出したそうだがどこへ逃げようと同じ事だ。どうせ一族郎党何らかの罰は与えられるんだから。
善良な人たちなら恩情を…と考えなくはなかったのに、残った使用人に聞いたところ、ブラトワは一族全員似たり寄ったりの性質なんだとか。おかげで三男が治めるノストラ男爵領を中心とした一族経営の溶岩石採掘場は山から逃げ出す者が絶えないのだという。けど…山には危険が潜む。獣とか。それを考えると…
良かった。良心の呵責を感じなくて済む。

それにしても腹立たしいのは、こいつらのせいで僕のエンブリー休暇が台無しになってしまったことだ。
アレイスターはヘクターの父、バーナード伯領主邸に使いを出した。当面屋敷周りには警戒が必要だろう。そのための増援が到着次第、予定通り彼は北部に向かうとの事だった。
そのため、僕とヘクター、従者の一人…リッチーの方かな?でブラトワと家令を明日屋形船に乗せて連行することになった。
ここで身柄を拘束していたところで、まともな警察施設もまともな騎士もいないのに数か月待つのは何があるかわからないからだ。

「う、うぅぅ…じゃあジェローム、せめて今日中にもう一回買い出しを。バーナードの助っ人がくるまで出歩けないでしょう?」
「それなら私が一緒に行こう」

「アレイスター!?」
「殿下!そんなまさか!殿下にその様なことをさせるわけにはいきません!」

「エンブリー卿は事の始末に忙しいだろう。構わない。私も領地再編の為にブラトワの街を視察したいと思っていたところだ」

そう言われて拒否れるか?…いいや出来ない。

「…ワカリマシタ…、じゃあ一緒に」

最後のデートチャンスも…撃沈。無念。


エンブリーとブラトワの境界にある小さな山。その手前にはエンブリーのささやかな荘園が広がっている。
昨日降った雪は、日照の悪いこの地ではとけないまま全部残っていて真っ白い絨毯みたい。

「御者さん、少し停めて」
「何をするつもりだシャノン」

「んー?ちょっと」

昨晩の恨み、今日の恨み、積もった逆恨みを今晴らさないでいつ晴らす。
僕は足跡一つない農園の雪を手にとり握りしめると…

「ああ!大変!アレイスターちょっと!」
「どうしたシャノン!」

馬車から身を出したアレイスターめがけて全力投球!

ボスッ!
「うわっ!」

第二王子に雪をぶつけた不埒者に御者、そして従者ライリーはぎょっとして固まっている。

「なるほど…。そう言えば君はバーグ卿にも石をぶつけていたね。投げるのが得意なのかい?だがそれは私もだ!」
「え?」ボフッ!「うえっぷ!」

こ、この美しい顔めがけて雪をぶつけるだと?ふーん……
やってやろうじゃないか!

「倍返しだ!」
「良いだろう、相手になってやる」
「くらえ!大リーグボール一号!」
「はは!威力が弱い!」

なにおぅ!石入れてやろうか?

結局僕たちは汗と雪でべちゃべちゃになるまで無人の農園で遊びたおした。

「ほら、これを肩にかけて。身体が冷えたろう?」
「それはアレイスターも同じじゃないですか」
「私は鍛えているからね」

闘病生活にトラウマのある僕は、今世の生活では健康管理にとても気を配っている。

「じゃあお借りします。っていうか…従者も衣類もアレイスターのが少しずつ減っていきますね」
「増えているものもある。気にしなくていい」

「ふーん…?」

そんなこんなで従者に呆れられながらも、なんとか買い出しを済ませ暗くなる前に僕たちは帰ってきた。そして報告を受けたヘクターに「こんな時に風邪でもひいたらどうするんだ!」と二人揃って叱られたのも良い思い出になったといえるだろう…。そうそう。休暇にはこれくらいの思い出話が無いとね。けど…

うぅ…こんなはずじゃ…僕のウインターバケーションインエンブリー。ロマンチックな雪景色は炎と灰にまみれて消えた…


さて、わずかな滞在となったがついに帰る日になってしまった。罪人二人を手枷足枷つけたまま使用人部屋に詰め込み凱旋である。王都近くにまで進んだら、そこから従者リッチーが馬を借り先に出て、船着き場には憲兵たちが待ち受ける予定だ。

「シャノン様が居なければどうなっていたか…。感謝してもしきれません」

「そう思うなら春の誕生日に必ず来てください。待ってますから」
「喜んで…」

「シャノン、その前にエンブリー卿には裁判の証人として出廷してもらわねばならない。春にはブラトワ一族の処遇が決まるだろう。長期滞在になるなら屋敷を用意しなくては」

「伯爵になりますしね!」ぱぁぁぁ「僕用意します!シェイナの恩人ですし、お父様もきっとそう言います」

「え?ですが…」
「エンブリー卿、こればかりは甘えたまえ。プリチャード侯があなたの屋敷を用意した、それだけで社交界へのけん制になる」

「わかりました。そうおっしゃるのでしたらありがたく」


船に乗り込む直前、ジェロームは少しかがんで、僕の腕に居るシェイナに向かってキレイなボウアンドスクレープで礼をとった。

「シェイナ、私はあなたほど勇敢なレディーを知りません。心からの敬意を…」

ふ、ふぉぉぉぉ!初めて見るジェロームの貴公子ポーズ。眼福…って、あ、あれ?

「どうしましたシェイナ?」

シェイナはその小っちゃい手をジェロームに向かって精一杯伸ばす。それを見てジェロームが身を近づけると彼女は顔を引き寄せ…

ちゅ

「んなっ!」
「おやこれは…」

「光栄ですシェイナ」

シェイナが少しばかり早すぎるファーストキッスを誰かさんに捧げたこと…
せめてお父様には黙っておくことにしようと思う。





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