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100 断罪されるべき者
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新たな借財の出現。ヘクターさん曰く、これは僕の存在にブラトワ男爵が何らかの利を感じたのだろう、ということだった。
幸いなことに第二王子殿下アレイスターの滞在は未だバレてはいない。
ブラトワ男爵が目を輝かせたのは、エンブリーと ゛プリチャード侯爵家”゛第一王子殿下”、その二つの繋がりだろうと。
「だからってどうして借財の証文を…」
「分からないが…恐らくなんらかの切り札として隠し持っていたのだろう」
「それをもっとも効果的なタイミングで出してきたということか…」
アレイスターも同じ意見のようだ。
ジェロームは書斎でコナーと先代の残した借財の書付けと返済済の証文を並べて確認している最中だ。
僕とアレイスターはヘクターも交え、アレイスターの部屋でこの件について協議中。シェイナ?もちろん一緒に決まってる。
「コナーはマーシャル会頭と共に間違いなく全ての借財を清算したと言っていた。恐らくこれは何らかの陰謀だろう」
「私も同意見だ。だがいずれにしてもその証文とやらを確認しない事にはどうしようもない」
くっ…!あの金満親父が憎い!憎いぞ!せっかくのウインターバケーションが台無しじゃないか!
こうして悶々としたまま僕たちは翌日を迎えることになった。可哀そうにジェローム…。憂いを含んだ横顔もごちそうさまだが、それ以上にあんな辛そうな顔、見ていられない!
それぞれが考え込みランチも満足に喉を通らないまま昼過ぎ、ついにブラトワ男爵が来訪する。
僕の指定で通したのは玄関から一番近いシッティングルーム。これは「はよ帰れ!」という意味を含んでいる僕のささやかな呪いだ。
隣のドローイングルームでは、アレイスターとヘクターが聞き耳を立てながら待機している。さすがに第二王子殿下が顔を出すのはマズいだろうとの考えからだ。
来訪者はブラトワ男爵とその家令。抜け目の無さそうなキツネ顔の男だ。タヌキとキツネ。いいコンビだな。
対してこちらはジェロームとコナー、そしてシェイナがインしたこの僕だ!
温和なジェロームと頭は良くても世渡りの下手糞なコナーに太刀打ちできるとは思えない。そこへいくとこの僕は世知辛い前世で鍛えられた猛者と言える!簡単に遣り込められたりなんかしない!
「まずはこれを見て頂きたい。これは我がブラトワ三代前の当主が、ここエンブリーの初代当主と交わした貸し付けの証文である」
「初代…」
つまりジェロームにとっては顔も見たことの無いのおじいさんか。
どうやらこれは、平民から何かの勲功をあげ叙爵した先々代のエンブリー初代が、何も無い未開のエンブリー領を開拓するための資金を、三代前のブラトワ男爵から借りた、という主張だ。
「初代は開拓に失敗したのでしょう。借財だけ残して志を息子に託したのですな」
「ですが!」
「おや?では叙爵も嘘だと申されますかな?」
「いえそれは…」
「では開拓資金に窮していたのも想像がつくと言うものです」
ぐぅの音も出ないジェロームとコナー。ほらね!ほらやっぱり!
「取り敢えずその証文を見せて下さい。もっと近くで」
「おや?プリチャード侯爵家のご子息はお疑いかな?これは心外。いいでしょう。よくご覧ください」
手渡されたその紙は年季の入った古い紙。インクは滲み見ずらいが、何とか読み取ることが出来る。
そこには貸付た額面とそれに関わるこまごまとした条件が記載されている。そしてそこに記載された暴力的な利息は、暗算すらできそうにないほどの、天文学的な金額になっているだろうことが見当ついた。
何より問題は…そこに押されたエンブリーの印。悔しいが同じ印を僕は文通時に何度も見てきた。見間違えたりしない。
クイックイッ
証文をみたシェイナが僕の服を何度も引っ張り、そして首を横に振る。横に振る…意味は否定、NO、NG、つまり…これは偽造だって言うんだな?それは分ってるんだよシェイナ!問題は証拠が無いってことだ!
だからってどうする?エンブリー先々代もブラトワ三代前ももうこの世に居ない。先代だって遥か彼方南の地、確認して戻ろうと思えばゆうに半年以上はかかるだろう。ぐ、ぐぬぬ…
「少しこれをお借りしても?」
「そうはいきませんな。プリチャード侯爵家のご子息が証文を破棄するとは思いませぬが…安易にお渡しは出来かねますな。返していただきましょう」
むっきぃぃぃい!ムカつく!ホントムカつく!おかげでシェイナもさっきからウゴウゴ動きっぱなしだ!
「お待ちくださいブラトワ卿。私も拝見させていただきましょう」
そこへ現れたのは見るに見かねたヘクターだ。さすがにアレイスターは出てこない。アレイスターがここに居ることを知ったら、この男は余計な姦策するような気しかしない。
「あなたは…」
「私は北部を治めるバーナード伯爵家嫡男、名をヘクターという。ここエンブリーへはプリチャード侯爵家シャノン様の側仕えとして同行した」
ヘクターは僕と違ってこのルテティア国の成人年齢18歳に達している。成年高位貴族であり、伯爵家嫡男のヘクターにはそれなりの敬意が必要になる。ブラトワは文句も言わずその証文をヘクターに手渡した。
けどそれは…あの証文に自信があるということでもあるんだろう。
「それでブラトワ卿。あなたの要望は何だ。まさか元本を返せば満足する、というわけではないのだろう?」
「おっしゃる通り。100年越しの利息。ちょっとやそっとじゃ返せませぬぞ…」
ゴクリ…
ヘクターがササっと計算するとその額およそ、日本円にして十億は軽く超える。悪夢だ…
「だが私も鬼ではない。ブラトワとエンブリーは長い付き合いでもある、この土地と引き換えであればご破算にしてやってもいいだろう」
「…エンブリーの領地…」
「なーに、爵位までよこせとは言いませぬ。どこかで官吏にでも就くが良かろうよ。おお!バーナード伯爵家で雇ってはいかがか?こんな何も無いつまらぬ領、通常であれば値も付かぬ。いい話であろう?」
ワナワナワナ…ゆ、許せん…
「プリチャード侯爵家のご子息がこんな僻地まで足を運ぶとは…、おそらくはあの琥珀に関係するのであるな?だがシャノン様、こんな田舎の物知らずと取引するよりブラトワをあそこまで発展させたこの私、ブラトワ男爵と取引する方が賢い選択と言えますぞ。よくお考えいただきたい」
あ…あほかー!!!
お前なんかに僕のへそくりマウンテンをくれてやるくらいなら、今すぐ爆破して山崩れでも起こした方がましだっつーの!!!
幸いなことに第二王子殿下アレイスターの滞在は未だバレてはいない。
ブラトワ男爵が目を輝かせたのは、エンブリーと ゛プリチャード侯爵家”゛第一王子殿下”、その二つの繋がりだろうと。
「だからってどうして借財の証文を…」
「分からないが…恐らくなんらかの切り札として隠し持っていたのだろう」
「それをもっとも効果的なタイミングで出してきたということか…」
アレイスターも同じ意見のようだ。
ジェロームは書斎でコナーと先代の残した借財の書付けと返済済の証文を並べて確認している最中だ。
僕とアレイスターはヘクターも交え、アレイスターの部屋でこの件について協議中。シェイナ?もちろん一緒に決まってる。
「コナーはマーシャル会頭と共に間違いなく全ての借財を清算したと言っていた。恐らくこれは何らかの陰謀だろう」
「私も同意見だ。だがいずれにしてもその証文とやらを確認しない事にはどうしようもない」
くっ…!あの金満親父が憎い!憎いぞ!せっかくのウインターバケーションが台無しじゃないか!
こうして悶々としたまま僕たちは翌日を迎えることになった。可哀そうにジェローム…。憂いを含んだ横顔もごちそうさまだが、それ以上にあんな辛そうな顔、見ていられない!
それぞれが考え込みランチも満足に喉を通らないまま昼過ぎ、ついにブラトワ男爵が来訪する。
僕の指定で通したのは玄関から一番近いシッティングルーム。これは「はよ帰れ!」という意味を含んでいる僕のささやかな呪いだ。
隣のドローイングルームでは、アレイスターとヘクターが聞き耳を立てながら待機している。さすがに第二王子殿下が顔を出すのはマズいだろうとの考えからだ。
来訪者はブラトワ男爵とその家令。抜け目の無さそうなキツネ顔の男だ。タヌキとキツネ。いいコンビだな。
対してこちらはジェロームとコナー、そしてシェイナがインしたこの僕だ!
温和なジェロームと頭は良くても世渡りの下手糞なコナーに太刀打ちできるとは思えない。そこへいくとこの僕は世知辛い前世で鍛えられた猛者と言える!簡単に遣り込められたりなんかしない!
「まずはこれを見て頂きたい。これは我がブラトワ三代前の当主が、ここエンブリーの初代当主と交わした貸し付けの証文である」
「初代…」
つまりジェロームにとっては顔も見たことの無いのおじいさんか。
どうやらこれは、平民から何かの勲功をあげ叙爵した先々代のエンブリー初代が、何も無い未開のエンブリー領を開拓するための資金を、三代前のブラトワ男爵から借りた、という主張だ。
「初代は開拓に失敗したのでしょう。借財だけ残して志を息子に託したのですな」
「ですが!」
「おや?では叙爵も嘘だと申されますかな?」
「いえそれは…」
「では開拓資金に窮していたのも想像がつくと言うものです」
ぐぅの音も出ないジェロームとコナー。ほらね!ほらやっぱり!
「取り敢えずその証文を見せて下さい。もっと近くで」
「おや?プリチャード侯爵家のご子息はお疑いかな?これは心外。いいでしょう。よくご覧ください」
手渡されたその紙は年季の入った古い紙。インクは滲み見ずらいが、何とか読み取ることが出来る。
そこには貸付た額面とそれに関わるこまごまとした条件が記載されている。そしてそこに記載された暴力的な利息は、暗算すらできそうにないほどの、天文学的な金額になっているだろうことが見当ついた。
何より問題は…そこに押されたエンブリーの印。悔しいが同じ印を僕は文通時に何度も見てきた。見間違えたりしない。
クイックイッ
証文をみたシェイナが僕の服を何度も引っ張り、そして首を横に振る。横に振る…意味は否定、NO、NG、つまり…これは偽造だって言うんだな?それは分ってるんだよシェイナ!問題は証拠が無いってことだ!
だからってどうする?エンブリー先々代もブラトワ三代前ももうこの世に居ない。先代だって遥か彼方南の地、確認して戻ろうと思えばゆうに半年以上はかかるだろう。ぐ、ぐぬぬ…
「少しこれをお借りしても?」
「そうはいきませんな。プリチャード侯爵家のご子息が証文を破棄するとは思いませぬが…安易にお渡しは出来かねますな。返していただきましょう」
むっきぃぃぃい!ムカつく!ホントムカつく!おかげでシェイナもさっきからウゴウゴ動きっぱなしだ!
「お待ちくださいブラトワ卿。私も拝見させていただきましょう」
そこへ現れたのは見るに見かねたヘクターだ。さすがにアレイスターは出てこない。アレイスターがここに居ることを知ったら、この男は余計な姦策するような気しかしない。
「あなたは…」
「私は北部を治めるバーナード伯爵家嫡男、名をヘクターという。ここエンブリーへはプリチャード侯爵家シャノン様の側仕えとして同行した」
ヘクターは僕と違ってこのルテティア国の成人年齢18歳に達している。成年高位貴族であり、伯爵家嫡男のヘクターにはそれなりの敬意が必要になる。ブラトワは文句も言わずその証文をヘクターに手渡した。
けどそれは…あの証文に自信があるということでもあるんだろう。
「それでブラトワ卿。あなたの要望は何だ。まさか元本を返せば満足する、というわけではないのだろう?」
「おっしゃる通り。100年越しの利息。ちょっとやそっとじゃ返せませぬぞ…」
ゴクリ…
ヘクターがササっと計算するとその額およそ、日本円にして十億は軽く超える。悪夢だ…
「だが私も鬼ではない。ブラトワとエンブリーは長い付き合いでもある、この土地と引き換えであればご破算にしてやってもいいだろう」
「…エンブリーの領地…」
「なーに、爵位までよこせとは言いませぬ。どこかで官吏にでも就くが良かろうよ。おお!バーナード伯爵家で雇ってはいかがか?こんな何も無いつまらぬ領、通常であれば値も付かぬ。いい話であろう?」
ワナワナワナ…ゆ、許せん…
「プリチャード侯爵家のご子息がこんな僻地まで足を運ぶとは…、おそらくはあの琥珀に関係するのであるな?だがシャノン様、こんな田舎の物知らずと取引するよりブラトワをあそこまで発展させたこの私、ブラトワ男爵と取引する方が賢い選択と言えますぞ。よくお考えいただきたい」
あ…あほかー!!!
お前なんかに僕のへそくりマウンテンをくれてやるくらいなら、今すぐ爆破して山崩れでも起こした方がましだっつーの!!!
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