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94 断罪より先にドッキリ

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「シェイナー!何やってんのこんなところでー!」

「何やってるのはこちらの台詞だ。シェイナ嬢はもとより君は何故ここにいる!? 」
「あっ、その、えっと…」

いきなりアレイスターに突っ込まれてしまったが…なんて言い訳すれば…

う…うーんと…ええいうるさい!

「エンブリーまで一緒に行くからですよ!いけないですか!一人で行くなんて…信じられない!」

「シャノン…」

「僕を置いてくなんて!」

これを開き直りと言う。言い訳なんかするもんか!もともとはアレイスターが僕より先にエンブリーに行こうとするから悪いんでしょーが!

エンブリーと砂金は僕のものだー!…願望だけど…

「それよりなんでシェイナがここに…。アレイスターこそ説明してくださいよ」

ため息を一つつくと、アレイスターは困惑したように話し出した。その説明によると、どうやらシェイナは船が岸を離れるまでどこかに隠れていたようだ。

「とにかく甲板でクーパー伯と出航の様子を眺め、改めて部屋に戻ったらシェイナ嬢が床に座っていた。驚いて抱き上げたところに君が来た。そういう訳だ」

はっ!だからあの人形を離さなかったのか!? 僕がシェイナをたらこキューピーにしてアレイスターを迎えに出ている間に変わり身の術を発動したのか!? 

「じゃあ僕がお父様に手渡したのは…本物のキューピー…」

シェイナは高位貴族の子女らしく山ほどの玩具を持っている。当然人形だって数えきれないほどある訳で…、その中でもこれは、実にリアルなビ、ビ、ビスケット人形?シェイナの誕生を祝いポーレット侯爵夫人から贈られた、とても高価な、シェイナに似せて作られた特注人形。各関節は可動式で、顔の造りなど、それはもうリアルで瞼もちゃあんと閉じるようになっている。

肌は磁器製なのだが…シェイナの肌は元々滑らかで白く、みんなからそれこそ「磁器のような肌」と言われる肌だ。
だからって…誰か気付けよ!あ、自分か。

「シ…シェイナ…怒らないからこっちお出で」
「ノーン、…ブバババブブブバブゥブ」

シャノン、抜け駆けはさせない…だつて?こ、このっ!なんというジェローム愛!

「いいからおいで!」

ここで説明しておこう。シェイナはアノンのように歩けたりはしないが、代わりに高速ハイハイが可能だ。そしてハイハイで鍛えた自慢の腕はそれなりに筋力も向上している。
脳機能が以前の状態に戻りつつある今、彼女はその気になれば自力でおクルミから抜け出し、人形を身代わりにするくらいやってのけるだろう。恐ろしい一歳未満児…

…僕がさっきまでシェイナを寝かしつけていた部屋はクーパー伯が使用する部屋だ。クーパー伯は王子アレイスターとその側近ヘクターが使う予定の部屋は乱さないよう使わせなかった。だからシェイナは全員が外に出ているうちに、隠れていたクーパー伯の部屋からアレイスターの部屋に移動したのだろう。
アレイスターの部屋に僕が荷物を取りに戻ることまで想定の上で…。
さすが聡明と名高いオリジナルシャノン。参った…

「めっ!こんなことしてシェイナ…、お父様もニコールさんも心配するでしょ!」

「シャノン。それもそのまま君に返そう。こんなことをして何を考えている!侯爵夫妻がどれほど心配すると思っているんだ!」

あいたー!ブーメランが剛速で返ってきた…

「学院はどうする?」

「休み前の試験は終わってるし、どうせ休みまでの残り一週間は午前の講義だけだし…」スン「さぼります。さぼって悪いですか?自分だってさぼるくせに!」

「…私は許可を得て休みを得たのだよ?はぁ…、いいからヘクターを呼んでくれ」

ヘクターさんには、まるでゾンビにでも会ったかのような顔をされたが、失礼な。
そして彼は事態を把握すると、肩をすくめながらクーパー伯を呼びに行った。

ヘクターさんやクーパー伯を呼びに行くのは想定内だから問題ない。どうせ隠れて一週間は過ごせないし。

問題はシェイナだ。

狼狽したクーパー伯はすぐさま機関室に向かおうとするが…、そうはさせないよ?

「ともかく直ちに船を岸につけお二人を迎えに来ていただかなくては!」

「僕はここを動きませんよ?」
「バブー!」

「いや、そういう訳には…」

僕とシェイナの、クーパー伯を部屋から出さんとするディフェンスを見るがいい!

「どかないか、シャノン…」

呆れたようなアレイスターの声。
なんにしてもシェイナを心配しているであろう両親を安心させなくてはならないだろう。

と、その時。ちょうど川沿いに馬を休ませている人が視界に入った。そこでアレイスターの従者が馬を借りて、急いで連絡に戻ることにしたようだ。
これは、あの馬を借りて飛ばしたほうが、山を越えて無い今なら舟ごと引き返すより早いとの判断だ。

「じゃあ、いっそこのままシェイナもエンブリーに連れていくから心配しないでって伝えて」

どう説得したところでシェイナは絶対諦めないだろう。無理に連れ帰れば今後の兄妹関係に軋轢を生むこと間違いなしだ。それはちょっといただけない。

「ですがシャノン様!」
「僕が面倒見ます。もともとシェイナは僕にベッタリだし…僕もシェイナも神様の加護があるので大丈夫です」

それを聞いた従者が「おおっ!『神託』の加護ですか…」などと感心しているわきで、アレイスターはチラッとシェイナを見た。
そう言えばアレイスターはシェイナを『神子』だと、斜め上から看破していた。
正確には『役目を終えた神子』なわけだが、つかえるものはつかう。それが他力本願教の極意。

「わかりますよねアレイスター」チラ「僕たちは大丈夫です」
「そう…か。ならばこのまま同行させよう。シャノンがここまで言うのだ。そこには重要な意味があるのだろう」

〝重要な意味”その意味ありげなワードはついにクーパー伯さえをも不承不承だけど納得させた。

こうして両親のもとには仰天の知らせが届けらえることになり、僕とシェイナは念願のエンブリーへ向かうしばしの船旅を楽しむことになったのだが…

ん?赤ちゃんのシェイナに無茶させるなって?

チッチッチッ、シェイナはすでに食事の大半を離乳食へと切り替えている。そして誇り高きシェイナはお漏らしなんかしないし泣きわめいたりもしない。頭の中は18歳のシャノンで、大抵のことははっきりと意思を伝えて来る。相手は僕限定だけど。
おまけに現シャノンである僕は、立場を考えカイルに世話をしてもらっていたが、本来は身の回りのことなら何でも自分でしてきた庶民だ。何も問題ない。

「食事の心配もいらないです。着替えと一緒にクッキーいっぱい持ってきましたから。シェイナ用のすりつぶしだけ少しおすそ分けしてくれたら」

「馬鹿を言うんじゃない。一週間焼き菓子で過ごすつもりか?」
「いけませんか?」

パンが無ければお菓子と言い放った女王も居たのに…

「仕方ない。私と分け合おう。それでいいね」
「じゃあ僕のクッキーも一緒に食べましょうね」

そんな僕とアレイスターを、ヘクターさんはため息交じりに、クーパー伯は何とも言えない困ったような、でもどこか微笑ましそうな顔で見ていたのは…気のせいだろうか?






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