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83 断罪とイベント ③
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「こんなことしてただですむと思ってるんですか!爵位剥奪されて国外追放ですよ!」
知らんけど!
僕は奥に押し込まれ入り口側は男に塞がれている。こちら側のドアは外から施錠され、開けることは出来ない不親切設計だ。
そして馬車はいつも商業地区に寄り道するときに使う裏の馬車道を、今現在砂埃をあげて爆走中だ。ヤメロ!馬が可哀想でしょうが!
「なに、その心配もお前がそれを訴え出られればの話だ。だが果たしてお前にそれが出来るかな。訴え出るには自分の恥を晒すことになる」
「恥…?」
どこからどうみても全力で被害者の僕に恥なんて一ミリもないでしょうが!
「大人を舐めすぎたな。フレッチャー侯はお怒りだ」
「それって…」
「『神託』様を殿下の婚約者でいられない身体にしてやれとさ」
だっ!ばっ!あらゆるBLを読みつくした僕を舐めるな!つまり…エッチなことをするつもりか!!!
男の言いぐさはこうだ。
神に選ばれし『神託』の立場はともかく、純潔でなくなれば少なくとも社交界での立場は失う。
つまり、男を訴えることは社交界での地位を失うのに等しい。当然王族との婚姻は破棄されるだろうし、いくらプリチャード侯爵子息とはいえ今後由緒正しい家門からの嫁の貰い手は無くなるだろう。
それが嫌なら傷物にされたことをひた隠しにして、今後僕はこいつら、早い話がフレッチャーの操り人形にならなければならない。
…胸糞悪い…
言っておくが社交界での立場なんて失おうが何しようが一ミリも惜しくない。そもそも断罪上等が僕のモットーだ。由緒正しい家門との縁組なんて、初めからいらないっつーの!
けど、そのためにこんなゲス男に押し倒されるなんて…まっぴらごめんだ!僕は予定通り断罪される!
「フレッチャーに伝えて貰える?僕はお前たちの言うなりになんかならないし、預かりもののこの身体に指一本触らせない」
この身体は僕のものであって僕のものじゃない。シャノンのものだ!高貴なシャノンを穢されてたまるもんか!
「ほほう?神からの預かりものとでもいうのだな?では舌でも噛むか。出来るものならやってみろ。ハハハ」
ぐああ!こう見えて僕は人よりちょっと濃いめの、ごくごく普通なただの腐男子だし、前世の記憶以外何のチートも持ちあわせていない!ひーん!どうしよう…。
だけどこれが振動のでかい安っぽい馬車だったのは幸いだった。馬を興奮させないためだろう、男は今のところ大人しく座っている。
学院の私有地を抜けたら逃げ出すのは困難になる。早くなんとかしなくっちゃ。なのに僕ときたら何も出来ず気持ちが焦るばかり。これがほんとの〝ああ無能!”
と、その時!馬の悲鳴と共に馬車が大きく車体を揺らした!
「うわっ!」
「な、なんだ!」
きっと誰かが助けに来たんだ!誰が?もしや隊長?
座席下に落ちた男を思いっきり踏みつけ、ドアを蹴破り転がり落ちるように外に出ると、そこに居たのは思いもよらぬ意外な人物…
「あ…アーロン⁉」
ドロドロでボロボロのローブを羽織り息を切らしたアーロンが、なんと!馬車を通せんぼするように立っていたのだ!
僕は慌ててアーロンに駆け寄った。
「どうしてここに!」
「走り去る蹄の音を聞いて近道を抜けてきたのです!間に合って良かった…」
近道って…。確かに学院を囲む雑木林を抜ければ、馬車道へのショートカットは可能だ。けど…あそこは侵入者除けの、タヌキぐらいしか歩けない道じゃないか!いくらアーロンが小柄だからって…
「こんなに傷だらけになって…」
「それよりお早く!ここから逃げましょう!」
「そうはいくか!」
背中に足跡をつけた男は、それでも僕とアーロンの行く手を阻むように立ち塞がる。立ち直りの早い奴だ。悪人と黒い物体Gは、どうしてこうしぶといんだろう。
だがこちらは二人、あっちは一人、分はこちらにある。御者?そんなのとっくにどこかへ逃げ出している。弱者のセオリーだよ。
「アーロン!これが誰のためだと思ってる!神子になりたいなら引っ込んでろ!」
「そんな!僕はこんなの望んでない!」
カッチーン!出たよ悪人の常とう句。「お前のため」と言って「お前のため」だったストーリーなんか一度も見たことない!いつだってそれは〝私利私欲”のためだ!
大柄な大人より僕たちのほうが小回りが利く。林に入ってしまえばきっと撒ける!それは今出来る最善に思えた。男が腰から剣を抜くまでは…
「いいからそこをどけ!どかないなら腕づくでどかしてやる!」
「キャッ!」
キャってなんだよキャって、カワイイな。じゃなくて!
貴族には帯剣が許されている。これは護身具であり装身具であり、また貴族の地位を示す見栄のシンボルでもあるのだ。まだ学生のブラッドでさえ、通常のお出かけ時にはお父様から譲り受けた短めのレイピアを腰につけていく。
だからといって、無暗に人に向けていいものではない。ましてや…大貴族のご子息様に!
「アーロン!僕の後ろに下がって!」
「シャノン様、ですが…」
「いいから‼」
「ほほう?散々そいつからコケにされておきながら庇うのか?お優しいことで。さすがは『神託』様だ!」
なんか…すごくバカにされた気がする…。けど、僕が盾になればやたらと剣は振り回せまい!28光を持つ僕に刃物傷をつければ、その時点で即監獄行きが決定になる!
一分一秒がやたらと長く感じる…。ここからどうすればいい?背中を見せたら…きっと男はアーロンに斬りつける!激昂した男を前に逃げ出すことも出来ずににじり寄られる嫌な時間。
ああ!絶体絶命続行中!
「シャノン‼」
そこに響き渡ったのはBLファンタジーのお約束展開。
ああ待ってたよ…これが王子様の登場!
え…?
アレイスター?
いや、王子様には違いないけど…え?あ、うん。
知らんけど!
僕は奥に押し込まれ入り口側は男に塞がれている。こちら側のドアは外から施錠され、開けることは出来ない不親切設計だ。
そして馬車はいつも商業地区に寄り道するときに使う裏の馬車道を、今現在砂埃をあげて爆走中だ。ヤメロ!馬が可哀想でしょうが!
「なに、その心配もお前がそれを訴え出られればの話だ。だが果たしてお前にそれが出来るかな。訴え出るには自分の恥を晒すことになる」
「恥…?」
どこからどうみても全力で被害者の僕に恥なんて一ミリもないでしょうが!
「大人を舐めすぎたな。フレッチャー侯はお怒りだ」
「それって…」
「『神託』様を殿下の婚約者でいられない身体にしてやれとさ」
だっ!ばっ!あらゆるBLを読みつくした僕を舐めるな!つまり…エッチなことをするつもりか!!!
男の言いぐさはこうだ。
神に選ばれし『神託』の立場はともかく、純潔でなくなれば少なくとも社交界での立場は失う。
つまり、男を訴えることは社交界での地位を失うのに等しい。当然王族との婚姻は破棄されるだろうし、いくらプリチャード侯爵子息とはいえ今後由緒正しい家門からの嫁の貰い手は無くなるだろう。
それが嫌なら傷物にされたことをひた隠しにして、今後僕はこいつら、早い話がフレッチャーの操り人形にならなければならない。
…胸糞悪い…
言っておくが社交界での立場なんて失おうが何しようが一ミリも惜しくない。そもそも断罪上等が僕のモットーだ。由緒正しい家門との縁組なんて、初めからいらないっつーの!
けど、そのためにこんなゲス男に押し倒されるなんて…まっぴらごめんだ!僕は予定通り断罪される!
「フレッチャーに伝えて貰える?僕はお前たちの言うなりになんかならないし、預かりもののこの身体に指一本触らせない」
この身体は僕のものであって僕のものじゃない。シャノンのものだ!高貴なシャノンを穢されてたまるもんか!
「ほほう?神からの預かりものとでもいうのだな?では舌でも噛むか。出来るものならやってみろ。ハハハ」
ぐああ!こう見えて僕は人よりちょっと濃いめの、ごくごく普通なただの腐男子だし、前世の記憶以外何のチートも持ちあわせていない!ひーん!どうしよう…。
だけどこれが振動のでかい安っぽい馬車だったのは幸いだった。馬を興奮させないためだろう、男は今のところ大人しく座っている。
学院の私有地を抜けたら逃げ出すのは困難になる。早くなんとかしなくっちゃ。なのに僕ときたら何も出来ず気持ちが焦るばかり。これがほんとの〝ああ無能!”
と、その時!馬の悲鳴と共に馬車が大きく車体を揺らした!
「うわっ!」
「な、なんだ!」
きっと誰かが助けに来たんだ!誰が?もしや隊長?
座席下に落ちた男を思いっきり踏みつけ、ドアを蹴破り転がり落ちるように外に出ると、そこに居たのは思いもよらぬ意外な人物…
「あ…アーロン⁉」
ドロドロでボロボロのローブを羽織り息を切らしたアーロンが、なんと!馬車を通せんぼするように立っていたのだ!
僕は慌ててアーロンに駆け寄った。
「どうしてここに!」
「走り去る蹄の音を聞いて近道を抜けてきたのです!間に合って良かった…」
近道って…。確かに学院を囲む雑木林を抜ければ、馬車道へのショートカットは可能だ。けど…あそこは侵入者除けの、タヌキぐらいしか歩けない道じゃないか!いくらアーロンが小柄だからって…
「こんなに傷だらけになって…」
「それよりお早く!ここから逃げましょう!」
「そうはいくか!」
背中に足跡をつけた男は、それでも僕とアーロンの行く手を阻むように立ち塞がる。立ち直りの早い奴だ。悪人と黒い物体Gは、どうしてこうしぶといんだろう。
だがこちらは二人、あっちは一人、分はこちらにある。御者?そんなのとっくにどこかへ逃げ出している。弱者のセオリーだよ。
「アーロン!これが誰のためだと思ってる!神子になりたいなら引っ込んでろ!」
「そんな!僕はこんなの望んでない!」
カッチーン!出たよ悪人の常とう句。「お前のため」と言って「お前のため」だったストーリーなんか一度も見たことない!いつだってそれは〝私利私欲”のためだ!
大柄な大人より僕たちのほうが小回りが利く。林に入ってしまえばきっと撒ける!それは今出来る最善に思えた。男が腰から剣を抜くまでは…
「いいからそこをどけ!どかないなら腕づくでどかしてやる!」
「キャッ!」
キャってなんだよキャって、カワイイな。じゃなくて!
貴族には帯剣が許されている。これは護身具であり装身具であり、また貴族の地位を示す見栄のシンボルでもあるのだ。まだ学生のブラッドでさえ、通常のお出かけ時にはお父様から譲り受けた短めのレイピアを腰につけていく。
だからといって、無暗に人に向けていいものではない。ましてや…大貴族のご子息様に!
「アーロン!僕の後ろに下がって!」
「シャノン様、ですが…」
「いいから‼」
「ほほう?散々そいつからコケにされておきながら庇うのか?お優しいことで。さすがは『神託』様だ!」
なんか…すごくバカにされた気がする…。けど、僕が盾になればやたらと剣は振り回せまい!28光を持つ僕に刃物傷をつければ、その時点で即監獄行きが決定になる!
一分一秒がやたらと長く感じる…。ここからどうすればいい?背中を見せたら…きっと男はアーロンに斬りつける!激昂した男を前に逃げ出すことも出来ずににじり寄られる嫌な時間。
ああ!絶体絶命続行中!
「シャノン‼」
そこに響き渡ったのはBLファンタジーのお約束展開。
ああ待ってたよ…これが王子様の登場!
え…?
アレイスター?
いや、王子様には違いないけど…え?あ、うん。
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