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82 断罪とイベント ②
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保管庫といってもそこは、一時的に荷を下ろして危険物の有無を確認するだけの場所。荷はすぐに運ばれていくのでサイズ的には物置程度の小屋だ。
隣には管理人室もあり、馬車止めには荷下ろしの済んだどこかの馬車が待機している。
って言うか、発表当日に搬入とか…無いわー…。こういうのって早めに準備しとくもんじゃないんだろうか?手違いがあったらどうするんだろう?
「バーグ卿、シャノン様をお連れしました」
「ふん、ご苦労」
バーグ?誰それ?
少し横柄な見覚えのない男はとってつけたようなにこやかな顔でこちらに近づいてくる。
年の頃は三十代半ば、センスは悪いが一応貴族服を着ている。そしてそいつは、どこからどう見ても善良にはみえない。
なんか…嫌な感じ…
「あの…僕ローブだけ見たら戻りますね。みんな待ってるし…」
「おやおや、これはつれないことを仰る。わざわざこうしてあなたを出迎えに来たというのに」
「出迎え?」
そんな送迎をお願いした覚えはない。
はっ!そう言えばこのガチ信者はここに来る前もう一人の古参信者とヒソヒソ話していた。悪口かな…?って思ったけど、…この男を呼んだに違いない。文化祭の間はいろんな人が出入りしている。
「祭りの間にどうにかするつもりでいたが…飛んで火に入るとはまさにこのことだ。ぜひ一緒に来ていただきたい」
これがどれほど不躾で失礼なことかお分かりいただけるだろうか?
貴族社会とは一にマナー、二にマナー、三も四もマナーで五もマナーだ。面会、面談には必ず事前のアポが必須である。ちょっとした訪問ですら先触れを送るめんどくささが貴族の醍醐味だ。それは屋敷外でも同じこと。ほぼ面識のない者同士が挨拶もそこそこにこのまま出かけましょう…なんてパリピなノリは存在しないのが普通である。
「…お約束もありませんし遠慮します。それに今は文化祭の最中です。出直してください」
「そういう訳にはいかないんですよ。あなたに近づける機会はそうそうないのでね」
何度も言うが、社交界とは礼儀で出来ていると言ってもいい世界だ。何故ならこの礼儀こそが、秘密結社〝社交界”に、庶民という名の異分子が入り込むのを防ぐ合言葉みたいなものだからだ。
それを考えたら…こんなのあり得ない事態だ。
この文化祭への入場は貴族であれば許可されている。バーグ卿…ということは、ガラは悪くても一応爵位持ちなんだろう。
それを加味して推測を進めればおのずと答えはでる。爵位はあってもマナーに緩い相手…ピコーン!
「あなたは近年爵位を得たばかりのどこかの男爵ですね。知らないようなので言っておきますが僕の父は序列第二位プリチャード一侯爵、そして僕の婚約者は第一王子殿下、コンラッド様です。これがどれほど不敬なことかおわかりですか?」
「ははっ!あなたはまだ成人もしていない子供ではないか」
「それを凌駕するほどの七光りだって言ってるんです」
人が親切に教えてあげてるのに…。僕の七光りは先の二つに加えて『神託』と『カサンドラ様』のキーワードも足してすでに28光くらいあるって言うのに…舐めてんの?
「いいから黙って来るんだ!」
「触らないでよ、なにすんの!」
「ここで上手くやれば俺も社交クラブの仲間入り、大人しく言うことを聞け!」
こいつの言うクラブとは紳士の集まる社交クラブのことだ。社交クラブとは名門になればなるほど敷居が高い。入会するにも審査があるのだ。当然、よほどの名声が無ければ下位貴族が審査を通ることなどほとんどない。
その代わり高い敷居分ステータスも高い。名門クラブに籍を置く、それ自体が社交界での信用となり、より上等な人脈を築いていく。
つまり…社交クラブの入会権と引き換えで誰かに何かを頼まれたってことか?
「引っ張らないでってば!もうっ!離して!ちょ、誰かっ!誰かー!ムグ、ンー!」
いちいち乱暴なんだよ!息が苦しいってば!
少し離れた所にいるアーロンのガチ信者は僕のあげた声にきょろきょろと周りを警戒している。
「バーグ卿、お早く!」
「学生ごときが俺に指図をするな!」
「シャノン様、申し訳ございませんがあなたが悪いんですよ。速やかにアーロン様を神子に選定なさらないから!」
何だって!?
「バーグ卿はシャノン様を引き合わせれば説得してくださると仰いました。少し手荒な方法ではありますが…これで神子の称号を得られるのならアーロン様もきっとおわかりくださいます」
んなわけあるかー!
この状況のどこを見たら穏便に説得する流れに見えるんだ!っつーの。何かする気満々でしょうが!こ、この世間知らずの箱入り息子め!
だいたいアーロンはカマ神に傾倒してるだけで、一度だって自分から神子になりたいなんて言ってないじゃないか!
アーロンが言ったのは「みんなで仲良く共有しようね」ってことだ。彼は正々堂々と欲求を満たしたくて…それで暴走しただけだ!
アーロンを神子にしたかったのは後宮に迎えるための伯付けが欲しかったコンラッドと、それから…
ガブッ!
「うわぁ!何をする!」
「フレッチャー侯の指示か!」
「何故分かった!かまわん御者!早く出せ!」
「は、はは、はい!」
ああっ!か弱いこの身が今は憎い!僕の身体は軽々と持ち上げられるとそのまま無理やり馬車に押し込まれた。
隣には管理人室もあり、馬車止めには荷下ろしの済んだどこかの馬車が待機している。
って言うか、発表当日に搬入とか…無いわー…。こういうのって早めに準備しとくもんじゃないんだろうか?手違いがあったらどうするんだろう?
「バーグ卿、シャノン様をお連れしました」
「ふん、ご苦労」
バーグ?誰それ?
少し横柄な見覚えのない男はとってつけたようなにこやかな顔でこちらに近づいてくる。
年の頃は三十代半ば、センスは悪いが一応貴族服を着ている。そしてそいつは、どこからどう見ても善良にはみえない。
なんか…嫌な感じ…
「あの…僕ローブだけ見たら戻りますね。みんな待ってるし…」
「おやおや、これはつれないことを仰る。わざわざこうしてあなたを出迎えに来たというのに」
「出迎え?」
そんな送迎をお願いした覚えはない。
はっ!そう言えばこのガチ信者はここに来る前もう一人の古参信者とヒソヒソ話していた。悪口かな…?って思ったけど、…この男を呼んだに違いない。文化祭の間はいろんな人が出入りしている。
「祭りの間にどうにかするつもりでいたが…飛んで火に入るとはまさにこのことだ。ぜひ一緒に来ていただきたい」
これがどれほど不躾で失礼なことかお分かりいただけるだろうか?
貴族社会とは一にマナー、二にマナー、三も四もマナーで五もマナーだ。面会、面談には必ず事前のアポが必須である。ちょっとした訪問ですら先触れを送るめんどくささが貴族の醍醐味だ。それは屋敷外でも同じこと。ほぼ面識のない者同士が挨拶もそこそこにこのまま出かけましょう…なんてパリピなノリは存在しないのが普通である。
「…お約束もありませんし遠慮します。それに今は文化祭の最中です。出直してください」
「そういう訳にはいかないんですよ。あなたに近づける機会はそうそうないのでね」
何度も言うが、社交界とは礼儀で出来ていると言ってもいい世界だ。何故ならこの礼儀こそが、秘密結社〝社交界”に、庶民という名の異分子が入り込むのを防ぐ合言葉みたいなものだからだ。
それを考えたら…こんなのあり得ない事態だ。
この文化祭への入場は貴族であれば許可されている。バーグ卿…ということは、ガラは悪くても一応爵位持ちなんだろう。
それを加味して推測を進めればおのずと答えはでる。爵位はあってもマナーに緩い相手…ピコーン!
「あなたは近年爵位を得たばかりのどこかの男爵ですね。知らないようなので言っておきますが僕の父は序列第二位プリチャード一侯爵、そして僕の婚約者は第一王子殿下、コンラッド様です。これがどれほど不敬なことかおわかりですか?」
「ははっ!あなたはまだ成人もしていない子供ではないか」
「それを凌駕するほどの七光りだって言ってるんです」
人が親切に教えてあげてるのに…。僕の七光りは先の二つに加えて『神託』と『カサンドラ様』のキーワードも足してすでに28光くらいあるって言うのに…舐めてんの?
「いいから黙って来るんだ!」
「触らないでよ、なにすんの!」
「ここで上手くやれば俺も社交クラブの仲間入り、大人しく言うことを聞け!」
こいつの言うクラブとは紳士の集まる社交クラブのことだ。社交クラブとは名門になればなるほど敷居が高い。入会するにも審査があるのだ。当然、よほどの名声が無ければ下位貴族が審査を通ることなどほとんどない。
その代わり高い敷居分ステータスも高い。名門クラブに籍を置く、それ自体が社交界での信用となり、より上等な人脈を築いていく。
つまり…社交クラブの入会権と引き換えで誰かに何かを頼まれたってことか?
「引っ張らないでってば!もうっ!離して!ちょ、誰かっ!誰かー!ムグ、ンー!」
いちいち乱暴なんだよ!息が苦しいってば!
少し離れた所にいるアーロンのガチ信者は僕のあげた声にきょろきょろと周りを警戒している。
「バーグ卿、お早く!」
「学生ごときが俺に指図をするな!」
「シャノン様、申し訳ございませんがあなたが悪いんですよ。速やかにアーロン様を神子に選定なさらないから!」
何だって!?
「バーグ卿はシャノン様を引き合わせれば説得してくださると仰いました。少し手荒な方法ではありますが…これで神子の称号を得られるのならアーロン様もきっとおわかりくださいます」
んなわけあるかー!
この状況のどこを見たら穏便に説得する流れに見えるんだ!っつーの。何かする気満々でしょうが!こ、この世間知らずの箱入り息子め!
だいたいアーロンはカマ神に傾倒してるだけで、一度だって自分から神子になりたいなんて言ってないじゃないか!
アーロンが言ったのは「みんなで仲良く共有しようね」ってことだ。彼は正々堂々と欲求を満たしたくて…それで暴走しただけだ!
アーロンを神子にしたかったのは後宮に迎えるための伯付けが欲しかったコンラッドと、それから…
ガブッ!
「うわぁ!何をする!」
「フレッチャー侯の指示か!」
「何故分かった!かまわん御者!早く出せ!」
「は、はは、はい!」
ああっ!か弱いこの身が今は憎い!僕の身体は軽々と持ち上げられるとそのまま無理やり馬車に押し込まれた。
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