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79 断罪に潜む傷
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「いいかねシャノン。今年の文化祭では決して、決して!給仕の真似事などしないように」
「はいお父様。給仕はしません」
給仕はね。つまり給仕以外はするかもしれないということだ。
僕は密かに計画していることがある。それは…
救護室で看護師のコスプ、お手伝いをするってことだ。
我ながら天才的閃きだと思う。これなら、カイルを仰天させることも、今回は観覧に来ると言っているお父様に叱られることもなく、正々堂々とコスプ、お手伝いが出来るというものだ。
BLゲー世界であるここでは前世に先駆けナースに男女の区別はない。ナース♀はグレーの詰襟ワンピースに真っ白なエプロン。頭にはコック帽に似た、ちょっとボワッとしたナースキャップをかぶっている。そしてナース♂は同じくグレーの詰襟ブラウスにやっぱり真っ白なエプロン、同じナースキャップを着用する。
前世の白衣とは違うがこれはこれで。制服は良い。制服はいつでも辛い闘病に萎えそうになる僕の気力を奮い立たせた。それは今世も変わらない。この文化祭を乗り切るためにも、僕はナースになる!
ということで…、やって来たのは屋外の救護エリア。これは屋外で実演付き展示、早い話がちょっとした寸劇だったりちょっとした演奏だったり、ちょっとした剣技を披露している彼ら向けの屋外専用救護テントだ。
んん?寸劇や演奏が何故あるかって?文化祭は真面目な行事なんじゃないのかって聞いてる?
ほら、去年アーロンも『懺悔の集い』とかしてたじゃん?文化祭は゛研究展示発表会”だから、各々の研究を展示したり発表したりできていれば、その形式は問われないのだ。
「シャノン様…、本当にお手伝いなさるのですか?とても立派なお心がけですが、また昨年のような事に…」
「アリソン様は心配性ですね。昨年はカフェ、今年は救護テントです。ケガ人や病人なんてカフェのお客様と違ってそれほど来ないですって。大丈夫です」
「そうかしら…?心配ですわ。シャノン様はすこし浮世離れしたところがお有りだから…」
むっ!何を言う!僕ほど浮世の何たるかを知る者は居ないというのに!
「ミーガン様も考えすぎですって。それより僕たちの展示を見に来てくださった方に、もれなくノベルティをお配りするの忘れないでくださいね」
「お任せ下さいまし」
ところでここにくる患者とは、屋外でケガをしたり、飲み過ぎて倒れたり食べ過ぎて気持ち悪くなったり、ご婦人だとウエストを締めすぎて貧血を起こしたり…と言った人たちのことである。
もちろん観覧に来たゲストの貴族も含まれるため、不備がないよう設置された臨時の救護テントなのだが、ここで対応するのは学院が手配した修道士や修道女の方々。病院には職業看護師さんもいるにはいるが、こういった場合に学院が手配するのは大体古い習慣に則って修道院からである。
「ええ!シャノン様がお手伝いをしてくださるのですか!? 」
「そのつもりです。僕の発表は展示物だけだし手は空いているので…いけませんか?」
「とんでもない!実に光栄なことでございます!」
アーロンが壇上で発表(多分カマ神の)をするのは三日目最終日。それまでに活力を満タンに貯えなければ。
そう考え行動に移したのは自分自身だ。だが…
「あの…この制服って…」
「すみません。ですが何故かワンピースしか予備が見つからなくて…」
「おかしいわね?朝は男性用のシャツもあったのに…」
「あの…往復二時間ほどかかりますが取りに行ってまいりましょうか?」
「ああいえいえ!そこまでのお手間をかけるわけには…、いいですこれで。このワンピースで」
「ではこれで」
…なんかうまく乗せられた感がしないでもないが…とにかく僕の文化祭初日はこうしてカワイイワンピースと共に幕を開けた!のだが…
「アイタタタ…、シャノン様、ここです。この肘に擦り傷が…」
「シャノン様ー!トゲが刺さって指が!指がぁ‼」
「は、はーい!順番ですからね。お待ちくださいねー」
「苦しい!腹が張り裂けそうだ!シャノン様お早く!」
それはただの食べ過ぎでしょーが!
「シャノン様ー!」
ええいうるさい!小傷ぐらいでウジャウジャウジャウジャ!あーもう!なんでこうなる!
「シャノン様」
「ああん?あ、ブラッド。とロイド様。って、ロイド様っ!どうしたんですかその頭のケガ!ブラッド!これどういうこと!」
「いえその…」
ブラッドに付き添われてテントにやって来たロイドの、頭を押さえるハンカチは真っ赤に染まっている!ど、どど、どういう状況?
「いやーなに。少々暴漢から子供を庇っただけですよ。男として当然です。こんなの傷のうちにも入らない」
「そんなわけないでしょ!」
「僕が迎えに行く約束をしていたから良かったものを…。剣も扱えないのに無茶をする」
「こんなの僕じゃ…すいません!誰かロイ」
「シャノン様!忙しい皆様の手を煩わせてはいけません!いいんです私は。シ、シャノン様がそっと血を拭ってくださるだけで。ほら、もう血も止まっていますし」
「そ、そう?じゃあ…消毒するね」チョンチョン「い、痛くない?」
「全く、いいえ!痛くて死にそうです!」
死にそうなわりに声に張りがあるけど…でもさすがにこれはちょっと…
「かわいそうに…、もうっ!誰がこんなひどいことを!」
「兄さん、はぁ…、どうぞ包帯も巻いてやってください」
「いいけど…上手く巻けないかも…それでもいい?お家に帰ったらちゃんと巻き直してもらってね」
「…そんな勿体n…それよりシャノン様は血を怖がらないのですね?」
「そうですよ兄さん。救護の手伝いなど兄さんに出来るとは思いませんでした」
チッチッチッ!僕は五年間入院していた病院のプロだ。血なんか怖いものか。…かかってたの難病指定免疫内科だけど。
「僕はこう見えて何でも出来るんだよ。知らなかった?」
「そのようですね…」
ところで後から聞いた話だが、ロイドが暴漢に襲われたのは学院からそこそこ離れた河沿いの商業地区なのだとか。
なのに「今すぐ学院に戻らないといけない気配がする」と言い張り、血まみれのまま馬車にのって、病院に寄ろうと言うブラッドを遮り、脇目もふらず学院まで戻ってきたうえ、屋内の医務室でなく「こっちだ!気配はこの方角からだ!」と屋外救護テントまでやってきたのだとか。
えーと…修道女フェチってことかな…
「はいお父様。給仕はしません」
給仕はね。つまり給仕以外はするかもしれないということだ。
僕は密かに計画していることがある。それは…
救護室で看護師のコスプ、お手伝いをするってことだ。
我ながら天才的閃きだと思う。これなら、カイルを仰天させることも、今回は観覧に来ると言っているお父様に叱られることもなく、正々堂々とコスプ、お手伝いが出来るというものだ。
BLゲー世界であるここでは前世に先駆けナースに男女の区別はない。ナース♀はグレーの詰襟ワンピースに真っ白なエプロン。頭にはコック帽に似た、ちょっとボワッとしたナースキャップをかぶっている。そしてナース♂は同じくグレーの詰襟ブラウスにやっぱり真っ白なエプロン、同じナースキャップを着用する。
前世の白衣とは違うがこれはこれで。制服は良い。制服はいつでも辛い闘病に萎えそうになる僕の気力を奮い立たせた。それは今世も変わらない。この文化祭を乗り切るためにも、僕はナースになる!
ということで…、やって来たのは屋外の救護エリア。これは屋外で実演付き展示、早い話がちょっとした寸劇だったりちょっとした演奏だったり、ちょっとした剣技を披露している彼ら向けの屋外専用救護テントだ。
んん?寸劇や演奏が何故あるかって?文化祭は真面目な行事なんじゃないのかって聞いてる?
ほら、去年アーロンも『懺悔の集い』とかしてたじゃん?文化祭は゛研究展示発表会”だから、各々の研究を展示したり発表したりできていれば、その形式は問われないのだ。
「シャノン様…、本当にお手伝いなさるのですか?とても立派なお心がけですが、また昨年のような事に…」
「アリソン様は心配性ですね。昨年はカフェ、今年は救護テントです。ケガ人や病人なんてカフェのお客様と違ってそれほど来ないですって。大丈夫です」
「そうかしら…?心配ですわ。シャノン様はすこし浮世離れしたところがお有りだから…」
むっ!何を言う!僕ほど浮世の何たるかを知る者は居ないというのに!
「ミーガン様も考えすぎですって。それより僕たちの展示を見に来てくださった方に、もれなくノベルティをお配りするの忘れないでくださいね」
「お任せ下さいまし」
ところでここにくる患者とは、屋外でケガをしたり、飲み過ぎて倒れたり食べ過ぎて気持ち悪くなったり、ご婦人だとウエストを締めすぎて貧血を起こしたり…と言った人たちのことである。
もちろん観覧に来たゲストの貴族も含まれるため、不備がないよう設置された臨時の救護テントなのだが、ここで対応するのは学院が手配した修道士や修道女の方々。病院には職業看護師さんもいるにはいるが、こういった場合に学院が手配するのは大体古い習慣に則って修道院からである。
「ええ!シャノン様がお手伝いをしてくださるのですか!? 」
「そのつもりです。僕の発表は展示物だけだし手は空いているので…いけませんか?」
「とんでもない!実に光栄なことでございます!」
アーロンが壇上で発表(多分カマ神の)をするのは三日目最終日。それまでに活力を満タンに貯えなければ。
そう考え行動に移したのは自分自身だ。だが…
「あの…この制服って…」
「すみません。ですが何故かワンピースしか予備が見つからなくて…」
「おかしいわね?朝は男性用のシャツもあったのに…」
「あの…往復二時間ほどかかりますが取りに行ってまいりましょうか?」
「ああいえいえ!そこまでのお手間をかけるわけには…、いいですこれで。このワンピースで」
「ではこれで」
…なんかうまく乗せられた感がしないでもないが…とにかく僕の文化祭初日はこうしてカワイイワンピースと共に幕を開けた!のだが…
「アイタタタ…、シャノン様、ここです。この肘に擦り傷が…」
「シャノン様ー!トゲが刺さって指が!指がぁ‼」
「は、はーい!順番ですからね。お待ちくださいねー」
「苦しい!腹が張り裂けそうだ!シャノン様お早く!」
それはただの食べ過ぎでしょーが!
「シャノン様ー!」
ええいうるさい!小傷ぐらいでウジャウジャウジャウジャ!あーもう!なんでこうなる!
「シャノン様」
「ああん?あ、ブラッド。とロイド様。って、ロイド様っ!どうしたんですかその頭のケガ!ブラッド!これどういうこと!」
「いえその…」
ブラッドに付き添われてテントにやって来たロイドの、頭を押さえるハンカチは真っ赤に染まっている!ど、どど、どういう状況?
「いやーなに。少々暴漢から子供を庇っただけですよ。男として当然です。こんなの傷のうちにも入らない」
「そんなわけないでしょ!」
「僕が迎えに行く約束をしていたから良かったものを…。剣も扱えないのに無茶をする」
「こんなの僕じゃ…すいません!誰かロイ」
「シャノン様!忙しい皆様の手を煩わせてはいけません!いいんです私は。シ、シャノン様がそっと血を拭ってくださるだけで。ほら、もう血も止まっていますし」
「そ、そう?じゃあ…消毒するね」チョンチョン「い、痛くない?」
「全く、いいえ!痛くて死にそうです!」
死にそうなわりに声に張りがあるけど…でもさすがにこれはちょっと…
「かわいそうに…、もうっ!誰がこんなひどいことを!」
「兄さん、はぁ…、どうぞ包帯も巻いてやってください」
「いいけど…上手く巻けないかも…それでもいい?お家に帰ったらちゃんと巻き直してもらってね」
「…そんな勿体n…それよりシャノン様は血を怖がらないのですね?」
「そうですよ兄さん。救護の手伝いなど兄さんに出来るとは思いませんでした」
チッチッチッ!僕は五年間入院していた病院のプロだ。血なんか怖いものか。…かかってたの難病指定免疫内科だけど。
「僕はこう見えて何でも出来るんだよ。知らなかった?」
「そのようですね…」
ところで後から聞いた話だが、ロイドが暴漢に襲われたのは学院からそこそこ離れた河沿いの商業地区なのだとか。
なのに「今すぐ学院に戻らないといけない気配がする」と言い張り、血まみれのまま馬車にのって、病院に寄ろうと言うブラッドを遮り、脇目もふらず学院まで戻ってきたうえ、屋内の医務室でなく「こっちだ!気配はこの方角からだ!」と屋外救護テントまでやってきたのだとか。
えーと…修道女フェチってことかな…
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