断罪希望の令息は何故か断罪から遠ざかる

kozzy

文字の大きさ
上 下
124 / 308

77 断罪へスタートダッシュ

しおりを挟む
一言も発しなくなってしまったアーロンを置いて仕方なく懺悔室をでる。あの深く神秘的なマーブルの瞳は今何を思うのか…

すると待機していた取り巻き三人の様子がどことなくおかしい…何事かと思えば木の影に居るのはアレイスターじゃないか。

「アレイスター様、どうしたんですかこんなところで」
「いや、君がアーロンに対峙していると耳にしてね」
「アレイスター様の耳は地獄の三丁目ですね。でも大丈夫ですよ?アーロンとも今日は本音で語りあえましたし」
「本音…?それは一体…」
「さすがにそれは言えません」

「そうだろうな…。それよりシャノン、君にお願いがあってね」
「なんですか?」

「文化祭の二日目、私を手伝って欲しい」
「手伝い…?」

なんでもアレイスターは来訪されたゲスト向けに、北の地の向こうにある海の国について調べた発表を行うそうだ。
けどそれはアーロンのように壇上ではなく、一番小さな研究室を使うらしい。
そこで板に図画を貼ったりめくったり、のアシスタントをお願いしてきたのだ。

「この図画ですか?ぷぷっ!誰が描いたんですかこれ…」
「私だが…笑うほどひどいだろうか」

「これはこれで味がありますけど…、僕が描き直しましょうか?」
「いいのかい?」
「これくらい楽勝です」ニコ

何でも出来そうなアレイスターの絵がちょっと画伯で…なんかカワイイ。はっ!これがギャップ萌え…

そしてもうじき後半のイベント、トップバッターである文化祭がある。
今年の僕は、ミーガン嬢たちと四人共同で、『偶像アイドルの行きつく先 狂信ガチこいの危険な境界線』について、論文、その他、分かりやすくイラストを添えた図表を鋭意制作中だ。

部屋に居るのは取り巻き三人。アレイスターの図画も一緒に製作中である。

「相変わらずシャノン様の描かれる挿絵は可愛らしいですわね」
「デフォルメといいます。最終的にここまで小さくすることも出来ますよ?」
「まぁ!これわたくしですの?」

「シャノン様、その、それをいただいても?」
「リアム様…いいですけど…」ニヤニヤ
「リアムは片時もあなたと離れたくないらしい」
「およしになってアリソン様。恥ずかしいですわ」

微笑ましい…、ラブラブカップルを見てると胸がこう、ホワッとする。

「皆さん楽しそうですね。何をしておいででしたか?」
「ブラッド…、とロイド様?」

親友を訪ねてきたらしいロイドは、そのままブラッドと一緒に僕たちと合流するようだ。この間も一度来てるし…いいんだけどね。
そのブラッドが手にしているのは隊長から手渡された最新の報告書。

「兄さん親衛隊長がこれをと」チラ
「ゴホン!」
「わぁ!さすが僕の親衛隊長!仕事が早い!もう帰っちゃった?」
「…ええまあ…」チラ
「ゴホン!」
「そっか…よろしく言っておいてね」
「…ええ…」チラ
「ゴホン!」

ロイドは喉の調子が悪いんだろうか?夏風邪とか…ちょっと迷惑。

報告書をめくればいつもの見慣れた丁寧な文字。そこには女性が今はもう裏通りには居ないことが記されていた。客との諍いで腹部を刺され命を落としたらしい。一人暮らしの薄暗い部屋で、憐れむ者もいない、孤独な娼婦の悲しい末路…。

「何々…、娼婦の亡骸は平民街の教会で弔われた…。平民街の教会って、当時の中流地区のことだよね?」
「その通りです」

「じゃあアーロンはその亡骸を自分の手で弔ったのか…」

「アーロンさんがどうかは分かりませんが、少なくともその女性はアーロンさんが誰か知ってて近づいたのですわ」
「僕もそう思う。母親か姉か知らないけど…」

「母親だ。当時その女性が住んでいた裏通りの小部屋からは一時赤子の泣き声が聞こえたそうだ。すぐにその泣き声も聞こえなくなり…隣家の男はてっきり育たず死んだと思っていたそうだ。…とその紙面に書かれていた」

「ロイド様…、ねぇブラッド、ロイド様にも報告書見せたの?」
「ええまあ」チラ
「ゴホン!」

「そっか。…二人にとっても初恋の人だもんね。気になって当然だよね」
「ち、ちが!違いますシャノン様、あれはほんの気の迷いで!私は!」

うおっ!ロイドってば、そんなにムキになって訂正しなくてもいいじゃないか。気持ちは分かる。辛いからこそ忘れたい、ってこともそりゃあるよね。でも、初恋は特別。たった一度しかないほろ苦い青春の一ページなんだから…

「こら!ロイド様、いくら振られたからってそういうこと言っちゃダメ!」ペチ「楽しかった思い出だってあるでしょう?」
「そ、そうです。はい。そ、その…」
「なに?」
「反省の意味を込めて反対側にももう一度…」
「え…」

「ロイド、君…」

えーと、これは…右の頬を差し出したら左の頬も…ってやつでおけ?

「いいですけど…」ペチ
「あ、ありがlkjhgf」

うっわ!膝から崩れ落ちた…

「正気か…?」
「どうするこれ?」
「放っておけばよろしいですわ」

「カイル」
「はい」
「ロイド様お熱があるみたいだから氷嚢持って来て」
「……畏まりました」

さて、顔の真っ赤な伯爵子息は置いといて…僕は思いつくままに幾つかの疑問を並べてみた。

「そもそも下町には孤児院だってあるでしょ?どうして教会だったんだろう?」

それに、労働力とみなされる歩いて話せる幼児ならともかく、手のかかる赤ん坊を何故教会で育てたのか。その理由も分からない。

「当時の孤児院は定員の倍ほど子供が溢れていたそうだ。国からの援助、下町の管理者であるバーナード伯の援助をもってしても運営はひっ迫していたらしい。当然食べ物も服も全てが取り合いだ。子供たちは荒み、外での素行も悪くなる。孤児院と言うだけで煙たがられるようになったのも、実はこの頃からだ」

「じゃあ孤児院でなく教会に捨てたのはなけなしの情だったのかな…」シンミリ…
「そうですわね…」

「それにしても詳しいですね、ロイド様」
「…それもそこに書かれていた」
「ああ」

復活したロイドはこともなげに言う。彼はこの部屋へ来る僅かな時間に、相当報告書を読み込んだようだ。さすが頭だけは良い男。だが負けじとそれを追うのがミーガン嬢だ。

「わたくしも多少は調べましたのよ。シャノン様の仰る通りですわ。教会に捨てられた赤子は、ほとんどの場合王都外の農村などに養子に出されるのだそうですわ」
「それぐらい私だって知っている!」
「ああら、手柄を横取りしてごめんあそばせ」

この二人はいつもこう…なにかバチバチしているような…まあミーガン嬢は負けず嫌いだし?ロイドは見栄っ張りだし…必然か。

「ところでなんで王都外?」
「生みの親が近くにいれば揉め事の種になることもありますから。王都外で子の無い夫夫などのもとに引き取られるのですよ」
「リアム様…。そっか、そうなんだ…」

ここがBLゲーの世界で良かった。悲しい子供たちにもちゃんと望まれて迎えられる場所がある。幸せになるんだよ…、というか。

「けどそれなら尚更、教会の行動には疑問が残るんだけど?」

「そこには重要な秘密が隠されているかもしれない。調査は継続する、……と書かれている」
「え?え?どこに?ロイド様、その記述どこに、え?」

「兄さん!それより僕の展示論文を見てくださいませんか?」
「ブラッド!君の論文は『農場の生産性と農地整理の重要性』かい?いや、素晴らしいテーマだね」

アリソン君とブラッドが着々と友情を深めている。あんなに顔を寄せて仲良さそうに…だが…

やっぱり今更…ブラッドじゃ萌えないわー!




しおりを挟む
感想 865

あなたにおすすめの小説

[離婚宣告]平凡オメガは結婚式当日にアルファから離婚されたのに反撃できません

月歌(ツキウタ)
BL
結婚式の当日に平凡オメガはアルファから離婚を切り出された。お色直しの衣装係がアルファの運命の番だったから、離婚してくれって酷くない? ☆表紙絵 AIピカソとAIイラストメーカーで作成しました。

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

生まれ変わったら知ってるモブだった

マロン
BL
僕はとある田舎に小さな領地を持つ貧乏男爵の3男として生まれた。 貧乏だけど一応貴族で本来なら王都の学園へ進学するんだけど、とある理由で進学していない。 毎日領民のお仕事のお手伝いをして平民の困り事を聞いて回るのが僕のしごとだ。 この日も牧場のお手伝いに向かっていたんだ。 その時そばに立っていた大きな樹に雷が落ちた。ビックリして転んで頭を打った。 その瞬間に思い出したんだ。 僕の前世のことを・・・この世界は僕の奥さんが描いてたBL漫画の世界でモーブル・テスカはその中に出てきたモブだったということを。

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……? ※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

婚約破棄署名したらどうでも良くなった僕の話

黄金 
BL
婚約破棄を言い渡され、署名をしたら前世を思い出した。 恋も恋愛もどうでもいい。 そう考えたノジュエール・セディエルトは、騎士団で魔法使いとして生きていくことにする。 二万字程度の短い話です。 6話完結。+おまけフィーリオルのを1話追加します。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

嫌われ変異番の俺が幸せになるまで

深凪雪花
BL
 候爵令息フィルリート・ザエノスは、王太子から婚約破棄されたことをきっかけに前世(お花屋で働いていた椿山香介)としての記憶を思い出す。そしてそれが原因なのか、義兄ユージスの『運命の番』に変異してしまった。  即結婚することになるが、記憶を取り戻す前のフィルリートはユージスのことを散々見下していたため、ユージスからの好感度はマイナススタート。冷たくされるが、子どもが欲しいだけのフィルリートは気にせず自由気ままに過ごす。  しかし人格の代わったフィルリートをユージスは次第に溺愛するようになり……? ※★は性描写ありです。

処理中です...