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コンラッド
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「それで話って何ですか?」
王宮内で身支度を済ませたシャノンが私の指定した場所へと姿を現す。
そこは王子専用の中庭であり、今の主人は私とアレイスター、そしてまだ学生ですらないトレヴァーだ。
だがアレイスターは第三妃の宮から出てはこない。ここで過ごすのは私とトレヴァーだけだ。
シャノンに初めて会ったのは養育宮。そして本宮に移ってからシャノンを私的な部屋へ招いたことは無い。
「ここは初めてだろう?君はいつも母上の奥庭に居た」
「その話を蒸し返しますか?いいですよ。やりますか?」
「やめてくれ。そんな話をしたいわけじゃない」
怪訝そうなシャノン。だがその前に確認したいことがある。
「シャノン、アーロンの信じる神が異端の神とは本当か?」
「えっ?、ああ、その話…。本当ですよ。僕のことも誘ってきたし」
「やはりそうか…」
「僕はアーロンの神様を否定はしない。他人に迷惑をかけなきゃ何を信じようがそれは自由です。異端の神様を信心したら悪ってわけでもないし。あ、これ司教様に言っちゃダメですよ。怒られちゃう」
「シャノン、君は…」
「けどコンラッドは染まっちゃダメです!…それをやっちゃ王子様じゃない」
「…あれから毎日考えた。ロイドは言った。あ…アーロンは私の地位や立場を蔑ろにすると…」
「うーん…、このままだとそうなります。すでにコンラッドはテンプレ、…王道から逸れてますし」
王の道から外れた…。シャノン、そして周囲にこの私は既にそう見えているのだろう…
「ブラッドとも話した…」
「ブラッドと!? ブラッドは何て?」
「私とシャノンは同じだと…。そしてシャノンから見た彼もまた私から見たシャノンと同じだったと…」
「ブラッドがそんなことを…?どういう意味でしょうね?」
アーロンの居ない夏。私は彼から二人きりで話がしたいと書かれた手紙を受け取っていた。そして彼は領地から戻った日、屋敷に帰る前に王城へ立ち寄った。
そして彼は、一年前のあの夏の日から何を考えてきたのかをとつとつと語り出した。シャノンとの率直な対話、そこで見えてきた真実。双子の誕生。言いようのない不安。どうにもできない焦り。そして彼は気付いた。
シャノンが欲してやまない家族の温もり、それを意図せず奪ったのは自分自身だったと。それに気づいた時、シャノンが何故彼に冷たくあたったか理解できたとも。
「僕は自分自身の居場所を守りたい一心で、コンラッドの側も父様との時間もシャノンに譲らなかった。それに気が付いた時、彼に対するわだかまりは全て消えた。先にきっかけをくれたのは兄さんだ。兄さんは僕を許してくれた。僕はこれから時間をかけて彼の思いに応えたい」
ああ…。ブラッドに辛く当たったシャノンに自分自身の姿が重なる。
私はブラッドにシャノンと私、そして母上の真実、そして感情の齟齬を話して聞かせた。そして言われたのが先の言葉だ。
「シャノン…、君は大人だな。だが私は子供だった。それに気付いた以上、シャノンや母上の献身にもう甘えるわけにはいかない。私は父上に話してアーロンの後見を降りようと思う。そしてアーロンとも距離を置こう」
「ええっ!」
「君が『神託』であるなら尚の事そのほうが良いだろう。後見にはフレッチャー侯あたりが喜んで就くだろう。彼はアーロンを養子に迎えても良いとさえ言っていたからな」
「で、でで、でも!コンラッドはアーロンの事を!」
「正直言おう。ロイドもブラッドもアーロンへの想いを誘導されたものだと言った。だが私の気持ちは…」
「ほ、本物でしょ?コンラッドはアーロンが好きだよね?」
「誘導された感情などではない。私は真実アーロンを愛している。君の前で言い切るのも甚だ無礼だが」
「お構いなく。気にしてません」
アーロンとの出会いは私に心の安息をもたらした。彼によって私は自分の存在意義を知ることが出来た。それだけではない。私は彼に対し、何か深い部分で通じるものをいつも感じていた。これが気のせいだとは思えない。私は彼を、彼は私を必要としている。だが…
「私は次期王太子となる身だ。遅まきながらようやく甘い考えを捨てなければならないと悟った。アーロンも理解をしてくれるだろう。そもそも君が言うように、彼を妃に迎えたいというのは私の一方的な考えだ」
「で、でも、だけど、だって」
「何故君が狼狽える?これこそが君の言う『王道』なのではないのか?」
尋常じゃないほど落ち着きを失くしたシャノンは、青くなったり赤くなったりしながら庭の葉をむしっていく。
シャノンの気持ちが分からない。彼は私とアーロンを引き離したかったのではないのか?
「よし!わかりました。先にアーロンを何とかします」
「何の話だ?」
「えーと、その、やっぱりぃ、真実の愛を捨てるとかぁ、しちゃいけないと思うんですよぉ。愛し合う二人を引き裂くとか…ああ!とても僕には出来ない!!!…って言うか、そもそも僕はコンラッドに愛とか…微塵も感じませんし」
「分かってはいるが…正直だな」
「でもそうでしょ。いまさら取り繕ったってしょうがない。とにかくコンラッドに愛を捨てるとか…して欲しくないです。真実の愛なんでしょ?ここで安易にそれをしたら一生後悔しますよ!いいえ!むしろそれをさせたら僕自身が後悔します!なので早急に調整します。少しお待ちください」
「調整?何を言っているんだ?」
「調整は調整です!とにかく!デバッグモード発動までにはもうちょっとかかるんですって!そのままお待ちください!僕が万事うまくやりますから、いいですね!絶対早まらないように!絶対ですよ!」
…もしや私もシャノンに許された…のか?
王宮内で身支度を済ませたシャノンが私の指定した場所へと姿を現す。
そこは王子専用の中庭であり、今の主人は私とアレイスター、そしてまだ学生ですらないトレヴァーだ。
だがアレイスターは第三妃の宮から出てはこない。ここで過ごすのは私とトレヴァーだけだ。
シャノンに初めて会ったのは養育宮。そして本宮に移ってからシャノンを私的な部屋へ招いたことは無い。
「ここは初めてだろう?君はいつも母上の奥庭に居た」
「その話を蒸し返しますか?いいですよ。やりますか?」
「やめてくれ。そんな話をしたいわけじゃない」
怪訝そうなシャノン。だがその前に確認したいことがある。
「シャノン、アーロンの信じる神が異端の神とは本当か?」
「えっ?、ああ、その話…。本当ですよ。僕のことも誘ってきたし」
「やはりそうか…」
「僕はアーロンの神様を否定はしない。他人に迷惑をかけなきゃ何を信じようがそれは自由です。異端の神様を信心したら悪ってわけでもないし。あ、これ司教様に言っちゃダメですよ。怒られちゃう」
「シャノン、君は…」
「けどコンラッドは染まっちゃダメです!…それをやっちゃ王子様じゃない」
「…あれから毎日考えた。ロイドは言った。あ…アーロンは私の地位や立場を蔑ろにすると…」
「うーん…、このままだとそうなります。すでにコンラッドはテンプレ、…王道から逸れてますし」
王の道から外れた…。シャノン、そして周囲にこの私は既にそう見えているのだろう…
「ブラッドとも話した…」
「ブラッドと!? ブラッドは何て?」
「私とシャノンは同じだと…。そしてシャノンから見た彼もまた私から見たシャノンと同じだったと…」
「ブラッドがそんなことを…?どういう意味でしょうね?」
アーロンの居ない夏。私は彼から二人きりで話がしたいと書かれた手紙を受け取っていた。そして彼は領地から戻った日、屋敷に帰る前に王城へ立ち寄った。
そして彼は、一年前のあの夏の日から何を考えてきたのかをとつとつと語り出した。シャノンとの率直な対話、そこで見えてきた真実。双子の誕生。言いようのない不安。どうにもできない焦り。そして彼は気付いた。
シャノンが欲してやまない家族の温もり、それを意図せず奪ったのは自分自身だったと。それに気づいた時、シャノンが何故彼に冷たくあたったか理解できたとも。
「僕は自分自身の居場所を守りたい一心で、コンラッドの側も父様との時間もシャノンに譲らなかった。それに気が付いた時、彼に対するわだかまりは全て消えた。先にきっかけをくれたのは兄さんだ。兄さんは僕を許してくれた。僕はこれから時間をかけて彼の思いに応えたい」
ああ…。ブラッドに辛く当たったシャノンに自分自身の姿が重なる。
私はブラッドにシャノンと私、そして母上の真実、そして感情の齟齬を話して聞かせた。そして言われたのが先の言葉だ。
「シャノン…、君は大人だな。だが私は子供だった。それに気付いた以上、シャノンや母上の献身にもう甘えるわけにはいかない。私は父上に話してアーロンの後見を降りようと思う。そしてアーロンとも距離を置こう」
「ええっ!」
「君が『神託』であるなら尚の事そのほうが良いだろう。後見にはフレッチャー侯あたりが喜んで就くだろう。彼はアーロンを養子に迎えても良いとさえ言っていたからな」
「で、でで、でも!コンラッドはアーロンの事を!」
「正直言おう。ロイドもブラッドもアーロンへの想いを誘導されたものだと言った。だが私の気持ちは…」
「ほ、本物でしょ?コンラッドはアーロンが好きだよね?」
「誘導された感情などではない。私は真実アーロンを愛している。君の前で言い切るのも甚だ無礼だが」
「お構いなく。気にしてません」
アーロンとの出会いは私に心の安息をもたらした。彼によって私は自分の存在意義を知ることが出来た。それだけではない。私は彼に対し、何か深い部分で通じるものをいつも感じていた。これが気のせいだとは思えない。私は彼を、彼は私を必要としている。だが…
「私は次期王太子となる身だ。遅まきながらようやく甘い考えを捨てなければならないと悟った。アーロンも理解をしてくれるだろう。そもそも君が言うように、彼を妃に迎えたいというのは私の一方的な考えだ」
「で、でも、だけど、だって」
「何故君が狼狽える?これこそが君の言う『王道』なのではないのか?」
尋常じゃないほど落ち着きを失くしたシャノンは、青くなったり赤くなったりしながら庭の葉をむしっていく。
シャノンの気持ちが分からない。彼は私とアーロンを引き離したかったのではないのか?
「よし!わかりました。先にアーロンを何とかします」
「何の話だ?」
「えーと、その、やっぱりぃ、真実の愛を捨てるとかぁ、しちゃいけないと思うんですよぉ。愛し合う二人を引き裂くとか…ああ!とても僕には出来ない!!!…って言うか、そもそも僕はコンラッドに愛とか…微塵も感じませんし」
「分かってはいるが…正直だな」
「でもそうでしょ。いまさら取り繕ったってしょうがない。とにかくコンラッドに愛を捨てるとか…して欲しくないです。真実の愛なんでしょ?ここで安易にそれをしたら一生後悔しますよ!いいえ!むしろそれをさせたら僕自身が後悔します!なので早急に調整します。少しお待ちください」
「調整?何を言っているんだ?」
「調整は調整です!とにかく!デバッグモード発動までにはもうちょっとかかるんですって!そのままお待ちください!僕が万事うまくやりますから、いいですね!絶対早まらないように!絶対ですよ!」
…もしや私もシャノンに許された…のか?
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