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73 断罪と名探偵
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過去三度の下町訪問でも来たことのなかった孤児院。アシュリーに案内されたその場所は少し想像と違っていた。
どうしてもというブラッドも連れてきたのだが、やっぱりもと想い人だけあって気になるのだろう…。気持ちは分かる。けど、ブラッドと下町に来る日がくるなんて…びっくりだよ!
「ここが整えられたのもシャノン様のおかげなのですよ」
「僕?僕は孤児院には何も…」
キョトンとする僕にアシュリーが言う。
なんでも治療院の勤労奉仕隊にはもと孤児院出も多く、彼らの手によって修繕、清掃はここまで及んだのだとか。
そしてそれまで「手癖が悪い」と孤児の子を敬遠していた下町の住人達も、ちょっとした仕事を与えてくれたり交流をもったりするようになり、子供たちの荒んだ目に生気が戻ったのだとか。
「そしてアレイスター殿下がタンポポ石鹸を専売出来るようにしてくださいましたのでね。以前に比べ安定した運営が出来るようになりました。下町の皆はタンポポの形をしたこの石鹸を欲しがりますから」
「そうなんですか?」
「タンポポは象徴なのです」
そのままアシュリーは孤児院の院長と行ってしまった。残ったのは僕とブラッド。さて、どこから手を付けるか…
けど、見たところここに居るのは前世で言うと幼児から小学生くらいの子供ばかりだ。
けど隊長の調査書によると、教会による下町への施しはアーロンが王様の目に留まった時点で休止になっている。例のフレッチャー侯爵によるお達しを受けて。つまりこの二年はおこなわれていない。
カマ教にあれほどのめり込むのだからある程度の習熟期間はあったとして、それを考慮し目撃談を数年以上前と考えると、アーロンと女性の会話を見聞きして覚えているのに、彼らでは幼過ぎないだろうか?
ん?先ほどから背中をツンツンするのは誰だろう?
「君、兄さんに気安く触ってはだめだ」
「いいよブラッド。僕は気にしない。それより話を…」
実はここを訪れるにあたって、僕はカイルと護衛に言い聞かせていた。「孤児院の子供たちとの交流に一切口を挟むな」と。
これは何も道徳的な心から出た言葉ではない。というか、僕はそれほど崇高な精神は持ち合わせていない。なにしろ僕は、推しへの愛と物欲の権化、腐男子だし?
ただしらみつぶしに聞き取りをする以上、いちいちカイルや護衛が出張ると合理的じゃないというだけだ。
「あ、なんだ。突いてたのはスリっ子だったのか」
「スリっ子って言うなよ!なあ、何しに来たんだ」
ウロウロと僕の周りから離れようとしないガキンチョは名をジョンと言った。日本で言ったら「太郎」くらいの感じだろうか。
「ジョンはここに来ていた教会の炊き出しを覚えてる?」
「覚えてるけど…なんだよ?」
「神子候補のアーロンが居たのも覚えてる?」
「知らね」
だよね…。思った通りだ。
「ジョン、もう少し大きい子は居ないの?」
「ここは15までしか居られねぇ」
「下町内には居るんだね?ね、ちょっと集めて来てくれない?僕が呼んでるって」
「分かった!」
子供たちと遊びながら待つこと一時間。集まった孤児院の卒園生たちから聞き込みをしたところ、その何人かがアーロンのことを覚えていた。
「前来た人にも話したけど…神子候補のあの子は教会でも下っ端の侍祭だからいつも裏で洗いものしてた」
「ふんふん」
「そこでよく女の人と話してたよ」
「俺も見た。あれは歓楽街で客をとってた娼婦だよ」
「娼婦!?」
「歓楽街…」
歓楽街とは商業地区の裏通りにある、ちょっとアダルトなお店が並んだところである。
セクシーなおねぇちゃんの居る飲み屋さんとか、娼婦、男娼を連れ込める宿屋とか。裏通り、そこは男たちの愛と欲望渦巻く街…
アーロンとその女性の姿は何人かの卒園生が目にしていた。そしてそれは大抵の場合、洗い物をするアーロンの背後で、取り留めなく一方的に女性が話しかけていただけだったとか。
取り留めなく…もしや…それこそがカマ教への勧誘だったんじゃないだろうか…?
「あの…」
「何?」
「あ、でも神子候補さんにこんな事言っちゃ不敬かも…」
「神子候補ってことは、いまは只の人ってことだよ。いいから言って」
「二人は少し似てました。横顔なんかが特に…」
「似てた…?」
「似ていた…」
何か考え込むブラッド。同感だ。アーロンは捨て子。よく似た娼婦。そこから導かれる答えなど一つ!
その時ふいに良いことを思いついた。
「ねぇブラッド、隊長に助手を付けようか?」
「助手…ですか?」
僕はなんだかんだで毎回お役立ちのガキンチョ、ジョンに、裏町での聞き込みを頼むことにした。隊長にいくら女性の素性調査を頼んだと言っても、貴族の息子であり、尚且つ未成年の隊長が、いくら何でも歓楽街に聞き込みはなかなか難しいだろう。
「ジョン、これは正式なお仕事だからね。報酬もちゃんと支払う。だからしっかりお願いね」
「お、おうっ!俺に任せとけ!」
ジョンが聞き込みをして隊長に報告する。隊長は情報を精査し、足りなければまたジョンに指示を出す…
となると、隊長の助手が現状のツギハギ服では接触するにも違和感が拭えない…。もう少し一般商業地区に似合った服を着せる必要がある。
う~ん、コ〇ン君みたいな服でもあつらえるか…。けど、そうすると他の子達との格差が…
「カイル!」
「はい」
「孤児院の子供たち全員にきれいな服を支給して。もちろん洗い替えも」
「畏まりました」
これでよし。
どうしてもというブラッドも連れてきたのだが、やっぱりもと想い人だけあって気になるのだろう…。気持ちは分かる。けど、ブラッドと下町に来る日がくるなんて…びっくりだよ!
「ここが整えられたのもシャノン様のおかげなのですよ」
「僕?僕は孤児院には何も…」
キョトンとする僕にアシュリーが言う。
なんでも治療院の勤労奉仕隊にはもと孤児院出も多く、彼らの手によって修繕、清掃はここまで及んだのだとか。
そしてそれまで「手癖が悪い」と孤児の子を敬遠していた下町の住人達も、ちょっとした仕事を与えてくれたり交流をもったりするようになり、子供たちの荒んだ目に生気が戻ったのだとか。
「そしてアレイスター殿下がタンポポ石鹸を専売出来るようにしてくださいましたのでね。以前に比べ安定した運営が出来るようになりました。下町の皆はタンポポの形をしたこの石鹸を欲しがりますから」
「そうなんですか?」
「タンポポは象徴なのです」
そのままアシュリーは孤児院の院長と行ってしまった。残ったのは僕とブラッド。さて、どこから手を付けるか…
けど、見たところここに居るのは前世で言うと幼児から小学生くらいの子供ばかりだ。
けど隊長の調査書によると、教会による下町への施しはアーロンが王様の目に留まった時点で休止になっている。例のフレッチャー侯爵によるお達しを受けて。つまりこの二年はおこなわれていない。
カマ教にあれほどのめり込むのだからある程度の習熟期間はあったとして、それを考慮し目撃談を数年以上前と考えると、アーロンと女性の会話を見聞きして覚えているのに、彼らでは幼過ぎないだろうか?
ん?先ほどから背中をツンツンするのは誰だろう?
「君、兄さんに気安く触ってはだめだ」
「いいよブラッド。僕は気にしない。それより話を…」
実はここを訪れるにあたって、僕はカイルと護衛に言い聞かせていた。「孤児院の子供たちとの交流に一切口を挟むな」と。
これは何も道徳的な心から出た言葉ではない。というか、僕はそれほど崇高な精神は持ち合わせていない。なにしろ僕は、推しへの愛と物欲の権化、腐男子だし?
ただしらみつぶしに聞き取りをする以上、いちいちカイルや護衛が出張ると合理的じゃないというだけだ。
「あ、なんだ。突いてたのはスリっ子だったのか」
「スリっ子って言うなよ!なあ、何しに来たんだ」
ウロウロと僕の周りから離れようとしないガキンチョは名をジョンと言った。日本で言ったら「太郎」くらいの感じだろうか。
「ジョンはここに来ていた教会の炊き出しを覚えてる?」
「覚えてるけど…なんだよ?」
「神子候補のアーロンが居たのも覚えてる?」
「知らね」
だよね…。思った通りだ。
「ジョン、もう少し大きい子は居ないの?」
「ここは15までしか居られねぇ」
「下町内には居るんだね?ね、ちょっと集めて来てくれない?僕が呼んでるって」
「分かった!」
子供たちと遊びながら待つこと一時間。集まった孤児院の卒園生たちから聞き込みをしたところ、その何人かがアーロンのことを覚えていた。
「前来た人にも話したけど…神子候補のあの子は教会でも下っ端の侍祭だからいつも裏で洗いものしてた」
「ふんふん」
「そこでよく女の人と話してたよ」
「俺も見た。あれは歓楽街で客をとってた娼婦だよ」
「娼婦!?」
「歓楽街…」
歓楽街とは商業地区の裏通りにある、ちょっとアダルトなお店が並んだところである。
セクシーなおねぇちゃんの居る飲み屋さんとか、娼婦、男娼を連れ込める宿屋とか。裏通り、そこは男たちの愛と欲望渦巻く街…
アーロンとその女性の姿は何人かの卒園生が目にしていた。そしてそれは大抵の場合、洗い物をするアーロンの背後で、取り留めなく一方的に女性が話しかけていただけだったとか。
取り留めなく…もしや…それこそがカマ教への勧誘だったんじゃないだろうか…?
「あの…」
「何?」
「あ、でも神子候補さんにこんな事言っちゃ不敬かも…」
「神子候補ってことは、いまは只の人ってことだよ。いいから言って」
「二人は少し似てました。横顔なんかが特に…」
「似てた…?」
「似ていた…」
何か考え込むブラッド。同感だ。アーロンは捨て子。よく似た娼婦。そこから導かれる答えなど一つ!
その時ふいに良いことを思いついた。
「ねぇブラッド、隊長に助手を付けようか?」
「助手…ですか?」
僕はなんだかんだで毎回お役立ちのガキンチョ、ジョンに、裏町での聞き込みを頼むことにした。隊長にいくら女性の素性調査を頼んだと言っても、貴族の息子であり、尚且つ未成年の隊長が、いくら何でも歓楽街に聞き込みはなかなか難しいだろう。
「ジョン、これは正式なお仕事だからね。報酬もちゃんと支払う。だからしっかりお願いね」
「お、おうっ!俺に任せとけ!」
ジョンが聞き込みをして隊長に報告する。隊長は情報を精査し、足りなければまたジョンに指示を出す…
となると、隊長の助手が現状のツギハギ服では接触するにも違和感が拭えない…。もう少し一般商業地区に似合った服を着せる必要がある。
う~ん、コ〇ン君みたいな服でもあつらえるか…。けど、そうすると他の子達との格差が…
「カイル!」
「はい」
「孤児院の子供たち全員にきれいな服を支給して。もちろん洗い替えも」
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