断罪希望の令息は何故か断罪から遠ざかる

kozzy

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71 断罪の前の静けさ

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ジェロームの再来訪に合わせて、今日はアシュリー、それから上司になるバーナード伯も一家でお越しである。そのうえ何故かアリソン君も一家で招待されていた。これは多分頭数合わせだろう。つまりプチ晩餐会だ。

なんでもバーナード伯は、アレイスターの後ろ盾についている立場上、コンラッドの婚約者である僕やプリチャード侯爵家にはあまり近しくならないようにしていたのだとか。

「でもお父様はコンラッド様を好きな訳じゃありませんよ?」
「それでもです、シャノン様」

貴族社会の勉強をしている時から思っていたことだが、大人のそーゆーのって、ややこしすぎてよくわからない。僕に分かるのは敵か味方か、だけである。

「シャノン様が『神託』となられたことで、多少の無理がきくようになりましたのでね」
「陛下や王妃殿下の顔色を以前ほど伺う必要が無くなった、そう仰りたいのですな?」

「プリチャード侯ははっきり言われる」
「ですがその通りでしょう。実は私もです」
「クーパー伯。お互い辛酸を舐めてきましたが…」
「ええまったく…」

ダンディはダンディと会話が弾んでいる。そしてご婦人同士。ヘクターさんはアリソン君と。ならジェロームは独り占め…と思いきや。
何故かブラッドと話が弾んでいる…おのれ…

「ブラッドは年上の兄弟が欲しかったのだろうね。嬉しそうだ」
「…あのヘクター様。ブラッドにはすでに「兄さん」がいますけど…?」

「ふっ」

へ、ヘクター…?ケンカ売ってんのか?ああん?

とにかく、アダルトチームは食後も一杯飲みながら夜通し語りあうそうだ。これだから貴族の社交ってやつは…僕のジェロームを返せっ!
仕方がないからブラッドから領地の土産話でも聞こうと思えば、こっちはこっちでヘクターさんに捕まってるし…

「僕は先に失礼します。皆さんもあまり夜更かししませんように。明日も学院ですよ?では」

夜更かしは三文の損って言うしね。おやすみなさい…。

そんなこんなで一夜が明けたというのに、大人たちは揃いも揃って起きてこない。朝日に輝く黒髪を拝んでから登校しようと思ったのに…、何時まで飲んでたんだよ!もー!

泣く泣く学院へ向かえば、そこは昨日よりも酷い修羅場だし。踏んだり蹴ったり。
修羅場のワケ?アーロンの信者が押し寄せてきたからだ。

「シャノン様!どうかアーロン様とご会談を!」

やかましい!
だけど不幸中の幸いというかなんというか…、僕を囲む人だかりがバリケードになって彼らは僕に近づけない。

「馬鹿を言うな!数々の所業を忘れたか!シャノン様は我々のものだ!」

というかお前たちのものでもない。それよりモミクチャでまともに歩けない。

「ちょ、押さないで。やめ」

「皆さま、道をお空けください!」
「これでは進めません!」
「およしになって!キャ!」

「ミーガン様!」

僕は女性に優しい腐男子だ!シャノンカモーン!

「ええい!総員解散!!!」

これがホントの蜘蛛の子。散った散った!

それにしても…誰だ!ドサクサに紛れて髪の毛抜いたのは!

だがそんなことで貴重な一日を終わらせるわけにはいかない。僕は午後の講義を下校後の計画を立てるのに費やしていた。おかげで先生の指名をガン無視してしまったのはご愛敬だ。

カフェに行くのはいいとして、その前後にどこかへ寄り道したい。かと言って、転生してからも基本が出不精の僕はそれほど貴族街に詳しくない。ぶっちゃけ下校時に立ち寄った場所なんてカフェくらいしかないのだ。買い物?ほら、シャノンは呼べば向こうから来るから。外商ってやつ?

仕方ない。奥の手を使うか…

「あーん、お客様を案内する観光スポットがわからないよー」

さぁどうだ。

スィ~
おお!紙飛行機! ど、どこから⁉ まあいいや…

「何々…?王立植物園「アールガーデン」国内最大規模の温室は必見の価値あり。または王立記念博物館。展示物である古代の武器や防具からは歴史の息吹が感じられる」

うん。植物園一択で。

そんなわけで、紳士なジェロームにエスコートされご満悦でカフェでおやつをとった後、こうしてデート気分で植物園に立ち寄ったわけだが…

「……アレイスター……様、何故ここに……」

きたよ、サプライズ王子…

「ヘクターが気をまわしたのだよ。第一王子の婚約者である君が、いくら恩人とは言え独身の男性と二人きりで温室は良くないだろうとね」

見た目は男同士だが僕のタイは受けキャラの証明リボンタイ。扱いとしては淑女と同じである。

「なら他の人でも良かったんじゃ…リアム様でもブラッドでも…」

「学院内で君に物申せるのは私かコンラッドくらいしかいないだろう?」
「え?コンラッド様?何言われても聞きませんけど?」

「では私だけか。さあシャノン、案内を頼む。ふふ、これは良い」
「よ、良くないですよ!」

「知っているかい男爵。シャノンは黒髪が好きなのだよ」

なに!まるで僕が黒髪にしか興味ないみたいに…余計な誤解を招いたらどうする!ああっ!ジェロームが王族のブラックジョークに困ってるじゃないか!黒髪だけに!

「もー!どっか行ってください!」
「おやおや。こう見えても王子なのだが?」
「いいから!」ポカポカ!
「乱暴なことだ。骨が折れたらどうする」

「ぷっ」

ムキィィィ!ヘ、ヘクター!何が可笑しい!やるか?やるんだな?覚えておけ!

「いいではありませんかシャノン様。私も領民への土産話になります。第二王子殿下と自領の当主が連れ立って散策などと…皆が喜びましょう」

ん?つまりハクが付くというやつか。「おらが村のご当主様は~」って自慢にするんだな?ならしょうがない。これもジェロームのため。良妻への一歩。

「いいですけど…、よく寄り道できましたね?お城に帰らなくていいんですか?」

「コンラッドと違い私にたいして務めはない。寄り道程度…誰も気に留めまいよ」
「ふーん、あ、そういえば僕コンラッド様に言っちゃいました」
「何をだい?」

「んー、アレイスター様の立場を考えろって」
「シャノン、優しいことだ。だがいいのだよ。…彼とはいずれ対峙することになるだろうが」

「殿下、それ以上ここでは…」
「そうだな」

なになに?なんでジェロームが訳知り顔なの?けど対峙って…兄弟ケンカはロクな結果を生み出さない。僕は身に染みている。

「…話をつけるなら王、陛下ですよ。コンラッド様は相手じゃない」
「シャノン…分かっている。ああ、分かっているとも…」

兄弟間の格差をうんだのは平民妃を無理やり後宮に押し込んだ王様なんだから。文句を言うなら王様でしょ。コンラッドは王妃様の顔色見てるだけなんだから。

「そ、そんなことよりシャノン様、あれは高原によく咲くエーデルワイスです。高貴な白と呼ばれるシャノン様のような花ですよ」
「高貴な白だなんて…そんなぁ…」テレテレ…

「シャノン、白い花ならこちらはどうだい?クレマチス、「旅人の喜び」であり「精神の美」と呼ばれる花。君たち二人ともを指す花だ。だが花の持つ意味は…もう一つ」

「…?…」

「「企て」…ですね?」
「そうだ」
「…およしください…」

初対面のはずの二人が、妙に馴染んでいるのが気になるっちゃ気になるが…

とにかく。こうして翌日ジェロームを見送り、不完全燃焼のまま16の夏は無情にも終わりを告げた。







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