断罪希望の令息は何故か断罪から遠ざかる

kozzy

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アレイスターとジェローム

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「いつも急ですまないモリセット卿。だが私の行動を気にかけるものは良くも悪くも多いのでね。諦めてくれるか」
「承知しております殿下。ですが今日はまた一段と急なお越しでございますね」

「昨日は方々から報告があってね」

「バーナード伯でございますか?」
「クーパー伯もだ」

この国を次代へと導く次期王太子を見据え、宮廷内には大きく三通りの派閥があった。

ひとつは順当にコンラッドを王太子へと押し上げる一派だ。これはアーロンを神子であると信じ崇める一派とほぼ同じ家門が顔を並べる。
コンラッドは王太子に相応しく、剣に学業に才能豊かな男だ。だが、ひどく一面的で我を張る彼を不安視する者も少なくない。その姿はシャノン、そしてアーロンへの振舞いにこそ見て取れた。

補佐官吏たちは一貫して成り行きを見守るという姿勢を崩さないようだ。
王の意向に背かず、だが過剰に後押しもせず、彼らは必要があれば実利で動く王妃殿下に進言するのだ。だがそれもことコンラッドに関してはなかなかに難しいところだ。

そのどちらでもないのがヘクターの父であるバーナード伯と彼を慕う友人、そしてその門下である下位貴族たち。
主に東や北の、あまり実入りの良くない領地をあてがわれている当主たちだ。
彼らは王の度重なる出兵による徴兵、徴収を暴挙だと感じている。だが王を尊敬し、また王に気質の似たコンラッドは同じ道を踏襲するだろう。
だからこそ北の地に所縁を持つ私に一筋の期待を抱くのだ。

その先鋒にまさかシャノンが立つ日が来るとは夢にも思わなかったが…

いずれシャノンは国を支える王太子妃となる。そして父であるプリチャード侯は王の補佐官吏。普通ならば王妃殿下のように、コンラッドの意を汲みその望みを具現化するために在るのがシャノンと言える。
そのシャノンが私に付く意味は重い…。

「シャノン様は第一王子殿下を見限られたのだ」バーナード伯はシャノンを慮り強い口調でそう言い放った。
「国の行く末を鑑み未来の王太子妃という立場すら捨てたのだ」クーパー伯はシャノンを憐れみ言葉を絞り出した。

バーナード伯は北の貴族をまとめ始めている。王が直訴を聞き入れぬ時は革命やむなし、と。

その最中に飛び込んできたのが、今回のシャノンが北東の男爵と接触したという情報だ。

一年も前から文のやり取りをしていたという年若い男爵。北の地に隣接する、山と川以外、何も無い小さなエンブリー領。
シャノンからの手紙は何の面識もない彼にいきなり届いたという。ならばそこには思惑があるはず。。恐らく鍵はそこにある。

「やあエンブリー男爵。いきなりの訪問で驚かれただろうが、どうか気を楽にしてほしい」
「私のような田舎者が殿下とご一緒するなど…身に余る光栄です」

「私はほんの一年前まで息を殺すように生きてきた男だ。なにが光栄なものか。さあそこにかけてくれ」

シャノンと懇意にしているという素朴な男爵。彼は華美ではないがとても礼節に長け、思慮深い男のようだ。一目で好ましい人物、とそう私は判断した。

まずはシャノンと関わった経緯から確認していくが、昨晩クーパー伯から聞いた内容と差異はない。
彼は領の再建を諦め、借財の返済代わりに爵位を譲り渡すつもりでいたという。

この国では男爵位に限り、議会の承認を得られれば爵位の売買、譲渡が許されている。税収を増やすために乱発した男爵位になど大した価値はない、それが宮廷での認識だからだ。

だからこそ彼の曾祖父が与えられたという領地も、痩せた北東の最果てなのだ。
すなわち北や東で財を増やせるということは、領民に対し厳しい税を課していることを意味する。つまり、借財まみれの彼、そして彼の祖先は極めて愚直だと言えるだろう。

「手紙の内容は私的なものですので伏せさせていただきますが、要約するとシャノン様は一貫して山を守れと仰っておいででした」

「山を…。その山には何か秘密が?」
「私も気になり探索しましたが、川の上流で琥珀を掘り出しました。今回王都に来たのもそれをギルドに登録するためです」
「他には?」

「いえ。その、シャノン様は時が来るまで待てと仰せでしたので」
「時…?」
「ええ。エンブリーの山には夢が詰まっていると」

琥珀はたしかに貴重な宝石だ。彼の借財を返し、領を建て直すには十分だろう。だが…それだけでシャノンが手紙を出したとは思えない。
彼は時を待てと言った。そのため彼に一時を凌げるだけの援助をしたのだ。なのに琥珀を見つけ独占採掘の届けを出そうとする彼を制止しないのは矛盾が生じる。

「その件は一旦保留だ。ではこちらに来てから彼と何を話したか聞かせてもらえないだろうか」
「大したことは。一昨日は彼のご友人も一緒でしたし、たわいもない話を」

「ならば今日の散策中はどうだ。二人きりの時間に何を話した?」

正直…、彼がシャノンを水難から救った事、それによってシャノンが彼を慕っているらしい事、そのどちらにも思うところはある。おかしなものだ。コンラッドにすらこの様な感情を抱いたことは無いというのに。

「あの…、これは「ここだけの話」と言われたのですが、内容が内容だけに一部だけでもお耳に入れたほうが良いかと…」
「聞かせてくれ」

「シャノン様は、現在神子は不在だと言われました。神子のような存在はまだ起こせないと」

時期ではないということか…。だから頑なにその名を公表しないのか。

「プリチャード侯爵閣下に迷惑をかけるので簡単に選定は出来ないとも」

…やはりシェイナか…。彼の言葉は私の考えを後押しする。

「そしてここから先は、私に話した、というよりはまるで考えを整理されるかのように一人で呟いておられたのですが…」

「興味深い。それで彼は何と?」

「分からない言葉も多く…とても断片的なのですが構いませんか?」
「ああ」

彼の言う「バグ」大きな問題とは、つまるところ伝承に示される国難の事ではないだろうか。
「狂い」「無謀」「拡張」そして「王」
これらは全て、王の無謀な進軍を指しているのだろう。その政策を狂っていると、そう言うのだな…。ならばこれ以上の国土拡大こそが国難へとつながるのか…

「よく聞き取れなかったのですが、何度もアレと。その、…おそらくですが「アレイスター」ではないでしょうか」
「私の名を口にしたのか…」

「ええ。そして「北」とはっきり。そして「圧迫」は「無理」と」

北への圧迫をこれ以上許すなということか…!

「大丈夫でございますか、殿下…」

のしかかる重圧。頭の痛いことだ…。だが。

「それだけか?」

「…最後にこう締めくくられました。取り除くか代えろ、王の道を正せと」

穏便に…などと言う道はないのかもしれない。
あの言葉を思い出す。そう。彼はグレーは良くないと言ったのだ。いつまでも灰色のまま有耶無耶にしてはいけないと。







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