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63 断罪のありがたみ
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「ね、ルーシー、どこもおかしくない?」
「いつも通りとてもお綺麗でございますよ」
「カイル、やっぱりあっちのピンクグレーのブラウスの方が…」
「淡いラベンダーのシフォンがよくお似合いです。さあ、お客様をこれ以上待たせてはいけません。行きますよ、シャノン様」
ドッドッドッドッドッ
心臓が爆発しそうだ。
まさかあのナイスガイがジェロームだなんて…。ああ神は僕を見捨てて無かった!
って言うか…、あんな素敵な人と結婚出来て、田舎の貴族落ちのシャノンは何が不満だったんだろう。贅沢な。これは一言言ってやらねば気が済まない。
ニコールさんがみんなを通してくれたのは大中小、いくつかあるサロンの中でも僕のお気に入り、バロック調の家具が配置された、アイボリーの壁に重厚な緑のカーテンが映える落ち着いたサロンだ。ナイス案内!
しかし…、そういうことならここがプリチャード邸と分かった時点で、あの濡れ子息がシャノン・プリチャードだということも分かってしまっただろう。
どう思われたんだろう…
う、うんよし。今行くよ、運命の人!
「お、お待たせしました」モジモジ…
僕の登場にあわてて立ち上がるジェローム。
「あ、あの、その、強引に連れてきてしまってごめんなさい。でも…」モジモジ…
「いえ、それはいいのですが、私こそ着替えまでお借りしてしまって良かったのでしょうか」
はうぅっ!
「だ、だだだ、誰がこのセルリアンブルーのジャケットを⁉」
「わ、私でございますシャノン様、いけませんでしたか…」
思わずデカくなってしまった声にビクビクと返事をしたのはニコールさん付きの侍女。
「いいえ!非常に良い選択眼です!彼の黒髪に光沢のある青が素晴らしく似合っています。このジャケットは彼のためにあつらえたと言っても過言ではないほどです。是非そのままお持ち帰りください」
「何を仰います。こんな上等なものをいただくなど」
「いいんです。セルリアンブルーだなんてお父様には似合いませんから」
おっと、ニコールさんがクスっとした。その反応は肯定なのか否定なのか…
でもダンディーなお父様にはもっと渋い色目が似合うと思う。このまま仕舞い込んでても宝の持ち腐れだって。はい決定!これはジェロームのもの。むしろ仕立て屋を今すぐ呼んで、上から下まで誂えてやろうか。
「それよりシャノン様、こちらの男爵とは既知でございましたの?」
「なんでも手紙のやり取りをしていらっしゃったとか…」
あー!バレてる…、よってたかって質問攻め。当然そうなるよね。どう説明すれば…いや、僕の知る限りジェロームは気遣いの出来る男だ。上手く話を合わせてくれるに違いない。
「え、ええと、その、幼い頃にちょっと」
なんだよその幼い頃にちょっとって。シャノンはここか王宮にしか居なかった、っつーの。
でも僕の言葉を受け、ジェロームはふわっと微笑む。
「出会いと呼ぶほどでもないほんの一瞬の出来事だったのですが、…たったそれだけのことでシャノン様は私の窮地に手を差し伸べてくださったのです」
完璧なフォロー…。そういうところがもう大人って感じ…
「まあ!さすがはシャノン様…」
「では実際お会いになったのは初めてなのでしょうか?」
ナイスだリアム君。これで自己紹介の流れが出来た。
「そ、そうなんです。エンブリー男爵。僕が誰だかもうバレちゃいましたね。ぼ、僕がシャノン・プリチャードです」モジモジ…
「いずれの尊きお方かと思っておりましたが…まさかあなたがシャノン様だったとは。あなたをお助けできる幸運に恵まれるなど、私はどれほどの徳を積んだのでしょう」
「そっ、そんな…!あの…、イメージ違ってガッカリしてないといいんですけど…」
「とんでもない。噂通りの、いえ、それ以上の美しさです。ですが…、私はあなたがあなたでさえあれば、どんなお姿でも眩しさにこの身を震わすでしょう」
クラリ…
「ま!しっかりなさってシャノン様!」
はーはーはー…震えてるのはこっちだって…
同じようなこと手紙にも書いてあったけど…目の前で言われると一撃必殺…
立っていられない僕を椅子にかけさせてくれたのは他でもないジェロームだ。ああ!人前でジェロームと呼べないこの身が腹立たしい!みなさーん!この人は僕の旦那様なんですよー!スンッ…断罪後の。そう!断罪後の!
ほとんどまともには話せない僕に代わって、ミーガン嬢が尋問(マジで)したところによると、彼は琥珀を売ったお金と、僕が送ったコナーのおかげでこうして王都に来る少しの余裕が出来たのだとか。
つまり宝石商は琥珀にそこそこいい値段をつけてくれたというわけか。マニアの熱量に少しビビるが…うん。今度来たらちょっとお高めの壷でも買ってやろう。そしてコナーにはたった今特別ボーナスが決定した!あー!!!…よくやった自分!自分で自分を褒めてやりたい。
「コナーに手配してもらい船便の船員室に乗船して来たのですよ。おかげであの場に立ち会えました。そう思えば匂いなど気にもなら」
「アリソン様!クーパー伯爵に言って、大至急船の環境改善を!」
「は、はい!」
僕ならいいけど彼を臭くて狭い船員室に押し込めるのはヨクナイ!
が、重量制限があるというので高級ベッドを運び入れる案は即座に却下された。
「お礼の品だけお届けして、あとはどこかからお姿だけでも拝見できればと思っていたのですが…、まさかお屋敷に招待されるなどとは…たとえ想像だけでも不相応だというのに、一生分の幸運を使い切った気がします」
あっ…ぶなかった…。もう少しで会えないところだった。…どうやらとっさに拉致ったのは大正解だったようだ…。
「エンブリー男爵は弁えのあるお方ですのね。ですがシャノン様は身分など気にはなさりませんことよ」
「ええ。黙って帰るなど…そんな水臭いことをしたら怒ってしまわれますよ」
そーだそーだ!プンスコだ!
「ではその言葉に勇気を貰い…、あなたにこれを手渡す栄誉をお与えくださいますか」
「お、お礼だなんて要らないのに…でも嬉しいです」
ジェロームの素朴な誠実さにすっかりこの場の全員が和んでいる。そして、そんな彼からの贈り物にみんな興味津々だ。
「どんな宝石、宝飾品を贈ったとして、あなたの輝きにはきっと敵わないでしょう。なので無理をするのは止めました。どうかこれをお受け取り下さい」
「え…、な、何でしょうこれ」
手渡されたのは何本かの、模様の入った…ろうそく?
「蜜蝋で作ったキャンドルです。甘い柔らかい香りがします。心が疲れた時にはどうか火を灯してください。オレンジの輝きはきっと心を落ち着かせてくれるでしょう」
…はっ!疲れた心…、もしや…
「あ、あの、て、手紙」
うっ!誰にも見えないようにシーって、口に指当ててシーって、ハフン…
「正直に言いましょう。私には残念ながら、まだまだプリチャード侯爵子息に似合う贈り物は用意できない」
「そ、そんなの」
「ですが私の知るシャノン・プリチャード様ならきっと喜んでいただけると信じて…これを作りました」
「て、手作り!?」
「ええ。見てお分かりのように。いかにも不格好で、田舎者の私と同じです。ですがあなたの心をお慰め出来たらと」
田舎万歳。人は自然に帰るべきだ。待っててエンブリー…
「いつも通りとてもお綺麗でございますよ」
「カイル、やっぱりあっちのピンクグレーのブラウスの方が…」
「淡いラベンダーのシフォンがよくお似合いです。さあ、お客様をこれ以上待たせてはいけません。行きますよ、シャノン様」
ドッドッドッドッドッ
心臓が爆発しそうだ。
まさかあのナイスガイがジェロームだなんて…。ああ神は僕を見捨てて無かった!
って言うか…、あんな素敵な人と結婚出来て、田舎の貴族落ちのシャノンは何が不満だったんだろう。贅沢な。これは一言言ってやらねば気が済まない。
ニコールさんがみんなを通してくれたのは大中小、いくつかあるサロンの中でも僕のお気に入り、バロック調の家具が配置された、アイボリーの壁に重厚な緑のカーテンが映える落ち着いたサロンだ。ナイス案内!
しかし…、そういうことならここがプリチャード邸と分かった時点で、あの濡れ子息がシャノン・プリチャードだということも分かってしまっただろう。
どう思われたんだろう…
う、うんよし。今行くよ、運命の人!
「お、お待たせしました」モジモジ…
僕の登場にあわてて立ち上がるジェローム。
「あ、あの、その、強引に連れてきてしまってごめんなさい。でも…」モジモジ…
「いえ、それはいいのですが、私こそ着替えまでお借りしてしまって良かったのでしょうか」
はうぅっ!
「だ、だだだ、誰がこのセルリアンブルーのジャケットを⁉」
「わ、私でございますシャノン様、いけませんでしたか…」
思わずデカくなってしまった声にビクビクと返事をしたのはニコールさん付きの侍女。
「いいえ!非常に良い選択眼です!彼の黒髪に光沢のある青が素晴らしく似合っています。このジャケットは彼のためにあつらえたと言っても過言ではないほどです。是非そのままお持ち帰りください」
「何を仰います。こんな上等なものをいただくなど」
「いいんです。セルリアンブルーだなんてお父様には似合いませんから」
おっと、ニコールさんがクスっとした。その反応は肯定なのか否定なのか…
でもダンディーなお父様にはもっと渋い色目が似合うと思う。このまま仕舞い込んでても宝の持ち腐れだって。はい決定!これはジェロームのもの。むしろ仕立て屋を今すぐ呼んで、上から下まで誂えてやろうか。
「それよりシャノン様、こちらの男爵とは既知でございましたの?」
「なんでも手紙のやり取りをしていらっしゃったとか…」
あー!バレてる…、よってたかって質問攻め。当然そうなるよね。どう説明すれば…いや、僕の知る限りジェロームは気遣いの出来る男だ。上手く話を合わせてくれるに違いない。
「え、ええと、その、幼い頃にちょっと」
なんだよその幼い頃にちょっとって。シャノンはここか王宮にしか居なかった、っつーの。
でも僕の言葉を受け、ジェロームはふわっと微笑む。
「出会いと呼ぶほどでもないほんの一瞬の出来事だったのですが、…たったそれだけのことでシャノン様は私の窮地に手を差し伸べてくださったのです」
完璧なフォロー…。そういうところがもう大人って感じ…
「まあ!さすがはシャノン様…」
「では実際お会いになったのは初めてなのでしょうか?」
ナイスだリアム君。これで自己紹介の流れが出来た。
「そ、そうなんです。エンブリー男爵。僕が誰だかもうバレちゃいましたね。ぼ、僕がシャノン・プリチャードです」モジモジ…
「いずれの尊きお方かと思っておりましたが…まさかあなたがシャノン様だったとは。あなたをお助けできる幸運に恵まれるなど、私はどれほどの徳を積んだのでしょう」
「そっ、そんな…!あの…、イメージ違ってガッカリしてないといいんですけど…」
「とんでもない。噂通りの、いえ、それ以上の美しさです。ですが…、私はあなたがあなたでさえあれば、どんなお姿でも眩しさにこの身を震わすでしょう」
クラリ…
「ま!しっかりなさってシャノン様!」
はーはーはー…震えてるのはこっちだって…
同じようなこと手紙にも書いてあったけど…目の前で言われると一撃必殺…
立っていられない僕を椅子にかけさせてくれたのは他でもないジェロームだ。ああ!人前でジェロームと呼べないこの身が腹立たしい!みなさーん!この人は僕の旦那様なんですよー!スンッ…断罪後の。そう!断罪後の!
ほとんどまともには話せない僕に代わって、ミーガン嬢が尋問(マジで)したところによると、彼は琥珀を売ったお金と、僕が送ったコナーのおかげでこうして王都に来る少しの余裕が出来たのだとか。
つまり宝石商は琥珀にそこそこいい値段をつけてくれたというわけか。マニアの熱量に少しビビるが…うん。今度来たらちょっとお高めの壷でも買ってやろう。そしてコナーにはたった今特別ボーナスが決定した!あー!!!…よくやった自分!自分で自分を褒めてやりたい。
「コナーに手配してもらい船便の船員室に乗船して来たのですよ。おかげであの場に立ち会えました。そう思えば匂いなど気にもなら」
「アリソン様!クーパー伯爵に言って、大至急船の環境改善を!」
「は、はい!」
僕ならいいけど彼を臭くて狭い船員室に押し込めるのはヨクナイ!
が、重量制限があるというので高級ベッドを運び入れる案は即座に却下された。
「お礼の品だけお届けして、あとはどこかからお姿だけでも拝見できればと思っていたのですが…、まさかお屋敷に招待されるなどとは…たとえ想像だけでも不相応だというのに、一生分の幸運を使い切った気がします」
あっ…ぶなかった…。もう少しで会えないところだった。…どうやらとっさに拉致ったのは大正解だったようだ…。
「エンブリー男爵は弁えのあるお方ですのね。ですがシャノン様は身分など気にはなさりませんことよ」
「ええ。黙って帰るなど…そんな水臭いことをしたら怒ってしまわれますよ」
そーだそーだ!プンスコだ!
「ではその言葉に勇気を貰い…、あなたにこれを手渡す栄誉をお与えくださいますか」
「お、お礼だなんて要らないのに…でも嬉しいです」
ジェロームの素朴な誠実さにすっかりこの場の全員が和んでいる。そして、そんな彼からの贈り物にみんな興味津々だ。
「どんな宝石、宝飾品を贈ったとして、あなたの輝きにはきっと敵わないでしょう。なので無理をするのは止めました。どうかこれをお受け取り下さい」
「え…、な、何でしょうこれ」
手渡されたのは何本かの、模様の入った…ろうそく?
「蜜蝋で作ったキャンドルです。甘い柔らかい香りがします。心が疲れた時にはどうか火を灯してください。オレンジの輝きはきっと心を落ち着かせてくれるでしょう」
…はっ!疲れた心…、もしや…
「あ、あの、て、手紙」
うっ!誰にも見えないようにシーって、口に指当ててシーって、ハフン…
「正直に言いましょう。私には残念ながら、まだまだプリチャード侯爵子息に似合う贈り物は用意できない」
「そ、そんなの」
「ですが私の知るシャノン・プリチャード様ならきっと喜んでいただけると信じて…これを作りました」
「て、手作り!?」
「ええ。見てお分かりのように。いかにも不格好で、田舎者の私と同じです。ですがあなたの心をお慰め出来たらと」
田舎万歳。人は自然に帰るべきだ。待っててエンブリー…
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