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58 断罪は風前の灯火 ②

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カイルの熱い視線を感じる…

「シャノン様は『神託』であられたのですね…」
「違うから」
「あの身辺整理はそういう意味だったのですね…。思い違いをしていました」
「言ってる意味がわからない」
「ですが…」
「ホントに違うから」

「ふふ、分かりました。私の前ではこれからも只人のシャノン様、そういうことで」

カイル…、あかん、これ全然分かってないやつ…

「お帰りなさいませシャノン様!」

人の話を聞かない王妃様に圧し負け、完全否定しきれないまま帰宅した僕を待っていたのは、満面の笑みで出迎える使用人一同。そして…ニコールさん…。
心なしかセバスの声までいつもよりはずんで聞こえるのは…気のせい?
くそぅ…一言文句を!と思っているのに、肝心のお父様とブラッドが不在とは…はっ!さては…これを見越して逃げたのか!

「セバス。お父様に領地のチェックが終わったら一日も早く戻るよう手紙を出して!」
「かしこまりました」

「ニコールさん…」
「シャノン様、その」

「…ブラッドにもいいからはよ帰れって言っといて!」
「ええもちろん。ですが旦那様はバーナード伯と大々的に公布するよう計画を立てておられる最中ですからすぐには戻られないかと」

「え」

どうやらお父様はかなり暴走しているようだ。おかしな横槍で色々すれ違っていたとはいえ、ノベルゲーでも根本的にはシャノンを溺愛していたプリチャード侯爵。思えば両親の、溺愛イコール王室との縁談、が事の発端と言えなくもないけど…、ともかく親バカには違いない。
ああ…よく分からないうちにバーナード伯まで巻き込んでとんでもなく僕を神聖視し始めたようだ。

「どうすんのこれ…」

いや!今日の僕にはヒーリンググッズがある。そう!エンブリーからの手紙だ!

「少し癒されよう…」

僕にとって第二の故郷(予定)エンブリーは、きっと安らぎを届けてくれるに違いない。
僕はイソイソとその手紙を手に取り湯船に向った。

湯船で手紙を読むのはあまりお勧めしない。何故なら上手く扱わないと紙はふやけインクは滲むからだ。
だが僕はお風呂場にまでマンガやスマホを持っていったその道のプロ、そんな下手はしない…。

「ふんふん、うほぉう!こ、好ましい…!コナーを好ましいと…!」

降ってわいた腐の匂い。って言うか、ここBLの世界だから何って事も無いけど…良いものはイイ!
シャノンになった事でうっかり夢男子要素を持ち合わせた僕だが、僕の根幹を成す腐男子の魂は誰にも消せやしない!折につけリアム君をアリソン君の隣に座らせるのもそのためだ!

やっぱりジェロームだけが僕の癒しだ…。ああ…ささくれだった心がBLで満たされていく…
何も持ってない…なんて、謙虚が過ぎる。ジェローム、あなたは持ってるよ。

BLという…何より大事な僕を萌えさせるポテンシャルを…
僕はこの数日間のストレスが軽くなるのをその時感じていた…


なのに翌朝、僕の安眠を妨害したのはいきり立ったコンラッドだ。

「およしください殿下!」
「いくら婚約中といっても、着替えもしていない部屋に立ち入るなど…」

廊下から聞こえてくるのはメイドたちの焦った制止の声。うん、事情は分かった。

「カイル!」
「はいシャノン様」

「もういいから入ってもらって。別にみられて困る部屋着じゃないし」
「かしこまりました」

こういうところが同性の便利なところである。

「シャノン!あの話は本当なのか!母上は君が『神託』だと…」

扉を開けるなり、いきなり怒鳴りたてるとは甚だ無礼でしょうが。

「おはようございますコンラッド様。それより挨拶ぐらいはしましょうよ。まずはそこにお掛けください」

「いいから言うんだ!君は本当に『神託』だというのか?」
「ちが」
「だからアーロンがあれほど君に固執したのか?」

「……」

人の話を聞かないのは遺伝なの?
それよりアーロン。そうか、アーロンはコンラッドにもあの態度を隠してはいなかったのか…

「アーロンを拒んだというのは何故だ!『神託』であるなら博愛の心を持つアーロンを受け入れるはずだ!」
「だからちが」
「シャノン!君が『神託』であるはずがない!私は信じない!神の救いは市井の民にこそ必要なのではないのか?王宮の奥庭で優雅に母とお茶を楽しむ君が…『神託』のわけがない!」

カッチーン!
ハイ出たよ。コンラッドのなんちゃって庶民の味方感。彼のこの矛盾はどこから来るのか…ちょうどいい!一度言ってやろうと思っていたところだ。今こそぎゃふんと言わせてやる!

リアルでぎゃふんって…聞いた事無いけど!






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