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アレイスターと荒ぶる猫
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何の確証もない想像でしかないのだが…ほぼ相違ないのだろう。彼は先ほどから言葉を発しない。
「君はあの転落時どこにいた?ヘクターから聞いた。君は尊い世界、白く輝く光の向こう側に居たと」
「それはその…そうじゃないです…違います…」
言葉尻が消え入りそうだ。誤魔化しの言葉すらすでに浮かばぬらしい。
「プリチャード侯も王妃アドリアナ様の前で激しく主張していたよ。「光の向こう側から来た」「世界を守る」そう君自身が口にした。だから神子は君だとね」
「お父様がそんな事を…!ご、誤解です!」
まったく彼は…。
コンラッドとの関係悪化は彼を社交界から遠ざけた。ゆえに彼は社交界の動きに疎い。この週末にある王城への出仕は、アドリアナ様から言及を伴う事は間違いない。だからこそ私はその前に二人で話す機会を得たいと、アリソンにそう申し出たのだ。
…いや、それは詭弁だな…。そうだ。私はただ…、ただこうしてシャノンと二人の時を過ごしたかっただけだ。いそいそと焼き菓子まで用意して…どれほどヘクターに笑われたか。一回り小さなシャノンの手。握りしめた手を彼は振りほどかない。
だがそれはそれ。これはこれだ。
「シャノンは『神子』でなく、神子を制定する『神託』であり『聖なる力』なのだと、私は王妃アドリアナ様に進言しようと思う」
「何言ってるんですか!やめてください!じ、じゃあアレイスター様はシェイナを…」
「シャノンを司る神子もまたシャノンとは…。偶然にしては出来過ぎだ。なぜプリチャード夫人はそう名付けた?何か見えざる力に導かれた、そう思わないか」
大きく目を見開き小さく肩を震わすシャノン。泣くかと思い身構えたが、意外にも顔をあげた彼は子供のように唇を尖らせていた。おやこれは…
「も、もー!!!違うって言ってるじゃないですか!シェイナはまだ赤ちゃんですよ!シェイナに何が出来るって言うんです?」
必死に食い下がるシャノン。恐らく彼は、幼い妹にそのような重責を負わせたくはないのだろう。
「だからこそ君が代わりに動いているのだろう?それならば全てが腑に落ちる。何故『神託』を授ける者と授かる者が同一であるか…」
「う…うぅ…、もうっ!バカバカバカ!アレイスター様のケモオタ!分からんちん!」
私の胸を叩くシャノンは、猫のようなマスクのせいか、まるで子猫がじゃれているようだ。
もちろん非力なシャノンにいくら叩かれたところでどうということもないが…、婚約者でもない第二王子である私の胸を殴打するなど、これが二人きりで無ければ問題になるところだ。
が、こんな仕草がいかにも甘く感じるのだから…私も随分骨抜きにされたものだ。
「シャノン、ほら落ち着いて…」
「はーはーはー…、細マッチョめ…。シェイナを巻き込んだら絶対許さないから!僕が怒ったらどうなるか分かってますか?」
「ほう…?どうなる?」
「な、なんか大変なことに…ムキー!どうなっても知りませんからね!べーだ!」
おや。子供のように小さな舌を出すとは。彼の怒りはすっかり私への敬意を消し去ってしまったようだ。ではその可愛らしい舌に免じて。
「分かったシャノン。ではシェイナに関しては口を噤もう。だが君のことは…」
「言うんですか?王妃様に?あーそうですか。いいですよ。言ったらいいじゃないですか。えーえー、どうぞご勝手に。これくらいで…僕は負けませんよ!」ブツブツ…
いつまでも拗ねるシャノン。だがその声色には諦めが滲み始めている。
「すまないシャノン。だが…これも王の目を覚まさせるためだ。そしてコンラッドを救うためだ」
「コンラッド…はぁ~…全く!」
不仲と言いつつコンラッドを慮るシャノン。苦い思いが胸に灯るが、今は妬いてもどうにもならない。
それよりコンラッドが見ることの無いシャノンの姿を私だけが知る、その愉悦に浸るとしよう。
それにしても今日の演目が『アイーン』だったのは何の偶然か。
主要な演者は王子と婚約者、そして人質としてやってきた隣国の王女アイーン。
二国間の争いの中恋に落ちた王子は国か王女か、究極の選択を何度も強いられる。そして一度は、寛容な婚約者と国のために生きると決意するが…土壇場で王女アイーンを選び、そうして彼は…
彼らは…
「君はあの転落時どこにいた?ヘクターから聞いた。君は尊い世界、白く輝く光の向こう側に居たと」
「それはその…そうじゃないです…違います…」
言葉尻が消え入りそうだ。誤魔化しの言葉すらすでに浮かばぬらしい。
「プリチャード侯も王妃アドリアナ様の前で激しく主張していたよ。「光の向こう側から来た」「世界を守る」そう君自身が口にした。だから神子は君だとね」
「お父様がそんな事を…!ご、誤解です!」
まったく彼は…。
コンラッドとの関係悪化は彼を社交界から遠ざけた。ゆえに彼は社交界の動きに疎い。この週末にある王城への出仕は、アドリアナ様から言及を伴う事は間違いない。だからこそ私はその前に二人で話す機会を得たいと、アリソンにそう申し出たのだ。
…いや、それは詭弁だな…。そうだ。私はただ…、ただこうしてシャノンと二人の時を過ごしたかっただけだ。いそいそと焼き菓子まで用意して…どれほどヘクターに笑われたか。一回り小さなシャノンの手。握りしめた手を彼は振りほどかない。
だがそれはそれ。これはこれだ。
「シャノンは『神子』でなく、神子を制定する『神託』であり『聖なる力』なのだと、私は王妃アドリアナ様に進言しようと思う」
「何言ってるんですか!やめてください!じ、じゃあアレイスター様はシェイナを…」
「シャノンを司る神子もまたシャノンとは…。偶然にしては出来過ぎだ。なぜプリチャード夫人はそう名付けた?何か見えざる力に導かれた、そう思わないか」
大きく目を見開き小さく肩を震わすシャノン。泣くかと思い身構えたが、意外にも顔をあげた彼は子供のように唇を尖らせていた。おやこれは…
「も、もー!!!違うって言ってるじゃないですか!シェイナはまだ赤ちゃんですよ!シェイナに何が出来るって言うんです?」
必死に食い下がるシャノン。恐らく彼は、幼い妹にそのような重責を負わせたくはないのだろう。
「だからこそ君が代わりに動いているのだろう?それならば全てが腑に落ちる。何故『神託』を授ける者と授かる者が同一であるか…」
「う…うぅ…、もうっ!バカバカバカ!アレイスター様のケモオタ!分からんちん!」
私の胸を叩くシャノンは、猫のようなマスクのせいか、まるで子猫がじゃれているようだ。
もちろん非力なシャノンにいくら叩かれたところでどうということもないが…、婚約者でもない第二王子である私の胸を殴打するなど、これが二人きりで無ければ問題になるところだ。
が、こんな仕草がいかにも甘く感じるのだから…私も随分骨抜きにされたものだ。
「シャノン、ほら落ち着いて…」
「はーはーはー…、細マッチョめ…。シェイナを巻き込んだら絶対許さないから!僕が怒ったらどうなるか分かってますか?」
「ほう…?どうなる?」
「な、なんか大変なことに…ムキー!どうなっても知りませんからね!べーだ!」
おや。子供のように小さな舌を出すとは。彼の怒りはすっかり私への敬意を消し去ってしまったようだ。ではその可愛らしい舌に免じて。
「分かったシャノン。ではシェイナに関しては口を噤もう。だが君のことは…」
「言うんですか?王妃様に?あーそうですか。いいですよ。言ったらいいじゃないですか。えーえー、どうぞご勝手に。これくらいで…僕は負けませんよ!」ブツブツ…
いつまでも拗ねるシャノン。だがその声色には諦めが滲み始めている。
「すまないシャノン。だが…これも王の目を覚まさせるためだ。そしてコンラッドを救うためだ」
「コンラッド…はぁ~…全く!」
不仲と言いつつコンラッドを慮るシャノン。苦い思いが胸に灯るが、今は妬いてもどうにもならない。
それよりコンラッドが見ることの無いシャノンの姿を私だけが知る、その愉悦に浸るとしよう。
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彼らは…
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