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46 断罪と小細工 ①
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「あ…今日も手紙が…」
「シャノン様!今日は何と?」
毎朝の恒例、置き花の人から送られる手紙だ。いつも小さく必要なことだけを。そして神社のおみくじのように、それはいつも茎にくくられる。
「アーロンがコンラッドに下町の管理権を王家の管轄にするよう声掛けしてたって…」
「まぁ!」
「それは…」
あんのやろう…。何に気付いたか知らないけどそうはさせないよ?
こういうこともあろうかと、あれはすでに王妃様のサイン入りで契約締結がなされている。訴訟にシビアな現代人である僕は、口約束なんてしないのだ。
「王妃殿下は下町がバーナード伯とともに切り離されて安堵なさっておられましたから、殿下が何をおっしゃっても容易に了承はしないでしょう」
「それどういう事?」
アシュリーもあの時何か言ってたけど、難しい貴族間の政治話はよく分からない。アリソン君曰く、王妃様は以前より、バーナード伯とフレッチャー侯の下町政策を巡る揉め事には辟易してて、それもあって僕の「中流地区を準貴族街として切り離す」という提案は渡りに船だったのだとか。
おまけに僕の「一切合切お互いノータッチで!」という一文は、一見バーナード伯の力が削げたようにみえて、アレイスターに力を付けたくない王妃様は、それにも満足したのだとか。
「へ、へぇ…」
王妃様…
「王妃殿下は即刻、準貴族街の商人たちに『準男爵』という、一見爵位風の名前をお与えになって大店の当主からは『準貴族税』を、フレッチャー侯からはそれに伴い、今まで徴収していた税率の引き上げをなさったとか」
「へ、へぇ…」
王妃様…それって王妃様しか勝たん…
「商人たちも箔が付いたと喜んでおりますし、フレッチャー侯にとってそれでも利はあります。よろしいのではないでしょうか」
「へ、へぇ…」
王妃様…策士か…
僕は誰を敵に回しちゃいけないか、それを心に刻んだ。が、してやったりだシャノン!僕と王妃様はシャノンのおかげで仲良しだ!
「続きがあるよ。手紙の人はコンラッドに夏の休み、アーロンを『禊の修行』に行かせてはどうかと勧めたって」
「なかなかやりますね…。神事に関する事であれば殿下も受け入れやすいでしょうしアーロンも拒みにくい」
このお花の人はどうも頭が良いようだ。
明日の朝はお礼の手紙を置いておこうと思う。お礼に僕が描いた、シェイナの絵でも添えて…
そして数日後、気忙しい僕の日常にまたしてもノックの音が。
「兄さん、少しいいですか?」
「ブラッド…」
最近ではごく普通に私室へ入ってくる義弟のブラッド。おかげでおちおちパンイチでフラフラ出来なくなってしまった…。
今日の用件はコンラッドが僕を王族の集う晩餐会に招待するだろう、という内容。
「晩餐会か…それって断れないの?」
「正式に招待状が届けばさすがに無理です…」
「じゃあ仕方ないね。でも…ある意味丁度良かったかも」
「兄さん?」
「陛下には話があったから」
「話し…ですか。何ですそれは?」
「ナイショ」
僕はフローチャートを作成したとき、ここから先の出来事も同じように書き出していた。
そして気付いた。
王様はたしか秋の文化祭前後に、新しい領土の確認のため西に向かうことになってたはず。ならそれが多少早まったところでシナリオ的に何も問題無いだろう。
王様が文化祭のあたり王都に居ないのは、単なるゲームの都合だ。
王様が不在だと王妃様は政務が忙しくなって、いちいちささいなことまで口を挟まなくなるし、それに乗じてコンラッドも『王命』を都合よく使いやすくなる。
王様の不在は文化祭、つまり断罪に繋がるイベントへの布石でしかない。
シナリオがあるからと言って、あのアーロンにが近くに居て余計なことを吹き込まれるのはヤバイ気がする。断罪はあくまでもコンラッドの主導で行われなければ。いきなり王様に「処刑!」とか言われたらどうにもならないし。
この辺りの本編は二人の絆を深めるターンで、アーロンを正妃にしたいコンラッドの苦悩、とか、側近二人による煽り形式の励まし、とか、あとアーロンがコンラッドに惹かれていく描写ばかりでシャノンの出番は文化祭までおあずけである。
夏休みに入るまでに最高権力者に消えてもらって、秋までの日々を少しは満喫することにしよう。
その晩僕は一睡もせず、晩餐会で王様を動かすための策を練り上げた。
「シャノン様!今日は何と?」
毎朝の恒例、置き花の人から送られる手紙だ。いつも小さく必要なことだけを。そして神社のおみくじのように、それはいつも茎にくくられる。
「アーロンがコンラッドに下町の管理権を王家の管轄にするよう声掛けしてたって…」
「まぁ!」
「それは…」
あんのやろう…。何に気付いたか知らないけどそうはさせないよ?
こういうこともあろうかと、あれはすでに王妃様のサイン入りで契約締結がなされている。訴訟にシビアな現代人である僕は、口約束なんてしないのだ。
「王妃殿下は下町がバーナード伯とともに切り離されて安堵なさっておられましたから、殿下が何をおっしゃっても容易に了承はしないでしょう」
「それどういう事?」
アシュリーもあの時何か言ってたけど、難しい貴族間の政治話はよく分からない。アリソン君曰く、王妃様は以前より、バーナード伯とフレッチャー侯の下町政策を巡る揉め事には辟易してて、それもあって僕の「中流地区を準貴族街として切り離す」という提案は渡りに船だったのだとか。
おまけに僕の「一切合切お互いノータッチで!」という一文は、一見バーナード伯の力が削げたようにみえて、アレイスターに力を付けたくない王妃様は、それにも満足したのだとか。
「へ、へぇ…」
王妃様…
「王妃殿下は即刻、準貴族街の商人たちに『準男爵』という、一見爵位風の名前をお与えになって大店の当主からは『準貴族税』を、フレッチャー侯からはそれに伴い、今まで徴収していた税率の引き上げをなさったとか」
「へ、へぇ…」
王妃様…それって王妃様しか勝たん…
「商人たちも箔が付いたと喜んでおりますし、フレッチャー侯にとってそれでも利はあります。よろしいのではないでしょうか」
「へ、へぇ…」
王妃様…策士か…
僕は誰を敵に回しちゃいけないか、それを心に刻んだ。が、してやったりだシャノン!僕と王妃様はシャノンのおかげで仲良しだ!
「続きがあるよ。手紙の人はコンラッドに夏の休み、アーロンを『禊の修行』に行かせてはどうかと勧めたって」
「なかなかやりますね…。神事に関する事であれば殿下も受け入れやすいでしょうしアーロンも拒みにくい」
このお花の人はどうも頭が良いようだ。
明日の朝はお礼の手紙を置いておこうと思う。お礼に僕が描いた、シェイナの絵でも添えて…
そして数日後、気忙しい僕の日常にまたしてもノックの音が。
「兄さん、少しいいですか?」
「ブラッド…」
最近ではごく普通に私室へ入ってくる義弟のブラッド。おかげでおちおちパンイチでフラフラ出来なくなってしまった…。
今日の用件はコンラッドが僕を王族の集う晩餐会に招待するだろう、という内容。
「晩餐会か…それって断れないの?」
「正式に招待状が届けばさすがに無理です…」
「じゃあ仕方ないね。でも…ある意味丁度良かったかも」
「兄さん?」
「陛下には話があったから」
「話し…ですか。何ですそれは?」
「ナイショ」
僕はフローチャートを作成したとき、ここから先の出来事も同じように書き出していた。
そして気付いた。
王様はたしか秋の文化祭前後に、新しい領土の確認のため西に向かうことになってたはず。ならそれが多少早まったところでシナリオ的に何も問題無いだろう。
王様が文化祭のあたり王都に居ないのは、単なるゲームの都合だ。
王様が不在だと王妃様は政務が忙しくなって、いちいちささいなことまで口を挟まなくなるし、それに乗じてコンラッドも『王命』を都合よく使いやすくなる。
王様の不在は文化祭、つまり断罪に繋がるイベントへの布石でしかない。
シナリオがあるからと言って、あのアーロンにが近くに居て余計なことを吹き込まれるのはヤバイ気がする。断罪はあくまでもコンラッドの主導で行われなければ。いきなり王様に「処刑!」とか言われたらどうにもならないし。
この辺りの本編は二人の絆を深めるターンで、アーロンを正妃にしたいコンラッドの苦悩、とか、側近二人による煽り形式の励まし、とか、あとアーロンがコンラッドに惹かれていく描写ばかりでシャノンの出番は文化祭までおあずけである。
夏休みに入るまでに最高権力者に消えてもらって、秋までの日々を少しは満喫することにしよう。
その晩僕は一睡もせず、晩餐会で王様を動かすための策を練り上げた。
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