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43 断罪の改変

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気を取り直して、彼らは順にことの次第を説明していく。まず口を開いたのはブラッドだ。

「実はある人物から入室直前に警告されたのですよ」
「なんて…?」

「アーロンが医務室から茶色の小瓶を手にして出てきたと」
「茶色の小瓶…」

「その人物もその小瓶が何か、アーロンが何に使うかの確証はないようでしたが、嫌な予感がするからと」
「今回は助けられましたわね…」

「ブラッド…、ミーガン様…」

というか、その人物ってお花の人じゃ…。え?じゃあブラッドはそれが誰だか知ってってことじゃん?

「ブラッド!その人物を今すぐここに連れてきて!」
「いいえ駄目です」
「何でっ⁉」

今まで陰ながら僕をサポートしてくれた、紫のバラならぬ、多種多様なお花の人。こうなったからには陰と言わず、日向でサポートしていただきたいのに!

ブラッド曰く、その人物とは要約すると(とても遠回しな表現していたが)とても地味な人物なのだとか。もともと存在感の薄いその人物に、コンラッド、そしてアーロンもあまり注意を払っていない。それは彼ら、いや語弊があるな、コンラッドは憐れな獲物だ。とにかく、その人物はアーロンの油断を誘うだろう、ブラッドはそういうのだ。

「ましてや先ほどの感じからして、僕はアーロンから警戒対象にされたかもしれません。であれば尚のことその人物は重要になります」
「じ、じゃあせめて名前だけでも…」
「いいえ。兄さんは知らない方がいい。もし知れば兄さんはきっと隠せない」

なにをー!こう見えて僕は保育園のお遊戯会で主役の座を射止めたこともあるのに!

「彼はこれからも彼らの側で探ると、そう言って今この時間も彼の信者を見張っています」
「じ、じゃあせめて、せめてこれを彼に…。お礼ですって、これからも期待してるって、そう言って渡してくれる?」

僕はお妃教育で刺繍したハンカチを胸から引き出し、キレイにたたんでブラッドに手渡した。

「これ…、一番上手く出来たから…」
「オレンジの薔薇…、ふふ、きっと喜びます」

いつの間にか諜報員ゲットだぜ!
とにかく、そんな訳でブラッドは植木の近くに座り、アーロンの目を盗んでこっそりお茶を捨てたのだとか。

「簡単でしたよ。アーロンは兄さんを食い入るように見ていたので」

う、嬉しくない、そんな報告…

「ヘクター様は…」
「私はアーロンでなく、…君を警戒していたのだ。ブラッド君」

うわ…、ド直球…
アレイスターの側近であるヘクターさんは、学年違いなのとアレイスターがぞろぞろ歩きたがらないため、常に側に居る訳じゃないのが(BL的に)玉に瑕だが、少し話しただけでもデキル奴感のあるダークブロンドの理系男子だ。

「ほんの半年前までアーロンに夢中だった君を簡単に信用できると思うのかい?私はそれほど甘くない」
「…反論する気はありません。今後の行動を見て欲しい、としか言えませんね…」

「まあいい。君がお茶を捨てたから私もそうした。それだけのことだ」

ゆ、有能…。今度アレイスターに報告しといてやろう。

「シャノン様。眠り薬はお茶ではありません。恐らくティースプーンに塗られていたのですわ」
「ミーガン様…」

「わたくしはその、最近ドレスが、コホン!…思うところあって砂糖もミルクも入れなかったのです。ですからスプーンは使いませんでしたの。アーロンは気付かなかったようですわね。お茶は全て飲み干しましたがほら、この通り」

スプーン…。僕はほとんどパニックで、無意識にぐるぐるぐるぐるかき混ぜていた。マナーの先生が居たら雷が落ちるところだ。猫舌の僕はカップのお茶が冷めるのを、根気よく待っていたのだ。

「きっとそれも計算の内ですわ。シャノン様のお舌が繊細なのは周知ですもの」

ばれてーら。

「皆さまのスプーンはお茶をかき混ぜてしまわれましたわね。ですがわたくしのスプーンは手付かずで残っております。すぐに医局で調べさせましょう」
「チャムリー家のご令嬢、そのスプーンはアレイスター殿下の元で調べよう」

「それもそうですわね…」

「壁に耳ありショウコに目やに…、人目を気にするのは大切な事です」

「兄さん…」ガクッ!

うおっ!ブラッドが頭を抱えて膝をついた!

「アーロンの狙いがあのようなものだったとは…。邪教の伝道者…ああ…どうして気付かなかったのか!」

うーん、ノベルゲーではブラッドも率先してハーレム要員だったけどね。気の毒だから言わないけど。

「愛欲…などと、口にするのも悍ましいですわ!」
「国教の主は愛欲など認めぬでしょう。神は確かに博愛を説きますがそれは彼の言うようなものでは無い。純潔と貞節を重んじてこその博愛です」

「だが彼は兄さんに拒まれ、今度は兄さんを排除するつもりだ!」

つまり、逆ギレ…イキオイ余って憎さ百倍か…

「シャノン様。今すぐ殿下に報告しましょう。アーロンの先を越すべきです」
「アーロンはシャノン様を貶めるため偽の非道を吹き込むつもりですわ。わたくしたちと言う目撃者がいるとも知らず」
「兄さん、これが陛下の耳に入れば大事になる!」

「ううん、ほっといて」
「シャノン様!な、何故ですの!」

いやだって…、そこは…今更だけどある意味狙い通りだし。

「僕の目指すものはその先にある。だからこのままで」

「ですがシャノン様、このままではコンラッド殿下が陛下に…」

「それこそ思う壺、…いえ。とにかくこの件はオフレコで。アーロンの好きにさせればいいです」

「なるほど。深いお考えがあるのですね。ですが私はアレイスター様に報告しますよ。もちろん見聞きした一部始終を何一つ漏らさず」
「ふー…、お好きにどうぞ。でもまだです。まだ足りない…」

そう、まだだ。まだ足りない。断罪へのピース、確定イベントはあと二つ。

僕は気付いたのだ。去年の教科書ビリビリ事件も、今回のお茶ぶっかけ事件も、僕が手を出さなくても気が付いたらイベントは発生してた。これってあれだ。多分ノベルゲーの強制力…

つまり断罪を終えなければノベルゲーは終わらない。望むところだ。アーロンがコンラッドをエロ本仕様にするなら、なおのこと乙女な僕は絶対に逃げ出さなければ。だけど…

「中途半端じゃ終えられない。まだ動かないで」

変態アーロンは野放しにはしない!ここはアノンとシェイナの居るおとぎの世界だ!
断罪は完遂する。でもアーロンの思い通りにはさせない。こう見えて僕は三途の川を泳いだ男だ。冗談抜きで。カマ神なんかにまけるかっっーの!

残る関門は…後二つ。ゴールまでのリミットは…残り一年半…。



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