断罪希望の令息は何故か断罪から遠ざかる

kozzy

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ブラッドとロイド

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「ブラッド、今日は呼んでもらえて助かったよ。私一人では来たくともさすがに来れなかった…」

「僕の方こそこれは良い機会だと思ってね。ロイド、君とは一度二人だけで話したいと思っていた」

シャノンの大いなる慈悲に触れたあの日から、僕は胸に一つの疑念を生じさせていた。
そしてそれを話す相手は、…コンラッドではなくロイドだと、そう考えていた。

「ほう?と言うと?」

「君は誰よりも先にシャノン、兄さんに対し態度を改めた。そうだったね」
「ああ。私はシャノン様と言葉を交わすごと、自分の浅はかさと誤解を知った」

ロイド。彼もまた僕と同じ。仮面を捨てたシャノンによって気付きを得ている。

「つまり?」
「彼は私を導くためにあえて強い言葉を選んでいたんだよ。彼への対抗心で私が己を鼓舞し高みをめざすようにと」
「何故そう思う?」

「彼の言葉はそういう意味だ。前を行けと。分かるだろうか。彼は私に自分を信じ、自分自身を認め、己の問題に向き合えと、そう言っていたんだ。アーロンとは正反対だ…」

「ロイド!まさしくそれだ、僕が今日話したかったのも」

「ブラッド…」

僕は言った。アーロンの存在は自分自身の思考力を奪い停滞させるものだと。

「君にも心当たりがあるはずだ。アーロンに言われたことはないか?「そのままでいい」「あなたは間違ってない」と」

「いつも言われた…。で、ではアーロンはブラッドにも同じことを?」
「そうだ。気が塞ぐとき、心が沈むときには必ずどこからか現れて…」

僕は続けた。アーロンの言葉はいつも優しくささくれた心を慰める。だが…彼の言葉は抱えた悩みを一時的には晴らすが、問題の本質に触れてはこないのだと。「僕はいつでもあなたのそばに」アーロンの口癖とも言うべき甘い言葉。だが彼は側に居るだけ。僕たちを奮い立たせることはない。

「確かに…」

アーロン、彼はまるで聖母のように傷ついた心に寄り添うが…、彼にかけられた言葉の数だけ、僕たちは彼に依存するのだ。まるで母を失えば生きていけない幼子のように…

「心当たりがある…」

「だがそれだけじゃない。問題は彼が実に巧みに、空っぽになった思考や持て余した感情を都合よく誘導するということだ」

「誘導…」
「それはすでに洗脳に近い」

腑に落ちたといわんばかりにロイドは言う。アーロンと居る時、彼は常にアーロンの言葉を欲し、そしてアーロンを欲した分だけ、喪失感に襲われたのだと。それを埋めるために…、更にアーロンを欲する。僕と一緒だ。甘くて苦い、負のループ…

「分かるだろう?シャノンとの関係があれほどまでに歪んだ原因の一端はアーロンだ」
「…アーロンへの思慕で分別を失っているのだとばかり…」

僕もそう思っていた。だがアーロンが現れるまで、僕とシャノンの関係は、歪ながらもあれほど剣呑ではなかったのだ。アーロン…、彼が真実慈愛に満ちているなら、僕とシャノンの関係性、何故それに何も言わない!彼は僕に言うべきだったのだ!博愛の名のもと、シャノンに怒りを抱いてはならないと!

「貴族街にあるプレチオーセス大教会、大司教様は王妃と同じく、『神託』なくしてアーロンを受け入れることは出来ないと、そう申されている。ブラッド、君はどう思う?」
「だが『神託』とはなんだ。どういった形で表わされるものだ?王の信じる王家の伝承。その文言以外に『聖なる力』を示すものはない」

王の側近である父を持つロイドは、僕よりも少し内情に詳しい。プリチャードの父はカサンドラ様がいたがゆえに、側近にはならなかった。力の肥大化を防ぐために。

ロイドは続ける。王の求める、世界統一という大いなる野望。それを可能ならしめるのが『聖なる力』なのだと。いや、少なくとも王はそう信じているのだと。

「陛下がアーロンを神子とお信じになられる限りアーロンの立場は揺るがない…」

「アーロンの望みは、向かう先はなんだ?」
「分からない…。だが…、だがそれは危ういことだ」

それだけはハッキリしている。人の心を停滞の闇に縛り付ける慈悲など慈悲ではない!

「待て!ではコンラッドはどうする?このままでは…」
「そうだ。絡めとられる。いや、すでに遅いのかもしれない」
「だがどうする?アーロンの保護は陛下の命だ」

そして陛下はその命を解かないだろう。真実の神子が、姿を現さない限り…



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