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ブラッド
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母が義父の子を身籠った…。それは祝福すべき神の采配。
それが女児であれ男児であれ、母はこれで確かな絆を手に入れる。
辛い思いの果てに幸せを手に入れた母。なのにその報告を聞いた時、喜びと同時に不安が襲った僕は親不孝者だ…。
あの夏の衝撃的な出来事。生死を左右する出来事を経て、シャノンは全ての自制を止めた。
どれほど冷たく鋭くも、今まで決して直接的な物言いはしなかったシャノン。それが余計に嫌みだとコンラッドはいつも苦々し気に吐き捨てていたが、歯に衣を着せぬ今のシャノンを思えば、あれがどれほど手ぬるかったのかと思い知ることになった…。
そのうえシャノンには僕たちを苦境に立たせる奥の手がある。
シャノンが立場を省みずアレイスター殿下を王位につかせようと本気で思えば、それは可能だ。シャノンに好意的な家門は、ポーレット侯爵家をはじめとして名家ばかりだ。
その名家を敵にまわせば、仮に返り討てたとして、その後の政は混乱必至だ…。
コンラッドは僕の進言、そして王妃殿下の命を受け入れ、シャノンとの関係を再構築する道を選んだ。それは正しい選択だろう。
何より…、僕もコンラッドもシャノンの覚悟を知ったのだ。命がけの覚悟を。自分自身の罪と落ち度を認識した今となっては、それだけは何としても避けねばならない…。
シャノンがコンラッドとの和解を受け入れ、自死の覚悟を引き下げたこと。何もかもが暗雲の中それだけが救いだ…。
自分自身が滑稽に思えて仕方がない。
転落事故の件で義父はアーロンに対し嫌悪の感情を抱いている。彼が神子候補だからこそ言葉にしないが、彼の名を宮廷会議の議事録に見つけるたび、その顔は憎々し気に歪められる。
…母が言うよう、シャノンの感情と僕の友好関係を切り離して考えることはこの先もう無いだろう。アーロンと関りを持つ限り、義父が僕に爵位を与えて下さることは無い…
アーロンから離れねば。なのにそれを想像するだけで、酷く不安で落ち着かない気持ちになるのだ。この感情をどう説明すればいいのか…
コンラッドがアーロンを庇護する以上、嫌でも彼を避けることは出来ない。
そのうえ、どれほど決別を決めても、彼の顔を見るだけで…その決意は脆く崩れる。アーロンの微笑みはまるで魔法だ。僕の心を絡み取る…甘くて苦い、妖しい術…
そんな感情を持て余したまま、気が付けば書斎の前に立ちすくんでいた。中から出てきたのは義父でなくシャノン。
あれから義父は屋敷にいる時間を増やした。もちろん、カサンドラ様に加え、シャノンまでをも失う事を恐れたからだ。そしてシャノンも親子の時間を大切にしはじめた。
これこそが不安の中核。
シャノンも生まれてくる赤子も持つ絆。それが僕には無い。いつの間にかこの屋敷は、義父と母、シャノンとまだ見ぬ子で新たな絆を紡いでいる。まがい物の侯爵令息、シャノンの言葉が真実になる…。
アーロンから離れねば、なのにアーロンを失えば…僕にはもう誰も残らない!混乱する感情の中…不安でつぶれそうだ…!
その時気付いた…
それこそが僕を見るたび、シャノンが抱いていた感情なのだと…
ほとんどの時間を王宮で過ごしていたシャノン。父親よりも王妃殿下と過ごす時間の方が多かったと言っても過言ではない。
僕と僕を愛する母、そして連れ子の僕を可愛がる義父は、いつしか実子であるシャノンよりも家族らしく過ごしていた。めったに戻らぬ父の、そのわずかな時間を共に過ごすのが自分ではなく、後妻の連れ子であり、コンラッドをも奪ったこの僕であることを…シャノンはどんな想いで見ていたのか。
お妃教育を止めなければ、だがお妃教育を止めたら…、シャノンには何も残らない。
あの事故をきっかけに気付き始めたシャノンの内面、今その真実にたどり着いた気がする…。そう…か、そうだった…のか…全て分かった…
僕を見てため息をつくシャノン。そして彼の口から出たのは…
「ブラッド、ちょっと僕の部屋来ない?」
シャノン…僕が傷つけた、とても美しく…そして憐れな人…
それが女児であれ男児であれ、母はこれで確かな絆を手に入れる。
辛い思いの果てに幸せを手に入れた母。なのにその報告を聞いた時、喜びと同時に不安が襲った僕は親不孝者だ…。
あの夏の衝撃的な出来事。生死を左右する出来事を経て、シャノンは全ての自制を止めた。
どれほど冷たく鋭くも、今まで決して直接的な物言いはしなかったシャノン。それが余計に嫌みだとコンラッドはいつも苦々し気に吐き捨てていたが、歯に衣を着せぬ今のシャノンを思えば、あれがどれほど手ぬるかったのかと思い知ることになった…。
そのうえシャノンには僕たちを苦境に立たせる奥の手がある。
シャノンが立場を省みずアレイスター殿下を王位につかせようと本気で思えば、それは可能だ。シャノンに好意的な家門は、ポーレット侯爵家をはじめとして名家ばかりだ。
その名家を敵にまわせば、仮に返り討てたとして、その後の政は混乱必至だ…。
コンラッドは僕の進言、そして王妃殿下の命を受け入れ、シャノンとの関係を再構築する道を選んだ。それは正しい選択だろう。
何より…、僕もコンラッドもシャノンの覚悟を知ったのだ。命がけの覚悟を。自分自身の罪と落ち度を認識した今となっては、それだけは何としても避けねばならない…。
シャノンがコンラッドとの和解を受け入れ、自死の覚悟を引き下げたこと。何もかもが暗雲の中それだけが救いだ…。
自分自身が滑稽に思えて仕方がない。
転落事故の件で義父はアーロンに対し嫌悪の感情を抱いている。彼が神子候補だからこそ言葉にしないが、彼の名を宮廷会議の議事録に見つけるたび、その顔は憎々し気に歪められる。
…母が言うよう、シャノンの感情と僕の友好関係を切り離して考えることはこの先もう無いだろう。アーロンと関りを持つ限り、義父が僕に爵位を与えて下さることは無い…
アーロンから離れねば。なのにそれを想像するだけで、酷く不安で落ち着かない気持ちになるのだ。この感情をどう説明すればいいのか…
コンラッドがアーロンを庇護する以上、嫌でも彼を避けることは出来ない。
そのうえ、どれほど決別を決めても、彼の顔を見るだけで…その決意は脆く崩れる。アーロンの微笑みはまるで魔法だ。僕の心を絡み取る…甘くて苦い、妖しい術…
そんな感情を持て余したまま、気が付けば書斎の前に立ちすくんでいた。中から出てきたのは義父でなくシャノン。
あれから義父は屋敷にいる時間を増やした。もちろん、カサンドラ様に加え、シャノンまでをも失う事を恐れたからだ。そしてシャノンも親子の時間を大切にしはじめた。
これこそが不安の中核。
シャノンも生まれてくる赤子も持つ絆。それが僕には無い。いつの間にかこの屋敷は、義父と母、シャノンとまだ見ぬ子で新たな絆を紡いでいる。まがい物の侯爵令息、シャノンの言葉が真実になる…。
アーロンから離れねば、なのにアーロンを失えば…僕にはもう誰も残らない!混乱する感情の中…不安でつぶれそうだ…!
その時気付いた…
それこそが僕を見るたび、シャノンが抱いていた感情なのだと…
ほとんどの時間を王宮で過ごしていたシャノン。父親よりも王妃殿下と過ごす時間の方が多かったと言っても過言ではない。
僕と僕を愛する母、そして連れ子の僕を可愛がる義父は、いつしか実子であるシャノンよりも家族らしく過ごしていた。めったに戻らぬ父の、そのわずかな時間を共に過ごすのが自分ではなく、後妻の連れ子であり、コンラッドをも奪ったこの僕であることを…シャノンはどんな想いで見ていたのか。
お妃教育を止めなければ、だがお妃教育を止めたら…、シャノンには何も残らない。
あの事故をきっかけに気付き始めたシャノンの内面、今その真実にたどり着いた気がする…。そう…か、そうだった…のか…全て分かった…
僕を見てため息をつくシャノン。そして彼の口から出たのは…
「ブラッド、ちょっと僕の部屋来ない?」
シャノン…僕が傷つけた、とても美しく…そして憐れな人…
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