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29 断罪と罪

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久々の帰宅となった父親からめっちゃ叱られてしまった…失敗失敗…
ドサクサに紛れようとした自覚はある。黙って叱られるとしよう。

「全く。このプリチャード侯爵家の息子であり第一王子殿下の婚約者であるお前が、何と言う迂闊な事を」
「すみません」
「反省しなさいシャノン」
「反省どころか猛省してます」
「お前は一体どうしてしまったのだい?」

ギクッ!

「贔屓にしている店の主人が困っていましたので…。お祭りですし、今日くらいは良いかと思って。たった一度の人生ですし…」

「シャノン…!そ、そうか…。お前の思いやり深さを私は誇りに思う。…今回はもういい。今後気をつけなさい」
「混乱を招いてはいけませんしね」

もうしないとは言ってない。

「ところでお父様。僕のお願いひとつ聞いて欲しいな~…なんて」
「おや?珍しいこともあるものだね。お前は幼い頃からおねだりやお願い事を言わない子だったのに」

ギクギクッ!

「カイルを通さないということは寄付の件ではないのだね」
「ええ。その…」

「なんだね。言ってごらん」
「ニコールさんの産んだ子が男の子だったら名前を付けさせてもらいたいな~って」

「名前を?シャノン、それはどういう…」
「どうしてもだめならミドルネームでもいいんです」

どうしても、どーしても付けたい名前がある。それも下町に逃亡する僕の子じゃなくて(そもそも奥さんを貰える気がしない)このプリチャード侯爵家に生まれる息子に。

「なんと名付けたいのだね。一応言って見なさい」

「アノンと。スペルはhannonです」

「…何故だね」
「優しい子になって欲しいので。アノンの意味は『慈悲深く優しい』です」

小1から小5までピアノを以下略、の僕はアノンピアノ教本を持っていた。ある日、アノンってどういう意味かと聞いた僕に、ピアノの先生はそれが人の名前だと教えてくれた。そしてその時ついでにアノンにはアイルランド語で『慈悲深く優しい』という意味があるのだとも教えてくれた。

この際名前の意味は後付けだが、二年後ここを出ていく僕の代わりに、僕はシャノンの名前だけでも残しておきたいと思っていた。
shannonから一文字取ったらhannonになる。取り除いたSはsin《罪》のS。Sがinして罪とか…

僕はシャノンが悪かったなんて一ミリも思わない。シャノンに罪《S》は必要ない。
積み上げられたシャノンノートの向こうに、僕はシャノンの誠実さを見た。信じるものはそれだけでいい。

「理由があるのだね。そうか…。いいだろう。いい名前だ…。だが約束して欲しい。お前とたった一文字しか違わない弟が無事生まれたならば、この先も長きに渡り、彼が大きくなるまで、一緒に年を重ねて彼を見守ると」

「……わかりました」

「それは本当だね」
「神に誓って約束します」

一つ屋根の下とは言ってない。
まあ遠くから見守るくらいは。
失踪するわけではないので誕生日にお祝いぐらいは送ってもいい。侯爵家の皆様が、そのとき落ちぶれているであろう僕からの誕プレを渡してくれるかどうかは知らないけど。

「そうか。では私も約束しよう。生まれてくる子が男の子ならミドルネームにアノンと名付けよう」

目と目を合わせがっつり握手。理由はないが、僕は生まれてくるのが男の子だと思っている。

「久々によく眠れそうだ。…安心したよ、シャノン」
「それは僕の台詞です。ありがとうお父様。えーと…、大好き?」

世の父親はこういうのを喜ぶと思ったのに…フリーズしなくったっていいじゃん…

「ところでお父様。ブラッドのことですが…」
「…正直ブラッドには期待をしていたのだが…、あれは良くない」
「アーロンのことですか」
「そうだ。殿下を諫めるどころか一緒になって我を忘れるとは…、眼鏡違いだったようだな」

おお!この辺はノベルゲーに出てこない情報だから初耳なんだよね。

「お前が殿下とそりが合わぬのは仕方ない。こればかりは努力でどうにも出来ぬ」

まあ、そういうシナリオだから…

「だからこそブラッドが殿下に気に入られたのは好都合であったのだが…」
「お家のためにですか?」

「何を言う!お前の助けと思ったのだ!」

あ…、だから父親は幼い連れ子のブラッドを王子の前に連れて行ったのか…
それをシャノンは知っていただろうか…?知っていたらブラッドへの感情も少しは違ったんじゃないだろうか?

「それは初耳です」

「そうだったか?…いや、そうかも知れん。ニコールを迎えたとは言え、あの当時の私は癒えぬ悲しみを引きずり執務に没頭していた…」

お邪魔キャラ側の父親とはいえ断罪シーン以外ほとんど出てこなかったプリチャード侯爵。シャノンが頼りにしていたとは思えない。親子の会話がもっとあったらああはならなかったでしょ。
カマをかけてみたのだが…ほらね。

「お父様、ですよ。お父様がまともに僕と過ごされるようになったのは例の転落からです」

「耳の痛いことだ…。だがお前には当時まだ乳母も付いておったし、何より王城にはアドリアナ様がおられた。カサンドラが誰よりも信頼を置いた王妃殿下が。何も出来ぬ私が側に居るより最善だと思っていたのだよ」

はぁ~…、これだから男親は。養育の意味を世話と躾としか思ってないんだから…。親子のコミュニケーションはどこいった!

「だがブラッドはあの神子候補に入れあげ分別を失くした。挙句あれをこの屋敷に招き入れるなど…あり得ぬ事だ」

あー、父親は厳格な人だっけ。当主不在の屋敷にいくら神子候補とは言え、立場的には平民のアーロンを招くのは貴族の流儀としてそもそもNGだったか。

「ニコールにも伝えたが、幸いブラッドは殿下に気に入られている。引き立ててもらうなりなんなり、自分の前途は自分で考えるがいい」

「いくらコンラッド様だって理由もなしに爵位は与えられないですよ。かと言って無爵位のまま王子の側近を名乗るのは…」

序列社会のルテティアにおいて侮られるのは間違いない。

「棒に振ったのは自らの行いによるもの。そうではないかね」

違いない。けれど…

「お父様。ブラッドにワンチャ、…機会をお与えください。僕が彼と話します」
「シャノン…」

「彼は僕の弟で…、アノンの兄です」

やれやれ疲れた。随分話し込んでしまったが、今日は有益な話がたくさんできた。これは良い疲労感だ。

おっとー!話終え部屋を出るとそこにいたのはブラッド。
今現在僕の関心の、一…二割を占めているブラッド君じゃないですか。

「兄さん…。父様の書斎から出ていらしたのですか」
「あ、うん。それがどうかし」

あー、気になるのか…

「ブラッド、ちょっと僕の部屋来ない?」
「なんといいました?僕を部屋に誘ったのですか?」

えーえー、誘いましたとも。

ブラッドは今不安で不安で仕方ないのだろう。あの落ち着かない手の動きが何かを物語っている。

僕とコンラッドは表向きだけど和解して(うそだけど)、コンラッドはアーロンを側妃にする気満々である。
憐れブラッド…、このままではお一人様決定、気持ちを切り替えないと永遠にDTだ。その事実をリアルに実感して不安になっているんだろう…。
もともと当て馬キャラのブラッド…、つか、ゲームのシナリオとは言え、ハーレムて!待て!病みエンドもあったな、そー言えば…。
アーロンの変態性欲を知った今ではその理由も納得だけど…

義理とは言え、彼もまたプリチャードの名を背負う者。こうなったら…、一肌脱ぎますか!






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