断罪希望の令息は何故か断罪から遠ざかる

kozzy

文字の大きさ
上 下
45 / 308

27 断罪の息抜き 二日目

しおりを挟む
「ミーガン様、どこから行きます?」
「ではあちらの飴細工はいかがでしょう?」

「シャノン様、楽しみにしていらしたクレープも早くいかないと行列が出来てしまいますよ」
「アリソン様、それホントですか?」

「焼きアーモンドはどうされますか?」
「あ、え、悩む…」

文化祭二日目。昨日の分まで今日は思う存分満喫しなければ。
そう思って三人がかりでどこから攻めるか戦略を練っていくが、軍師が居ないので何も決まらない…
なにしろ中二以来のお祭り、僕ってば舞い上がっちゃって…

「明日もありますから全部回れますよ、大丈夫です」
「え?あっ!アシュリー!お越しだったんですね」

「ふふ、貴重なシャノン様の学生生活を覗き見に。シャノン様の展示は…」
「第一講義室に展示してあります。あとで見に行ってくださいね」
「それはもう」

僕の展示は『偏執的な愛好家による消費行動とそれによる経済的恩恵』というものである。筆がのりにのって三日で書き上げた自信のレポートだ。ぜひご一読いただきたい。

それはさておき、取り巻き三人に保護者一人を加えて、僕たちは立ち並ぶ出店前の飲食スペースとは別の、校庭中央の花壇付近にある、パラソルテーブルと椅子が配置されたフリーエリアにいた。
フリー…とはいっても、何となく分布が決まっている。動線がよく眺めの良いところほど家格の高い子女のテーブルである。
それらは大体取り巻きにより確保される。そしてやっぱり取り巻きの彼らが飲み物や軽食を買いに行ってくれる。いつもすまんね。

「そう言えばアシュリー、フレッチャー侯に会いました」
「フレッチャー侯に…」

大事そうなことなので僕はアシュリーに報告することにした。今後下町と中流地区は今よりハッキリと分断されるだろうと。

「そうですか…」
「フレッチャー侯はほくそ笑んでいましたよ」
「それはそうでしょう。これで彼は目の上の瘤を取り除けたのですから…。困りましたね」

今まではたとえ中流地区に関する事でも、本来の下町管理者である、アシュリーの上司であるバーナード伯を無視して取り決めることは出来なかったのだとか。
それが線引きされる事で、中流地区を占める大商会への影響力をバーナード伯は失うだろうと話だ。

「困るんですか?下町にはいっさい口も手も出すなって約束させたのは僕です。王妃殿下にもそうお願いするつもりです。フレッチャー侯も、王妃様は賛成するだろうって…」

「ああ…ますますなんて事だ。バーナード様はアレイスター様の後ろ盾でございますよ?」

何を言っているのかさっぱりわからない。

「王妃殿下が賛成されるのは当たり前です。アレイスター様に強い後ろ盾があることを王妃は望まないでしょうから」

あー、いやいや、待ってよ…

「アシュリーに確認します。フレッチャー侯爵家とプリチャード侯爵家、家格はどちらが上ですか?」
「それはもちろんプリチャード侯爵家です。プリチャード侯爵家はポーレット侯爵家に続く序列二位にございますから」

ここで補足、初出だがポーレット侯爵家とはカサンドラ様の大伯母様(前々王のもう一人の妹でカサンドラ様の曾祖母の姉)の家系である。つまりシャノン側。

「アレイスター様の下にバーナード伯が居ます。そのバーナード伯の下にアシュリーが居ます。ここまでいいですか?」

「はい」

「そのアシュリーの治療院を支援するのは誰ですか」

「…シャノン様です」

ほらね。これは間接的な後ろ盾とは言えないだろうか?だ・が!

「僕はアレイスター様を支持はしません」

社交界のいざこざ…とか、触らぬ神に煽りなしだわー。

「でも下町は豊かにします。こっそりと。それで良くないですか?」

あと二年…下町の賑わいは僕には必須!なんてったって、

「……そういうことですか。なるほど理解しました。この私に全てお任せください。上手く取り計らいましょう」

「期待してますよ、アシュリー」

断罪近くなってきたらアシュリーには僕の開業準備をしてもらう予定だから。それもバレないようにコッソリと。
いやー、いい人材が居て本当に良かった。思わずニッコリ。

「シャノン様、そんな風に微笑まれては…」
「そうですよ。モリセット子爵が真っ赤ではないですか」
「さあ子爵、こちらの氷菓子で熱をお冷まし下さいませ」

いいタイミングで三人が帰還。その手には山ほどの飲食物を抱えている。そして三人と交代でアシュリーは席を離れた。
真っ赤な顔をパタパタと仰ぎながら…

するとリアム君が買い入れた焼き栗をテーブルに置きながら申し訳なさそうに肩を落とした。

「あの、すみませんシャノン様。焼き菓子のカフェが混雑していて…ジンジャークッキーが買えなかったのです」
「そうなの?」

そんなにしょげなくてもいいのに…
あの時人手が無いと言っていた店主に無理を言ったのは僕で、その時僕は何と言ったか…「お手伝いしますから」確かそう言った。

「じゃあ少し様子を見てこようかな。手配したのは僕だし」
「ではご一緒します」
「じゃあアリソン様お願いします。リアム様とミーガン様は少しお休みください」

僕はジェロームの忠告をきちんと守って一人歩きはしないでいる。だから付き添いの申し出をありがたく受け入れる。
それにあの二人を置いて行ったのには理由がある。リアム君とミーガン嬢は来春婚約するそうだ。いやー、おめでたい。お邪魔虫は退散しますか。

「アリソン様はご婚約などは…」
「いいえ、私はまだまだ。リアムはハワード伯爵家の嫡男ですが私は気楽な三男ですので。父からはシャノン様について王宮に入るよう言われております」

…その未来は来ない…。僕はアリソン君の去就について責任を持とうと強く思った。

「あそこです」
「あー、本当だ、いつもの店主だ。おーい…」

ゲッ!

繁盛を超えて戦場になってる…

…入院中の僕の野望には、バイトがしたい、という項目もある。もちろんそれは断罪後に思う存分、経験するつもりだったが…予行練習をして悪いということは無い。
普通だったら侯爵令息シャノンにあるまじき行動だが…、今日はお祭り、無礼講。それに、無理やり出店をお願いしたという大義名分も今ならある。キラリン!

「アリソン様、そこにかけて少しお待ちください」
「えっ?シャノン様どこへ…」

と、勇んで参戦したのに…おかしい、こんなはずでは…

「シャノン様、申し訳ございませんがドライフルーツのケーキを三つほどいただけますか」
「は、はい!ただいま!」

「スミマセン!ベリーのタルトをくださいませ!あ、給仕はあなたじゃなくてよ。シャノン様ー、こちらですー」

なにっ!

「あの!お茶のお変わりと持ち帰りのマカロンを一袋くださいな。シャノン様の手渡しで」
「お、お待ちくださいー」

こらっ!通りすがりに注文するんじゃない!

モゴモゴ…「コーヒーをひとつ」モゴモゴ…

マスクにサングラスだと⁉ ふ、不審者!

ああ…、カッコよく注文をさばいてお役に立つはずが…より一層収拾つかなくなってるんだけど、何事!? 見るに見かねたアリソン君まで手伝ってくれているというのに…

「な!何をしているのですか!お止めくださいシャノン様!皆離れなさい!」

文化祭の様子を見に来たカイルが止めに入るまで、その終わりなき地獄絵図は続いたという…
結論。飲食店の開業だけは止めとこう…





しおりを挟む
感想 865

あなたにおすすめの小説

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

実は家事万能な伯爵令嬢、婚約破棄されても全く問題ありません ~追放された先で洗濯した男は、伝説の天使様でした~

空色蜻蛉
恋愛
「令嬢であるお前は、身の周りのことは従者なしに何もできまい」 氷薔薇姫の異名で知られるネーヴェは、王子に婚約破棄され、辺境の地モンタルチーノに追放された。 「私が何も出来ない箱入り娘だと、勘違いしているのね。私から見れば、聖女様の方がよっぽど箱入りだけど」 ネーヴェは自分で屋敷を掃除したり美味しい料理を作ったり、自由な生活を満喫する。 成り行きで、葡萄畑作りで泥だらけになっている男と仲良くなるが、実は彼の正体は伝説の・・であった。

悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)

悪役令嬢は永眠しました

詩海猫
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」 長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。 だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。 ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」 *思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……? ※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

【完結】え、別れましょう?

須木 水夏
恋愛
「実は他に好きな人が出来て」 「は?え?別れましょう?」 何言ってんだこいつ、とアリエットは目を瞬かせながらも。まあこちらも好きな訳では無いし都合がいいわ、と長年の婚約者(腐れ縁)だったディオルにお別れを申し出た。  ところがその出来事の裏側にはある双子が絡んでいて…?  だる絡みをしてくる美しい双子の兄妹(?)と、のんびりかつ冷静なアリエットのお話。   ※毎度ですが空想であり、架空のお話です。史実に全く関係ありません。 ヨーロッパの雰囲気出してますが、別物です。

婚約破棄署名したらどうでも良くなった僕の話

黄金 
BL
婚約破棄を言い渡され、署名をしたら前世を思い出した。 恋も恋愛もどうでもいい。 そう考えたノジュエール・セディエルトは、騎士団で魔法使いとして生きていくことにする。 二万字程度の短い話です。 6話完結。+おまけフィーリオルのを1話追加します。

【奨励賞】恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する

SKYTRICK
BL
☆11/28完結しました。 ☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます! 冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫 ——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」 元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。 ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。 その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。 ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、 ——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」 噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。 誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。 しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。 サラが未だにロイを愛しているという事実だ。 仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——…… ☆描写はありませんが、受けがモブに抱かれている示唆はあります(男娼なので) ☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!

処理中です...