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男爵と文通③

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ジェロームへ

お言葉に甘えてジェロームって呼ばせてもらいますね。ジェローム、とても良い名前です。なんだか舌に馴染む気がします。
髪色が黒だと書いてありましたが、それはとてもいいですね。これは運命でしょうか。僕は自慢の黒髪を失ってしまった人を知っているので、ジェロームにはその髪を大切にしてもらいたいです。今度王都のお店でオイルを買って送りますね。うるおいは大事です。

ところで最近の僕はあまり良いことがありません。何でもいいので慰めてください。

ひとつは恐ろしい変態に狙われていることです。カマ神とかいう怪しげな神様の掲げる「博愛」を僕に押し付ける異常性愛者です。「抑圧の解放」とか言って迫られた時には貞操の危機を感じました。どうにかして逃げ切るつもりでいます。僕は男らしい人が好きです。そいつは男らしくありません

もうひとつはダンスの授業があったことです。
僕はダンスが得意です。というか先日得意になりました。それ以来ダンスの授業のたびにみんなが一緒に踊ろうとして群がります。いくら僕のステップが上手いからといって、教えられるほどではありません。それに注目を浴びるのも好きではありません。目立たないよう陰でひっそりと生きてこそオタk、嗜みだと思っています。なんとかしたいです。
取り巻き(僕には取り巻きと呼ばれる友達が居るんですよ。すごくないですか?)の三人がいつも追い払ってくれて助かっています。

借金があるんですね。それは良くないです。ここだけの話ですがエンブリーの山には夢が詰まっています。重ねて言いますがここだけの話です。もう少しだけ待っててくださいね。

追伸

僕は無作法で社交の無い田舎貴族がとても魅力的だと思います。

シャノン・プリチャードより



ジェローム…、あのシャノン様が手紙とはいえ私の名を口にされるとは…天にも昇る心地とはこの事か。
田舎貴族に似合いの重たい髪と言われた黒髪さえも、シャノン様次第でこれほど輝いて見えるのだから現金なものだ。

少しお疲れなのだろうか。気落ちを感じさせるシャノン様の手紙。近くでお慰め出来たらどれ程良いか!だが、ひと時の窮状を脱したとはいえ、いまだ借財を抱え予断を許さない身。領を放置して駆けつけることなどとても出来まい!
シャノン様にまで心配をおかけして…ああ…情けないことを書くのではなかった。

だがこれはどういう意味だろう。エンブリーの山に夢が詰まって…。それはあのスコップと関係があるのだろうか。いや、あれは時期が来るまで保管しろと言われたのだ。勝手をしてはならない。それでも山中を探索するくらいは問題にならないのではないか。
シャノン様は誰にも言うなと書かれている。入山してはならないと書いておられるわけでは無い。

誰にも言わず少しだけ様子を見に行くだけなら。何か発見すれば、それはシャノン様の思惑にとって助けになるかもしれない。

私と言う男はなんと馬鹿な男であるのか。分かっている。どう言葉を並べた所で、私はシャノン様に良い所をお見せしたいだけなのだ。しょせん天上の花だというのに…
だが、私を慮りこんな田舎をとても魅力的などと言って下さるシャノン様なら…

私の差し出す見え見えの手柄に「男らしいお方」と思ってはくれないだろうか…



シャノン・プリチャード様

身の危険を感じたとはなんという事でしょうか。こんなエンブリーの田舎では何も出来ませんがとても看過できません。
失礼ながら、殿下はそれについて対策はなさらないのでしょうか?出過ぎたことを申しました。お聞き捨てください。

どうか護衛や従者から決して離れませんよう、そして学内ではそのご友人方から決して離れませんよう、重々身辺には気を付けてお過ごしください。あなたを心配して夜も眠れぬ、この憐れな私のためにも。

カマ神…それは東南地域の密教の神ですね。私も名前程度しか知りませんが、確かに博愛を掲げた神であったと記憶しています。王都を中心とした都会ではほぼ知られることのない小さな神です。この辺りにも時折東から行商がやってまいります。すこしお調べしてお知らせするとしましょう。

シャノン様のダンスにご学友が群がるのも無理のない事だと思われます。私がその場にいたら、誰を押しのけてでもパートナーに立候補するでしょう。
ささやかな、いえ、大それた夢ではありますが、いつかこの地で身内だけの小さな夜会を開き、ファーストダンスをシャノン様と踊れたら…そんな夢を見てしまう愚かな私を、どうか身の程知らずとお笑い下さい。

借財のことはどうかお気になされず。自分自身の力でなんとかしてみせる所存です。

追伸

慰めになるかどうかわかりませんが、金平糖を同封します。

ジェローム・エンブリー






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