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25 断罪と熟考

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コンラッドとアーロンには深く関わるまい。淡々と断罪までの道を切り開こう…そう心を決めて過ごす僕は、ここのところすこぶる機嫌がいい。
なぜならこのプリチャード侯爵邸は、現在ハッピーの集中豪雨を受けているからだ。

まず一つはニコールさんのおめでた。
この時代、無事出産までこぎつけのは結構大変で、ノベルゲーには出てきていないが、事実ニコールさんも二度ほど残念な結果にマクラを涙で濡らしている。
そのためこれなら大丈夫、とお産婆さん、お医者さんのお墨付きがもらえるまで知らせなかったのだとか。
知っていたのはニコールさん付きの侍女のみ。さすが侯爵邸の使用人。口が堅い。

「ニコールさん、いつ生まれるんですか?」
「ふふ、年が明けて春になる頃ですよ」

来年の3月から4月ごろが予定日か…。今が11月に入ったところで…つまり夏頃…、あ。
そんな身体の時に色々心配をおかけして…非常に申しわけない。

「おくるみ編んだら使ってくれますか?」
「まあシャノン様…。大変嬉しゅうございます」
「男の子なら跡取りですね」
「旦那様がお喜びですわ」
「名前は誰が?」
「女児ならわたくしが。男児なら旦那様が命名されると」

パパか…
僕は以前から、もしニコールさんに男の子が出来たら名付け親になりたいと考えていた。そしてその野望は継続中だ。あ。でも…

…やだなぁ、気付いちゃった。これでブラッドだけがますますプリチャードの仲間外れだってことに。でもブラッド大丈夫。子供の中で一番プリチャードじゃないの…ホントは僕だからー!
でもまあ…そんなの分からないことだし、少しくらいは優しくしてやってもいい。あ、少しだけね。ほんのちょっとね。パパンとのコーヒーブレイクに誘ってやってもいい。時々ね。

そして次に、待ちに待った文化祭が明日からはじまる。それも3日間だよ?いやー、テンション爆上がり!
模擬店の代わりは各貴族家が手配した正式な業者による出店。味と品質は保証付きだ。
因みにプリチャード家からはジンジャークッキーの店を手配した。

「シャノン様、お申し出は光栄なのですが、人手が足りないのでお引き受けかねます。非常に残念なのですが…」
「えー?でもぼくぅ…この店の焼き菓子が大好きでぇ…、ねぇ、ダメですか?」チラッ「少しくらいなら手伝いますからぁ」チラッチラッ
ガラガラガシャーン

というやりとりを経て、渋ってた焼き菓子店の店主は、僕の攻撃にあえなく撃沈した。店主は手にしていた食器を全て落とすほど、高位貴族のごり押しに狼狽えていたけど…悪いことしたかな…ちょっと反省。
でも僕は超太客。お店に毎月大金を落とすVIPなのだ。大人しく従ってもらおう。うはははは!

最後のハッピーはジェロームからの返信が到着したこと。僕たちは文通によるコミュニケーションで着々と仲を深めている。
一緒に送られてきたのは金平糖。スコップとざるのお礼だろうか?律儀だな。
まあるい容器の上蓋を開けると…キラキラした宝石粒のような、色とりどりの透明な砂糖菓子がびっしり詰まっていた。見たところそれは自家製のようだ。

僕の知ってる金平糖はウゴウゴしているスライムみたいな形をしていたが…、これはもっとこう…突起も少なく、形もサイズも不揃いで、どちらかというと砕いた宝石くずに見える。僕はふと思い立って残してあったシャノンの小さな宝石粒をその中に混ぜてみた。

シャコシャコシャコ

ほらやっぱり。混ぜたら上手くカモフラージュされた。

あの日、ニコールさんに売ってしまってはどうかと言われた、研磨もろくにされていない小さな宝石粒の数々。アクセサリー用に加工したら、ますます小さくなってしまいそうなそれを僕は大事に取ってあった。
何故目の肥えたシャノンがこんなの…とも思うが、多分お小遣いを手に入れて、一番最初に買い入れた記念の宝石だったりするのだろう。これなら10歳のシャノンにもハードルは低そうだ。

僕はこれをいざとなった時のへそくりにするつもりで残しておいたのだ。
これなら断罪後家を追い出されるときにもバレずに持ち出せる気がする。シャノンの所持目録からも外れてるし。
男爵は良いものを贈ってくれた。これなら完璧だ…。さすがに金平糖を没収はしないだろう…。ニヤリ…

よく気の利く黒髪の男爵…。年はまだ22だという話。二年後には24。うっわ、完全ストライク…会いたい…凄く会いたい…。ジュルリ…待て待て。お楽しみは、あ・と・で。

おやこれは?

その手紙には興味深い記述があった。

カマ神が東南地域の密教の神だと…?北寄りの東にあるエンブリー男爵領は東南地域からの出入りが多い。行商とか。それでも名前しか知らないほどドマイナーな神様ってことか…。王都ではほぼ知られることのない神さま…、なるほど。コンラッドが知らなくても無理はない。
教会で拾われて教会で育ったアーロンには、世界中の神様を知る手段と機会があったんだろう。

「博愛」…それはアーロンが放った、僕をちびらせる恐怖のキーワード。

僕はあれからノベルゲーのヒロイン、アーロンのことを考えていた。もちろん接触無しで断罪までこぎつけるための情報収集のために。

ノベルゲーのヒロインたるアーロンは誰よりも純粋で、無邪気で、そして優しく慈悲深い。彼は常に『心弱き者』に寄り添う治癒者カウンセラーだった。

今だからわかることだが、つまりアーロンにのぼせる人物は、もれなく心にぽっかりとあいた穴を持っていると言う事だ。
それは…心の傷トラウマであったり、はたまた喪失感であったり、劣等感であったり…色々だ。人はそれほど強くない…。たとえヒエラルキーの頂点にいたとしてもだ。

三本の矢印が既に向いた状態でノベルを開始した彼らの、ベタ惚れに至る経緯は一切描写が無い。

それでもブラッドがアーロンに心酔した理由はなんとなくわかる気がする。
彼は今でこそ恵まれた暮らしをしているが、侯爵家に引き取られるまでは商家や子爵家で折檻を受けたり、どちらかというと気の毒な生い立ちだった。それなのにシャノンにまで目の敵にされて…シャノンってば。
僕はあくまでシャノンの味方だが、それでもブラッドにだけはチョット同情している。その彼がアーロンに救いを求めても無理は無いだろう…。

ロイドは…地味すぎてよく分からないが、常時ネガティブバーストを発動していて少し粘着質な彼はノベル時からすでに依存体質だったし、まあ優しくされて心地いい言葉をかけられて…とか、そんなところだろう。

だからきっと確実に、コンラッドにもなにか心に穴があるのだ。だって彼の家庭環境を考えたらいくらだって理由は考えられる。

母のほかに5人もの愛人(側妃含む)を囲う、稼ぎはいいが家庭を顧みない浮気性の父親…。
その夫に似た容姿の息子(自分)でなく、親友の面影を残した若いツバメ(シャノン)で夫に愛されない寂しさを埋める母親。
母親違いの弟たちと、そこに渦巻く王宮内のどす黒い陰謀。(あるかないか知らないけど)

なんかこんな漫画を病院のロビーに置いてあった女性誌で読んだ気がする…



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