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20 断罪への開始宣言

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難関、作法の授業…。パチパチパチパチ!クリアー出来ましたー!

シャノンはその姿かたち、佇まいのおかげで、黙っていても3割増し所作が美しく見える。アレイスターとの予習と練習が功を奏して、手順を間違えなかっただけだというのに、何故か褒められてしまった…うへへ…

勉強会を開かない僕はこれで帰宅となる。今日も帰宅後はシャノンノートを頼りにこっそり作法の自主勉をする予定だ。今日の課題は〝ゲストの迎え方”ああ…辛い。でもあと二年はシャノンの名誉を守らねば…!くっ!早くこんな社交界から逃げ出してしまいたい…

「シャノン様、あれは…」
「ブラッド…」
「何をしているのでしょう」

ジンジャークッキーにガチハマりしている僕は、思い切って自分で買いに行こうと考えていた。シャノンはテイクアウト専門だったみたいだけど、実はその店、オープンカフェになっているらしい。
マックで買い食い…、それはDKになったらやってみたかった事の一つでもある。なのでついでにアシュリー、あ、善良な子爵のことね、を呼んで、街の清掃状況を聞くことにした。あごで大人を呼び出す子供…。ああ!なんて傲慢な断罪令息!

という訳で、リアム君に見送られ場所の待つ正門へと来てみれば、そこに居たのはブラッド。珍しく今日は一人だ。

「兄さん、あなたを待っていました」
「僕を待ってた…?何の用?」
「話がしたい。馬車に同乗していいだろうか」

良くないよ!って言えたらな…言えないけ…あ、この場合は言っても良いのか。
兄弟間の微妙な空気を察し、リアム君はササッとその場を離れていった。うん、空気の読める男は出世するらしいよ。これ前世の看護師さん情報ね。

「同乗って…、自分の馬車は?」
「…先に帰しました。焼き菓子の店ならご一緒します」
「何故それを…」
「ロイドが多分そうだろうと…」

なんでロイドは知ってるんだよ…

「一緒に帰る理由が見つからないんだけど…」
「…謝罪したい…」

僕のムカつきランキング二位のブラッドではあるが、その反面、嫌わても仕方ない…と思っているのもブラッドである。
義弟というのもあって、シャノンはブラッドに対しけっこう分かりやすく態度が悪かった。ほら、身内相手だと遠慮や配慮が無くなるから…
だからこそ僕はブラッドとは一定の距離を保って、お互い空気になろうとしているのに、わざわざ絡みに来るとか…。あれほど「ほっとけ」って言ったのに…。そんなにシャノンからパシられたのが許せないんだろうか。でもブラッドもコンラッドとの仲を見せつけるという、最も効果的な方法でシャノンにダメージを与えていたからお互い様だと思うんだけど…ダメだろうか?

「何のこと?あー、あれか!あー、あれね…。あまりに時間がたってて忘れてた。あったあった。あれかー」
「相変わらず嫌な言い方をする…」

嫌な言い方も何も…嫌味だもん。
あれから早2か月近いわけで…遅過ぎじゃない?

「どっちにしても用があるのでダメ。またの機会にお待ちしております」
「モリセット子爵に会われるのか…」
「何故それを…」
「ロイドが恐らくそうだと…」

だからなんでロイドは知ってるんだよ!
それにしても今日はやたら食い下がるな…。ブラッドがシャノンと馬車に…?あり得ない…。

「言っておくけど謝罪は本当にもういい。人間とっさの時なんて理性より本能で動くものだと思うし、好きな子の手を取っても仕方ないと、今はそう思ってる。だからこれ以上おかまいなく」

嫌われ者は辛いわ~

「…話はそれだけ?」

「…兄さん、あなたはアレイスター殿下をどうされるおつもりですか」

うん?アレイスター?ああ!お昼一緒したのもうバレてんのか。早いな…。あ、コンラッドのパシリ使ったんだった…。二股とか思われてるのだろうか。けど、こいつらにだけは言われたくない。そもそもそんな気ないし。

「彼とは今後も昼食をご一緒したいと思ってる」

それはもう、とっても。王室仕様の所作を持つマイ救世主、それがアレイスター・ルテティア第二王子。

「それが王妃殿下の不興を買ってもですか?」

王妃の不興?まあ王妃にとってアレイスターは夫の浮気証明、みたいなものだし…。シャノンとアレイスターの接近は良い気分じゃないか…。だからといって…

「僕の未来(秋期成績)に責任が持てるのは僕だけだから…」

「…っ!…兄さん、…僕とコンラッドは意見を交わしました。彼は行いを改めあなたに対し誠実に向き合うと約束しています。僕もあなたともう一度やり直したい。共にコンラッドを、この国の未来を支えていきたい」

ぎょぎょ!何を言いだす!改める…とかやり直す…とか、断罪に必要ないでしょうが!

「ブラッドはそのままでいい。僕はひどい兄さんだった。これからもひどい事をする。ブラッドの未来に僕を入れないで」

むしろここからが本番なのに…、共に…とか、何言ってるかわかんない。コンラッドの未来にもブラッドの未来にも僕は不在予定だ。

「兄さん…で、ではせめて!せめて命を大切にすると!そう仰って下さい!じゃないと僕は…」

…ん?どこにかかる言葉だろうか?転落のことを言ってるなら、あれは事故でしょうが。
僕は5年の闘病を経て転生した男。命の大切さなら、きっとここにいる誰よりも本気で身に染みている。

「大切にするからこそだよ。…だからこそ意味のある人生にしたい…」

だからこそコンラッドには何が何でも僕を断罪してもらわなくては。アーロンを守り自分の伴侶とするため、邪魔者シャノンを社交界から徹底的に排除するがいい!その先で僕を待っているのは限りない自由!

でもそうだな…。ニコールさんと親しくなった今、少しはブラッドにも幸せな人生を歩んでもらいたい。あんな良い人の悲しむ顔を見たくはない。

「人生は一度きり。ブラッドも意味のある人生にしなよ。誰かにふりまさわれて人生を終えないで」

ノベルのエンディングの一つにはアレがある。コンラッドと結婚してもブラッド、ロイドを横にはべらせハーレム要員として友人以上、愛人未満でイチャイチャし続けるアーロン博愛エンドが。
一人息子が友人の妻に鼻の下をのばして結婚もせず生涯をDTで終える…なんて、母としては気が気じゃないだろうからそれだけは阻止しといてあげるとしよう。

「ブラッドならきっと一皮むける。必ず出来るから」
「兄さん…」

何が、とは聞かないで欲しい。えー、…ご想像にお任せします。






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