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17 断罪への入り口
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目の前にそびえる巨大な門。これが『愛は光の向こう側』のメインステージ、ルテティア王立貴族学院か…。
僕は今シャノンとして門前に立ちながら、大いなるプレッシャーに押しつぶされそうになっていた。
しかしその一方で、5年前に実現できなかった高校デビューがここにある…という感動に震えてもいた。
失われた学生生活がここにある…。中学生では得られない、ほんの少し大人に近づいた青春が…。ドキドキドキドキ…
ま、ままま、待て!
僕はシャノン…。怖いものなど何もな…
「シャノン様」
ドッキーーー!!!
「門前でいったい何を…」
「バカねあなた!ほら!」
「あ…っ」
し、心臓が飛び出るかと思った…。
彼らはクラスメイトのお嬢様とお坊ちゃま。暗記してきた名簿に名前のあった人たちだ。あの名簿が写真付きだったのはまさに神様の思し召し。僕はもってる!
彼らの様子を見るに、休みの間に起きた事件は周知なのだろう。一体誰だ!家庭内の問題をべらべら話して回ったのは!
「シャノン様、その…良ければご一緒しましょう。どこでアーロンと顔を合わせるか分かりませんし」
「そ、そう?じゃ…」
僕は話しかける彼らの話を黙って聞きながら、ようやく門を超え、広い講義室へと足を踏み入れた。
なるほど。貴族の子女ばかりが集まるこの教室は机の一つ一つまでもがとても大きくゆったりとした造りになっている。
教科書を置くと、僕は覚えてきた知識をもう一度思い浮かべた。
小学校から中学に当たる部分は主に家庭教師によって各家庭で行われる。つまりお金にものを言わせて良い教師をつけられる家の子ほど学習は進む。
そして15で入学するこの貴族学院とは前世で言う高校だ。だけど授業の進め方は大学に近い。
一年次は主に必修科目が中心で教養の基礎を学ぶ。二年次からは選択授業が中心となり、各々専門科目を学んでいく。
一講義はおよそ2時間。午前と午後に一講義ずつ。宿題はなく、代わりに定期のレポート提出がある。また講義の後は、部活の代わりに友人同士で勉強会を開き学びを深めるのが普通だ。けどシャノンはお妃教育が忙しくて勉強会はいまだ開いていない。
地味にありがたかったのは通学鞄の中からシャノンの日記を発見したこと。
それはその日の覚書…程度の簡単なもので、何時にどこに行った、とか、誰と何を食べた、といったささやかなメモ。そこに感情の記述は一切ない。正確には日記というより箇条書きの行動記録だ。
それでも、繰り返し何度も出て来る名前があれば、きっと親しいんだな…というのは想像つくし、何度も出て来る店名があれば、常連なんだな…というのは読み取れる。ジンジャークッキーの店もそれで知った。アレは美味しい。
これとノベルの記憶だけが僕のもつ必勝アイテム…。僕はこれらを武器に立派にシャノンになりきって見せる!栄光の断罪を掴むまでは!
「ああシャノン様!とてもお会いしとうございました。休暇の間何度もプリチャード邸へ便りを出しましたがお読みになってはおりませんか?」
促されるまま席に着いた僕のもとへ駆け寄って来る男女が三人。彼らは日記に頻繁に出てくるシャノンの取り巻き、クーパー伯爵家の…確かアリソン君とハワード伯爵家の…リアム君…、それからえっと、チャムリー侯爵家のミーガン嬢だ。ノベル的にはまごうこと無きモブキャラである。
エライご子息であるシャノンには取り巻きが居る。といっても彼らはお家の意向でシャノンにすりよる、知り合い以上、友達未満だ。シャノンは誰とも慣れ合わない、孤高のご令息なのである。
手紙をくれたのはミーガン嬢。でもあの状況で事前準備も無しに誰かに会う事は出来なかった。
「色々あって…。返事も出来なくてごめんなさい」
ザワ…
何今のざわめき…。こ、コワい。慣れるまで少し黙っとこう…
「シャノン様…、気弱になっておられるんですね。無理もありませんが…」
「そうだ!今日のお昼はご一緒しませんか?そのつもりで今日はシャノン様のお好きな鶏のパイ詰めをお持ちしたんですよ」
何っ!チキンのパイ詰め…食べたい…
ニッコリ
ザワザワ…
ああもう…どうしろっての…
そのとき、僕の一挙手一投足でざわつく講義室内に、本物のざわめきが広がった。うん?コンラッドの登校か?あっ!
「シャノン様…!」
アーロン!
さて、このアーロンだが、第一王子のオキニとして特別扱いされまくり、相当学生たちの妬みや嫉みを集め、敬遠されているかと思いきや…、実はそうでもない。
さすがは第一王子とその側近を骨抜きにした主人公、その魅力はまるで魔法のチャームのように人々を魅了してやまないのだ。
ノベル時から思っていたのだが、アーロンの微笑みに迎撃されるのは主に゛弱き者”である。
ここで言う弱き者とは、立場とか腕っぷしではなく、心の弱さである。
弱き者、または弱っている者にそっと優しく寄り添うのが『聖なる力』の神子に限りなく近い場所にいる、アーロンという人物なのだ。
おかげで学院内でも四分の一はアーロン信奉者である。そして四分の二が傍観者。残りがシャノン寄りの保守派である。
傍観者である四分の二がアーロンに傾いた時…、それこそが僕の断罪タイム。その第一歩が今だ。
僕に駆け寄ろうとするアーロン。だがその接近は鉄壁のガードによって阻止される。
「聞いておりますよアーロンさん。あなたが原因でシャノン様は死にかけたとか…」
「そのあなたがシャノン様に何の用ですか!」
「何を言うんだ!」
「アーロンさんにおかしな言いがかりをつけるとは、それでも紳士か!」
「黙れ!言いがかりなものか!」
げっ!場外乱闘…
ま、まぁ…口伝いに話が大きくなるのはあるあるだし…こういうのは後で真実がバレた時こっちの立場が悪くなる。軽く訂正しとこうか。
「アリソン様、それほどのケガはしていません。ほんの軽傷です」
「シャノン様!こんな人を庇う必要はございません!」
「そうです!出仕も出来ない程の大怪我だったと当家のメイドから聞いておりますわ!」
…噂をまき散らしたのはメイドたちか…。まぁこれもあるある…。
「ですがお詫びをしたいと思っていたのです!あの時だって本当は…!でもコンラッドが送るといって僕の手を強引に…」
「殿下をコンラッドなどと…!無礼ですよ!」
そーだそーだ!それになんだその言い分。それマウント?マウントなの?
「翌日以降もお詫びをしたいと何度かお屋敷に足を運んだのです。ですがブラッドが今は無理だと、そう言ってその度に教会まで連れ戻されて…」
それ…ブラッドとお散歩デートをしたという報告かな?
「あのこれ…、ロイド様がくださった花で作った栞です。小さな花がかわいかったのでお詫びの印に…」
…あー…、居るんだよねぇ…、こうやってナチュラルに煽ってくタイプ…。自覚は無いんだろうけど、アーロンお前ってやつは…
「こんな粗末なものシャノン様がご使用になると思っているのか!」
「厚かましいにもほどがあるわ!何よこんなもの!」パシィ
「「あ…っ」」
栞に貼られていたのはノコギリソウの花。『治癒』の意味を持つこの花をお母さんはいつも花瓶に飾っていた。真っ白な病室は殺風景だからと言って…
「いけません床になど…!」
「し、シャノン様…」
「……」
くれるって言うんだからこのまま貰ってもいいよね…。僕はほんの少しだけ前世を懐かしんだ…
僕は今シャノンとして門前に立ちながら、大いなるプレッシャーに押しつぶされそうになっていた。
しかしその一方で、5年前に実現できなかった高校デビューがここにある…という感動に震えてもいた。
失われた学生生活がここにある…。中学生では得られない、ほんの少し大人に近づいた青春が…。ドキドキドキドキ…
ま、ままま、待て!
僕はシャノン…。怖いものなど何もな…
「シャノン様」
ドッキーーー!!!
「門前でいったい何を…」
「バカねあなた!ほら!」
「あ…っ」
し、心臓が飛び出るかと思った…。
彼らはクラスメイトのお嬢様とお坊ちゃま。暗記してきた名簿に名前のあった人たちだ。あの名簿が写真付きだったのはまさに神様の思し召し。僕はもってる!
彼らの様子を見るに、休みの間に起きた事件は周知なのだろう。一体誰だ!家庭内の問題をべらべら話して回ったのは!
「シャノン様、その…良ければご一緒しましょう。どこでアーロンと顔を合わせるか分かりませんし」
「そ、そう?じゃ…」
僕は話しかける彼らの話を黙って聞きながら、ようやく門を超え、広い講義室へと足を踏み入れた。
なるほど。貴族の子女ばかりが集まるこの教室は机の一つ一つまでもがとても大きくゆったりとした造りになっている。
教科書を置くと、僕は覚えてきた知識をもう一度思い浮かべた。
小学校から中学に当たる部分は主に家庭教師によって各家庭で行われる。つまりお金にものを言わせて良い教師をつけられる家の子ほど学習は進む。
そして15で入学するこの貴族学院とは前世で言う高校だ。だけど授業の進め方は大学に近い。
一年次は主に必修科目が中心で教養の基礎を学ぶ。二年次からは選択授業が中心となり、各々専門科目を学んでいく。
一講義はおよそ2時間。午前と午後に一講義ずつ。宿題はなく、代わりに定期のレポート提出がある。また講義の後は、部活の代わりに友人同士で勉強会を開き学びを深めるのが普通だ。けどシャノンはお妃教育が忙しくて勉強会はいまだ開いていない。
地味にありがたかったのは通学鞄の中からシャノンの日記を発見したこと。
それはその日の覚書…程度の簡単なもので、何時にどこに行った、とか、誰と何を食べた、といったささやかなメモ。そこに感情の記述は一切ない。正確には日記というより箇条書きの行動記録だ。
それでも、繰り返し何度も出て来る名前があれば、きっと親しいんだな…というのは想像つくし、何度も出て来る店名があれば、常連なんだな…というのは読み取れる。ジンジャークッキーの店もそれで知った。アレは美味しい。
これとノベルの記憶だけが僕のもつ必勝アイテム…。僕はこれらを武器に立派にシャノンになりきって見せる!栄光の断罪を掴むまでは!
「ああシャノン様!とてもお会いしとうございました。休暇の間何度もプリチャード邸へ便りを出しましたがお読みになってはおりませんか?」
促されるまま席に着いた僕のもとへ駆け寄って来る男女が三人。彼らは日記に頻繁に出てくるシャノンの取り巻き、クーパー伯爵家の…確かアリソン君とハワード伯爵家の…リアム君…、それからえっと、チャムリー侯爵家のミーガン嬢だ。ノベル的にはまごうこと無きモブキャラである。
エライご子息であるシャノンには取り巻きが居る。といっても彼らはお家の意向でシャノンにすりよる、知り合い以上、友達未満だ。シャノンは誰とも慣れ合わない、孤高のご令息なのである。
手紙をくれたのはミーガン嬢。でもあの状況で事前準備も無しに誰かに会う事は出来なかった。
「色々あって…。返事も出来なくてごめんなさい」
ザワ…
何今のざわめき…。こ、コワい。慣れるまで少し黙っとこう…
「シャノン様…、気弱になっておられるんですね。無理もありませんが…」
「そうだ!今日のお昼はご一緒しませんか?そのつもりで今日はシャノン様のお好きな鶏のパイ詰めをお持ちしたんですよ」
何っ!チキンのパイ詰め…食べたい…
ニッコリ
ザワザワ…
ああもう…どうしろっての…
そのとき、僕の一挙手一投足でざわつく講義室内に、本物のざわめきが広がった。うん?コンラッドの登校か?あっ!
「シャノン様…!」
アーロン!
さて、このアーロンだが、第一王子のオキニとして特別扱いされまくり、相当学生たちの妬みや嫉みを集め、敬遠されているかと思いきや…、実はそうでもない。
さすがは第一王子とその側近を骨抜きにした主人公、その魅力はまるで魔法のチャームのように人々を魅了してやまないのだ。
ノベル時から思っていたのだが、アーロンの微笑みに迎撃されるのは主に゛弱き者”である。
ここで言う弱き者とは、立場とか腕っぷしではなく、心の弱さである。
弱き者、または弱っている者にそっと優しく寄り添うのが『聖なる力』の神子に限りなく近い場所にいる、アーロンという人物なのだ。
おかげで学院内でも四分の一はアーロン信奉者である。そして四分の二が傍観者。残りがシャノン寄りの保守派である。
傍観者である四分の二がアーロンに傾いた時…、それこそが僕の断罪タイム。その第一歩が今だ。
僕に駆け寄ろうとするアーロン。だがその接近は鉄壁のガードによって阻止される。
「聞いておりますよアーロンさん。あなたが原因でシャノン様は死にかけたとか…」
「そのあなたがシャノン様に何の用ですか!」
「何を言うんだ!」
「アーロンさんにおかしな言いがかりをつけるとは、それでも紳士か!」
「黙れ!言いがかりなものか!」
げっ!場外乱闘…
ま、まぁ…口伝いに話が大きくなるのはあるあるだし…こういうのは後で真実がバレた時こっちの立場が悪くなる。軽く訂正しとこうか。
「アリソン様、それほどのケガはしていません。ほんの軽傷です」
「シャノン様!こんな人を庇う必要はございません!」
「そうです!出仕も出来ない程の大怪我だったと当家のメイドから聞いておりますわ!」
…噂をまき散らしたのはメイドたちか…。まぁこれもあるある…。
「ですがお詫びをしたいと思っていたのです!あの時だって本当は…!でもコンラッドが送るといって僕の手を強引に…」
「殿下をコンラッドなどと…!無礼ですよ!」
そーだそーだ!それになんだその言い分。それマウント?マウントなの?
「翌日以降もお詫びをしたいと何度かお屋敷に足を運んだのです。ですがブラッドが今は無理だと、そう言ってその度に教会まで連れ戻されて…」
それ…ブラッドとお散歩デートをしたという報告かな?
「あのこれ…、ロイド様がくださった花で作った栞です。小さな花がかわいかったのでお詫びの印に…」
…あー…、居るんだよねぇ…、こうやってナチュラルに煽ってくタイプ…。自覚は無いんだろうけど、アーロンお前ってやつは…
「こんな粗末なものシャノン様がご使用になると思っているのか!」
「厚かましいにもほどがあるわ!何よこんなもの!」パシィ
「「あ…っ」」
栞に貼られていたのはノコギリソウの花。『治癒』の意味を持つこの花をお母さんはいつも花瓶に飾っていた。真っ白な病室は殺風景だからと言って…
「いけません床になど…!」
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