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第二王子と連れシ…

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「シャノン様…、こうして付いてこられても私にはどうすればよいか…」
「と、トイレ、えっと、とりあえずお手洗いに行きましょう!」

有無を言わせぬ僕の気迫は、アレイスターをトイレまでの案内人に就職させた。
奥庭の出入り口で僕を待ってたカイルが、猛烈な勢いの僕とアレイスターを見てギョッとしていた気がするけど…それどころじゃない。き、危機一髪…。もう少しでシャノンの尊厳を失うところだった…。

「ふー…」

スッキリ。

「泣いておられたのか」

「え?」

「個室の中で、涙を流しておられたのか…」

な、なんのこと?あー、もしかして貴族はトイレもそういう表現するの?アイドルが「お花摘みに行ってきます♡」って言うみたいな…?一個覚えた。

「ええまぁ…」

「先ほどからあなたの目はずっと私に救いを求めておられた。違うだろうか」

違わない…。全然違わない…。僕はずっとマナーの救いを求めてアレイスターの動きをトレースしていたのだから。

「こんなことになるのならもっと早い段階で声をお掛けすればよかった…。だがあなたは私のことなど相手にもされないだろうと思っていたのでね」

「ううん、僕こそもっと早く言えば良かった」

お手洗いに行かせてください…って。
アレイスター王子はコンラッドの背景を紹介するテキストに名前が出てきただけ。どういう人かもわからない。けど…僕をトイレに案内してくれた。味方なのは間違いない。

「シャノン様、王妃の前では言いませんでしたが下町での善行、聞いております」
「善行…何のことでしょう?」

したっけ?そんなの。…いいや、してない。

「ふふ、そうですね。下町で庶民と共にスープを口にした、などと…、王妃アドリアナ様は良い顔をしないでしょう。これは私の胸にしまっておきます」

なるほど。王妃の価値観はシャノン側か。嫁姑の仲は保証されてたらしい。そういえば王妃はシャノンを、講義が終わってからもしょっちゅう部屋に呼んでたっけ。

「ですがこれを聞けば、シャノン様を誤解している兄も考えを改め…」
「お止めください!」

「シャノン様…」

どいつもこいつも。どうしてこう、余計な事をしようとするのだろう。だから断罪されたいって言ってるでしょーが!

「フクスケは盆に帰らないんですよ」
「え…?」

「一度起きたことは無かったことに出来ないんです。改めるとか…必要無いです」

「ではあなたは婚約をどうされるおつもりか。アドリアナ様がもっとも危惧しておられるのはその事だと思われるが…」

「現状維持で。僕からは何も言いません。そんな事…とても出来ない!そんなことしたらお父様が…」

改めてめんどくさい相手見繕っちゃうでしょーが!

「そうか…。ならばアドリアナ様には私からお伝えしよう。それを聞けば少しは安堵なさるだろう。だがシャノン様、あなたは本当は…」

「その先は言わないで。言っちゃ駄目です」

アレイスター、何に気付いた…?だがそれを言ってはならない…。僕が平民街で面白おかしく暮らそうとしている事だけは…。

無事速やかに断罪が完了するまでは!


---------------


その日、第二王子である私の側近、バーナード伯爵家のヘクターから聞かされたのは耳を疑うような話だった。

彼、ヘクターの父であるバーナード伯は王都の端にある平民街を管理している。と言ってもそれらは補佐にあたるモリセット子爵が受け持っていたが。
モリセット子爵は平民街のもっとも貧しい地区で保護活動をする善良な御仁である。私も匿名で何度か寄付をした。

何故匿名でなければならなかったのか…。それは平民街の一部で、私を支持するバーナード伯と異母兄コンラッドを支持するフレッチャー侯が反目しあっているからだ。
フレッチャー侯は第一王子であるコンラッドが、平民街の教会を、つまり『聖なる力』の神子候補を「陛下の命により保護するように」と声を挙げたため、これ幸いと税収の多い裕福な地域だけを、少しばかり強引に奪ってしまった。

そんな状況下でモリセット卿に寄付をした…などと知れたらどのような火種になるか分かったものではない。だからこそ匿名でその崇高な行いに手を貸したのだ。

その曰くある平民街にシャノンが堂々と援助をした。これはある種の危険をはらむ。私はそれを王妃であるアドリアナ様の耳に入れた。

コンラッドとシャノンの冷え切った関係は何年も前から王宮内でも周知のことだ。
だがシャノンは何も言わず、ただ淡々と与えられた責務をこなしていたし、コンラッドも形式としてシャノンを正妃とすることに疑問は感じていなかった。
相性の悪い夫婦など社交界にはいくらでもいる。そこにあるのは家門と家門の契約だ。

事を荒立てぬのならそれでよい、と誰もが口を挟まず静観してきたのだが、それが一変したのは貴族学院に、その神子候補であるアーロンが入学してからだ。

アーロンに夢中になったコンラッドは傍目で分かるほどにその態度を暴走させた。
シャノンへの無関心が、シャノンへの無作法へと形を変えたのだ。

学院入学からわずか四か月、たった四か月で…あの最悪な事態は起こった。

あの日、狼狽した顔で戻ったコンラッドを見れば、その責がコンラッドにあることは何となくだが想像ついた。
こうなることを危惧して、彼の側近であるロイドを通し、私は何度も忠告したのだ。たとえ愛せなくとも礼は尽くせと。

それ以来、怪我を理由に出仕を止めたシャノン。傷心なのだろう…。だがシャノンは第三妃の息子である私の見舞いなど喜びはすまい。

そう思い対岸の火事とばかりに口を挟まずいたのだが…、そんな矢先の報告だった…。

スキッド地区への援助。そこに何かを感じ取った王妃は、プリチャード侯爵にシャノンの出仕を強要した。だが今回ばかりは侯爵も首を縦には振らなかった。そこで謝罪という形でシャノンを呼びだしたのだ。その思惑を見定めるために。

だがシャノンの視線は決してコンラッドには向けられない。何度も俯き言葉を探す。スキッド地区の話に触れたことで私に戸惑いの視線を寄越すシャノン。意外にも幼い表情。思えば彼をこれほど近くで見るのは初めてかも知れない。シャノンは常に王妃が抱え込んでいたから…。

その王妃に対し毅然と答えるシャノンは今までの彼ではない。常に王妃を母と慕い、意に沿い行動してきたはずのシャノンが反論するなど…。私たちは彼の変化を思い知る事となった。

解けない緊張、彼の眼は常に私を見ている。自意識過剰…そうだろうか?彼の動きはまるで私の動きを追うようで…何かを伝えようとしている。だが何を?そこにある意図を…私は測れずにいた。
だがシャノンが北部の修道院に大掛かりな寄付をしたこと、それはとても偶然などではないと思えた。北部は…母の生まれ故郷だ。

物言わぬシャノンに、焦りからかコンラッドを促す王妃。だがシャノンの手は、身体は、小刻みに震えている…。いたたまれず席を立てばシャノンもまた席を立つ。「僕を連れて行って!」そう悲痛な声をあげながら…。

仮面をかぶるのが誰よりも上手かったシャノン。…彼の中に隠された激情を初めて知った…

プリチャード侯爵の立場を慮って自分から婚約解消は申し入れないと言うシャノン。つまりシャノンの命運は王家にある。王妃はお喜びになるだろう。だがシャノンの気持ちはどうなる…?

彼のために私は何がしてやれるのだろう…



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