上 下
6 / 176

5 VS義弟

しおりを挟む
うっかりうたた寝していたら時刻は深夜、食事を食べ損ねてしまった身体はお腹の限界を訴えている。

亡くなる直前、すでに点滴でしか栄養を取れていなかった僕は、現在食事への欲求が大変なことになっている。明日の朝まで…なんて待てそうにない。
そっと扉を開け…抜き足差し足…忍びあ

「兄さん」

ドキィ!

「こんな時間にどこへ」

ブラッドか…。こいつ…シャノンが嫌いならいちいち声かけないで放っておけばいいのに。スルースキル低いな…。

「お腹が空いて…」
「いい加減なことを…」

ホントだっつーの。それより台所はどこだろう…。ハムとか果物とか、そのまま食べられそうなものは無いかな。

「誰かお呼びになれば良いでしょう。何故ここに?」

あっ…、そ、そういう仕組みね。一個覚えた。

「いつもならたとえハンカチ一枚でも僕を呼びつけ取りに行かせるではありませんか」

そんなことしてたのかシャノン…。ひどいな。

「き、今日はこれ以上誰にも迷惑かけたくなかったので」
「…ではご一緒します…」

「え…、お構い無く」
「どういう風の吹き回しですか?何を企んでいるんです?」

拗らせている…。ブラッドに関してはさすがに分からないでもない。だからと言って、取り繕ったところでどうせシャノンとブラッドの仲が改善することは無いだろうし、断罪のためには嫌われてなんぼなんだから…、うん。この際ノベルの感想でも言っとくか。

「いちいち僕のことなんか気にしなけりゃいいのに」
「え…?」
「何を言われようが気にしなければいいんだよ。シャ、僕に逆らったからって何も困らないだろうに」
「何を言って…」

家内の権限は所詮父親にあるんだし?その父親は溺愛するシャノンでさえ、人格矯正のために家を追い出すくらい厳格なわけだし?シャノンの我儘をスルーしたってブラッドを理不尽に罰したりは、…多分しない。ような気がする。
つまり…よく考えたらシャノンが何言ったところで、家庭内の雰囲気が悪くなるだけで大して困らないじゃないか。ならシャノンが何を言おうが、こうるさい小姑…とでも思って流せばいいのに。
いちいち構うからこじれるんだって…。

「嫌味言われたからって何なの?」

あーあ、怖い顔して。けどブラッドは自分だけが辛い気でいるがシャノンの立場になってみれば言いたいことの一つや二つや三つや四つはあるのだ。

「僕が嫌い?」
「好かれているとでもお思いですか…?」
「でもそんなのお互い様だから」
「な…!」

「そもそもあの王宮で殿下がシャ、僕をハブってブラッドだけ連れていくのを、一体どんな気持ちで見てたと思う?そんなにブラッドが好きならブラッドと婚約すればいいのに、って思ってたよね」
「兄さん!」

思ったのはついさっきだけど。

「仕方ないじゃないですか。兄さんには王太子妃教育があったのですから」

「そう、仕方ない。コンラッド様が僕にニコリともしないで「ごきげんよう」って言った直後、ブラッドの手を取りこれみよがしに満面の笑みで「さあ行こうブラッド」っていうのも仕方ない。勉強が終わったら合流しようと思っても、僕が動物苦手なの知ってて、いつも嫌がらせみたいに偶然狩場に居たのも仕方ない」

長い入院生活でいろいろ達観してた僕でさえドン引きさせた三人の蛮行。どう考えてもないから。

「放置される気持ちをブラッドが分からないのも仕方ないし、「兄さんも一緒に」その言葉が出ないブラッドの気のきかなさも仕方ない。なら僕がイライラして八つ当たりしたくなるのも仕方ないって思わない?」

「コンラッドが兄さんを敬遠するのは、兄さんがつんけんしていたからではないですか。そう仰るならもっと可愛げのある態度をおとりになれば良かったのに…」

ギクッ!バレたか…

「…れ、連日のお妃教育に疲れ果ててたんだから仕方ないでしょーが!あー、いいよね第一王子のオキニたちは!いつも王子と遊ぶだけで!」

これを逆ギレと言う…。ええい!逆ギレして何が悪い!

「だ、だいたいさあ、母を亡くしたシャ、僕の目の前で母さん母さんって甘えまくって…その無神経も僕は仕方ないって思わなきゃいけないかなぁ?」

「そ、それは…」

シャノンが気にしてた描写はなかったけど…だからと言って普通に考えてアレは無いよね。

「だけど兄さんは僕をまがい物の侯爵令息と呼んだ!許せるとお思いか!」
「し、仕方ないよね。母親も、婚約者も、シャ、僕の欲しいものは全部ブラッドのものだったんだから」
「こ、婚約者は兄さんのもので…」
「はぁぁ?それ本気?」
「……」

だよねー。その婚約者を独り占めしていたやつが何を言う!

「それでもあなたが許せない!たとえ八つ当たりでも僕を使用人のように扱っていいはずがない!」

あかん…、シャノン、どうやってもかばいようがないわ…

「で、でで、でもブラッドは商家でも出戻った子爵家でも、もっとひどい折檻されてたよね?」

「…っ!誰からそれを…」

あ、これノベルのテキスト情報ね。

「だ、誰でもいいでしょーが!とにかく!その折檻より僕の八つ当たりの方が許せないっておかしいでしょ!」
「…!…」

どうだ!この、「僕は何一つ悪くありません。全部周りが悪いんです」のなすりつけ攻撃は。ああ…!なんて自分本位な断罪令息!

言葉に詰まった彼がフリーズしている今がチャンスとばかりにそーっと後退する。
お腹を空かした僕がブラッドを放置したまま食料を探して階下へ降りるのも…もちろん仕方ないよね?



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

公爵家の五男坊はあきらめない

三矢由巳
BL
ローテンエルデ王国のレームブルック公爵の妾腹の五男グスタフは公爵領で領民と交流し、気ままに日々を過ごしていた。 生母と生き別れ、父に放任されて育った彼は誰にも期待なんかしない、将来のことはあきらめていると乳兄弟のエルンストに語っていた。 冬至の祭の夜に暴漢に襲われ二人の運命は急変する。 負傷し意識のないエルンストの枕元でグスタフは叫ぶ。 「俺はおまえなしでは生きていけないんだ」 都では次の王位をめぐる政争が繰り広げられていた。 知らぬ間に巻き込まれていたことを知るグスタフ。 生き延びるため、グスタフはエルンストとともに都へ向かう。 あきらめたら待つのは死のみ。

悪役令息に憑依したけど、別に処刑されても構いません

ちあ
BL
元受験生の俺は、「愛と光の魔法」というBLゲームの悪役令息シアン・シュドレーに憑依(?)してしまう。彼は、主人公殺人未遂で処刑される運命。 俺はそんな運命に立ち向かうでもなく、なるようになる精神で死を待つことを決める。 舞台は、魔法学園。 悪役としての務めを放棄し静かに余生を過ごしたい俺だが、謎の隣国の特待生イブリン・ヴァレントに気に入られる。 なんだかんだでゲームのシナリオに巻き込まれる俺は何度もイブリンに救われ…? ※旧タイトル『愛と死ね』

実はαだった俺、逃げることにした。

るるらら
BL
 俺はアルディウス。とある貴族の生まれだが今は冒険者として悠々自適に暮らす26歳!  実は俺には秘密があって、前世の記憶があるんだ。日本という島国で暮らす一般人(サラリーマン)だったよな。事故で死んでしまったけど、今は転生して自由気ままに生きている。  一人で生きるようになって数十年。過去の人間達とはすっかり縁も切れてこのまま独身を貫いて生きていくんだろうなと思っていた矢先、事件が起きたんだ!  前世持ち特級Sランク冒険者(α)とヤンデレストーカー化した幼馴染(α→Ω)の追いかけっ子ラブ?ストーリー。 !注意! 初のオメガバース作品。 ゆるゆる設定です。運命の番はおとぎ話のようなもので主人公が暮らす時代には存在しないとされています。 バースが突然変異した設定ですので、無理だと思われたらスッとページを閉じましょう。 !ごめんなさい! 幼馴染だった王子様の嘆き3 の前に 復活した俺に不穏な影1 を更新してしまいました!申し訳ありません。新たに更新しましたので確認してみてください!

使い捨ての元神子ですが、二回目はのんびり暮らしたい

夜乃すてら
BL
 一度目、支倉翠は異世界人を使い捨ての電池扱いしていた国に召喚された。双子の妹と信頼していた騎士の死を聞いて激怒した翠は、命と引き換えにその国を水没させたはずだった。  しかし、日本に舞い戻ってしまう。そこでは妹は行方不明になっていた。  病院を退院した帰り、事故で再び異世界へ。  二度目の国では、親切な猫獣人夫婦のエドアとシュシュに助けられ、コフィ屋で雑用をしながら、のんびり暮らし始めるが……どうやらこの国では魔法士狩りをしているようで……?  ※なんかよくわからんな…と没にしてた小説なんですが、案外いいかも…?と思って、試しにのせてみますが、続きはちゃんと考えてないので、その時の雰囲気で書く予定。  ※主人公が受けです。   元々は騎士ヒーローもので考えてたけど、ちょっと迷ってるから決めないでおきます。  ※猫獣人がひどい目にもあいません。 (※R指定、後から付け足すかもしれません。まだわからん。)  ※試し置きなので、急に消したらすみません。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

泣くなといい聞かせて

mahiro
BL
付き合っている人と今日別れようと思っている。 それがきっとお前のためだと信じて。 ※完結いたしました。 閲覧、ブックマークを本当にありがとうございました。

婚約破棄された公爵令息は、周囲に溺愛される

白鳩 唯斗
BL
卒業パーティーで皇太子ユーリスの婚約者である公爵令息レインは、皇太子の浮気相手を虐めたとして婚約破棄をされてしまう。平然とした様子で婚約破棄を受け入れるも、ユーリスを好きだったレインは涙を流した。 主人公が老若男女問わず好かれるお話を目標にします。貴族間の難しいお話は正直書きたくないです。主人公は優しすぎて多分復讐とか出来ません。 ※作者の精神が終了したので主人公が救われる話が書きたいだけです。適当に気分で書きます。いつ更新停止してもおかしくありません。お気に入りあまりしないで欲しいですm(_ _)m 減るとダメージ凄いので······。

第十王子は天然侍従には敵わない。

きっせつ
BL
「婚約破棄させて頂きます。」 学園の卒業パーティーで始まった九人の令嬢による兄王子達の断罪を頭が痛くなる思いで第十王子ツェーンは見ていた。突如、その断罪により九人の王子が失脚し、ツェーンは王太子へと位が引き上げになったが……。どうしても王になりたくない王子とそんな王子を慕うド天然ワンコな侍従の偽装婚約から始まる勘違いとすれ違い(考え方の)のボーイズラブコメディ…の予定。※R 15。本番なし。

処理中です...