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「おいレイ。それであの子供たちはどうなったって?」
「…獣人の子供たちはグレアムが拡張した『止まり木』で元気に働いている」
久しぶりに顔を出したメルビンが、あの事件後ここで面倒を見ている獣人の子供たちの様子を伺う。
メルビン自身も大勢の少年少女を引き受けることになって大変だったというのに、彼は本当に優しい人だ。
レイが僕を選んで伯爵家から勘当された時も、僕たちを心配して何くれと世話を焼いてくれたのがこのメルビンだ。レイは良い友人に恵まれたと思う。
もう一人の友人である偏屈なグレアム様も、その心根はとてもお優しい。だからこそ家を捨て平民になったレイと、こうして変わらず友人でいてくれるのだし、ルーイの事情を知って、誰よりも心を砕かれたのだ。
まさか気難しいグレアム様がそのルーイを伴侶にされるとは、小さなルーイを保護したあの日、想像してもみなかったけど…
「拡張費はグレアムが出したのか?だけど5人もどうしてるんだ?」
「向かいの空き家を手に入れ彼らの住まいにして、その庭で野菜を作らせてる」
「自家栽培か…。それでもやってくる客なんか限られるだろ?やってけんのか?」
「それがね、ルーイのとって来る珍しいキノコが希少種だったみたいでね」
「驚いたことに噂が噂を呼んで領外からも買い付けに来る。何でも『厨房のダイヤモンド』、とか言われるキノコだそうだ」
あの行方不明騒動の時、ルーイが呑気に『レイさんおみやげだよ」と手渡してくれた枯れ落ちた果実のようなキノコは見た目に反し、その芳醇な味や薬効によって、貴族の間でとても人気のキノコだった。
『幻惑の森』の奥でしか採れないそのキノコはとても高値で売れ、彼らの面倒を見るに十分な利益をもたらしている。
そのため今では自由に出歩けるようになったルーイが、自慢の嗅覚を頼りに時々森に入って採取している。もちろん傍らには心配性のナイトを引き連れて。
そして子供たちは子供たちで時折山に入り、山菜や果実などを採取し、僕と一緒に山菜のオリーブ浸けや果実のジャムを作り、『止まり木』の拡張部分で店頭販売していたりする。それらのビン詰は売れ行きも良く、彼らは元気に働いている。
「今は誰も居ないのか?」
「開店前だからな」
「もう来るよ。ルーイも一緒じゃないかな?」
チリンチリン…
「おはようマシューさん、レイさん、あっ!メルビンさんもいる!」
🐹🐹
新入りの子獣人たちを引き連れてガヤガヤお店に入ると、今日の『止まり木』には久しぶりのメルビンさんが居た。メルビンさんは新しいお店を出すからって、忙しかったんだよね。お城で別れたきりだったからちょっと嬉しい。
「メルビンさん、お店は出来た?」
「まあね。ルーイちゃんもひまわり畑は出来たかい?」
「何で知ってるの?最初グレアムさんが庭に埋めるっていったときにはびっくりしたけどね、もっと増やしてくれるって言ったからすこしあげたの」
「ルーイを説得するのは骨が折れた…」
「ハハハ」
「それでどうなんだグレアム。お父上の方は納得したか?」
「納得も何も、これは王命だからな。文句は言えまい」
この間実家に帰って来たグレアムさんは、とっても楽しそうに帰って来た。何でもウレイが無くなったんだって。よく分からないけどあれ以来この村はグレアムさんの物になったみたい。
「グレアムさんはすごいよね。すごくいっぱい頑張ったから当然だよね」
僕の足が速いのだって、毎日コツコツ回し車で運動するおかげだし。努力ってやっぱり大事!ママがソウタに言ってた通りだ。
「ルーイ…、あの褒美はむしろ…」
「僕もクルミとか、もっともらえば良かったかな」
「…ルーイちゃんはそのまま変わらないでいておくれね」
「僕変わらない」
「いいや、一つだけ変わった事がある。ルーイは教会での誓いを経て正式に私の伴侶となった。胸にぶら下がる指輪がその証だ」
「なんだ、呼んでくれれば良かったのに」
「忙しいかと思ってな」
そう。少し前のある晴れた日、グレアムさんは僕を教会に連れて行った。
そこで退屈な子守唄を聞いて寝ていたら、いきなり起こされて、指にペットショップに居た大きな鳥さんたちみたいな指輪をはめられたのだ。
でも僕は穴を掘るから多分なくしちゃう、って言ったらグレアムさんは丈夫な皮ひもに通して首にぶら下げてくれた。僕は首輪もリードも嫌いだけど、グレアムさんの首輪なら、仕方ないかなって思って我慢してる。
隣の家の猫だって、ママの友だちが連れてきた犬だって首輪をしてた。だって首輪は立派なペットの証。僕は立派な愛ハムスターだから。
それにグレアムさんも僕のコイビトだしね。違った。もう番になったんだった。
グレアムさんと番になったおかげで?前より自由に色んな所に行けるようになったよ。森だって山だって行き放題!
じゃじゃーん!僕はムテキのハム獣人。もう誰も僕を止められない!
「それでルーイちゃんは毎日なにしてるんだ」
「すごく忙しいよ?穴も掘らなきゃいけないし、回し車もまわさなきゃいけないし…砂あ」
「屋敷が砂だらけになるからそれは止めなさい」
「…おやつも隠さなきゃいけないし」
「相変わらずだね」
「でも一番大事なお仕事はグレアムさんに可愛がってもらう事だよ」
ペットは可愛がってもらって大事にされるのが仕事だからね。
「…それはそれは…」
「グレアムさんも最近は上手くなってね、ムガ」
「それは言わなくていい、ルーイ」
こうして僕は真の自由を手に入れた。ケージの無い世界。どこへでも行ける世界。
なのにグレアムさんは僕を離してくれない!
僕は自由でムテキなハム獣人。僕とグレアムさんの毎日はこれからもこうして続いていくのだ。
僕を可愛がるグレアムさんと、可愛がられる僕の毎日は。
終わり
ご拝読ありがとうございました。
短編はなかなか難しいですね…もっと勉強します。
新作の用意を進めています。
よろしければまた目を通していただければ幸いです。
「…獣人の子供たちはグレアムが拡張した『止まり木』で元気に働いている」
久しぶりに顔を出したメルビンが、あの事件後ここで面倒を見ている獣人の子供たちの様子を伺う。
メルビン自身も大勢の少年少女を引き受けることになって大変だったというのに、彼は本当に優しい人だ。
レイが僕を選んで伯爵家から勘当された時も、僕たちを心配して何くれと世話を焼いてくれたのがこのメルビンだ。レイは良い友人に恵まれたと思う。
もう一人の友人である偏屈なグレアム様も、その心根はとてもお優しい。だからこそ家を捨て平民になったレイと、こうして変わらず友人でいてくれるのだし、ルーイの事情を知って、誰よりも心を砕かれたのだ。
まさか気難しいグレアム様がそのルーイを伴侶にされるとは、小さなルーイを保護したあの日、想像してもみなかったけど…
「拡張費はグレアムが出したのか?だけど5人もどうしてるんだ?」
「向かいの空き家を手に入れ彼らの住まいにして、その庭で野菜を作らせてる」
「自家栽培か…。それでもやってくる客なんか限られるだろ?やってけんのか?」
「それがね、ルーイのとって来る珍しいキノコが希少種だったみたいでね」
「驚いたことに噂が噂を呼んで領外からも買い付けに来る。何でも『厨房のダイヤモンド』、とか言われるキノコだそうだ」
あの行方不明騒動の時、ルーイが呑気に『レイさんおみやげだよ」と手渡してくれた枯れ落ちた果実のようなキノコは見た目に反し、その芳醇な味や薬効によって、貴族の間でとても人気のキノコだった。
『幻惑の森』の奥でしか採れないそのキノコはとても高値で売れ、彼らの面倒を見るに十分な利益をもたらしている。
そのため今では自由に出歩けるようになったルーイが、自慢の嗅覚を頼りに時々森に入って採取している。もちろん傍らには心配性のナイトを引き連れて。
そして子供たちは子供たちで時折山に入り、山菜や果実などを採取し、僕と一緒に山菜のオリーブ浸けや果実のジャムを作り、『止まり木』の拡張部分で店頭販売していたりする。それらのビン詰は売れ行きも良く、彼らは元気に働いている。
「今は誰も居ないのか?」
「開店前だからな」
「もう来るよ。ルーイも一緒じゃないかな?」
チリンチリン…
「おはようマシューさん、レイさん、あっ!メルビンさんもいる!」
🐹🐹
新入りの子獣人たちを引き連れてガヤガヤお店に入ると、今日の『止まり木』には久しぶりのメルビンさんが居た。メルビンさんは新しいお店を出すからって、忙しかったんだよね。お城で別れたきりだったからちょっと嬉しい。
「メルビンさん、お店は出来た?」
「まあね。ルーイちゃんもひまわり畑は出来たかい?」
「何で知ってるの?最初グレアムさんが庭に埋めるっていったときにはびっくりしたけどね、もっと増やしてくれるって言ったからすこしあげたの」
「ルーイを説得するのは骨が折れた…」
「ハハハ」
「それでどうなんだグレアム。お父上の方は納得したか?」
「納得も何も、これは王命だからな。文句は言えまい」
この間実家に帰って来たグレアムさんは、とっても楽しそうに帰って来た。何でもウレイが無くなったんだって。よく分からないけどあれ以来この村はグレアムさんの物になったみたい。
「グレアムさんはすごいよね。すごくいっぱい頑張ったから当然だよね」
僕の足が速いのだって、毎日コツコツ回し車で運動するおかげだし。努力ってやっぱり大事!ママがソウタに言ってた通りだ。
「ルーイ…、あの褒美はむしろ…」
「僕もクルミとか、もっともらえば良かったかな」
「…ルーイちゃんはそのまま変わらないでいておくれね」
「僕変わらない」
「いいや、一つだけ変わった事がある。ルーイは教会での誓いを経て正式に私の伴侶となった。胸にぶら下がる指輪がその証だ」
「なんだ、呼んでくれれば良かったのに」
「忙しいかと思ってな」
そう。少し前のある晴れた日、グレアムさんは僕を教会に連れて行った。
そこで退屈な子守唄を聞いて寝ていたら、いきなり起こされて、指にペットショップに居た大きな鳥さんたちみたいな指輪をはめられたのだ。
でも僕は穴を掘るから多分なくしちゃう、って言ったらグレアムさんは丈夫な皮ひもに通して首にぶら下げてくれた。僕は首輪もリードも嫌いだけど、グレアムさんの首輪なら、仕方ないかなって思って我慢してる。
隣の家の猫だって、ママの友だちが連れてきた犬だって首輪をしてた。だって首輪は立派なペットの証。僕は立派な愛ハムスターだから。
それにグレアムさんも僕のコイビトだしね。違った。もう番になったんだった。
グレアムさんと番になったおかげで?前より自由に色んな所に行けるようになったよ。森だって山だって行き放題!
じゃじゃーん!僕はムテキのハム獣人。もう誰も僕を止められない!
「それでルーイちゃんは毎日なにしてるんだ」
「すごく忙しいよ?穴も掘らなきゃいけないし、回し車もまわさなきゃいけないし…砂あ」
「屋敷が砂だらけになるからそれは止めなさい」
「…おやつも隠さなきゃいけないし」
「相変わらずだね」
「でも一番大事なお仕事はグレアムさんに可愛がってもらう事だよ」
ペットは可愛がってもらって大事にされるのが仕事だからね。
「…それはそれは…」
「グレアムさんも最近は上手くなってね、ムガ」
「それは言わなくていい、ルーイ」
こうして僕は真の自由を手に入れた。ケージの無い世界。どこへでも行ける世界。
なのにグレアムさんは僕を離してくれない!
僕は自由でムテキなハム獣人。僕とグレアムさんの毎日はこれからもこうして続いていくのだ。
僕を可愛がるグレアムさんと、可愛がられる僕の毎日は。
終わり
ご拝読ありがとうございました。
短編はなかなか難しいですね…もっと勉強します。
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