溺愛男爵は僕を離してくれない!

kozzy

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「父上…ドルトン兄さん…、ジュール…」
「おおグレアム、よくぞ戻った。さあさあ、ここにかけるがいい」
「…チッ…」


あの事件から一か月後、私は父のいる、生家オールドリッチ侯爵邸へと足を運んだ。
出迎えた父と兄たちは両極端な顔をしている。兄たちはさしずめ、当てが外れて無念といったところか。


「その歓迎…、では今回私が褒章を得たことご存知なのですね」
「うむ。陛下より直々に誉を賜るとは何たる名誉。でかしたぞグレアム。よくやった」

「…『解読』を得た私に対し「役立たず」と蔑んでいらしたというのに…随分お変わりになられたのですね」
「止さぬかグレアム!全く…、お前はその物言いだから社交家からはじき出されるのだ。だが良い箔が付いた。これでアストリー伯爵家との縁談を進められる」
「父上、それには及びません。私は伴侶を既に決めております」
「何!? それはどこのご令嬢だ!」


その相手が獣人だと知ると、兄たちは鼻で笑い、父は目を向いて怒り狂った。この名門オールドリッチ侯爵家の息子が獣人を娶るなど…父の、いや、社交界の常識では認められないことなのだ。


「愚かなことを…。ええい、許さぬぞ!」
「許すも許さないも私はすでにオールドリッチの名を捨て家を出た身、反対されるいわれはございません」

「このオールドリッチに屋敷を持ちながら何を言うか!文句があるなら出ていくがいい!」
「あの屋敷も屋敷のある村も、元々放逐された母方の所有していた土地ではありませんか。輿入れに際し接収されたようですが…」

「黙れ!あのような小さな村…、ろくな税収も無いではないか!あれは隣接していればこそ経営の手間を肩代わりしてやったのだ!」

「それはそうなのでしょうが…」


だが不義をはたらき家を追い出された母が領内に住むことはさすがに出来ず、彼女は今、間男と手を取り祖父の知り合いの知り合いの友人…という僅かな伝手を使って南の片田舎に引きこもっている。
そのようないきさつがあればこそ、私が家を出る時、父はあの屋敷を寄越したのだ。当時は随分嫌みな事だと思ったものだが…だからこそルーイと出会えたのならば、今となっては感謝しかない。


「とにかく私は父上の手駒にはなりません。今日はそれをお伝えに来ました」
「そのような真似…、許されると思うか」

「まあまあ父上、良いではありませんか。褒章を賜ったところで所詮グレアムは領地も持たぬ下位貴族。アストリー伯爵家と縁を繋ぐ必要があるならジュールがおります」
「…ドルトン兄さんが娶られては?アストリー伯爵家は豊かな財をお持ちですよ?」


くだらないことだ。相も変わらずこの二人は家督争いをしているのか…。


「それよりお二人には一言申したいことがあるのですが…」


私は訝しむ父に語って聞かせた。この数週間にあった出来事を。
私を妬む愚かな義兄弟たちが何を謀り、それによって軍事計画がどれほど混乱するところだったかを。


「王も長官も随分お怒りです。不利益程度で済めばまだマシというもの、一歩間違えれば戦局に大きなダメージを与えるところだったのですから」

「…ド、ドルトン!ジュール!それは本当か!」

「…いえそれはっ!」
「そ、そうです!一体何を証拠に!」

「証拠はないが証人はいる。だが糾弾できるほどの信頼性は無いと言われた…」

「ふっ、…そうだろう」
「では何が言いたいのです、グレアム兄さん」


あの娼館摘発の事件後、王と長官は改めて私の話に耳を貸してくださった。そして事のあらましを知りお怒りになったが…、如何せん、証拠となるのがルーイの証言だけでは…。
ルーイはあの通りだし、王はルーイの言葉を信じて下さったが、長官はそれでも、兄たちを捕まえルーイに証言させたところで、裁判員たちが公正に判断するとは思えない、と仰ったし私もそう思う。だからこそそれは不問にされたのだが、もう一つ…。


「ですが父上、父上が出入りしていた娼館が取り潰されたことは聞いておられますか?」

「何!」

「父上…」
「お父様…」

「あの娼館は隣国と繋がっておりました。娼館主はスパイだったのです。そしてすでに身柄は拘束され、今もまだ尋問は続いています。が、いずれ極刑に付されるでしょう」

「そ、そうだとして私に何の関係がある!あそこは国も認めた娼館であったのだぞ!」


人は寝所で口が軽くなるものだ。相手が学の無い娼妓と思えば尚の事。巧妙に誘導され請われるがまま、枕語りに己がどれほど立派な男で名誉な仕事に携わるかをつらつらと語るのだ。


「娼館主の証言により、重要な機密を漏らした顧客の名は判明しております。そしてその中には…」
「うっ!もしや…」

「お心当たりはお有りですね」


そう。父上の名もあったのだ…。嘆かわしい…。


「陛下は寛大にも今回は大事になさらないようですが、機密の意味が分からぬ浅はかな領主たちからは、罰として漏らした機密の重要さに合わせて領地を一部減らすようです」


これは私の意を汲んでのもの。
今回の事件は思いがけずも非常に大きな収穫をもたらした。小さなハムスター獣人であるルーイの、私を想う行動の副産物として。
そのルーイときたら何が欲しいと問われ、「リュックいっぱいヒマワリの種!」と得意げに言うものだから…陛下は代わりにルーイの伴侶である私に褒美をくださることになったのだ。
そこで私は私とルーイの愛の巣があるあの村、元母方の土地であったあの一帯を私の領地にして欲しい、とそう願ったのだ。レイモンドやマシューにとっても、父が領主でいるより私が領主であったほうが色々とやりやすいだろう。

実質王にとっては村の統治者が父から私に代わるだけの事、褒美にしてはむしろそれだけで良いのか?と言ったところだ。
父にとっても、領地を一部取り上げられることは侯爵家としてのプライドには障るだろうが、元々たいした税収の有る村ではない。ひどい痛手にはならないだろう。

そしてそこまでを聞いた兄弟二人は…


「な…、ではグレアムが領地持ちになるという事か!」
「くっ…!で、ですがあんな小さな村一つごときで偉そうに…」

「よいのだ。私は社交界の有象無象が嫌で家を飛び出した。それはこれからも変わらない。だからこそこれで私はあなた方とこれで本当に縁を切ろうと思う。そして兄さん、ジュール。あなた方は私の村への入村を未来永劫禁ずる。ああ、そうそう。同じく陛下は兄さんたちの登城を向こう5年禁ずるようだよ。ではさようなら」


背後から聞こえる阿鼻叫喚。だがもう私には関係無いことだ。
これで彼らは少なくとも5年の間社交界からは嘲笑の的だ。父も登城すらままならない息子へ簡単に家督は渡さないだろう。これは私からのささやかな意趣返しだ。

さあ。ルーイの待つわが家へ帰ろう。今度こそ本当に、全ての憂いやしがらみをここに置いて。






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