溺愛男爵は僕を離してくれない!

kozzy

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21 ミラクルタイム

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ザクッザクッザクッ…ズボッ!

「やっと出られた…」


まだお外は真っ暗。でも裏路地からでたそこの通りはお店のランプでとても明るい。
クンクン…あの中にソーセージのお店がある。ええっと…どこかな?キョロキョロ…


「あっ!あそこだ!」タタタタ…「おじさーん、ソーセー」

「あっ!お前ここで何してやがる!」
「どうやってあの土蔵から出やがった!」


ゲゲッ!さっきのおじさんたちだ!捕まったらまたケージに入れられちゃう!やだやだそんなの絶対ヤダ!だって僕は自由なハムスター。二度とペットショップには戻らない!

僕にはとっくにグレアムさんっていう、何でもしてくれるセイシキな飼い主コイビトが居るんだから!それ逃げろー!


「ちぃぃ!右に左にチョロチョロトと…おい!挟み撃ちだ!」
「捕まえた!」ガブリ!「うわっ!また噛みやがった!」

「もう!シツコイな!」

「馬鹿野郎!しっかり捕まえねぇか!」
「こいつ素早いんだよ!」

当たり前!僕はハムスターだよ?捕まるもんか!

「隙間に逃げられたら俺達じゃ入れねぇ!」
「おい!そいつの服にぶら下がってる縄を引っ張れ!」

「ええっ!縄?あっ!」グイッ「ひゃ!」ズルズルズル…
「よし今だ!連れてくぞ!」

やだもう!なにこの縄!引っ張らないでよ!リードなんかいらないってば!!!


「助けてグレアムさん!助けてー!!僕はここだよー!!!」


早く来てグレアムさん!僕の絶体絶命!愛ハムスターの危機だよ!飼い主早くーーー!


「ルーイから手を離せ!!!」


来たぁ!!!




🐹🐹




ああ、私の可愛いルーイ…。彼が私のために決死の覚悟で王宮へとやって来たのは昼前の事。
だが長官に書類を引き渡し、ようやく身柄の自由を得た私が裏門まで迎えに行くと…そこにルーイの姿は無い…。

代わりに見つけたのはメルビン。だが彼もまたルーイが王城に忍び込んだ後は知らないと言う…。


「城内で騒ぎになって無いか、落ち着かず周囲を見回ってたんだ。そうか…会えたのか…。すごいなあの子は」
「全ては私のためにだ。だが王城裏手にはあの場所がある…」
「娼館か…」


焦った私たちは聞き込みを開始した。だがそこで分かったのは麻袋を担いだ人相の悪い男が二人、歓楽街へ走っていったという事実…!

ああ…!最も恐れていたことが起きてしまった!彼は…、彼は娼館の用心棒に見つかり連れ去られてしまったのだ!


「メルビン!私は先に歓楽街へと向かう!お前は警らの傭兵を集めてくれ!」
「任せておけ!」


歓楽街の突き当りにある下界を遮断する高い壁。ここが王都随一と人気の高い娼館…。ここで働くのは食うに困り身売りをした者。そして親に売られたまだ年若い少年少女。
だが許せないのは表には出ない非合法な別館部分だ!そこでは山間部より攫って来た獣人の子供を監禁し、性奴隷に仕立て上げるという…吐きそうなほど悍ましい所業を平然と行っているのだ!
これらは誰もが知る話しながら、あくまで噂の域を出ないため摘発できずにいるのだ。彼らの口は鋼鉄より固い…恐らくそこには様々な不正があるのだろう。客には高位の貴族も多いと聞く。

王都…それは煌びやかな都。だが光あるところ、必ず影はあるものだ…。

その時私の耳に飛び込んできたのは私を呼ぶ絶叫!


「助けてグレアムさん!助けてー!!僕はここだよー!!!」


声の主は胴体を縄に縛られ、今まさに連れていかれようとしているじゃないか!


「ルーイから手を離せ!!!」


このゴロツキどもめ!私のルーイに近寄るな!!!


「グレアムさん!」
「ルーイ!大丈夫か!」
「僕大丈夫!でもこのおじさんキライ!」
「よく私の名を呼んだな。いい子だ」
「僕イイ子!」

「このゴロツキめ!私のルーイを返せ!」

「返せと言われて返すと思うか?馬鹿め!」
「馬鹿はお前だ!」


戦闘系の魔法を持たぬ私であるがまともな貴族であれば嗜みとして武術を学ぶ。その私に勝てるつもりならかかって来るがいい!
私は男の腕を軽くひねり上げ、足払いをして思いっきり地面に転がすと鳩尾に一撃くらわした。だが肝心なのはルーイを盾に逃げようとするもう一人だ。先回りしていく手を阻むと私は男に向き直った。


「ええい‼ 私はグレアム・レンフィールド。王より勲章を賜る男爵位であるぞ!その私に逆らうか!このならず者が、その縄から手を離せ!」

「嫌なこった!こいつは俺の金づるだ!」

「ふざけるな!ルーイは私のものだ!燃えろ!!!」


縄を握るうす汚い手など黒焦げになるがいい!


「うあっちぃ!あちい!」ペイッ ボボボボボ

「今だおいで!」
「グレアムさん!」


ようやく縄から逃れ嬉しそうに走り寄るルーイ。可哀そうに…泥だらけじゃないか…。


「縛られていたのか?私のルーイになんという不届きな真似を。それよりどうやって逃げ出したのだ」
「トンネル掘って来たの」


トンネル…。ああ。ルーイは穴掘りが得意だったな。庭中を穴だらけにされたがその甲斐があったならあれらは名誉の穴だ。


「グレアム!ルーイちゃん!」


警らの傭兵たちを集め駆けつけたメルビン。
彼らはいかがわしい娼館の用心棒どもを手際よく縛り上げていく。だが奴らは何やらブツブツ言いながらなんとか逃れようと抵抗している。


「俺が何したってんだ!離しやがれ!そいつはうちのだ」

「ほう…?では証拠を出せ!公娼ならば登録名簿があるはずだ!」
「それはその…」
「や、奴は獣人じゃねぇか!」

「黙れ!!!」


使い捨てるだけの攫って来た獣人。使い物にならなくなった彼らの末路がどれほど惨いものか想像似難くない…。
私が忌々しい想像に顔をしかめた、その時だ。



ドォォォーン!!!!!

「今のは何の音だ!!」

鳴り響いたのは大きな爆発音。これは一体…。


「あ、あああ、兄貴!娼館が燃えてる!」
「な。何だと!ヤバイ!燃え広がるぞ!」


見れば娼館から大きな火の手が上がっている。


「あ、あれかな?あれレイさんが窯に火を入れる時と同じ匂いしてた」
「ルーイ…、それは炭の臭いと言う事か?」

「えーとね、グレアムさんの大事な本に同じようなの描いてあった。黒いリンゴ」
「黒いリン…もしやそれは…点火爆弾のことか!!!」


詳しく聞けば、どうもルーイは土蔵で油壷を倒し、そこに娼館の部屋から(リンゴと間違え)くすねてきた点火爆弾を放り出してきたのだという。

そしてルーイを球体になるほど頑丈に縛っていた長いロープは、油をふくんだままルーイとともにトンネルをくぐり、私の『ファイアー』で着火し…、導火線となり土蔵に火種を運んでいったと…。そして爆発……


「嘘だろうルーイちゃん…」


メルビンは奇跡の連鎖に呆れ、いや、驚きに立ちすくみ、また傭兵たちは爆発音を聞くや、すぐさま火の手の上がる娼館に向かって行った。
娼館は十分な敷地を持つ広さとは言え、あの火が飛び火すれば歓楽街全体が大変なことになる。ここは密集地だ。

それにしても…これは王にも報告せなばならない。何故なら点火爆弾は隣国の新型武器。それが娼館にあったという事は…娼館主が隣国と通じているということに他ならない!


「ルーイ、偶然とはいえよくやった。王はきっとお褒めくださるだろう」
「僕やった?スゴイ?キュキュキュ!わーい、グレアムさんが褒めてくれたから僕嬉しい!」


ああ私のルーイ…。何と健気で愛情深い…。
彼を失う事だけはしてはならない。私はそう胸に刻んだ…。






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