溺愛男爵は僕を離してくれない!

kozzy

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17 イジワル兄弟

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「ルーイ、また自分のベッドに戻ったのか。朝まで一緒に寝ようと言っているのに…」
「うーん、それはまたそのうちね」


だって巣箱じゃないと安眠出来ないんだよね。

あれからグレアムさんは数日おきに僕を可愛がる。
あの痛かった、交尾みたいなオチューシャはしばらくしないんだって。次のハツジョウキにするのかな?
でも可愛がるのが数日おきってどうなんだろう…。足りなくない?
そう思って「毎日しないの?もっと可愛がったほうがいいんじゃない?」って聞いたら思いっきり椅子から転げ落ちてたから、もしかしてグレアムさんはハムスター獣人の僕と違って体力が無いのかもしれない。人間だもんね。かわいそうだからもう言わないであげよう。

僕とグレアムさんは毎日一緒に寝るようになっちゃった。けど僕は夜中に自分の巣箱に戻ることにしている。

巣箱の中は宝箱。あそこは僕の天国だから。
でも時々クッションの下からおやつが消えてて、そんな時はグレアムさんに聞くと、「ルーイ、果物は傷むから止めなさい」って言われるの。このさい木の実ならいいんだって。ショートケーキを隠した時も「ルーイ、クリームで汚れるから止めなさい」って言われたの。しかたないからクッキーならまだマシなんだって。

とにかくあれ以来甘酸っぱい匂いもソワソワもしなくなって、ほっと一安心。僕とグレアムさんは平和に楽しく暮らしてた。


「グレアムさん今日も仕事?」
「ああそうだ。そこで遊んでいるといい」
「今度はいつお城に行くの?」
「来月だが…、ルーイ。今度の登城は重要なものだ。2週間は帰れないだろう」
「ジュウヨウなトジョウ…、…大事なんだね?」

「ああ。…今度こそレイモンドのところで大人しくしていてくれるか?」


マシューさんちの小屋ケージかぁ…。あそこも好きだけど…。


「ねぇねぇグレアムさん。僕もうお屋敷でお留守番できると思う」
「バカなことを…」
「僕一人で平気」


実は僕って人より耳がいいから部屋は静かなのが好きなんだよね。ついでに誰も居なくても全然淋しくないし。って言うか、何なら一人の方が好きだし。あ、僕を可愛がる飼い主は別だけど…。キュキュキュ!グレアムさんは別だけど!


「ヒマワリの種だけいっぱい置いてって。エン麦でもいいよ」

「本当に?だがしかし…」
「『止まり木』は好きだけど…お屋敷はもっと好き。僕とグレアムさんの家だもん」
「ルーイ…、嬉しいことを言ってくれる…」
「それにここにはいっぱい遊び場があるから退屈しない」
「確かにお前は寝ている以外、回し車に居るか砂遊びをするか馬小屋で藁にまみれるか…のどれかだが…」
「お掃除は帰ったらしてね。散らかしちゃうけどいいよね?お風呂は砂場で済ませとくから」
「砂…、まあいい。ではルーイ、レイモンドとマシューに毎日食事を運ぶよう頼んでおくからここを絶対出ないように。いいね」

「はーい」



こうして僕は獣人人生初の一人でお留守番をすることになったんだよ。僕はソウタの家に居たときだって5日ぐらいお留守番したことあるし…今は獣人だから2週間なんて全然平気。

ここはもう僕のテリトリー。あっという間にもう3日!あと10日なんてヨユーなんだから。


「ー…で…ー…だー…」
「…がー…ーろう…ー」


なんだろう?玄関の方から音がするけど…。
でもグレアムさんが「レイモンドは厨房まで勝手に入ってくるから玄関には出なくていい」って言ったんだもんね。
今僕は壁とタンスのスキマに挟まってて忙しいからこのまんま。スキマって気持ちいいよね。僕大好き。

あ…この人たち…。
この間来たグレアムさんのお兄さんと弟だ。何しに来たんだろう?グレアムさんはお城に行ってて留守だよって教えて…あれ?


「はっ!『解読』などという腑抜けた魔法でこの私よりも先に陛下より勲章を賜るなど…あり得ぬわ!」
「本当にそうです。一男爵でしかない兄さんが何故勲章など…、あれは騎士に与えられるべきもの。入隊した私の方が相応しい!」


なんだかまた怒ってる…。めんどくさい人たちだな。出て行かない方がいいよね。ほっとこう。早く帰ってくれないかな…。


「しかし我が弟ながら隙が多い」
「ふふ。ドルトン兄様も人がお悪い。どうされたんですかそれ」
「はっ!酒場のならず者に金を与えて盗ませたのよ。王城へ提出する大事な書類だ」
「ばれませんか?」
「数枚抜き取って残りは返した。気付いた時にはもう遅いと言う寸法よ」
「これで侵攻を控えた軍部に迷惑をかければ勲章も取り消されるかもしれませんね」


な、何言ってるかさっぱりわかんないけど悪い顔で悪い話ししてるのは分かる…。映画に出てくる悪者っていつもこんな顔…。


「それでここへは何をしに?」
「念には念をだ。解読に必要な書物の幾つかももまとめて処分してやろうと思ってな」
「ではこれなんかはいかがです?『隣国の新型武器』とタイトルが付けられていますが」
「中身はどうだ」
「…暗号ですよ。分かるとお思いで?」
「ではそれと、これもだな」
「それは?」
「『追加された戦術編成』と記されているな。重要なものに間違いない」
「ではそれらと一緒にその抜き取った書類も」
「ああ。燃やしてしまうとするか」


燃やす…じゃあキッチンに行くよね。グレアムさんもレイモンドさんも、見られて困る手紙はいつもキッチンで燃やしてた。火の魔法で!

ほら、やっぱり部屋を出ていった!よーし!外からまわって先回りだー!




来た来た…。


「よし。ジュール、それらを流しに置け。『ファイ…』ガッターン!!!「なんだ!」
「ドルトン兄さん、私が見て来ます。少しお待ちください」


ふっふっふ…ふふふのふ テレビで見た僕の仕掛けだよ!


「どうだジュール、何があった?」
「いえ、風で扉が開いて椅子にぶつかっただけでした」
「そうか。では『ファイアー』」


この人たち悪い人!これは大事なんだよ!ジュウヨウなトジョウなんだから!もう怒った!


「…これでいい。行くぞ!」
「ふふふ、お気の毒に兄様。兄様がいけないんですよ。あの勲章は僕が狙っていたんですから」


バタン

もういいかな?行ったかな?…ガ…ガラ…ラ…うん。馬車の音。行った!

「ふいー…狭くてイイ感じだった」

でも僕はちゃんとお兄さんがドアのほう見てるうちにサッとすり替えたのだ!僕がかじって処分する予定にしてたいらない本と、それから落書きしたいらない紙に。えへん!
シンクの下に隠れてたなんて気づかなかったでしょ。べーだ。早く届けなくちゃ!

グレアムさんのところまで!




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