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9 ちっちゃな冒険
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「ルーイ、食べ物の他に何か欲しいものは無いのか?…お前は何も欲しがらないな」
「えー?だって光る石とかなんに使うの?どうせならかじるのにちょうどいい枝とか…、でもお庭にあるからそれでいいよ。あっ、そうだ!トンネルとかパイプとかあったらもっといいのにな」
「トンネル…?トンネルをどうする?まあいい。考えておこう」
どうするって…、くぐって遊ぶに決まってるじゃん。ねぇ?
僕はお世話されるのがお仕事だからこうして色々してもらうのも普通だけど…、でもせっかく人間みたいな獣人になったんだし、もっと人間みたいなことしたいなって…頭に浮かんだのはグレアムさんがお城に呼ばれたある日のこと。
「いいかルーイ。留守の間はレイモンドとマシューに頼んである。あそこからどこにも行かないように。分かったな」
「久しぶりの小屋だ!」
「聞いてるかルーイ?店と小屋以外どこにも行くんじゃない。いいな」
「はーい!」
なーんてね。行く気マンマンだよ!
だってグレアムさんと暮らしだしてから僕はいつでもどこでもグレアムさんと一緒で…お使いぐらい一人で行けるって言ってるのにちっとも一人でお出かけさせてくれないの…。
マシューさんは牛獣人さんのとこに牛乳買いに行ったりニワトリ獣人さんのとこに卵買いに行ったりさせてくれたのに…。
もー!せっかくおっきな獣人になったのにー!
今回グレアムさんは10日くらい居ないんだって。だからその間に森に入って、いっぱいお花を見つけてグレアムさんにプレゼントするつもり。ママもパパにお花もらって喜んでたし。
日頃のお礼の気持ちを込めて…、グレアムさんもママみたいに喜んでくれるかな?
そうしてグレアムさんを見送って早や7日目。僕はいまだに森へ行けないでいる…。あれれ?
なんでも村はこの1週間シュウカクサイとかいうお祭りで飲めや歌えやの大騒ぎ。当然『止まり木』もお休みなくお店を開けっぱなし。
マシューさんが言うには、だからグレアムさんはこの期間に登城を当てたんだって。お店が騒がしくなるからイヤだって言って。
それに僕の手も借りたいくらい忙しくなるからって手伝ってやれって…、僕の出番だ!
だけど困ったなぁ…。グレアムさんが居ない間に森へ入りたかったのに。忙しすぎて夜になるとバタンキューしちゃう…。タンポポ、クローバー、レンゲ、僕の大好きな美味しいお花…探したかったのに…。
あーあ、あと三日…。
「ルーイ。収穫祭の間はお手伝いありがとう。とっても助かったよ。だからね、あとの3日間はお休みにするから小屋でのんびり過ごしておいで。」
「いいの?わーい!やったぁ!」
やっと来たよ。チャンスターイム!!!
僕の肩には今、マシューさんが以前くれたななめ掛けのポシェットが掛けられている。マカナイの代わりにメルビンさんに貰った〝爆発したとうもろこし”もちゃんと持った。準備オッケー!
森で見つけたキレイなお花や、もしかしたらいい感じの枝もあるかもしれない…ワタの実とかあったらもうサイコー!
ドキドキ…ワクワク…さあしゅっぱーつ!
🐹🐹
「どうしたマシュー。ルーイはどうした?」
僕の愛する旦那様、レイが森で見つけた小さな獣人。それがハムスターのルーイ。
無邪気な笑顔の裏側に悲壮な過去を隠した、とてもそんなことを感じさせない健気な彼は、身の安全を考えこの店の裏手にある小さな小屋からレイの友人であるグレアム様へと託された。
そのグレアム様は王城からの依頼を受け定期的に登城される。
そして今回、村の収穫祭に合わせて上京するのにルーイをここに預けていかれた。
収穫祭の間は僕たちのお店も大繁盛。ひっきりなしにお客様が入れ代わり立ち代わり。
そんな中、ちょこまかとお料理を運ぶルーイはみんなの人気者。あちらからもこちらからも呼ばれてアタフタしてる。そんな姿も可愛くて…まるで弟が出来たみたい。
でも本当はお昼寝するのが大好きなルーイ。
そんな彼の為にグレアム様が迎えに来るまでの残り三日間、小屋で寝ててもいいよって言ったら大喜びで飛び上がっていたのはほんの今朝のこと。
「それが…夕食だって言うのにまだ来なくって…」
「小屋は?」
「見に行ったけど…居ないんだ…」
「何!」
「どうしよう…日が落ちてきたし僕探しに…」
「俺が行く。マシュー、店は任せた。それから…、中にいるメルビンを呼んでくれ」
「分かった!」
何も無ければいいんだけど…。
🐹🐹
無い無い、無いなぁ…。タンポポもクローバーもレンゲもない…。もしかしたらこの季節には咲かないのかな?なぁんだ。
でもいいの。とっておきの赤ちゃんリンゴを見つけたから。それに小さなイチゴに似た果物も。これをカバンに入れて持って帰ってグレアムさんに…、ぐれ…あ…
あ、お空真っ暗。
でも全然大丈夫。僕ってば夜行性だよ?ずっと人間と一緒にいたから反対になっちゃってる部分もあるけど夜も普通にスタスタ歩けるんだから。
けど…、さっきから僕の頭上を飛んでる大きな鳥がコワくてコワくて…僕ちびりそう…。
今の僕は人獣だから取って食われたりはしないだろうけど…、でも用心のため帰るのは明日の朝にしようかな?
ここでこのまま休もうっと。ちょうど大きな木のうろもあるし…。
実は人間の手になっちゃったからあんまり地面掘れないんだよね…。尻尾、頬袋に続いて無くなったもの3つ目だよ。無念…。
🐹🐹
「レイ!どうだった?見つけた?」
「いいや。どこにも居ない…。メルビン!そっちはどうだった」
「芳しくない…」
捜索から戻った二人の言葉に目の前が真っ暗になる…。頭をよぎるのは嫌な考え…
「どうしようルーイ…もしかして見つかったり…」
「〝鴉”とか言ったな。娼館の追手か…」
「ようやく逃れてここに来たのにそんな!」
「大丈夫だマシュー。見ろ、祭りの後片付けで村中どこもかしこも村民だらけだ。よそ者が居れば一目で目につく。ここは狭い村だ」
「それに小屋の中も周りも荒らされた形跡は微塵もないな。それより3日前に俺があげた〝ポップコーン”が一粒残らず無くなっててね」
「ここに居る間ルーイは店で食事をしていただろう?少食なルーイは食後にコーンまで食べきれまい」
「じゃあ自分で持って行ったんだね…」
冷静な二人の意見に少しだけ胸をなでおろす…。そう言えばここに来るとき持っていた僕の手縫いのポシェットも小屋からは消えていた。攫われたなら悠長に持っては行けないだろう…。
「とにかくこの暗闇では…。マシュー、夜明けを待ってもう一度探しに行く。だから…」
「うん…。ルーイは夜目が効くと言っていたし…信じて待つよ」
どこかで迷子になっているのか、それとも怪我でもして動けないのか…
ルーイお願い、無事でいて!
「えー?だって光る石とかなんに使うの?どうせならかじるのにちょうどいい枝とか…、でもお庭にあるからそれでいいよ。あっ、そうだ!トンネルとかパイプとかあったらもっといいのにな」
「トンネル…?トンネルをどうする?まあいい。考えておこう」
どうするって…、くぐって遊ぶに決まってるじゃん。ねぇ?
僕はお世話されるのがお仕事だからこうして色々してもらうのも普通だけど…、でもせっかく人間みたいな獣人になったんだし、もっと人間みたいなことしたいなって…頭に浮かんだのはグレアムさんがお城に呼ばれたある日のこと。
「いいかルーイ。留守の間はレイモンドとマシューに頼んである。あそこからどこにも行かないように。分かったな」
「久しぶりの小屋だ!」
「聞いてるかルーイ?店と小屋以外どこにも行くんじゃない。いいな」
「はーい!」
なーんてね。行く気マンマンだよ!
だってグレアムさんと暮らしだしてから僕はいつでもどこでもグレアムさんと一緒で…お使いぐらい一人で行けるって言ってるのにちっとも一人でお出かけさせてくれないの…。
マシューさんは牛獣人さんのとこに牛乳買いに行ったりニワトリ獣人さんのとこに卵買いに行ったりさせてくれたのに…。
もー!せっかくおっきな獣人になったのにー!
今回グレアムさんは10日くらい居ないんだって。だからその間に森に入って、いっぱいお花を見つけてグレアムさんにプレゼントするつもり。ママもパパにお花もらって喜んでたし。
日頃のお礼の気持ちを込めて…、グレアムさんもママみたいに喜んでくれるかな?
そうしてグレアムさんを見送って早や7日目。僕はいまだに森へ行けないでいる…。あれれ?
なんでも村はこの1週間シュウカクサイとかいうお祭りで飲めや歌えやの大騒ぎ。当然『止まり木』もお休みなくお店を開けっぱなし。
マシューさんが言うには、だからグレアムさんはこの期間に登城を当てたんだって。お店が騒がしくなるからイヤだって言って。
それに僕の手も借りたいくらい忙しくなるからって手伝ってやれって…、僕の出番だ!
だけど困ったなぁ…。グレアムさんが居ない間に森へ入りたかったのに。忙しすぎて夜になるとバタンキューしちゃう…。タンポポ、クローバー、レンゲ、僕の大好きな美味しいお花…探したかったのに…。
あーあ、あと三日…。
「ルーイ。収穫祭の間はお手伝いありがとう。とっても助かったよ。だからね、あとの3日間はお休みにするから小屋でのんびり過ごしておいで。」
「いいの?わーい!やったぁ!」
やっと来たよ。チャンスターイム!!!
僕の肩には今、マシューさんが以前くれたななめ掛けのポシェットが掛けられている。マカナイの代わりにメルビンさんに貰った〝爆発したとうもろこし”もちゃんと持った。準備オッケー!
森で見つけたキレイなお花や、もしかしたらいい感じの枝もあるかもしれない…ワタの実とかあったらもうサイコー!
ドキドキ…ワクワク…さあしゅっぱーつ!
🐹🐹
「どうしたマシュー。ルーイはどうした?」
僕の愛する旦那様、レイが森で見つけた小さな獣人。それがハムスターのルーイ。
無邪気な笑顔の裏側に悲壮な過去を隠した、とてもそんなことを感じさせない健気な彼は、身の安全を考えこの店の裏手にある小さな小屋からレイの友人であるグレアム様へと託された。
そのグレアム様は王城からの依頼を受け定期的に登城される。
そして今回、村の収穫祭に合わせて上京するのにルーイをここに預けていかれた。
収穫祭の間は僕たちのお店も大繁盛。ひっきりなしにお客様が入れ代わり立ち代わり。
そんな中、ちょこまかとお料理を運ぶルーイはみんなの人気者。あちらからもこちらからも呼ばれてアタフタしてる。そんな姿も可愛くて…まるで弟が出来たみたい。
でも本当はお昼寝するのが大好きなルーイ。
そんな彼の為にグレアム様が迎えに来るまでの残り三日間、小屋で寝ててもいいよって言ったら大喜びで飛び上がっていたのはほんの今朝のこと。
「それが…夕食だって言うのにまだ来なくって…」
「小屋は?」
「見に行ったけど…居ないんだ…」
「何!」
「どうしよう…日が落ちてきたし僕探しに…」
「俺が行く。マシュー、店は任せた。それから…、中にいるメルビンを呼んでくれ」
「分かった!」
何も無ければいいんだけど…。
🐹🐹
無い無い、無いなぁ…。タンポポもクローバーもレンゲもない…。もしかしたらこの季節には咲かないのかな?なぁんだ。
でもいいの。とっておきの赤ちゃんリンゴを見つけたから。それに小さなイチゴに似た果物も。これをカバンに入れて持って帰ってグレアムさんに…、ぐれ…あ…
あ、お空真っ暗。
でも全然大丈夫。僕ってば夜行性だよ?ずっと人間と一緒にいたから反対になっちゃってる部分もあるけど夜も普通にスタスタ歩けるんだから。
けど…、さっきから僕の頭上を飛んでる大きな鳥がコワくてコワくて…僕ちびりそう…。
今の僕は人獣だから取って食われたりはしないだろうけど…、でも用心のため帰るのは明日の朝にしようかな?
ここでこのまま休もうっと。ちょうど大きな木のうろもあるし…。
実は人間の手になっちゃったからあんまり地面掘れないんだよね…。尻尾、頬袋に続いて無くなったもの3つ目だよ。無念…。
🐹🐹
「レイ!どうだった?見つけた?」
「いいや。どこにも居ない…。メルビン!そっちはどうだった」
「芳しくない…」
捜索から戻った二人の言葉に目の前が真っ暗になる…。頭をよぎるのは嫌な考え…
「どうしようルーイ…もしかして見つかったり…」
「〝鴉”とか言ったな。娼館の追手か…」
「ようやく逃れてここに来たのにそんな!」
「大丈夫だマシュー。見ろ、祭りの後片付けで村中どこもかしこも村民だらけだ。よそ者が居れば一目で目につく。ここは狭い村だ」
「それに小屋の中も周りも荒らされた形跡は微塵もないな。それより3日前に俺があげた〝ポップコーン”が一粒残らず無くなっててね」
「ここに居る間ルーイは店で食事をしていただろう?少食なルーイは食後にコーンまで食べきれまい」
「じゃあ自分で持って行ったんだね…」
冷静な二人の意見に少しだけ胸をなでおろす…。そう言えばここに来るとき持っていた僕の手縫いのポシェットも小屋からは消えていた。攫われたなら悠長に持っては行けないだろう…。
「とにかくこの暗闇では…。マシュー、夜明けを待ってもう一度探しに行く。だから…」
「うん…。ルーイは夜目が効くと言っていたし…信じて待つよ」
どこかで迷子になっているのか、それとも怪我でもして動けないのか…
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