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「ルーイ、ルーイどこだ」
「ここに居るよー。お馬さんの後ろだよー!」
「ルーイ…。馬の背後は危険だと言ったはずだが?」
「大丈夫だよ。だって寝藁が気持ちよくって」
「おいでルーイ。メルビンがお前にと焼き菓子を持って来た。新作だとか」
「わーい。サクサクしてるかな?」
「ルーイはサクサクした食感が好きなようだな」
「ポリポリしたのも好きだよ」
最近グレアムさんは僕がどこに行ってもこうして探しにやってくる。お仕事する時は「整理を手伝って欲しい」って言ってやっぱり側にいるし…。
こんなにベッタリしてたら僕困っちゃ…わないな…。
前の世界のソウタだって、いつも僕をポケットに入れたままどこに行くのも一緒だったし。じゃあ…これでいいよね。
前まではいつも僕の少し前を歩いてたグレアムさんは、最近手をつなぐか身体を引き寄せて歩くようになった。
僕は腰にまわされたグレアムさんの腕が、少し邪魔だな…って思いながらもメルビンさんの待つ居間からは甘い匂いが漂ってきて…ワクワクしてたらそのうちどうでもよくなってた。
「メルビンさん久しぶり。しばらくお店にも来なかったね。」
「仕入れがあってね。隣の国に行ってたんだよ。ほらほら、ここにおいで。」
「駄目だ。ルーイ、私の隣へ」
えっ?えっ?アタフタしちゃう。結局グレアムさんが僕の腕をグイッって引っ張ったからポスンって座っちゃった。
「お前引っ張んなよ…。にしても相変わらずルーイちゃんはかわいいねぇ」
自慢のほっぺを突こうとしたメルビンさんの手はグレアムさんによって阻止される。
「ルーイの顔を勝手にさわるな。」
「いつからお前の許可制になったんだよ…ルーイちゃん、こいつこんなこと言ってるよ?」
「つつくぐらいいいけど…、いきなりは止めてね。無理矢理も。そんなことされたら僕噛んじゃう。でも噛んだらお外禁止でしょ?僕は悪くないのにね」
「ルーイ…」
「ルーイちゃん…」
そうだよ!悪いのはユウタなのにママは僕をしばらくケージから出してくれなかった!プン!
「ほら、これもお食べ。あーもう、お兄さんがなんでもしてあげるからね」
「結構だ!ルーイには私が居る!」
「そうだよ。グレアムさんが何でもしてくれるから僕楽チン」
「おやおや」
腰にまわされたグレアムさんの腕に力が込められたのはどうしてかな?
🐹🐹
彼がここに来てからというもの、私の生活は想像以上に一変した。
小さく健気で無邪気な獣人…。あんな何もない小さな小屋で種さえくれれば何も要らない、とまで言うからどれほど謙虚で遠慮がちかと思いきや…、彼は予想に反しとても気ままに私を振り回した。
運び入れてやった客室の大きなベッドは気に入らない、四角じゃなきゃ嫌だと不思議な主張をけっして譲らず、仕方なく以前使われていたであろう天蓋付きのベッドを運び入れた。
そして身体を洗えと言えば何故か庭に出て砂まみれになって戻って来る始末…。あの時の得意気な顔は一生忘れられないだろう…。
それに何度言っても木の実を隠す癖が治らない…。怪しいな…と思った場所には大抵いくつかのクルミやナッツが隠されている…。カビるからやめろというのに…。
手に取ったものはそれが馬の道具であれ書斎の書類であれ、何でも一度は齧って確認する。その癖だけは危険だからとなんとか止めさせたが…今でも時折歯型の付いた手紙がレタートレイに乗せられている…。
だがその全てが彼の過去からくるものだと思えばどうして責められよう…。
彼はレイモンドやマシューも交えたあの話し合いの場で〝安全地帯”と口にしたのだ…。
四角い小さな安全地帯…。恐らく彼は鞭を持つ館主から逃れるために四角い…なにか箱のような物に身を隠したのだろう…。
風呂の代わりに砂まみれになったのも、狭い部屋に大勢で押し込められ汗をかいた身体を、なんとか清潔に保つための苦肉の策、そうに違いない。彼は案外綺麗好きだ。
そして木の実を隠すのは…、…万が一食事を抜かれた時に備える非常食なのだろう。彼はああ見えて賢い所もある。そうやってひもじい夜をしのいできたのだ…。
何でも齧るのは恐らく外部に自分の居場所を知らしめるための、精一杯の叫びだったのだろう。手紙に、馬の道具に、自分の印をつけて…誰か見つけて、誰か探して…と。
考えれば考えるほど彼が不憫で…日ごとに庇護欲が増しているのも自覚がある。
家を捨てた私と家族から引き離された不幸な彼。互いに孤独な身。どうせここには私しかいないのだ。いくらでも気ままに振舞えばいい。ようやく手に入れた自由なのだから…。
そんな日々の中にある日投げ込まれたのは歪な石。その石の名は〝異母兄弟”という…。
貴族の特権意識を振りかざす彼らは私を見下すだけでなくルーイまでをも蔑んだ。
ああ…、何故彼らは私を放っておいてくれないのか。私は彼らに何も望まない。侯爵位の継承権などはなから無用であったし暮らしの援助を求めたわけでもない。
家門の威光にぶら下がったことなどないし、それは今後も変わらない。
ただ私は…、…私は何処まで行っても私以外の何者にもなれはしない。気の合わぬ者となれ合いは出来ぬし意に沿わぬ騎士になぞなりたくは無い。ましてや…家門のためだけの婚姻など結びたくはない。それだけは譲れないのだ。
その身勝手な行いを責め立てられるのも仕方がない。そう思えばこそ私は反論もせずすべての言葉を受け止めた。
だがその言葉を受け止めるどころか投げ返したのがまさか…、小さな獣人ルーイだとは…。
語彙の無い彼の口から零れるのは「偉い」とか「立派」とかそんな言葉。が、何より私の胸を熱くしたのはたった一言…
『グレアムさんは役立たずじゃない』
ああ…、そうだ。私はいつもどこか後ろめたさを感じていた。
どれほどこれが私の生き方であると嘯いたところで、私は家門のためにも、そして国を守るためにも、さほどの役には立てないのだと…。本当のところ心の奥底では自分自身を枠組みから外れた脱落者だと感じていたのだ。
私を理解する奇特な者など恐らく現れまい。孤独。それが私の選んだ生き方。それを後悔はしない。だが…。
『僕はグレアムさんが一番好き。だからグレアムさん、家族の人と仲直り出来なくっても淋しくないよ』
その瞬間、私の無彩色な人生はアプリコットに彩られた…。
「ここに居るよー。お馬さんの後ろだよー!」
「ルーイ…。馬の背後は危険だと言ったはずだが?」
「大丈夫だよ。だって寝藁が気持ちよくって」
「おいでルーイ。メルビンがお前にと焼き菓子を持って来た。新作だとか」
「わーい。サクサクしてるかな?」
「ルーイはサクサクした食感が好きなようだな」
「ポリポリしたのも好きだよ」
最近グレアムさんは僕がどこに行ってもこうして探しにやってくる。お仕事する時は「整理を手伝って欲しい」って言ってやっぱり側にいるし…。
こんなにベッタリしてたら僕困っちゃ…わないな…。
前の世界のソウタだって、いつも僕をポケットに入れたままどこに行くのも一緒だったし。じゃあ…これでいいよね。
前まではいつも僕の少し前を歩いてたグレアムさんは、最近手をつなぐか身体を引き寄せて歩くようになった。
僕は腰にまわされたグレアムさんの腕が、少し邪魔だな…って思いながらもメルビンさんの待つ居間からは甘い匂いが漂ってきて…ワクワクしてたらそのうちどうでもよくなってた。
「メルビンさん久しぶり。しばらくお店にも来なかったね。」
「仕入れがあってね。隣の国に行ってたんだよ。ほらほら、ここにおいで。」
「駄目だ。ルーイ、私の隣へ」
えっ?えっ?アタフタしちゃう。結局グレアムさんが僕の腕をグイッって引っ張ったからポスンって座っちゃった。
「お前引っ張んなよ…。にしても相変わらずルーイちゃんはかわいいねぇ」
自慢のほっぺを突こうとしたメルビンさんの手はグレアムさんによって阻止される。
「ルーイの顔を勝手にさわるな。」
「いつからお前の許可制になったんだよ…ルーイちゃん、こいつこんなこと言ってるよ?」
「つつくぐらいいいけど…、いきなりは止めてね。無理矢理も。そんなことされたら僕噛んじゃう。でも噛んだらお外禁止でしょ?僕は悪くないのにね」
「ルーイ…」
「ルーイちゃん…」
そうだよ!悪いのはユウタなのにママは僕をしばらくケージから出してくれなかった!プン!
「ほら、これもお食べ。あーもう、お兄さんがなんでもしてあげるからね」
「結構だ!ルーイには私が居る!」
「そうだよ。グレアムさんが何でもしてくれるから僕楽チン」
「おやおや」
腰にまわされたグレアムさんの腕に力が込められたのはどうしてかな?
🐹🐹
彼がここに来てからというもの、私の生活は想像以上に一変した。
小さく健気で無邪気な獣人…。あんな何もない小さな小屋で種さえくれれば何も要らない、とまで言うからどれほど謙虚で遠慮がちかと思いきや…、彼は予想に反しとても気ままに私を振り回した。
運び入れてやった客室の大きなベッドは気に入らない、四角じゃなきゃ嫌だと不思議な主張をけっして譲らず、仕方なく以前使われていたであろう天蓋付きのベッドを運び入れた。
そして身体を洗えと言えば何故か庭に出て砂まみれになって戻って来る始末…。あの時の得意気な顔は一生忘れられないだろう…。
それに何度言っても木の実を隠す癖が治らない…。怪しいな…と思った場所には大抵いくつかのクルミやナッツが隠されている…。カビるからやめろというのに…。
手に取ったものはそれが馬の道具であれ書斎の書類であれ、何でも一度は齧って確認する。その癖だけは危険だからとなんとか止めさせたが…今でも時折歯型の付いた手紙がレタートレイに乗せられている…。
だがその全てが彼の過去からくるものだと思えばどうして責められよう…。
彼はレイモンドやマシューも交えたあの話し合いの場で〝安全地帯”と口にしたのだ…。
四角い小さな安全地帯…。恐らく彼は鞭を持つ館主から逃れるために四角い…なにか箱のような物に身を隠したのだろう…。
風呂の代わりに砂まみれになったのも、狭い部屋に大勢で押し込められ汗をかいた身体を、なんとか清潔に保つための苦肉の策、そうに違いない。彼は案外綺麗好きだ。
そして木の実を隠すのは…、…万が一食事を抜かれた時に備える非常食なのだろう。彼はああ見えて賢い所もある。そうやってひもじい夜をしのいできたのだ…。
何でも齧るのは恐らく外部に自分の居場所を知らしめるための、精一杯の叫びだったのだろう。手紙に、馬の道具に、自分の印をつけて…誰か見つけて、誰か探して…と。
考えれば考えるほど彼が不憫で…日ごとに庇護欲が増しているのも自覚がある。
家を捨てた私と家族から引き離された不幸な彼。互いに孤独な身。どうせここには私しかいないのだ。いくらでも気ままに振舞えばいい。ようやく手に入れた自由なのだから…。
そんな日々の中にある日投げ込まれたのは歪な石。その石の名は〝異母兄弟”という…。
貴族の特権意識を振りかざす彼らは私を見下すだけでなくルーイまでをも蔑んだ。
ああ…、何故彼らは私を放っておいてくれないのか。私は彼らに何も望まない。侯爵位の継承権などはなから無用であったし暮らしの援助を求めたわけでもない。
家門の威光にぶら下がったことなどないし、それは今後も変わらない。
ただ私は…、…私は何処まで行っても私以外の何者にもなれはしない。気の合わぬ者となれ合いは出来ぬし意に沿わぬ騎士になぞなりたくは無い。ましてや…家門のためだけの婚姻など結びたくはない。それだけは譲れないのだ。
その身勝手な行いを責め立てられるのも仕方がない。そう思えばこそ私は反論もせずすべての言葉を受け止めた。
だがその言葉を受け止めるどころか投げ返したのがまさか…、小さな獣人ルーイだとは…。
語彙の無い彼の口から零れるのは「偉い」とか「立派」とかそんな言葉。が、何より私の胸を熱くしたのはたった一言…
『グレアムさんは役立たずじゃない』
ああ…、そうだ。私はいつもどこか後ろめたさを感じていた。
どれほどこれが私の生き方であると嘯いたところで、私は家門のためにも、そして国を守るためにも、さほどの役には立てないのだと…。本当のところ心の奥底では自分自身を枠組みから外れた脱落者だと感じていたのだ。
私を理解する奇特な者など恐らく現れまい。孤独。それが私の選んだ生き方。それを後悔はしない。だが…。
『僕はグレアムさんが一番好き。だからグレアムさん、家族の人と仲直り出来なくっても淋しくないよ』
その瞬間、私の無彩色な人生はアプリコットに彩られた…。
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