溺愛男爵は僕を離してくれない!

kozzy

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6 新しい住処

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新しいお家は門をくぐった真ん前にコの字の形をしたお家があって真ん中がお庭になっている。
その真ん中のお庭の真ん中には丸い形の花壇があって、コの字の一片は馬小屋で黒髪のグレアムさんによく似た黒毛の馬が一頭つながれている。


「私は御者を持たない。馬車を使う時は丘向こうの貸し馬車を使う事にしている」
「グレアムさんヒトギライだもんね」

「その通りだ。さあルーイ。貴族の屋敷にしては小さな屋敷だが見ての通りだ。家人は一人も居ない。好きな部屋を選ぶがいい」


そう言われて全部の部屋を見てまわるけど、ここの部屋はどれもこれも大きすぎて…、小さな巣箱が落ち着く僕にはどれもイマイチ。


「部屋の中にもう一つ四角い箱があったらいいのに」
「ば、馬鹿な!必要ないだろう、そんな…、そんな悲しいことを言っては駄目だルーイ!」

「悲しいかなぁ?でもなんか広すぎるとソワソワしちゃうの」
「…ならば私と同じ部屋を使うか?」


ハムの僕は一人の方が落ち着くんだけど…、でもこのお屋敷は広いから同じ部屋に居ないとお世話してもらうの大変だよね?


「ああしまった…、ルーイ、誤解しないように。私の部屋は続き間で従者の部屋があって」
「じゃあそこにする」

「…いいのか…?」
「うんそうする」





こうして一緒に暮らし始めた僕とグレアムさん。

でもよく考えたら前の世界でも僕の仕事はお世話される事だったから…ここでの暮らしってば僕にピッタリ!
お店の仕事も人間みたいで面白かったけど…僕夜行性なんだよね…、お昼間は眠くって…。
グレアムさんも少し夜行性だから一緒に遅くまで起きてるんだよ。


今ももう遅い時間だって言うのにグレアムさんはお風呂の終わった僕の髪をせっせと魔法の温風で乾かしてくれている。毛づくろいって大事だよね。


「ルーイの髪はアプリコット色なんだな…」
「うん。他の子よりもきれいなんだって。僕はそのために生まれた特別なの。スゴイでしょ?」
「ルーイ…」
「あっ!くしゃくしゃにしないで!」


そうだよ。パパが言ってた。僕は可愛がられるためにカイリョーされた野生には居ない子だって。だから僕はゴールデンだけどキンクマで毛並みが良いからこの子にしようって。


「もう!せっかくキレイにしたのに!」
「その心根以上に綺麗なものなどあるものか…」


いきなり褒められた?

こんなに優しいグレアムさんが、どうして他の人とは笑顔でお話ししないのかとっても不思議。

どれくらい優しいかって言ったら、うーんとね…そうそう。

グレアムさんが続き部屋に作ってくれた僕の寝床。あれだって僕のリクエストにお応えして、えっと、何だっけ…、カーテンみたいな布の付いた、あ、そうそう、テンガイ付きの四角い箱みたいなベッドに取り換えてくれたし。

それにお風呂!僕は別に砂浴びで全然良かったのに、わざわざ魔法でお水ためて、「これでお湯を浴びなさい」って温めてくれたんだよ。マメだよね~。




だから僕もせっかく獣人なんだもん。お礼にって思って、マシューさんに朝ご飯だけ作り方を教えてもらったの。

街のお店で買って来たパンをカゴに入れて、卵を茹でたらエッグカップに入れて、それから切った…ハム!ハムだけに…。あとコーヒーをいれたら…じゃじゃーん!完成!


「どうしてグレアムさんは卵もハムもパンに挟んじゃうの?大きくて食べにくくない?それとも頬袋があるの?」

「ルーイの口は小さいな。だから少しづつしか食べられないのか」
「頬袋も無くなっちゃったしね…」


ガッカリだよ…。僕の大事な頬袋…。


「でも柔らかいんだよ、僕のほっぺ」
「ほう?どれ…」

「いひゃい、やめへー!」
「ははは、悪い悪い」


これ全然悪いと思ってないヤツ!ママもいっつもそうだった!「ごめんね」って言いながらほっぺをビヨ~ンと引っ張って!




こんな風に僕の作った朝ご飯を食べたら、グレアムさんはお昼までお手紙とかカンジョウショに目を通すお仕事をする。
それでお昼過ぎたら一緒にレイさんのお店に行ってご飯食べて、そうしたらまたグレアムさんは書斎で、今度はお城のお仕事をする。

その時間に僕はお庭のお花に水を上げたり、ちょっとコワいけどお馬さんのお世話をして。

それでお日様が沈んだら、お昼にレイさんのところで買って来たご飯を食べるか、買い出し兼ねて町まで行って何か食べるかするんだけど…

…レイさんとメルビンさん以外、ホントにだあれも訪ねて来ないからグレアムさんは寂しくないのかな?…ってちょっとだけそう思った…。



そんなある日のこと。

グレアムさんを訪ねてきた男の人が二人。グレアムさんに似ているような…、でも全然似ていないような…。
その二人はジロジロと僕を見ると僕なんかまるで居ないみたいに玄関を入ろうとする。


「あの、待って。待って!今グレアムさんを…」

「おいグレアム!こいつは何だ!下働きにしても酷いものだな。即刻辞めさせてはどうだ。」
「ですが兄さん、あの人嫌いのグレアム兄さんがようやく雇った下働きですよ?珍しい…」

「ドルトン兄さん、ジュール…。来るなら来るでお知らせくださればいいものを…」

「弟の家を訪ねるのに知らせが必要か?それよりこの獣人はなんだ。屋敷に入れるのならきちんと躾ておくのだな」

「…私の勝手だ。例え兄弟でも言われる筋合いはない。」


三人は話をしながらいちばん大きな居間へと移動する。お茶とか出した方が良いんだろうか…。
僕はこれでもお店で給仕をしてたからお茶くらいはもう出来るんだよ。どう?スゴイでしょ?

お湯を沸かして…カップを温めて…、葉っぱはスプーン二杯、少し高いとこからお湯を注いだら少し蒸らして…
はい出来た。マシューさん直伝、美味しいお茶だよ。



カチャ…カチャカチャ…


「あの、お茶です」

「ルーイ。お茶を淹れてくれたのか…」

「私は遠慮する。獣人の淹れたお茶など飲めたものではない」
「どうして?お茶の葉は街で買って来たしお水はお屋敷の井戸水を沸かしたよ?変なの」

「いいんだルーイ。ありがとう。そこに置いて」
「はーい」

カチャン

「…ねぇ君、仮にも男爵家で働くのならカップくらい音を立てずに運んではどう?君の粗相は兄の恥だと分からない?」

「ソソウ…」
「ルーイ気にするな。さあ部屋で待つんだ」


ソソウって何だろ?お世話になってるグレアムさんの家族だからごあいさつ、って思ったけど…この人達はなんだか…パパのよく言うめんどうなヒトだ。
こんなに可愛い僕を見て「ヤダ!ネズミじゃない!」ってイヤそうな顔して叫んだママの友だちみたい…。

部屋に戻ろうとした時、お茶嫌いのほうがとんでもない事を言いだした。


「何だ。使用人かと思えば獣人の愛玩物か。」


愛玩物!あ、あ、愛玩物って…愛玩物って…

アイガンブツ…って、何????





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