溺愛男爵は僕を離してくれない!

kozzy

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「レイモンド!ルーイのことを聞かせて欲しい。彼は発見された時どんな状況だったのだ」

「どうしたグレアム。何の騒ぎだ」


ルーイを小屋まで送った後、私はそのままレイモンドとマシューの住むこじんまりとした家、つまり軽食屋の裏手へとまわりその扉を幾度か叩いた。

レイモンドはすぐに姿を現し怪訝そうに私を迎え入れる。それを見て気の良い彼の愛妻は黙ってお湯を沸かし始めた。

彼らはそろそろ明かりを落とし就寝しようとしていただろうに、必死な私の威勢に何かを感じたのだろうか…、それ以上何も言わず黙って椅子をすすめてくれる。


「すまないがブランデーを足してくれないか。気が動転してとても素面ではいられない」
「それはいいが…、何があった?」


私のこの動揺をどう言葉にしたものか…。そして先ほどの会話で気付いた事実を何処まで彼らに伝えていいものなのか…。

だがレイモンドはルーイを最初に発見し、今もこうしてマシューと共に保護をし見守る身、であれば知っておくべきだろう…。

私は彼らに語って聞かせた。ルーイとの会話で気付いた悲しい事実を。


「そんなっ…、まさかあの無邪気なルーイが…。」

「考えてみれば彼は馬車に乗るのを酷く恐れていた。…仕方なく私の前に騎乗させたのだがあれは…」

「…!きっと攫われて馬車で運ばれた時のことを思い出して…、あぁ…」
「マシュー泣くな、泣くんじゃない」
「だって娼館に監禁されていたなんて…う…」

「馬鹿を言うな!まだそうと決まったわけじゃない!い、一度本人に確認して…」

「レイモンド!それこそ馬鹿を言うなだ!本人が隠していることを私たちが暴いていいと思うか?いいや、そうは思わない」

「…確かにそうだ。すまない、先走った。ルーイを見つけた時か…彼は人気の無い森の中でたくさんの小傷があり、その…、参った…」
「レイモンド…?」

「う、うぅ…、か、彼は全裸で…」
「マシュー、それは本当か…」
「嘘を言ってどうなるの…!」


いくら記憶が無いとはいえ、何故彼らが何も言わずどこへも預けずあの小さなハムスターをこの店に置いたのか。その理由が今分かった気がした。
発見時の尋常でない状況に何かを感じたのだろう。まさかここまで悲惨な過去とは予想外だろうが…


「獣人を扱う違法な娼館など城下の歓楽街以外には無い。つまりルーイは王都の裏通りに囚われていたいう事だ。ならばこの田舎村にいればそうそう見つかることはないだろう。」

「だがレイモンド、あの無防備な掘っ立て小屋にルーイを置いておくのは心許ない。それに店に出すのも止めさせたい」

「そうだな…。明日にでもルーイに話そう。だが住まいは…」

「私の屋敷に住めばいい。貴族である私の屋敷ならばそうそう手出しは出来ぬはずだ」

「お願いしてもいいですかグレアム様…。僕は仲間であるあの小さな獣人を放っておけない…」


私たちはそのまま遅くまで彼の今後について話し合った…。




🐹🐹





「おはようマシューさん、レイさん、あれ?グレアムさんが居る。こんな朝からどうしたの?」
「ルーイ、大事な話しがあるんだ。ここに座って」


いつもフワフワの笑顔でレイさんをメロメロにしているおっきな目のマシューさんが今朝はなんだか真剣な顔をしている。どうしたんだろう?

4人掛けのテーブルに全員で座ると、待ちきれないようにグレアムさんが口火を切った。


「ルーイ、昨晩私たちで話し合ったが今日から私の屋敷で暮らすと良い。ここの仕事も今日までだ。これからは私の身の回りを世話してもらおう」

「ええっ!」

「僕もそれが良いと思う。グレアム様は男爵様で…この田舎町ではそれなりに顔が利く。その…あの…」
「ルーイ、俺がそうしてやれれば良かったが…俺は伯爵家とは縁を切った人間、今ではただの平民でしかない。グレアムが適任だろう。それにまあ…見ての通りだ。ここは小さな店で…本当は人を雇うほどじゃない」

「う…、で、でも僕ここが好きで…、マカナイのご飯も美味しいし…四角い小屋もすごく好きで…。あそこは安全地帯なのに…」

「ルーイ…!」

「じ、じゃぁオキュウキンっていうのいらないから小屋だけ貸してね?それで…大好きなレイさんのマカナイがダメなら代わりにマシューさんの育ててるヒマワリの種少しもらうことにするね」

「うっ!ル、ルーイ…!」


えええっ!あれってばそんなに大切なヒマワリだったの?マシューさんが大泣きしちゃって僕びっくり!


「ああルーイ…。私と暮らすのはそれほど嫌か?」
「ルーイ、何も二度とここへ来るなと言っている訳じゃない。どうせグレアムは毎日来るんだ。なぁグレアム」
「ああそうだ。毎日こよう。ヒマワリの種などと…、そんな事を言うんじゃない」


背の高い二人が身を乗り出して大声を出すと…ピルピルしちゃう。だってハムだから。


「二人とも少し落ち着いて。ルーイが怖がってる」

「マシューさん…、僕何かしちゃった?あっ!ずっとお店の机カリカリかじってたのうるさかった?それとも柱の穴に色んな木の実隠してたから?分かった!トウモロコシをいっぱい散らかして食べたからだ…。ゴメンナサイ…気を付ける…」

「違うよルーイ。僕たちはルーイが大好きだよ。お店のお客さんだってみんなルーイが大好きで…。でもあの小屋は小さいし、それに…何も無いでしょう?家具も飾りも…」

「でも僕あの四角い小屋が好きなの。マシューさんがふかふかの寝床作ってくれたし、それで十分」
「ルーイっ!」


わわっ!マシューさん、そんなにギュゥゥlってしたら潰れちゃう…。


「ルーイ、あの小屋よりももっと心地良い部屋を用意すると約束しよう。ふかふかのベッドももちろん。だからどうか頷いてくれないか。」

「どうしてグレアムさんはそんなに僕を連れて行きたいの?グレアムさんは人嫌いだって…」
「だからこそだ。人の世の汚さを知る私だからこそ…お前と居るべきだろう」


…やっぱりおじいちゃんと同じだ。
ママが言ってた。近所付き合いが出来ないおじいちゃんは話し相手がいなくって…、それで僕の温もりにイヤサレテいるんだって。
だからきっとグレアムさんもイヤサレたくて…。こ、これって…

もしかして僕の出番!?


「じゃぁお試しで一緒に行く事にするから毎日マカナイ食べに連れて来て」
「ルーイ、賄いってのは…」

「おやつも用意して」
「ふふ、ルーイってば…」

「寝床はフカフカだよ」
「分かったルーイ。約束しよう」


こうして僕にはようやく僕のお世話をする、飼い主候補が出来たのだった。






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