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4 ご飯の日々
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あれからグレアムさんは日が暮れる少し前になると毎日僕を迎えに来る。
グレアムさんはいつもここから2つ村を超えた向こうにある、ここより賑やかな街でご飯を食べさせてくれる。
ホントはヒマワリの種とかかぼちゃの種とか好きなんだけど…、獣人になって身体が大きくなったおかげで種だとものすごくたくさん食べないとお腹が膨れなくなっちゃって…。でも代わりにこうして色んなものを食べられるようになったのは少し、ううん、かなり楽しい。
街までは馬に乗って行く。ダンシャクのグレアムさんは普段馬車を使うって言ってたけど…僕が怖くて震えちゃったから。
四角い大きな荷台は前の世界で見た最後の景色、僕に向かってくる大きなクルマを思い出して…キュゥゥ…、ガクブルしちゃう。
そうしたらグレアムさんは少し何かを考えて…ひらりと馬に跨ると、片手でヒョイッって僕を引っ張り上げた。
最初は少し怖いなって思ってた背が高くてむっつりしたグレアムさんだけど、こうして一緒にご飯を食べるのは案外楽しい。
だってグレアムさんの聞かせてくれる話はソウタと一緒に観たアニメや映画みたいで、キラキラしたお城の話、手に汗握る戦いの話、カッコいい騎士とか知り合いの冒険者の話しとか、僕の知らない事ばかりで…ワクワクしちゃう!
ペットショップのショーケースからソウタの部屋のケージへと、狭い世界しか知らなかった僕には何もかもが新鮮で、ここに来れて良かったなって、最近では本気でそう思ってた。
口が悪くてぶっきらぼうな、レイさんやメルビンさん以外とはろくに話もしない人嫌いのグレアムさん。そんなグレアムさんを村の人たちは敬遠するけど僕はもうちっとも怖くない。
だってグレアムさんってばなんだか、誰も居ないのを見計らってこっそりソウタの部屋に入って来ては、キョロキョロしながら僕をケージから出してそっと抱き上げた、時々やって来る無口なママのお父さん、おじいちゃんみたいなんだもん…。
おじいちゃんって言ったら怒りそうな気がするから言わないけど…。僕お利口?
「ルーイは何が好きなんだ。興味のあることはないのか?」
「好きなもの…、なんだろう?あっ、窓から見える青い空が好き!可愛い鳥の声も。そよそよした風も大好き!」
「では外遊びが好きなのか?」
「ううん。いつもは鍵がかかってて出られなかったの。でも時々ケージから出してもらって…、そうしたら窓のところに行って…」
「ルーイ…それは…」
「ずっと外に居たくて逃げ回るんだけど捕まってすぐケージに戻されちゃうんだよね。でもケージには回し車もあるしトンネルもあるから退屈しない…、あれ?グレアムさん、変な顔してどうしたの?」
「もしや記憶を無くしていないのか…」
しまった!うっかり口が滑っちゃった。
グレアムさんと一緒にいると、ついついおしゃべりになっちゃって…、いっけなーい!
ヘンな顔で僕を見るグレアムさんは、何にも言わずに僕の頭をポンポンって軽くたたいて、フワフワの小さな耳をいつまでも撫で続けていた。
🐹🐹
小さなルーイ。いつも笑顔をくずさない幼子のようなルーイ、無邪気でお気楽なハムスターの獣人、私は彼と初めて会ったその日から、そんな風に彼を見ていた。
だから考えても見なかったのだ。
彼の笑顔の裏に陰惨な過去が隠されている、などとは…。
ああ、何と迂闊な…。私は何と言う馬鹿者だ。少し考えればわかる事ではないか。
記憶を無くすような…、いや、それは誤魔化しであったわけだが、それでも名前以外何も告げられないこと自体が物語っているではないか。何かのっぴきならぬ事情があるのだと。
外へ出られない…ケージとは檻のことか。
彼はどこかに捕まっていた…、隙を見ては何度も逃げ出して、そして何度も捕まりまた檻に戻され…、つまり奴隷商にでも居たと言う事か…?
そういえば聞いたことがある。王都の裏通りには獣人を扱う、非合法な娼館があると…。
奴らは山間部の獣人を狙い、親が山に入っている間一人でポツンと留守番をしている子供を攫うのだと言う…。そして一部屋に閉じ込めたまま館で閨の教育を施し、頃合いを見て店に出すのだ。
ではルーイもそうやって監禁されていたと言うのか!そして時々目にする青い空に恐らく自由を夢見て…何という事だ…!
それでも彼は何を恨むでもなくああして微笑んでいたと言うのか!
いや違う…、笑顔の裏側に全てを隠したのだろう。私やレイモンド、何より同じ獣人であるマシューの耳に入れないように…。獣人である彼が知ればそのショックは計り知れない…。
健気な彼を庇護せねばならない。
今までの私であれば考えられない事だ。が、その時私の中には言葉に出来ない使命感のような感情が沸き上がっていた…。
🐹🐹
「じゃあねグレアムさん。また明日」
「ああまた明日。…いや、ルーイ、どうだろう?このまま私の屋敷に来て泊まるというのは…」
お泊り…。それって時々ダイキって名前のソウタの友達でがしてたやつ。ゲームとパジャマを持ってきて、夜まで遊んでしゃべって、それでソウタと一緒に寝てたっけ。
でもお泊りの日は好きじゃない。だってダイキは僕を乱暴につかむから。ケージの上からつついてくるし、せっかくオガクズに埋もれて気持ち良く寝てるのにそれをどかしてすぐ起こすし。すごく迷惑。
「…グレアムさんが乱暴するとは思わないけど…、でも止めとくね。明日も朝からお仕事だし。おやすみなさい」
「乱…あ、ああ…。お休みルーイ…」
そんなにお泊りしたかったのかな?僕を見送るグレアムさんは何故かとっても苦い野草をかじった時の僕みたいな、そんな顔に見えた。
グレアムさんはいつもここから2つ村を超えた向こうにある、ここより賑やかな街でご飯を食べさせてくれる。
ホントはヒマワリの種とかかぼちゃの種とか好きなんだけど…、獣人になって身体が大きくなったおかげで種だとものすごくたくさん食べないとお腹が膨れなくなっちゃって…。でも代わりにこうして色んなものを食べられるようになったのは少し、ううん、かなり楽しい。
街までは馬に乗って行く。ダンシャクのグレアムさんは普段馬車を使うって言ってたけど…僕が怖くて震えちゃったから。
四角い大きな荷台は前の世界で見た最後の景色、僕に向かってくる大きなクルマを思い出して…キュゥゥ…、ガクブルしちゃう。
そうしたらグレアムさんは少し何かを考えて…ひらりと馬に跨ると、片手でヒョイッって僕を引っ張り上げた。
最初は少し怖いなって思ってた背が高くてむっつりしたグレアムさんだけど、こうして一緒にご飯を食べるのは案外楽しい。
だってグレアムさんの聞かせてくれる話はソウタと一緒に観たアニメや映画みたいで、キラキラしたお城の話、手に汗握る戦いの話、カッコいい騎士とか知り合いの冒険者の話しとか、僕の知らない事ばかりで…ワクワクしちゃう!
ペットショップのショーケースからソウタの部屋のケージへと、狭い世界しか知らなかった僕には何もかもが新鮮で、ここに来れて良かったなって、最近では本気でそう思ってた。
口が悪くてぶっきらぼうな、レイさんやメルビンさん以外とはろくに話もしない人嫌いのグレアムさん。そんなグレアムさんを村の人たちは敬遠するけど僕はもうちっとも怖くない。
だってグレアムさんってばなんだか、誰も居ないのを見計らってこっそりソウタの部屋に入って来ては、キョロキョロしながら僕をケージから出してそっと抱き上げた、時々やって来る無口なママのお父さん、おじいちゃんみたいなんだもん…。
おじいちゃんって言ったら怒りそうな気がするから言わないけど…。僕お利口?
「ルーイは何が好きなんだ。興味のあることはないのか?」
「好きなもの…、なんだろう?あっ、窓から見える青い空が好き!可愛い鳥の声も。そよそよした風も大好き!」
「では外遊びが好きなのか?」
「ううん。いつもは鍵がかかってて出られなかったの。でも時々ケージから出してもらって…、そうしたら窓のところに行って…」
「ルーイ…それは…」
「ずっと外に居たくて逃げ回るんだけど捕まってすぐケージに戻されちゃうんだよね。でもケージには回し車もあるしトンネルもあるから退屈しない…、あれ?グレアムさん、変な顔してどうしたの?」
「もしや記憶を無くしていないのか…」
しまった!うっかり口が滑っちゃった。
グレアムさんと一緒にいると、ついついおしゃべりになっちゃって…、いっけなーい!
ヘンな顔で僕を見るグレアムさんは、何にも言わずに僕の頭をポンポンって軽くたたいて、フワフワの小さな耳をいつまでも撫で続けていた。
🐹🐹
小さなルーイ。いつも笑顔をくずさない幼子のようなルーイ、無邪気でお気楽なハムスターの獣人、私は彼と初めて会ったその日から、そんな風に彼を見ていた。
だから考えても見なかったのだ。
彼の笑顔の裏に陰惨な過去が隠されている、などとは…。
ああ、何と迂闊な…。私は何と言う馬鹿者だ。少し考えればわかる事ではないか。
記憶を無くすような…、いや、それは誤魔化しであったわけだが、それでも名前以外何も告げられないこと自体が物語っているではないか。何かのっぴきならぬ事情があるのだと。
外へ出られない…ケージとは檻のことか。
彼はどこかに捕まっていた…、隙を見ては何度も逃げ出して、そして何度も捕まりまた檻に戻され…、つまり奴隷商にでも居たと言う事か…?
そういえば聞いたことがある。王都の裏通りには獣人を扱う、非合法な娼館があると…。
奴らは山間部の獣人を狙い、親が山に入っている間一人でポツンと留守番をしている子供を攫うのだと言う…。そして一部屋に閉じ込めたまま館で閨の教育を施し、頃合いを見て店に出すのだ。
ではルーイもそうやって監禁されていたと言うのか!そして時々目にする青い空に恐らく自由を夢見て…何という事だ…!
それでも彼は何を恨むでもなくああして微笑んでいたと言うのか!
いや違う…、笑顔の裏側に全てを隠したのだろう。私やレイモンド、何より同じ獣人であるマシューの耳に入れないように…。獣人である彼が知ればそのショックは計り知れない…。
健気な彼を庇護せねばならない。
今までの私であれば考えられない事だ。が、その時私の中には言葉に出来ない使命感のような感情が沸き上がっていた…。
🐹🐹
「じゃあねグレアムさん。また明日」
「ああまた明日。…いや、ルーイ、どうだろう?このまま私の屋敷に来て泊まるというのは…」
お泊り…。それって時々ダイキって名前のソウタの友達でがしてたやつ。ゲームとパジャマを持ってきて、夜まで遊んでしゃべって、それでソウタと一緒に寝てたっけ。
でもお泊りの日は好きじゃない。だってダイキは僕を乱暴につかむから。ケージの上からつついてくるし、せっかくオガクズに埋もれて気持ち良く寝てるのにそれをどかしてすぐ起こすし。すごく迷惑。
「…グレアムさんが乱暴するとは思わないけど…、でも止めとくね。明日も朝からお仕事だし。おやすみなさい」
「乱…あ、ああ…。お休みルーイ…」
そんなにお泊りしたかったのかな?僕を見送るグレアムさんは何故かとっても苦い野草をかじった時の僕みたいな、そんな顔に見えた。
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