溺愛男爵は僕を離してくれない!

kozzy

文字の大きさ
上 下
1 / 26

1 僕の正体

しおりを挟む
知らなかった。天国にもお布団ってあるんだな…。

そんなバカみたいなこと考えながら目を覚ますと、そこは天国どころかどう考えてもフカフカのベッドで…、窓から見える景色は見たことも無い景色で、この部屋も見たこと無いような部屋で…、何もかもが分からな過ぎて、僕は少々混乱気味…。


「ここどこ…?どうして天国じゃないの?だって僕は車に…って、布団って何!?何かおかしい…」


その時ドアから顔を覗かせたのは、おっきい目の優しそうな…若い男の人…誰!?


「あれ?気が付いたの?ああ良かった…。随分目覚めないから心配したんだよ。ちょっと待って。すぐにドクター呼んでくるから」

「あ、待って!…行っちゃった…。でもなんか変…」


ドクターって事はやっぱりここは病院…?僕は何処に運び込まれちゃったの…?



気持ちが不安に塗りつぶされそうになったその時、もう一度扉が開いて入って来たのは3人の男の人。
一人は中年の男性。もう一人は若くて背の高い、少し目の吊り上がった人、そしてもう一人がさっきのおっきい目の彼だ。


「おやおや。沈んだ顔をして、もしや気分がすぐれないのかね?」
「ねぇ君、この方は村のドクターだよ。もう安心して大丈夫だからね。」

「それより何があったか話してくれるか?あんなところにあんな姿で…、賊にでもやられたなら警戒が要る」


話せ…?話せって僕に言ってるの?それ本気?話せって言うなら話すけど…、正気?

オロオロする僕を見かねておっきい目の人が口を開く。


「えーっと、じゃぁとりあえず名を名乗ろうか?僕の名はマシュー。そしてこっちが僕の愛する旦那様で君を助けて連れてきたレイね。僕たちはこの村で軽食屋『とまり木』を営む夫夫だよ。さ、君の名は?」

ゴクリ…「ルーイ…」
「それじゃあルーイ、君は誰?どこから来たの?ご家族に連絡はとれそう?」


つ、通じた…。えっ?えっ?どど、どうして?

突っ込みどころは他にもあるけど分からない事が多すぎて…何をどうすればいいのか…。ああ…混乱続行中。
でも言葉が通じるなら聞いてみようかな?


「えっと…、逆にその、僕はどこにどんな状態で倒れてたの?あ、あの、僕…」

「どうしたの?」

「ぼ、僕…、どうしてここに居るのか全然分からないんだけど…あの…、驚かないでね。実は僕ハムスターで…」
「そんなの見ればわかるよ。それより君記憶が無いの?」


慌てたドクターが次から次へと質問を投げかけて来るけど名前以外何も答えられやしない…。って言うか、質問したいのはこっちなんだけど。


そう。僕の名はルーイ。日本のある地方の、なんてことないごく普通のご家庭の小さなケージで飼われていたごく普通のゴールデンハムスターである。

あれはカーテンを揺らす風が心地いいある晴れた日のことだった。僕はご機嫌で回し車をカラカラまわしてた。最近エンムギ食べ過ぎてメタボ気味だから気をつけなくちゃと思って。

そうしたら僕の天敵である飼い主の息子、3歳のユウタがケージの前までやってきたんだ。僕は「ゲッ」っと思いながら巣箱の奥に身をひそめた。
その部屋はユウタのお兄ちゃんのソウタの部屋。ソウタはショウガクセイだからお昼はガッコウに行っている。僕が一人でのんびりできる憩いの時間に何故ユウタが…。

そうしたらユウタは扉をガチャガチャし始めて…、「万事休す…」と思った時、ママがユウタを「お兄ちゃんの部屋に入っちゃだめよ!」って言って部屋の外へ連れて行ってくれた。

ホッとして扉を見たら…なんと!ケージの鍵が外れて扉が半分開いてた。
今日はお天気。空は真っ青。外ではスズメがチュンチュン鳴いている。それで僕は嬉しくなって、「こんなチャンス二度とない!」そう意気込んで自由なる世界に向かって思いっきり飛び出したんだ!

そこには部屋の中で見たことないようなでっかくて四角い、パパが病院に連れて行ってくれる時にいつも乗せてくれる〝クルマ”がいっぱいあって…

気が付いたら僕の目の前は真っ暗になっていた…。




そして現在に至る…。つまり、何が何やら…。

どうして人間に僕の言葉が通じるの?
どうして僕の視界に入る僕の手はママやパパと同じ人間の手なの?

僕が横たわるのはソウタと同じ、ベッドとお布団…。慣れ親しんだ巣箱もオガクズも…どこにも無い…。


覗き込まれるのには慣れてるつもりだったけど…こんなに見られたら…僕ちびっちゃう…。


「ああそうか。人間ばかりで怖いんだね。大丈夫だよ。安心して」


マシューって言ったおっきい目の人が頭にかぶった帽子を脱ぐと…、その頭には茶色くて小さな耳がついていた…。


「ルーイとお揃いだね。よく似てる。けど僕にはね…ほら、君にはない尻尾があるんだよ。僕はリス。リスの獣人。前歯の大きな君の仲間だよ。こっちの二人は人間だけど僕たちをいじめたりしない。安心した?」


君とお揃い…、よく似てる…、君の仲間…。つまり今僕の頭…というか顔もあんな風に耳の付いた人間みたいになってるっていうこと?獣人って言うのか…。っていうか獣人って何?動物と人間のミックスってこと?



僕は布団の中でそっと自分のお尻を触った。あ…お尻にあったちっちゃな尻尾が無くなっちゃった…。





しおりを挟む
感想 24

あなたにおすすめの小説

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

悪役令嬢と同じ名前だけど、僕は男です。

みあき
BL
名前はティータイムがテーマ。主人公と婚約者の王子がいちゃいちゃする話。 男女共に子どもを産める世界です。容姿についての描写は敢えてしていません。 メインカプが男性同士のためBLジャンルに設定していますが、周辺は異性のカプも多いです。 奇数話が主人公視点、偶数話が婚約者の王子視点です。 pixivでは既に最終回まで投稿しています。

婚約破棄された婚活オメガの憂鬱な日々

月歌(ツキウタ)
BL
運命の番と巡り合う確率はとても低い。なのに、俺の婚約者のアルファが運命の番と巡り合ってしまった。運命の番が出逢った場合、二人が結ばれる措置として婚約破棄や離婚することが認められている。これは国の法律で、婚約破棄または離婚された人物には一生一人で生きていけるだけの年金が支給される。ただし、運命の番となった二人に関わることは一生禁じられ、破れば投獄されることも。 俺は年金をもらい実家暮らししている。だが、一人で暮らすのは辛いので婚活を始めることにした。

竜王陛下、番う相手、間違えてますよ

てんつぶ
BL
大陸の支配者は竜人であるこの世界。 『我が国に暮らすサネリという夫婦から生まれしその長子は、竜王陛下の番いである』―――これが俺たちサネリ 姉弟が生まれたる数日前に、竜王を神と抱く神殿から発表されたお触れだ。 俺の双子の姉、ナージュは生まれる瞬間から竜王妃決定。すなわち勝ち組人生決定。 弟の俺はいつかかわいい奥さんをもらう日を夢みて、平凡な毎日を過ごしていた。 姉の嫁入りである18歳の誕生日、何故か俺のもとに竜王陛下がやってきた!?   王道ストーリー。竜王×凡人。 20230805 完結しましたので全て公開していきます。

乙女ゲームが俺のせいでバグだらけになった件について

はかまる
BL
異世界転生配属係の神様に間違えて何の関係もない乙女ゲームの悪役令状ポジションに転生させられた元男子高校生が、世界がバグだらけになった世界で頑張る話。

鈍感モブは俺様主人公に溺愛される?

桃栗
BL
地味なモブがカーストトップに溺愛される、ただそれだけの話。 前作がなかなか進まないので、とりあえずリハビリ的に書きました。 ほんの少しの間お付き合い下さい。

僕のユニークスキルはお菓子を出すことです

野鳥
BL
魔法のある世界で、異世界転生した主人公の唯一使えるユニークスキルがお菓子を出すことだった。 あれ?これって材料費なしでお菓子屋さん出来るのでは?? お菓子無双を夢見る主人公です。 ******** 小説は読み専なので、思い立った時にしか書けないです。 基本全ての小説は不定期に書いておりますので、ご了承くださいませー。 ショートショートじゃ終わらないので短編に切り替えます……こんなはずじゃ…( `ᾥ´ )クッ 本編完結しました〜

モフモフになった魔術師はエリート騎士の愛に困惑中

risashy
BL
魔術師団の落ちこぼれ魔術師、ローランド。 任務中にひょんなことからモフモフに変幻し、人間に戻れなくなってしまう。そんなところを騎士団の有望株アルヴィンに拾われ、命拾いしていた。 快適なペット生活を満喫する中、実はアルヴィンが自分を好きだと知る。 アルヴィンから語られる自分への愛に、ローランドは戸惑うものの——? 24000字程度の短編です。 ※BL(ボーイズラブ)作品です。 この作品は小説家になろうさんでも公開します。

処理中です...