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arrive エトゥーリア湾
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ウィルの船酔いと言う、ちょっとしたハプニングを乗り越え、船はついにエトゥーリアの港へと接岸した。
大海原に興奮したのもほんの半日。
青い空と青い海、何一つ変わらない景色は飽きるのも早い、けど何も考えずぼーっとするならこれくらいがいいのかも知れない。
「はー、着いた着いた。ウィル、大丈夫?」
「うぅ…何とか…」
「はい『ヒール』どう?」
「少しスッキリしました…」
海の上では『ヒール』をかけたそばからすぐまた酔うから途中で諦めたんだよね…。
「ヴォルフ、フィンは?」
「寝てる」
「ヴォルフ、襟首の後ろで掴まないで…」
「…うるさい奴だ…」
「ヴォルフさん、僕代わります…」
フィンが人の子だってわかってるかな?まあ、孤高の白狼にしちゃ頑張ってるほうだけど…、まだまだだね。
「じゃあ今のうちに王都まで移動しちゃおう」
「やったぜ!」
「ええ…やだ…」
ここから王都までは『ワープゲート』でひとっ飛び。だって寝台車のある馬車列車ならともかく、僕は窮屈な馬車移動が好きじゃない。
それにはヴォルフやアーニーも同感らしいけど、景色を楽しみたいシャリムとウィルは残念そうだ。
「じゃあ多数決で決めようか」
「僕、シャリム、ビルさん、シュバルツ様…のんびり馬車派は4票です」
「効率よくワープゲート派がヴォルフ、アーニー、…僕が10人分だから12票。ワープゲートで」
シャリムとビルさんのブーイングは軽くスルー…っと。
「はい到着。シュバルツ、ここがシュバルツのタウンハウスだよ。気に入ってくれるといいんだけど」
「ああレジナルド…、ここは王都で最も豪奢なタウンハウスじゃないか…」
「滞在中は臨時雇いのメイドさんが来るから掃除も食事の用意も心配いらないよ」
「君の配慮に感謝する」
エトゥーリアの使用人がいる手前僕とシュバルツは主寝室である。その奥には従者部屋がありウィルとフィンはそこ。
ヴォルフ、アーニー、シャリムは各自ゲストルームでいいとして…問題はビルさんだ。
いや、部屋数的には全く問題ないのだが、ビルさん自身が煌びやかなゲストルームは嫌だと言い張るものだから…。
「えー、じゃぁどうするの?」
「もっと地味な部屋は無いのか。飾りのない部屋だ」
「そんなの使用人部屋しか…」
「そこでいい」
「…隣の使用人部屋に迷惑かけないでね」
「わかっておる」
さすがドワーフ、まったく頑固なんだから…。仕方ないので本人の好きにさせたけど。やれやれ…。
「シュバルツ、僕はビルさんと一緒に王都観光行って来るけどどうする?」
「王都観光…」
「随分楽しみにしてたみたいだし、チラッと」
「私は遠慮しよう、分家の当主を呼んであるのでね」
エトゥーリアで顔の利くシュバルツが居ないとなると…面倒事を避ける方法は一つ。ここは不本意ながらザラキエル様の降臨である。
「ヴォルフ、獣化してくれない?」
「いいのか」
「うーん、ビルさんも居るしシャリムもアーニーも連れてくから、三人が絡まれるよりいいかと思って」
ナバテアを思い起こさせるシャリムや、エトゥーリアやウルグレイスでは珍しい褐色肌のアーニーはとても目立つ。ましてやずんぐりモジャモジャのドワーフも一緒じゃ尚更だ。
それなら僕が悪目立ちしてるほうが100倍マシだろう。体のいい虫避けである。
ヴォルフの背中にフィンを乗せたらエトゥーリア観光に出発だ!
「すげーな、クラレンス貴族の威光ってのは。みんなひれ伏してんじゃねぇか」
「うーん、どっちかと言えばザラキエルの威力かな」
まあこれはこれで。
「わぁ、素敵なペン。あれ?羽ペンじゃない…」
「うん。エトゥーリアは手工業が盛んでね、最近はインクがためられる金属ペンが一押しなんだよ。えーっと、エベレスト…とか言うメーカーだったかな?」
「そうなんですね」
「…オスカーが好きそう、お土産にしたら?」
「あの…その、そ、そうですね…」
僕は知っているのだ。僕とアルバートのハネムーンから、ウィルの指に珊瑚の指輪が光っているのを…。
「イソヒヨドリ、これ欲しい」
「飾り細工のアンクレット?シャリムに似合いそう…、いいよ」
「じゃあ俺はこれな」
「エトゥーリアコインのペンダント…いいねぇ…」
「お前らはレジナルドから十分な報酬を貰ってるんじゃないのか。自分で買え」
「レジーに買って貰うから意味があるんじゃねぇか」
「ヴォルフは馬鹿…」
「一理あるかな。ヴォルフにも買ってあげようか?アーニーとお揃いで」
「首輪など必要ない」
首輪って…、…バレたか。まあ僕たちには鎹ならフィンが居るもんね。
「ここにはなかなか良い細工師が居るようだな。だがまだわしらには勝てん」
「そもそも張り合ってないよ。それより何人かの職人がビルさんを見てた」
「なんじゃ。何か文句でもあるのか!」
「違うよ。鍛冶の天才、ドワーフからワンポイントアドバイスが欲しいとか…、なんかそんなんだよ」
「う、ううむ…」
あ、照れてる。それより子供たちにも何かお土産を…、えーと、癒しの愛玩物と言ったらもちろんアレだよね。
「店主、そこに並べてある熊のぬいぐるみだけど他にはないかな?」
「こちらはどうです?」
「う~ん、顔がイマイチ…」
「こちらなどはいかがでしょう?」
「素材がね…」
「それでは…」
「待って店主、いっそオーダーで作ってもらえないかな?」
「それは構いませんがどのような…」
「顔がこの子で身体はこっち。素材は柔らかいモヘアで、なければ提供するよ。でね、左耳にタグつけて。色違いで金、白、水色、グレー、それから黒の計5つ」
この時のオーダーがきっかけでこの店が世界中に熱狂的なファンを持つテディベアの老舗に育っていくわけだが…それはまぁ、おまけの話。
大海原に興奮したのもほんの半日。
青い空と青い海、何一つ変わらない景色は飽きるのも早い、けど何も考えずぼーっとするならこれくらいがいいのかも知れない。
「はー、着いた着いた。ウィル、大丈夫?」
「うぅ…何とか…」
「はい『ヒール』どう?」
「少しスッキリしました…」
海の上では『ヒール』をかけたそばからすぐまた酔うから途中で諦めたんだよね…。
「ヴォルフ、フィンは?」
「寝てる」
「ヴォルフ、襟首の後ろで掴まないで…」
「…うるさい奴だ…」
「ヴォルフさん、僕代わります…」
フィンが人の子だってわかってるかな?まあ、孤高の白狼にしちゃ頑張ってるほうだけど…、まだまだだね。
「じゃあ今のうちに王都まで移動しちゃおう」
「やったぜ!」
「ええ…やだ…」
ここから王都までは『ワープゲート』でひとっ飛び。だって寝台車のある馬車列車ならともかく、僕は窮屈な馬車移動が好きじゃない。
それにはヴォルフやアーニーも同感らしいけど、景色を楽しみたいシャリムとウィルは残念そうだ。
「じゃあ多数決で決めようか」
「僕、シャリム、ビルさん、シュバルツ様…のんびり馬車派は4票です」
「効率よくワープゲート派がヴォルフ、アーニー、…僕が10人分だから12票。ワープゲートで」
シャリムとビルさんのブーイングは軽くスルー…っと。
「はい到着。シュバルツ、ここがシュバルツのタウンハウスだよ。気に入ってくれるといいんだけど」
「ああレジナルド…、ここは王都で最も豪奢なタウンハウスじゃないか…」
「滞在中は臨時雇いのメイドさんが来るから掃除も食事の用意も心配いらないよ」
「君の配慮に感謝する」
エトゥーリアの使用人がいる手前僕とシュバルツは主寝室である。その奥には従者部屋がありウィルとフィンはそこ。
ヴォルフ、アーニー、シャリムは各自ゲストルームでいいとして…問題はビルさんだ。
いや、部屋数的には全く問題ないのだが、ビルさん自身が煌びやかなゲストルームは嫌だと言い張るものだから…。
「えー、じゃぁどうするの?」
「もっと地味な部屋は無いのか。飾りのない部屋だ」
「そんなの使用人部屋しか…」
「そこでいい」
「…隣の使用人部屋に迷惑かけないでね」
「わかっておる」
さすがドワーフ、まったく頑固なんだから…。仕方ないので本人の好きにさせたけど。やれやれ…。
「シュバルツ、僕はビルさんと一緒に王都観光行って来るけどどうする?」
「王都観光…」
「随分楽しみにしてたみたいだし、チラッと」
「私は遠慮しよう、分家の当主を呼んであるのでね」
エトゥーリアで顔の利くシュバルツが居ないとなると…面倒事を避ける方法は一つ。ここは不本意ながらザラキエル様の降臨である。
「ヴォルフ、獣化してくれない?」
「いいのか」
「うーん、ビルさんも居るしシャリムもアーニーも連れてくから、三人が絡まれるよりいいかと思って」
ナバテアを思い起こさせるシャリムや、エトゥーリアやウルグレイスでは珍しい褐色肌のアーニーはとても目立つ。ましてやずんぐりモジャモジャのドワーフも一緒じゃ尚更だ。
それなら僕が悪目立ちしてるほうが100倍マシだろう。体のいい虫避けである。
ヴォルフの背中にフィンを乗せたらエトゥーリア観光に出発だ!
「すげーな、クラレンス貴族の威光ってのは。みんなひれ伏してんじゃねぇか」
「うーん、どっちかと言えばザラキエルの威力かな」
まあこれはこれで。
「わぁ、素敵なペン。あれ?羽ペンじゃない…」
「うん。エトゥーリアは手工業が盛んでね、最近はインクがためられる金属ペンが一押しなんだよ。えーっと、エベレスト…とか言うメーカーだったかな?」
「そうなんですね」
「…オスカーが好きそう、お土産にしたら?」
「あの…その、そ、そうですね…」
僕は知っているのだ。僕とアルバートのハネムーンから、ウィルの指に珊瑚の指輪が光っているのを…。
「イソヒヨドリ、これ欲しい」
「飾り細工のアンクレット?シャリムに似合いそう…、いいよ」
「じゃあ俺はこれな」
「エトゥーリアコインのペンダント…いいねぇ…」
「お前らはレジナルドから十分な報酬を貰ってるんじゃないのか。自分で買え」
「レジーに買って貰うから意味があるんじゃねぇか」
「ヴォルフは馬鹿…」
「一理あるかな。ヴォルフにも買ってあげようか?アーニーとお揃いで」
「首輪など必要ない」
首輪って…、…バレたか。まあ僕たちには鎹ならフィンが居るもんね。
「ここにはなかなか良い細工師が居るようだな。だがまだわしらには勝てん」
「そもそも張り合ってないよ。それより何人かの職人がビルさんを見てた」
「なんじゃ。何か文句でもあるのか!」
「違うよ。鍛冶の天才、ドワーフからワンポイントアドバイスが欲しいとか…、なんかそんなんだよ」
「う、ううむ…」
あ、照れてる。それより子供たちにも何かお土産を…、えーと、癒しの愛玩物と言ったらもちろんアレだよね。
「店主、そこに並べてある熊のぬいぐるみだけど他にはないかな?」
「こちらはどうです?」
「う~ん、顔がイマイチ…」
「こちらなどはいかがでしょう?」
「素材がね…」
「それでは…」
「待って店主、いっそオーダーで作ってもらえないかな?」
「それは構いませんがどのような…」
「顔がこの子で身体はこっち。素材は柔らかいモヘアで、なければ提供するよ。でね、左耳にタグつけて。色違いで金、白、水色、グレー、それから黒の計5つ」
この時のオーダーがきっかけでこの店が世界中に熱狂的なファンを持つテディベアの老舗に育っていくわけだが…それはまぁ、おまけの話。
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