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結界魔法で余計な魔力を使い、事が終わってみればヘロヘロだったアルバートに僕はわざと帰館にギリギリな魔力だけを譲渡し、その後全身にクリーンをかけ海岸沿いで軽食を取り、陽が沈む手前でようやく何食わぬ顔して帰ったのだが…、案の定ウィルは樹海からなかなか戻らない僕たちを泣きそうな顔で待っていた…。ほらね。


「おかえりなさいレジー様。遅いから心配しましたよ…」
「あ、うんごめんね。アルの特訓に付き合ってて」


ウソではない。全く以ってウソではない。言わなくていい事は言っていないだけである。


「二人はどうしてたの?」
「殿下の従者様方とお屋敷を整えてました」
「俺は玄関で見張りだな」


真面目だな…。散策でも行ってこればいいのに…。


「それにしても何の特訓だ?ああ!肌を重ねる特訓か!」
「 ‼ 」

バシィ!

「痛いなレジー!」
「ウィルの前でくだらないこと言ってんじゃないの!」

「おいアルバート…」
「馬鹿だね君は…」


とか言いながらアルの腕はちゃっかり僕の腰にまわされている。まあこれは以前からだけど。
ニヤニヤするオスカーを無視して僕たちは早々に休むことにした。ほら、アルの魔力はこれ以上何も出来ないよう敢えてエンプティ寸前だから。


「そう言う訳だから早いけどもう寝るね。朝まで起こさないで」
「レジー様食事はどうしましょう」
「ご飯は要らないから従者の二人にもここから自由時間って言っといて」
「分かりましたけど…お腹すきませんか?」
「海岸沿いの屋台に立ち寄って食べてきた。二人も行っといでよ」
「わぁ!」

「レジー」
「ん?」
「気が利くな」


んんー?何のことやら…。まあ、ウィルも喜んでるしね。いってらー!








食事を終えた俺とウィルは海岸沿いを散策していた。ここは岩場に波が打ち付ける雄々しい海岸。クーデンホーフにある湖の様な白砂の浜ではない。だが漁から戻った漁師向けにいくつもの屋台が立ち並んでいるし、保養に来た貴族向けのちょっとした出店なんかも馬車道沿いにはあったりする。
普段一人で出歩くことをしないウィルは嬉しそうにきょろきょろと周りを見渡していて、その姿がなんとも無邪気だ。

貴族とは言っても養子で魔法も使えないウィルは、弟のコリンと違い魔法学院には入学しなかったし社交界にも顔をださない。
「僕はレジー様の従者なので」、ウィルはいつもそう言うが、レジーがウィルの行動を制限するはずがないし、そもそもあいつは不在も多い。
つまりウィルは勝手に引け目を感じてウエストエンドからは出たがらないのだ。自分は本物の貴族ではないと。

だが俺はウィルを見ていていつも思う。こいつは知識もマナーも一人前だし、レジーに代わって領地の管理にも携わっていた。そこらの遊び呆けている馬鹿子息よりもずっと立派な男だと。

明るく働き者で思いやりがあって、そして…健気なウィルが俺にはとても好ましく思える。そこらの取り澄ました令嬢よりも。

さっきもそうだ。
海鮮の串焼きにそのままかぶりつこうとした俺を止めるどころか、美味しそう、と言って隣で笑いながら自分もかぶりつく。こんな真似、そこらの誰に出来るって言うんだ。可愛い奴め。



「オスカー様、あっちのお店も見て良いですか?」
「あっち?まだ何か買うのか?何があるんだ」


ウィルはすでに幾つもの土産物を手にしている。その中にはなんとシャリムへの土産もあるらしい。ケンカばかりしているようにみえて、こういうところがウィルの良いところだ。


「立派なお飾りのお店が何軒かありました。コリンに何か買って行こうと思って」
「ああ。ここらでは真珠やサンゴが採れるらしいからな。カフスやクラバットピンもあるだろう」
「サンゴ…ですか?あの赤い…?そういえばパウル様に先日見せて頂きました」
「そうそれだ。とても珍しいものだし厄除けにもなるらしい。それにしてはどうだ?」
「でもサンゴは高いって聞きました」
「なんだ?レジーからは良い手当てを貰っているだろう?ウィルは倹約家だな」
「だって…、ああでもコリンに安っぽいものなんてあげられない…。うん!それにします!」


出歩かないウィルは結構な小金持ちだとレジーは言っていた。だが母親の苦労を見てきたからか、ウィルは決して浪費をしない。そんなところも好ましい、だが…


「オスカー様、これどうですか?」
「悪くはないが…大きすぎると品が無い」
「じゃあこれは?」
「ブローチよりタイピンの方が使いやすくないか?」
「タイピン…、あ!これどうですか?淡いピンクの…」
「いいんじゃないか?形も艶もいい」
「じゃあこれにします。オスカー様、少し待っててくださいね」
「ああ、外に居るからな」


コリンの髪はウィルと同じマルーンカラー。ピンクのサンゴも合うはずだ。
そう。マルーンの髪には同系色が良く似合う。俺の髪色、オレンジブラウンなんかも…。


「お待たせしましたオスカー様、そろそろお屋敷に帰りましょうか」
「そうだな」


いつも以上によく笑いよく話すのはここが異国だからか、海だからか、それとも少しだけ口をつけたワインのせいか…。どちらにせよ俺もウィルも少し浮足だっているに違いない。
あっという間に目の前は屋敷だ。しまったな。もう少しペースを落とせばよかった。この笑顔をもう少し見ていたい。


「オスカー様、今日はありがとうございました。コリンのタイピン、見立てて頂いて嬉しかったです」
「そうか。…なあウィル、ちょっと手を貸せ」
「手…ですか?」


俺がこんな気障な真似をするとは…、少しアルバートに当てられたな。


「思った通りだ。お前に良く似合う。少しは自分のものも買えよお前は」

「お、オスカー様!これ!オレンジブラウンですよ!この色のサンゴはとっても高くて、その…」
「それがどうした。サイズもピッタリだろ?外すなよ」

「で…、でも指輪なんて…」

「仕事の邪魔にならないタイプにした。ウィル、もう一回言うが、…外すんじゃないぞ、いいな」

「あ、あの…あ…」


軽く唇に触れてやるとウィルの顔は…さっき食べたタコよりも真っ赤に染まった…。









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