208 / 240
174 18歳 doit 記念撮影
しおりを挟む
「これはまた随分盛大なお祝いね。記念式典って書いてあるけど…なんのお祝いなの?」
「ナバテア奪取のお祝い…。領地が広がるんだよ?」
「良かったわね、お祝い出来て」
「その節は心底お世話になりました…」
「ナバテア奪取のお祝いならあとで記念撮影しない?全員集めて。記念に」
「それいいね!オッケー。全員集めとく!」
「正装でお願いね」
「いう事聞くかな…」
こんな会話を交わしながらも始まったのは恒例になりつつあるウエストエンド大宴会。
こうなってくると領民、そして宿泊客も含めて何を祝っているかも分かっちゃいない。それでも領民は宴会が出来れば文句は無いし、宿泊客も豪勢な宴に居合わせたことを素直に喜んでいる。
みな思い思いに「エルフと交流を持った記念じゃないか?」とか、「ドワーフを招聘した祝いだろう」とか、酷いのになると「側夫を二人も持たれたんだ。まとめて祝言あげてるんじゃないか?」とか…、いや…最後のサイテーだからね?
「ささ、坊ちゃま。記念すべき今宵の宴はこのジェイコブが万全取り仕切りましたぞ。皆が挨拶をと待っております。こちらへ」
「…え?あ、ありがとうジェイコブ」
う、ウソだろ…屋敷のホールに設えた檀上が鳥人のシマエナガちゃんたちで埋めつくされている…、フワフワの羽…、て、天使…?
しかしまさかジェイコブの仕切りとは…。屋敷はともかく下町やヴィラの管轄に関しては副支配人やキングたちに丸投げが多かったのに…。
「他人の手には任せられませぬ。この記念すべき〝世界征服”の宴だけは」
「ちょっと待ったー!」
なんだって!? 一体いつからそんなことに…
「あのジェイコブ⁉ 違うからね…?クラウスからも言ってやって!」
「ですが皆そう申しておりますぞ。坊ちゃまは難攻不落のエルフの里、ドワーフの国を支配下に置き、また目障りなゲスマン、ナバテアを東の果て、そして西の沖合に追いやってしまわれた。これにより残るは中立地帯トラキアだけ、と」
「そのトラキア国は既にクラレンス国王に白旗を掲げ、ゲスマンのさらに東へと国替えを申し出たとのこと」
「…中立国で白旗を掲げる意味が分かんないんだけど…。トラキアって…え?僕何もしてないよね?」
「三か国に囲まれ下手に目について万に一つもゲスマン、ナバテアの轍を踏むのは勘弁、と言う事でございましょう」
「それくらいなら友好的に領土を差し出し少しでも好条件で、その…」
「何?いいから言って」
「魔王から遠く離れたい…そう申しておったそうですぞ」
あっ…そう…。魔王ね…。っていうか王様から何も聞いてないんだけど⁉
僕の狼狽に返ってくるの至極冷静な返事のみ。
「坊ちゃまの登城、トラキアの使者、そう言えばほぼ同じころでしたな。前触れくらいはあったでしょうが入れ違いかもしれませぬな。」
「公式な声明はまだでございます。これはランカスター領のお父上から伺った他聞をはばかる話でありますれば」
「お父様がご存じなのに僕が知らないって…どうなの?」
「陛下にもお父上にもこちらで耳に入れておく、とお伝えしてあったのですが…坊ちゃまは不在が続きましたので」
ジェイコブが静かにキレている…。もしやわざとか…。
あっ!だからあの時王様があっさり危険なナバテアの大部分をくれたのか!すでにトラキアを手に入れる算段がついてたから…
「け、けど世界征服ってウルグレイスもエトゥーリアも別に僕は手に入れてなんか…」
「坊ちゃまは既に両国と縁を繋いでおりますれば」
「側夫ごときで⁉」
「いいえ。始祖ハイエルフの後ろ盾がある以上ウルグレイス王は坊ちゃまに逆らえないでしょう。それはあの偏屈なドワーフとなんとか所縁をもち、手工業を発展させ復興を果たしたいと切望するエトゥーリアも同じこと。偶然にもその窓口になれる側夫がおったというだけでございます」
「そ、そっちか…」
大変な風評だが大した問題ではないだろう。だからって僕が何をするでもないし。うーん…放置案件だな。
「イソヒヨドリ…」
「あ、シャリム後で写真撮影するから一緒に来て」
「行く…」
撮影の場所はヴィラの中央。ギャラリーで一杯になったエントランスホールだ。
チェキサイズからはじまったこれはすでにビフさんの改良版で、サイズがなな、なんと、A5サイズまで可能になったものだ。記念撮影にはもってこい。けど最終的にA3も撮れるよう改良していただきたい。
僕の後ろには窮屈そうに正装を身につけたヴォルフ、そして満更でもないアーニーが居る。気怠そうに床へ座ったシァリムは僕の膝にその小さな顔を乗せてくつろいでいる。
「あら?シュバルツは呼ばなかったの?」
そんな嫌がらせするわけない。当然僕は呼びに行ったとも。けど「これはクラレンスの領土が増えた祝いなのだからエトゥーリア民である自分は遠慮する」そう実にシュバルツらしい返事が返って来たのだ。
代わりに今度二人きりで撮りたいって言われちゃったけど。まあそれはそれで。
「いくわよ。ハイチーズ」
パシャリ
「あ、もう一枚ね。あたしの分」
パシャリ
記念の写真か…。これは…結構嬉しいものだな。やっぱりカメラ開発進めてきてよかった…。
するとその時、出来立てホヤホヤ、撮れたての写真を見ながらニコが小さく奇声を上げた。
「やだ!うそっ!」
「何?どうしたの?」
「この写真…、構図が限りなく『恋エロ』のトップ画面に近いわ…。もっとも闇はどこにも感じないけど。いやぁね、感動ものよ…。あたしの聖域はここにあったのね…」
「え?でも一人足りないじゃん…」
「シュバルツは隠しルートのキャラだからトップ画面には出てないの」
「あっ、そうか」
思わぬところでゲームのトップが出来上がってしまった…。へー…こういう感じなんだ…。
だけどこれはゲームじゃなくてすでに僕の日常だから…僕的には足りない人物がもう一人。
「ニコも入りなよ。聖域とか何とか言ってないで…。記念だよ?」
「それもそうね。」
「じゃあ僕が撮りますね」
「ウィル、お願い。二枚連続ね」
「はい。いいですか皆さん。」
パシャリ
パシャリ
「はいニコ。これこそが新しいトップ画面だよ。上書きしといてね!」
「ナバテア奪取のお祝い…。領地が広がるんだよ?」
「良かったわね、お祝い出来て」
「その節は心底お世話になりました…」
「ナバテア奪取のお祝いならあとで記念撮影しない?全員集めて。記念に」
「それいいね!オッケー。全員集めとく!」
「正装でお願いね」
「いう事聞くかな…」
こんな会話を交わしながらも始まったのは恒例になりつつあるウエストエンド大宴会。
こうなってくると領民、そして宿泊客も含めて何を祝っているかも分かっちゃいない。それでも領民は宴会が出来れば文句は無いし、宿泊客も豪勢な宴に居合わせたことを素直に喜んでいる。
みな思い思いに「エルフと交流を持った記念じゃないか?」とか、「ドワーフを招聘した祝いだろう」とか、酷いのになると「側夫を二人も持たれたんだ。まとめて祝言あげてるんじゃないか?」とか…、いや…最後のサイテーだからね?
「ささ、坊ちゃま。記念すべき今宵の宴はこのジェイコブが万全取り仕切りましたぞ。皆が挨拶をと待っております。こちらへ」
「…え?あ、ありがとうジェイコブ」
う、ウソだろ…屋敷のホールに設えた檀上が鳥人のシマエナガちゃんたちで埋めつくされている…、フワフワの羽…、て、天使…?
しかしまさかジェイコブの仕切りとは…。屋敷はともかく下町やヴィラの管轄に関しては副支配人やキングたちに丸投げが多かったのに…。
「他人の手には任せられませぬ。この記念すべき〝世界征服”の宴だけは」
「ちょっと待ったー!」
なんだって!? 一体いつからそんなことに…
「あのジェイコブ⁉ 違うからね…?クラウスからも言ってやって!」
「ですが皆そう申しておりますぞ。坊ちゃまは難攻不落のエルフの里、ドワーフの国を支配下に置き、また目障りなゲスマン、ナバテアを東の果て、そして西の沖合に追いやってしまわれた。これにより残るは中立地帯トラキアだけ、と」
「そのトラキア国は既にクラレンス国王に白旗を掲げ、ゲスマンのさらに東へと国替えを申し出たとのこと」
「…中立国で白旗を掲げる意味が分かんないんだけど…。トラキアって…え?僕何もしてないよね?」
「三か国に囲まれ下手に目について万に一つもゲスマン、ナバテアの轍を踏むのは勘弁、と言う事でございましょう」
「それくらいなら友好的に領土を差し出し少しでも好条件で、その…」
「何?いいから言って」
「魔王から遠く離れたい…そう申しておったそうですぞ」
あっ…そう…。魔王ね…。っていうか王様から何も聞いてないんだけど⁉
僕の狼狽に返ってくるの至極冷静な返事のみ。
「坊ちゃまの登城、トラキアの使者、そう言えばほぼ同じころでしたな。前触れくらいはあったでしょうが入れ違いかもしれませぬな。」
「公式な声明はまだでございます。これはランカスター領のお父上から伺った他聞をはばかる話でありますれば」
「お父様がご存じなのに僕が知らないって…どうなの?」
「陛下にもお父上にもこちらで耳に入れておく、とお伝えしてあったのですが…坊ちゃまは不在が続きましたので」
ジェイコブが静かにキレている…。もしやわざとか…。
あっ!だからあの時王様があっさり危険なナバテアの大部分をくれたのか!すでにトラキアを手に入れる算段がついてたから…
「け、けど世界征服ってウルグレイスもエトゥーリアも別に僕は手に入れてなんか…」
「坊ちゃまは既に両国と縁を繋いでおりますれば」
「側夫ごときで⁉」
「いいえ。始祖ハイエルフの後ろ盾がある以上ウルグレイス王は坊ちゃまに逆らえないでしょう。それはあの偏屈なドワーフとなんとか所縁をもち、手工業を発展させ復興を果たしたいと切望するエトゥーリアも同じこと。偶然にもその窓口になれる側夫がおったというだけでございます」
「そ、そっちか…」
大変な風評だが大した問題ではないだろう。だからって僕が何をするでもないし。うーん…放置案件だな。
「イソヒヨドリ…」
「あ、シャリム後で写真撮影するから一緒に来て」
「行く…」
撮影の場所はヴィラの中央。ギャラリーで一杯になったエントランスホールだ。
チェキサイズからはじまったこれはすでにビフさんの改良版で、サイズがなな、なんと、A5サイズまで可能になったものだ。記念撮影にはもってこい。けど最終的にA3も撮れるよう改良していただきたい。
僕の後ろには窮屈そうに正装を身につけたヴォルフ、そして満更でもないアーニーが居る。気怠そうに床へ座ったシァリムは僕の膝にその小さな顔を乗せてくつろいでいる。
「あら?シュバルツは呼ばなかったの?」
そんな嫌がらせするわけない。当然僕は呼びに行ったとも。けど「これはクラレンスの領土が増えた祝いなのだからエトゥーリア民である自分は遠慮する」そう実にシュバルツらしい返事が返って来たのだ。
代わりに今度二人きりで撮りたいって言われちゃったけど。まあそれはそれで。
「いくわよ。ハイチーズ」
パシャリ
「あ、もう一枚ね。あたしの分」
パシャリ
記念の写真か…。これは…結構嬉しいものだな。やっぱりカメラ開発進めてきてよかった…。
するとその時、出来立てホヤホヤ、撮れたての写真を見ながらニコが小さく奇声を上げた。
「やだ!うそっ!」
「何?どうしたの?」
「この写真…、構図が限りなく『恋エロ』のトップ画面に近いわ…。もっとも闇はどこにも感じないけど。いやぁね、感動ものよ…。あたしの聖域はここにあったのね…」
「え?でも一人足りないじゃん…」
「シュバルツは隠しルートのキャラだからトップ画面には出てないの」
「あっ、そうか」
思わぬところでゲームのトップが出来上がってしまった…。へー…こういう感じなんだ…。
だけどこれはゲームじゃなくてすでに僕の日常だから…僕的には足りない人物がもう一人。
「ニコも入りなよ。聖域とか何とか言ってないで…。記念だよ?」
「それもそうね。」
「じゃあ僕が撮りますね」
「ウィル、お願い。二枚連続ね」
「はい。いいですか皆さん。」
パシャリ
パシャリ
「はいニコ。これこそが新しいトップ画面だよ。上書きしといてね!」
応援ありがとうございます!
382
お気に入りに追加
1,968
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる