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167 18歳 in ナバテア

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ローランドの父である左大臣、彼ほどこの数年間で態度が一変した人を僕は知らない…。

何しろ彼は面識の無かった他貴族の皆々様と違い、僕がまだ子供の頃から数か月に一度ランカスターへとやって来ては魔力の測定を行っていた。つまり右大臣左大臣は、僕にとって叔父様を除けば唯一接点のある領外の大人だったという訳だ。

とは言え測定をすませてさっさと帰っていく右大臣と違い、左大臣ときたら狂魔力の継承者憎しで測定の度にネチネチと…あの大人げなさに大臣としてはいかがなものかと思っていたのだが…態度豹変…。

キュン魔力による泣き落としが一番クリーンヒットしたのが左大臣とは…、意外な展開。まあ国の大臣が悪人じゃ終わってるからね…。



とにかく彼から丁寧に書かれた非公式な手紙を一通受け取ると、僕たち三人はシャリムのために陸路でトラキアの地へと向かう事にした。ほら、シャリムはいつもショートカットで呼び出ししてたから…。

そのシャリムが車窓からバードウォッチングをすること数日間。僕たちは〝クーザの拠点大爆発”以来のトラキアへと到着した。
そしてその地で待つことおよそ1週間、ようやくナバテアとの会談日時がトラキアの使者より伝えられた。


「取り敢えずヴォルフは隠れてて。オオカミの獣人なんてこの国じゃ捕まる気しかしない…」
「今の俺が易々と捕まるものか」
「それは分かってる。でもワザワザ喧嘩腰で行く必要もない」
「レジナルド…、それでお前は大丈夫なのか」

「大丈夫だよ。多分ね。」
「ならシャリムを連れてけ。こいつは同じ肌の色だからちょうどいい。奴らも気を許すかもしれん」


「それいい考えだね」と言いかけてふと思い出す。

ー リアル脱出ゲームのタイトルの一つに〝ナバテア”の文字を見た気がする ー


「やっぱりシャリムにはここにいてもらおうかな。」
「だがお前…」

「大丈夫だって」


トラキア観光させたくてわざわざ列車で連れてきたけど…、召喚で呼べるシャリムはとっておきの切り札だから。
言葉にしなくてもそれはヴォルフにもシャルムにも伝わったようだ。念には念を。転ばぬ先の杖ってね。


「わかった…」

「ねぇシャリム、シャリムの召喚だけど…、あれって一緒にヴォルフを連れて来れる?」
「黒水晶は闇の魔法使いしか通さない…」
「そっか残念。…うーん、あ、そうだ。じゃあヴォルフこれ持ってて」
「『ワープゲート』か…。俺がこれを持ったらお前はどうする」
「近距離なら『テレポーター』がある。」
「いいだろう。預かっておく」


こうして準備万端、ヴォルフとシュバルツ因縁の地であるナバテアへの初入国を果たしたのである。







「ウルグレイスの貴族よ、しばしここで待つがよい!」


そう言われて簡素な待合室で待つことゆうに3時間…。その間とっかえひっかえやって来るのは下っ端の役人ばかり。
イライラしながらマジギレしそうになった頃、…ついに僕はある一つの考えに思い至った。

左大臣は皇帝もしくはそれに近しい上層部への会談を申し出てくれたはずだ。
そしてトラキアの仲介者は左大臣に準じる立場の偉いさん。それなりに礼を尽くせばこんな下っ端ばかりが来るわけない。って事はだよ…

ああ、会わせるつもりはないんだな…、と。

根負けして帰るのを待つつもりか…。ジェイコブが言っていた「普通なら通る道理が通らぬこともございましょう。」ってこういうことか。僕にしては珍しく、今回はそれなりに手順を踏んで会談を申し込んだのに、ヤロウ…。

このままじゃ埒があかない、そう考えた僕は伝家の宝刀、キュン魔力を頼ることにした。
バカなことを…と思いながらも、ローランドの発したあの冗談、「陶然と微笑めばいい。君ならそれで十分だ。」あの言葉が頭の片隅に残っていたからだ。

やってみる価値はある。力にモノも言わせるのはその後だ。
のちに僕はこの時の選択を死ぬほど後悔することになるのだけど…。







そもそもこの国はゲスマンと同じで魔法を持つ国の人たちを〝知恵を使わぬおめでたい民族”として小馬鹿にしている節がある。
そんな国でどれほど僕のキュン魔力が通じるかは些か不安だ…。

全開で行くしかない。大は小を兼ねるっていうし…。よし!

キュン魔力全解放!…なんてね。


「あの…、この国の皇帝ってどんな方なんですか?僕12の歳までほとんど屋敷から出してもらえなくって…今も自領からほとんど出ることも無く暮らす世間知らずで…、皇帝のお顔も知らないから気になって…」


ここで一つ目、どこを見るともなくアンニュイなため息…


「きっと優秀な方なんでしょうね?若くして帝位を継いだとか…お目にかかってみたいな…なんて」チラッ


ここで二つ目、目の前のヒゲ面にアルなら一発で落ちるあざとい系上目づかい…


「僕…狂魔力の継承者…なんて言われてますけど見ての通りで…、軍事国ナバテアを率いる皇帝、さぞお強いんでしょうね。僕とどっちが強いかな…」ペロリ…


三つ目、ヒゲ面の胸元に人差し指をツ…と置いたら…


「この国の男性って浅黒い肌がとっても魅力的。…お会い出来ない?一目でも。………ダメ?」


四つ目、フラ~っと顔を寄せるヒゲ面をトンッっと向こうへ押し戻す。調子に乗んな!



どうも浅黒い肌は顔色が分かりにくい。それに顔の半分を隠すヒゲも表情が読めなくて…何を考えてるか分かりにくくて…いまいち不安だ。

その時、どうにも対応を決めかねている年上の中間管理職っぽい男たちを一番後ろに居た珍しくヒゲの無い若い役人が押しのけてきた。


「綺麗なだけのお人形かと思いきや…、堪らぬな…。人形は人形でもお前は特別製だ。何と言う香気…」


あまり嬉しくない褒め言葉だな…。


「いいだろう。特別謁見室に案内する。ついてこい」


おおっ!効いた…。
それにしても…年上のヒゲ面たちさえ狼狽えているのに随分偉そうな若者だな。もしかしてコネかなんかで役人になった身内か何かか?まああり得る…。


「その先の部屋だ。座って待っていろ。」


通されたのは一見すると普通の応接室。さっきの待合室に比べればかなりマシ。
一応来賓向け?それなりに装飾品が置かれソファも座り心地良さそうだしサイドチェストの上にはお茶のセットや果実が置かれテーブルには一応茶菓子もある。

それにしても何かおかしい…。おや?あの碧いピラスターは…


ガチャン


カギの音?えっ?まさか…


「ちょっと!」

ガチャガチャ


ウソだろ?開かない?まさか…閉じこめられた⁉





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