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166 18歳 before ナバテア
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今日は週末。いつもの彼がいつもの場所へ、議事録をほんの少々、片手間程度やっつけに出勤されるお時間だ。
何故かご当主様である僕を送迎係にして…。
「いつもすまない。ところで今週もパウルの身に何事も起きてはいないだろうか?」
「無いよ何にも。この平和なウエストエンドで何が起こると思ってんの…。あっ!そうだローランド。ナバテアのことよくもオスカーに言ったな?」
「隠すことでも無いだろう」
「そりゃ…」
良いっちゃいいんだけど…。内容的には最重要機密事項だよ?軽く話してるけど…。
「まぁいいや。この際だから相談に乗ってよ」
「世界征服の相談だと?荷が重いな…」
最近冗談に聞こえなくなってきた…。ヤメロ…
「…無事あの土地を手に入れたら左大臣に口きいてやろうと思ったのに…パウルとの事」
「それで相談とはなんだ」
この変わり身の早さ…。ローランドってばこういうキャラだっけ?
けど変わり身が早いという事は思考が柔軟ということでもあるわけで…偏向的なローランドにとっては多分良いことなんだろう。適度ならね。
「どうするかは決めてるんだけど、そもそもどうやってナバテア上層部に会談申し出たらいいとおもう?」
「堂々と入国して2、3箇所焼け野原にしたあと空に浮かんで高笑いすればいいんじゃないのか。死の天使ザラキエルらしく。」
「パウルに言いつけてやる…。それもある事無い事」
「彼がそんな戯言を信じる訳…」
「無いと思う?本当に?」
「ま、待て!」
こう見えて真面目に聞いてるんですけどね!一応ローランドの頭脳は信用してるんだけど?
「だがあながち的外れでもないと思うのだがね。堂々と入国して二言三言愛想を振り撒き陶然と微笑めばいい。君ならそれで十分だ。誰であろうと時間を空ける。たとえ皇帝であろうとね」
なるほど?ここにきてまさかキュン魔力の出番とは…意外な発案だな…。けどまあ、力で押し入るよりはマシか…。
「冗談はさておき」
なぬっ!
真に受けるとこだったじゃないか…
「同盟三か国の名を全面に出したくないのであれば父の既知であるトラキアの大臣を訪ねたまえ。トラキアは中立国だ。その者に仲介を頼むといい。一筆用意しよう。」
これぞ正当な窓口…。ですよね~。
ローランドと別れた帰り道、真正面からやって来たのは盟友ニコだ。
「ああ良かった。ちょうど今お屋敷に行こうと思ってたのよ」
「そうなの?何かあった?」
「何って言う訳じゃないんだけど…、そろそろナバテア入りするのよね?」
「そのつもりだけど…」
「一応耳に入れとくわ。どう役に立つかは分からないけど」
ニコからの情報。それは例によって例のごとく、『恋バト』メーカーによる他パッケージの件である。
「ドワーフやエルフがRPGゲームに出てたように?」
「それとはちょっと違ってね…」
なんでもオンラインで開催される体験型イベント、リアル脱出ゲームのタイトルの一つに〝ナバテア”の文字を見た気がする、というもの。また微妙な…。
「主催…が確かあのメーカーなのよね。だから一応伝えとくわね」
「うーん…、一応覚えとく。ホントどう役に立つか分からないけど…」
だけどこうして僕の知らないことを教えてくれるニコにはいつだって感謝しかない。ありがとうニコ。
ニコの腐女子ライフに幸あれ!
さて。勝負とは先手必勝。
戦いなれたあの国が戦闘再開から猶予を置くとは考えにくい。つまり行くなら早く行かないと…。
「って訳だからそろそろ行ってくるね。」
「ですが坊ちゃま」
「ん?何クラウス?」
「ナバテアの皇帝はまだ即位して数年の年若き王。ですが諜報に探らせても漏れ聞こえる情報は極めて少なく…。なかなか抜け目ない男の模様。舐めてかかってはなりませんぞ」
「そんなに警戒するほどなの?」
「坊ちゃま。若いという事は不見識で慣例に囚われぬということでございます。策謀に頼らず力で押し通す…、無謀で野心的。普通なら通る道理が通らぬこともございましょう。一筋縄ではいかぬと覚悟なさいませ」
「ジェイコブ…。分かった、心に留めておく。でも即位して数年か…じゃあ獣人族を採掘場で死なせたのは…」
「現皇帝が即位して初めに行ったのが軍事の強化でしたな、確か。」
軍事の強化…、イコール魔道具の強化ってことだよね、あの国の軍事なら。つまり魔石採掘を指示したのは現皇帝の仕業か…。ふーん…面白い…。遠慮はいらないってワケね…。
「二人とも心配ありがとう。けど大丈夫だよ。ナバテアにはシャリムもヴォルフも連れて行くから。」
「ですが…」
「これは王家との約束だし…成婚の儀までに片付けないとね…。戦争の再開までもうあまり間がない」
「そうでございますが…」
「取り敢えずはトラキアだから心配いらないよ」
「坊ちゃま、何かあればすぐさまお戻りを。良いですね」
「分かった分かった。ジェイコブってば心配性だな。じゃあエルダーから気でも貰って行こうかな。そうしたら防衛力も上がる事だし」
「それがよろしいかと」
だけどその時の僕はまだまだ分かっていなかったのだ。ジェイコブが危惧する言葉の意味を。
僕はあくまで街作りシュミレーションのプレイヤーであって戦略シュミレーションのプレイヤーじゃない。甘いか甘くないかと言ったら激アマだし、狂魔力やリミッター解除に胡坐をかいて若干行動が雑だっていう自覚もある。
人の生き死にをこの目で見るのは嫌だし、そもそも僕は血が苦手だ。
何をもって穏便に、と言えるかは捉え方次第だが、出来る限り穏便にことを進めたいといつでも思ってる。
だから見誤っていたのだ…。
帝国から出ること無く、大海を知らない皇帝の何をも恐れない短絡的で直情的な思考がどれほど斜め上なのか…
ハイエルフであるエルダーから、いつもより増し増しでエルフの気を注入された僕がその時どんな事になっていたのか…
そして…、『恋エロ』という鬼畜なBLゲーのプレイヤーキャラとして数々の攻略対象者をその気にさせた己がこの身に秘めた…本当のポテンシャルも…。
何故かご当主様である僕を送迎係にして…。
「いつもすまない。ところで今週もパウルの身に何事も起きてはいないだろうか?」
「無いよ何にも。この平和なウエストエンドで何が起こると思ってんの…。あっ!そうだローランド。ナバテアのことよくもオスカーに言ったな?」
「隠すことでも無いだろう」
「そりゃ…」
良いっちゃいいんだけど…。内容的には最重要機密事項だよ?軽く話してるけど…。
「まぁいいや。この際だから相談に乗ってよ」
「世界征服の相談だと?荷が重いな…」
最近冗談に聞こえなくなってきた…。ヤメロ…
「…無事あの土地を手に入れたら左大臣に口きいてやろうと思ったのに…パウルとの事」
「それで相談とはなんだ」
この変わり身の早さ…。ローランドってばこういうキャラだっけ?
けど変わり身が早いという事は思考が柔軟ということでもあるわけで…偏向的なローランドにとっては多分良いことなんだろう。適度ならね。
「どうするかは決めてるんだけど、そもそもどうやってナバテア上層部に会談申し出たらいいとおもう?」
「堂々と入国して2、3箇所焼け野原にしたあと空に浮かんで高笑いすればいいんじゃないのか。死の天使ザラキエルらしく。」
「パウルに言いつけてやる…。それもある事無い事」
「彼がそんな戯言を信じる訳…」
「無いと思う?本当に?」
「ま、待て!」
こう見えて真面目に聞いてるんですけどね!一応ローランドの頭脳は信用してるんだけど?
「だがあながち的外れでもないと思うのだがね。堂々と入国して二言三言愛想を振り撒き陶然と微笑めばいい。君ならそれで十分だ。誰であろうと時間を空ける。たとえ皇帝であろうとね」
なるほど?ここにきてまさかキュン魔力の出番とは…意外な発案だな…。けどまあ、力で押し入るよりはマシか…。
「冗談はさておき」
なぬっ!
真に受けるとこだったじゃないか…
「同盟三か国の名を全面に出したくないのであれば父の既知であるトラキアの大臣を訪ねたまえ。トラキアは中立国だ。その者に仲介を頼むといい。一筆用意しよう。」
これぞ正当な窓口…。ですよね~。
ローランドと別れた帰り道、真正面からやって来たのは盟友ニコだ。
「ああ良かった。ちょうど今お屋敷に行こうと思ってたのよ」
「そうなの?何かあった?」
「何って言う訳じゃないんだけど…、そろそろナバテア入りするのよね?」
「そのつもりだけど…」
「一応耳に入れとくわ。どう役に立つかは分からないけど」
ニコからの情報。それは例によって例のごとく、『恋バト』メーカーによる他パッケージの件である。
「ドワーフやエルフがRPGゲームに出てたように?」
「それとはちょっと違ってね…」
なんでもオンラインで開催される体験型イベント、リアル脱出ゲームのタイトルの一つに〝ナバテア”の文字を見た気がする、というもの。また微妙な…。
「主催…が確かあのメーカーなのよね。だから一応伝えとくわね」
「うーん…、一応覚えとく。ホントどう役に立つか分からないけど…」
だけどこうして僕の知らないことを教えてくれるニコにはいつだって感謝しかない。ありがとうニコ。
ニコの腐女子ライフに幸あれ!
さて。勝負とは先手必勝。
戦いなれたあの国が戦闘再開から猶予を置くとは考えにくい。つまり行くなら早く行かないと…。
「って訳だからそろそろ行ってくるね。」
「ですが坊ちゃま」
「ん?何クラウス?」
「ナバテアの皇帝はまだ即位して数年の年若き王。ですが諜報に探らせても漏れ聞こえる情報は極めて少なく…。なかなか抜け目ない男の模様。舐めてかかってはなりませんぞ」
「そんなに警戒するほどなの?」
「坊ちゃま。若いという事は不見識で慣例に囚われぬということでございます。策謀に頼らず力で押し通す…、無謀で野心的。普通なら通る道理が通らぬこともございましょう。一筋縄ではいかぬと覚悟なさいませ」
「ジェイコブ…。分かった、心に留めておく。でも即位して数年か…じゃあ獣人族を採掘場で死なせたのは…」
「現皇帝が即位して初めに行ったのが軍事の強化でしたな、確か。」
軍事の強化…、イコール魔道具の強化ってことだよね、あの国の軍事なら。つまり魔石採掘を指示したのは現皇帝の仕業か…。ふーん…面白い…。遠慮はいらないってワケね…。
「二人とも心配ありがとう。けど大丈夫だよ。ナバテアにはシャリムもヴォルフも連れて行くから。」
「ですが…」
「これは王家との約束だし…成婚の儀までに片付けないとね…。戦争の再開までもうあまり間がない」
「そうでございますが…」
「取り敢えずはトラキアだから心配いらないよ」
「坊ちゃま、何かあればすぐさまお戻りを。良いですね」
「分かった分かった。ジェイコブってば心配性だな。じゃあエルダーから気でも貰って行こうかな。そうしたら防衛力も上がる事だし」
「それがよろしいかと」
だけどその時の僕はまだまだ分かっていなかったのだ。ジェイコブが危惧する言葉の意味を。
僕はあくまで街作りシュミレーションのプレイヤーであって戦略シュミレーションのプレイヤーじゃない。甘いか甘くないかと言ったら激アマだし、狂魔力やリミッター解除に胡坐をかいて若干行動が雑だっていう自覚もある。
人の生き死にをこの目で見るのは嫌だし、そもそも僕は血が苦手だ。
何をもって穏便に、と言えるかは捉え方次第だが、出来る限り穏便にことを進めたいといつでも思ってる。
だから見誤っていたのだ…。
帝国から出ること無く、大海を知らない皇帝の何をも恐れない短絡的で直情的な思考がどれほど斜め上なのか…
ハイエルフであるエルダーから、いつもより増し増しでエルフの気を注入された僕がその時どんな事になっていたのか…
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