街を作っていた僕は気付いたらハーレムを作っていた⁉

kozzy

文字の大きさ
上 下
183 / 246

152 18歳 night of ザラキエル湖

しおりを挟む
「こちら側はあまり来ないと言っていたね。父の治めたクーデンホーフに海は無かったのだが夏になると一山超えてよく海のある隣領へ保養に出かけたのだ。両親も妹も、体調が良ければパウルも一緒に。ここはあの時見た景色によく似ている…」

「パームツリーの並ぶ湖畔も良いけど…、僕はこの無骨な、岩場のある北の湖岸が好きだよ。ここはシュバルツみたいだ。飾り気のない硬派な景色。いつでも実直で嘘が無いシュバルツと同じ。だから安心する」

「それは…、褒め言葉ととっても構わないのだろうか?」
「もちろんだよ」


普段遊びに行くのはもっぱらビーチ側ばかり。だからシュバルツが北側に案内してくれたのはちょっと意外だった。
足場といい散策には砂浜の方が向いている。だけどおそらく彼が郷愁を掻き立てられるのはこの北側の風景。
幸せだったころの楽しい思い出がいっぱい詰まった大切な場所…。だから大切な話とやらをここでしようと思ったのか…。


「ではその言葉に勇気を貰いあなたに告げよう。」
「ん?」

シュバルツにしては珍しく声が震えているような気がする…。気のせい…?


「レジナルド殿、どうか…、どうか私と添い遂げて欲しい。もちろんあなたにはアルバート殿下がおいでになる。だから側夫で構わない。私の伴侶となっていただきたい」
「んん?」


今なんか…よく分からない言葉が聞こえたような…。伴侶とか。


「セザール殿がそうしたように…、その立場に私が名乗りを上げるのはおこがましいだろうか?」
「んんん?」


せ、セザール?何?


「何もかもあなたに甘えておきながら重ね重ね厚かましい…そうお思いになるのも当然だ。だが私はこのクーデンホーフ領を、エトゥーリア本国のどの領よりも栄えさせるとここに誓おう。そしていつかは必ずあなたに相応しい男になって見せる。その将来性を買っては貰えないか」

「ちょ、ちょっと待った!シュバルツはやっと爵位も領地も取り戻してようやくこれからだ!って言うのに僕の側夫だなんて…、駄目だよそんな!何言ってるの!シュバルツはちゃんとお嫁さんを貰ってこのクーデンホーフ侯爵家を守っていかなくちゃ!」

「私が守りたいのは貴方をおいて他には居ない!これはパウルの望みでもあり、カールの賛同も得ている。」
「ま、守るって、何から⁉」


彼の口から語られるのは石橋を叩いて叩いて叩き壊して、それでも不安で川底に潜って危険物が無いか確認するような…、それくらい荒唐無稽なあり得ない話で。考えすぎだとそう笑って誤魔化そうとして……途中でやめた。

その顔は今まで見た事無いくらい真剣で…だから僕も茶化さないで真剣に話さないといけない、そう思った。


「シュバルツの気持ちはすごく嬉しい。でも僕はシュバルツの…この世界に生まれてきて良かったって…、そんな風に満たされた未来を見るのがずっと楽しみで…、なのにその本人を犠牲にするようなことは出来ないししたくない。だからこの話はもうしないで」
「なんという…。ではこれが私の気持ちから出た言葉であるなら頷いてくださるか!」

「え…」

「初めてお会いしたのは貴方がまだ13の時だ。貴方は子供でありながら既に高貴な光を纏っておられた。私はその光に導かれここまでなんとか生きてきたのだ。あなたの居ない人生など今更どうして考えられよう…。私は貴方から失った以上のものを与えられてきた。その中でも最も光り輝くものがこの、…貴方を愛する気持ちだ。」

「シュバルツ…」
「貴方を愛している」

「あ…」

「…大恩ある貴方に向かい、結局のところこの秘めたる思いを唇に乗せる日は来ないだろう…そう思っていた。だが彼らを見ていて分かった。卑屈になってはいけなかったのだと…。」


いつの間にそんな気持ちを向けられていたのか…。でもハッキリとわかる。これはキュン魔力とか…そういうものじゃない。
彼は心から僕に愛情を示してくれている。いくら鈍い僕でもそれだけは分かる…。


「身分や立場を小心の言い訳にするなど、平等を尊ぶ貴方に対しこれほどの無礼があるだろうか。考えずとも分かり切った事だというのに…私は愚かだ。」


彼らってヴォルフやアーニーのことか…。地位や身分をもたない彼らは面倒な事などはなから考えない。そこにあるのは僕との信頼関係だけだ。そのヴォルフともアーニーとも親しいシュバルツは僕たちを見て思うところがあるんだろう。


「だからと言ってあなたに何を望むわけではないのだ。ただ、ただ私は…あなたの笑顔を、その自由を守りたい。そのために考え抜いたのがこれだ。あなたを起こり得る厄介ごとからお守りするための防波堤、頑固さゆえに全てを失いかけた私だ。どんな荒波にも耐えられよう。適任だと思われないか?」

「相当な強度だね…」

「ふふ、だがそのためには社交界に向けてハッキリ明言できる立場が欲しい。私はここクラレンス、そして貴方との関係を知らしめることでエトゥーリア侯爵位の末席から立場を上げるだろう。それは無用な軋轢を生まずとも社交界をけん制できる。」


同じ轍は踏まない…、シュバルツの成長をこんな形で知ることになるとは…。


「自己満足と笑ってくれて構わない」


どうしよう…、何かホントにエトゥーリアから命でも狙われてるかのような話になってしまった…。よしんば本当に命を狙われたところで僕は誰より強いのに…。

シュバルツはどうしてこんな考えに至ったのか…。

けど…、真面目で一本気なシュバルツはきっと思い込んだら決してそれを曲げることは無くて…僕を守るというなら守るし想うというなら本当にずっと想ってくれるんだろう。きっと共に白髪の生えるまで…。

ああでも…

『恋エロ』と言う鬼畜ゲーに生まれ不幸にも全てを奪われるはずだったシュバルツ。その彼が幸運にもフルカンストの僕と出会って分岐を変えた。
なら僕は分岐の先にあるシュバルツの運命を最期まで見届けたい。そう。共に白髪の生えるまで…。

覚悟には覚悟で応える。それが男だ!



「シュバルツ。そこまで言ってくれるなら僕は貴方の申し出を受けても良いと思ってる。側夫…、そんな立場に貴方を置くのは嫌だけど…シュバルツがそれでいいなら。」

「ああ…!」

「その代わり約束して。」


ある意味良い機会か…。


「僕はシュバルツの愛情は受け取っても恩返しは受け取らないよ。あれは全部僕がすきでしたこと。だから恩に感じるのはもうおしまい。だって夫になるなら僕たちは対等だよね。そうでしょ?」

「…心しよう。」

「それからもう一つ。あの、もしも…、もしもだよ?もし心を動かされる女性とこの先出会ったら…、その時は絶対僕に気兼ねしないで。僕はクーデンホーフの輝かしい未来も信じてる」

「…わかった。約束しよう」


「じゃあシュバルツ少ししゃがんで」

「っ!」

「これは約束の印。シュバルツだから特別に。僕を想ってくれてありがとう。帰って来たらレジナルドって呼んで。これから敬称は要らないよ。ねっ?」

「本当にあなたには敵わない…」


これで何の憂いも無くドワーフの国へ行けそうである。良かった良かった…よね?


何したかって?あーその…、それはヒ・ミ・ツ。




しおりを挟む
感想 156

あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

婚約破棄署名したらどうでも良くなった僕の話

黄金 
BL
婚約破棄を言い渡され、署名をしたら前世を思い出した。 恋も恋愛もどうでもいい。 そう考えたノジュエール・セディエルトは、騎士団で魔法使いとして生きていくことにする。 二万字程度の短い話です。 6話完結。+おまけフィーリオルのを1話追加します。

【完結】伯爵家当主になりますので、お飾りの婚約者の僕は早く捨てて下さいね?

MEIKO
BL
【完結】そのうち番外編更新予定。伯爵家次男のマリンは、公爵家嫡男のミシェルの婚約者として一緒に過ごしているが実際はお飾りの存在だ。そんなマリンは池に落ちたショックで前世は日本人の男子で今この世界が小説の中なんだと気付いた。マズい!このままだとミシェルから婚約破棄されて路頭に迷うだけだ┉。僕はそこから前世の特技を活かしてお金を貯め、ミシェルに愛する人が現れるその日に備えだす。2年後、万全の備えと新たな朗報を得た僕は、もう婚約破棄してもらっていいんですけど?ってミシェルに告げた。なのに対象外のはずの僕に未練たらたらなの何で!? ※R対象話には『*』マーク付けますが、後半付近まで出て来ない予定です。

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。

処理中です...