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131 18歳 countdown あと3日

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「なあレジー、明日から城で準備だろ?忙しくなるなら今のうちに付き合えよ。」
「うん?食堂に誘ってる?いいよ。じゃあ後で、いつもの時間に」


『ワープゲート』がオープンになったおかげで距離感が無くなった事はメリットもあればデメリットもある。

こうして瞬時に行けるタイパの良さは魅力だが…、王都関係者の僕を呼び出す事への配慮とかそういったハードルがだだ下がりしてしまったのは大失敗だったと言わざるを得ない。

だけどいちいちあちらで宿泊しなくて良くなったのは大変うれしい。僕は枕が変わると寝つきが悪くなる質なのだ。
いや、結局は寝るんだけどね…。でもヲタクは自室が一番落ち着くから…。

それにしても再三にわたるアルバートからの「リハーサル」の呼び出しすら、「サプライズ楽しみにしてる」の一言でスルー出来るのだからやっぱり彼は人を疑う事を知らないピュアな王子だ。

よく考えたら『恋バト』の、天然かつひたむきな、そう、脇目もふらずエンドに向かって己の道を突き進む、プレイヤーというある意味無敵なヒロインに引っ張られながら成長していったのが彼ら攻略対象者たちだ。

そのヒロインの代わりに僕が引っ張ってあげるのは、もはや使命なんじゃないかと思い始めた今日この頃。その意味するところは…

どう育てるかは僕次第、ってね。今思い出したよ。アルバート達の『恋バト』世界は育成ゲームだった…。
あれ?じゃぁ『恋エロ』の世界は…?

…ふ、深く考えたら負けだ…。気にしない気にしない…。






アルバートをどうやって忠実なコリーに仕立てようか画策しながら夕暮れ迫るダウンタウンまで出向くと、アーニーはいくつかの食事をテイクアウトしているところだった。どうやら最近増設したアーニーの家を見に来いって事らしい。
建築物を見に行くのに断る理由は一つもない。僕は二つ返事で了解した。








「あー、お腹いっぱい。それにしても居間と寝室ずいぶん拡張したんだね。さすが建築部門の監督」
「これくらいじゃねぇとあいつらの夢が無くなんだろ?」


ごもっとも。ウエストエンドドリームを大人が示してあげるのは大切なことだ。


「はー飯も食ったし…、やっとこの日が来たぜ。おいレジー!今日こそ俺の番だからな!」
「アーニー何言って…」

「日替わりであいつらの印つけやがって…負けたから仕方ねぇけど…ムカつくんだよ!」


食後のお茶でほっと一息ついた矢先に投下されたのはいきなりの爆弾発言!


「なっ!何の話!?」

「クソオオカミとシャリムだ!いくら魔法で消そうが俺にはわかんだよ!クソっ!二人してボコボコにしやがって…獣人と闇魔法使いに敵う訳ねぇだろうが!」

「ぶほっ!ゴホゴホ…っ!ちょっと!だからそれ何の話!?」


お、お茶が気管支に…


「だからお前へのマーキングだっての。なあ言ってみろよ。あいつらに何された?」

「その前にそこんとこ詳しく…、負けた…って何が?三人でケンカしたの?」

「お前にマーキングする順番だよっ!」


はっ!? な、何だと‼
ほ、本人の了解も得ずにこいつら何勝手に決めてんのっ!



「クソオオカミに言われたんだよ。お前がそんなんだから忘れそうになるけどな、お前は貴族で、それも上から数えたほうが早いくらいのスゲー偉い貴族で…、俺たちがどれ程お前の信頼を得ようがお前を嫁には出来ねぇって…」


貴族じゃなくてもヨメにはならないよ?…それは置いといて…


「それに貴族である以上20歳までに結婚するのは普通だともな。」


まあ生まれた瞬間から許婚が決まってたりするくらいだし…。貴族と言い武家と言い…古今東西、結婚なんて庶民の方が自由度高いものだから。


「だから俺たちは話し合って一つの結論を出した。肝心なのは相手が誰かって事と実態だってな。お前の結婚相手は俺たちとお前の関係を理解できる奴が前提条件って事と、あくまでそいつは俺たちより下だ」

「ふんふん、んん?いろいろツッコミどころはあるけど、その話をいつしたって?」

「お前が王城で二度目のガス欠起こした時だ。」
「ああ、あの時…って、ええっ?でも何で知って…」

「ヴォルフの聴覚の凄さは知ってんだろうが。お前が大臣に連れてかれた後、あいつはずっと聞き耳を立ててやがった」


あ…

じゃああの時とっくに全員知ってたんじゃないか‼ それであのなに食わぬ顔…演技派め…


「簡単に納得したわけじゃねぇ。そりゃそうだろ?お前の一番辛い時も知らねぇくせに後から現れてかっさらうとか卑怯じゃねぇか」


辛い時…あったっけ?そんな時…


「けどな…もし俺達が本気で嫌がればお前はきっと王より俺たちを選ぶ。だろ?けどそうすりゃ流石に王も黙っちゃいねぇ…」
「狂魔力を持つ僕に表立っては何もしないだろうけど…冷遇されるのは目に見えてるね。ウエストエンドもどうなるか」

「ヴォルフの奴もそう言った。ならいっそ国を出てお前と俺達三人で気ままに暮らすのも悪くはねぇが…」


それは実に魅力的な提案だけど…


「悲しむお前の顔は見たくねぇ…」


そう。ここまで立派になったウエストエンドや初めて出来た社交界の友人、そしてようやく分かりあえた父親、それに何より、ここまで支え守ってくれた彼らを置いて出る事など考えられない…。


「なら賛成するしかねぇだろうが。だからお前は俺たちのもんだって印をつけることにしたんだよ。王子さんより先にな」


いやいやいや。だからどうしてそうなる?意味が分からない…。


「俺たちがお前のものならお前も当然俺たちのものだろうが」
「あー…、言ってることはそうなんだけど、その方法論に問題があるって言うか…」

「何がだよ!」
「し、印って…」

「あいつらにつけさせて俺にはダメだって言うのか!」
「いやそうじゃないけど…」
「お前に選ばれたのは俺の方が先だろうが!」
「後とか先とか関係ないから…」
「…どうせ俺はお前の危機に何も出来ねぇ普通の人間だよ…」

「だから良いんじゃないっ!僕は子供たちの世話しながら他事なんか気にしないで気ままに過ごすアーニーを見るのが好きなんだから!」
「じゃあいいんだな」

「…」


ここまできたらアーニーは何が何でも譲らないだろう…
う、ううーん…


「…甘噛みくらいなら…」


どうしていつもこうなる…




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