上 下
151 / 246

128 17歳 at 温泉

しおりを挟む
「あーもう!毎日毎日暇さえあれば石塀作らされて…人を何だと!」
「はは、ほら。今日はここでせいぜい身体を休めるんだな。」
「ふふ、お休みに使用しちゃって良かったのかな?」


ここは『プレミアムリゾート・ラビエル』の屋上展望風呂である。屋上とは言っても屋根のある全天候型だ。
ヴィラにある自然の地形を利用した絶景露天風呂とは趣が違い視覚的にはプールに近い。カウンターバーも併設された喉の渇きにも対応した親切設計、そのため水着着用のスパ仕様だ。
お湯にはイーサン先生特製の疲労回復ポーションが溶け込んでいる。もはや人工の温泉と言っても差し支えないだろう。


「今日は全館メンテナンスなんだよ。予約も止めてあったの。でもお風呂は製作者である僕にメンテナンスしろって」
「お前…、愛されてるのかそうじゃないのかよく分からないとこあるよな」
「ホントだよ…」


賠償として手に入れたゲスマン領土の一部、ゲスマンの教えに否定的なクラレンス王はそのエリアを万里の長城もどきで完全分断することを思いついた。

魔法を用いても数年はかかりそうな大工事。それを王は1年で終わらせようとしている。僕の狂魔力をあてにして…

…いやいやいや、僕の万能性は狂魔力関係ないからね?フルカンストフルスキルあってこそだよ?
事あるごとに「もうすぐ家族」を強調されるとしてやられた感が満載になる。あのパワハラ国王め…


「とは言えお父様は婚約にお喜びだよ」
「ああ、ランカスター侯はそういうとこあるよな」
「名誉とかに弱い質だから…」

「で?いつまでに世界を征服するんだ?」
「しないってば!誰に吹き込まれたの?アーニー?アーニーだな!」
「円満な世界征服で良いじゃないか」
「良くないよっ!」


いつか冗談じゃ無くなりそうで怖い…。ゴーディー以下諜報部隊はすでに各国の情報を集めているとかいないとか…。


「やあ、遅くなったが失礼する」
「ご一緒させていただきますね」

「あーどうぞどうぞ。のんびり浸かって行って。ウィル、ドリンクを」
「はい、ただいま」

「遅かったなローランド」
「パウルに似合う水着を選んでいたら時間がかかってしまってね」



逢瀬の回数が増えたローランドは暇さえあればパウルを連れまわしている。仲が良くて何よりだが…
どうもローランドは人一倍嫉妬深い。目の届く場所に居て欲しいのだろうが…ほどほどにしないと嫌われるよ?

僕はアルバートが意外と僕を尊重している事実にまたまた少しだけ評定を引き上げた。


「皆さま楽しそうに…、何のお話しをされていたのですか?」
「レジーの世界征服についてちょっとな」
「うるさいオスカー!」

「いや、私はありだと思う…」
「ローランド…?」

「ぜひ義兄上を、ああ失礼、シュバルツ殿を君の第二夫君に考えてはどうだろうか?」


うわ…、ナチュラルに義兄上って…


「…ローランドがピュアな気持ちでそんな事を言うとは考えられない。何企んでるの…?」
「失敬な」

「ああ分かった!あれか?親父さんか?」
「どういうことだい?オスカー」

「シュバルツさんが王太子妃レジーの第二夫君になればその弟であるパウルと自分の結婚にも親父さんの態度は軟化する。そういうことだろ?」

「…オスカー、余計なことを…」

「へー、さすが幼馴染。よくお分かりで…って、こらローランド!」
「ハハッ、ランカスター侯に負けず劣らず、ローランドの親父さんも名誉には弱いんだよ」



何ということもないくだらないお喋りとともにまったりと時は流れていく…。

気温の高いウエストエンドの初冬はこうしてお湯に浸かっていればあまり寒さを感じない。ぷかぷかと浮かぶ五人の男。ああ…温泉が疲れた身体に沁みる…。




「それにしてもこの国は同性婚に寛容なのですね。エトゥーリアにも同性同士で愛を育む者はおりますがあくまで秘め事としていらっしゃいますよ?」

「ああ。パウル、それには理由があるんだよ」



ローランドの口から語られるクラレンスの事情。
伝統主義のはびこる近世ヨーロッパの世界観にあって何故同性婚が認められているか、僕も最近知ったのだが不本意ながらそれも狂魔力が原因である…。


光属性。それはクラレンスの王族のみが持つ貴重な属性。中でも王の持つ特別な光はアークトゥルスと呼ばれ国の繁栄を約束すると言われている。
このアークトゥルスを更に強化しようとしてやり過ぎたのが狂魔力である…。つまり狂魔力はアークトゥルスの強化版とも言える。ま、今そのことは置いとくとして…。

アークトゥルスは立太子した王子にのみ受け継がれる。大神殿での大変厳かな即位の儀を以て力は次の王へ譲渡されるのだ。

なんでも古のクラレンス王家には狂魔力を恐れるあまり護衛についた騎士や近衛と〝吊り橋効果”で恋に落ちる王子がとても多かったのだとか…。そのうえ名門の令嬢方も狂魔力を恐れ王家への輿入れを拒否していた模様。
そのため当時の王は護衛と王子の婚姻を認めるしか無かったとかなんとか。(あ、護衛ったって王族の護衛は貴公子ばかりだからね!)

何故ならアークトゥルスの継承には一定の条件があり、そこには〝愛を手にした直系王族”というくだりがあるのだ…。
憶測だがこれは『天界の慈悲ヘブンズマーシー』に向けての布石ではないだろうか…。

蛇足だが僕の考えを聞いたニコはあっさり、「『天界の慈悲ヘブンズマーシー』は聖女とは言え捨て子のヒロインとアルバートの結婚エンドをもっともらしくするゲームの裏設定で〝愛を手にした直系王族”云々はBLゲーである『恋エロ』ならではの裏設定じゃない?」と言い切ったが…、そっちの方が正解かも知れない…。



そんなわけで、決してメジャーではないがこの国では同性婚が認められてきたのだ。


「そうだったのですね…。ふふ、では私がクラレンスへ来たのは運命だったのでしょうか…」キュ…
「パウル…ああ。きっとそうだ…」ギュ…


「あの…、お話し中すみません。パーヴェル様、首の後ろに虫刺されの跡が…。あとでお薬お持ちしますね」
「ウィルちょっ!」


みんな分かってて気付かないふりしてたのに…。うちのウィルってばよく気が利くうえに優しいから…


「あっ!そ、その…だ、だからダメって言ったのに…」
「あー、ゴホン。ありがとうウィル。だが気遣いは不要だ」

「そうですか?」

「ローランド…、君は意外と手が早いんだね」
「こいつ昔からムッツリだから。」

「なっ!」




ローランドはムッツリ…。これってニコは喜ぶやつだろうか…。




しおりを挟む
感想 156

あなたにおすすめの小説

【第1章完結】悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼第2章2025年1月18日より投稿予定 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。

完結·助けた犬は騎士団長でした

BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。 ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。 しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。 強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ…… ※完結まで毎日投稿します

騎士団で一目惚れをした話

菫野
BL
ずっと側にいてくれた美形の幼馴染×主人公 憧れの騎士団に見習いとして入団した主人公は、ある日出会った年上の騎士に一目惚れをしてしまうが妻子がいたようで爆速で失恋する。

生まれ変わったら知ってるモブだった

マロン
BL
僕はとある田舎に小さな領地を持つ貧乏男爵の3男として生まれた。 貧乏だけど一応貴族で本来なら王都の学園へ進学するんだけど、とある理由で進学していない。 毎日領民のお仕事のお手伝いをして平民の困り事を聞いて回るのが僕のしごとだ。 この日も牧場のお手伝いに向かっていたんだ。 その時そばに立っていた大きな樹に雷が落ちた。ビックリして転んで頭を打った。 その瞬間に思い出したんだ。 僕の前世のことを・・・この世界は僕の奥さんが描いてたBL漫画の世界でモーブル・テスカはその中に出てきたモブだったということを。

男装の麗人と呼ばれる俺は正真正銘の男なのだが~双子の姉のせいでややこしい事態になっている~

さいはて旅行社
BL
双子の姉が失踪した。 そのせいで、弟である俺が騎士学校を休学して、姉の通っている貴族学校に姉として通うことになってしまった。 姉は男子の制服を着ていたため、服装に違和感はない。 だが、姉は男装の麗人として女子生徒に恐ろしいほど大人気だった。 その女子生徒たちは今、何も知らずに俺を囲んでいる。 女性に囲まれて嬉しい、わけもなく、彼女たちの理想の王子様像を演技しなければならない上に、男性が女子寮の部屋に一歩入っただけでも騒ぎになる貴族学校。 もしこの事実がバレたら退学ぐらいで済むわけがない。。。 周辺国家の情勢がキナ臭くなっていくなかで、俺は双子の姉が戻って来るまで、協力してくれる仲間たちに笑われながらでも、無事にバレずに女子生徒たちの理想の王子様像を演じ切れるのか? 侯爵家の命令でそんなことまでやらないといけない自分を救ってくれるヒロインでもヒーローでも現れるのか?

大嫌いだったアイツの子なんか絶対に身籠りません!

みづき
BL
国王の妾の子として、宮廷の片隅で母親とひっそりと暮らしていたユズハ。宮廷ではオメガの子だからと『下層の子』と蔑まれ、次期国王の子であるアサギからはしょっちゅういたずらをされていて、ユズハは大嫌いだった。 そんなある日、国王交代のタイミングで宮廷を追い出されたユズハ。娼館のスタッフとして働いていたが、十八歳になり、男娼となる。 初めての夜、客として現れたのは、幼い頃大嫌いだったアサギ、しかも「俺の子を孕め」なんて言ってきて――絶対に嫌! と思うユズハだが…… 架空の近未来世界を舞台にした、再会から始まるオメガバースです。

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

処理中です...